僕と彼らの秘密

時和 シノブ

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マコトの頰が紅潮してきている。
彼が僕のことをじっと見つめ、
「ユウキ、本当は俺、おまえのこと……」
そう言いかけた瞬間、僕は彼を勢いよく突きとばした。
洋服を急いで着替え、化粧も落とさず鞄だけを持って走る。

僕がビルを飛び出し時、丹羽さんと連れの男性が丁度、向かい側のビルから出てきた。

その連れの男性を見て、僕は膝から崩れ落ちた。

それは伊達眼鏡を掛け、髪の毛の分け目を変えただけの父だった。
父は僕に気がついていないのか、丹羽さんに何か耳打ちし、親しげに話をしていた。

僕は猛烈な吐き気に襲われながら、やっとの思いで家に着いた。
玄関のドアノブに手をかけた時、車の停まる音がして、背後から声が聞こえてくる。
僕は急いで物陰に隠れた。

丹羽さんと父が話し終えるまで、僕は表に出るタイミングをなくしていた。
一方、父は何事もなかったように家に入っていく。

普段の厳格な父を思うと、何故か無性に腹が立ってきた。
優しく穏やかな母は、何も知らずに毎晩、僕達の夕飯を作って待っているのだ。

僕は家のドアの前でUターンし、店に向かう。

夕飯時に帰らず、一人で何処かに出かけるのは久しぶりだった。
今まで厳格な父の怒りに触れぬように気を遣ってきたが、あんな姿を見てしまった今、父にどう思われようと、どうでもよかった。

店に戻ると、そこにマコトの姿はなく、丹羽さんがケンさんと二人、カウンターで缶チューハイを飲んでいた。

「あっ、ユウキ君。さっきはごめんね。無理させちゃった?」

丹羽さんは妙に艶っぽい瞳で僕を見ていた。
本当は責め立ててやろうと思っていたのに。

「……いえ、ちょっとマコトと揉めてしまって」

嘘だった。
マコトは僕に何か言おうとしただけ……
恐らく、それが思いもよらない自分への告白だと気づいてしまったから、僕は彼を押しのけて一方的に逃げてしまったのだ。

「マコちゃんにさっき何て言われたの?」

ケンさんがストレートに訊いてきた。

「ユウキ君、ごめん。答えたくないよね。こいつ昔からデリカシーないからさ……」

丹羽さんは、いつもこんな風にスマートに立ち回って、意中の相手を落としてきたのだろう。

「丹羽さん、少し話せませんか?」

思い切って話を切り出す。
ケンさんは驚きながらも、店を連れだって出ていく僕と丹羽さんを黙って見守っていた。

「ユウキ君、意外と大胆なんだね」

丹羽さんの車に乗り、僕達は宛てもなくドライブをした。
丹羽さんが、やけに視線を送ってくる。
これに惑わされてはいけない。

(車ってこんなに距離が近かったっけ?)

ミラー越しに見る丹羽さんの顔は、如何にも大人って感じがして、悔しいけどドキドキした。

「で、話っていうのは?」

「……今日、夕方に丹羽さんと一緒にいた男性って誰ですか?」

「ああ、もしかしてユウキ君、妬いてくれたのかな?」

「ち、違います!」

「ハハ、そうか残念。彼はね……」

思わず唾を飲み込む。丹羽さんの口から父との関係が明らかになると思うと、心臓が飛び出しそうなくらい痛かった。

「彼は俺の学生時代からの女装仲間だよ」

( ⁉ )

「ユウキ君とマコト君の関係に近いかな……俺はずっと、奴に片想いしてたんだよ」

やっぱり父が丹羽さんの彼氏……

そう思った瞬間、激しい吐き気に襲われた。

「ちょっと大丈夫? 車停めるから、もう少しだけ頑張れ」

道路脇に車を停めてもらい、急いで外に飛び出す。
丹羽さんは僕の背中を大きな男らしい手で優しく擦ってくれた。

「いいよ、全部吐いちゃえ」
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