僕と彼らの秘密

時和 シノブ

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「今日は丹羽さん来ないの?」

「そうなのよ……例の彼とデートだって」

マコトとケンさんが、キャッキャッ言いながらじゃれあっている。
マコトは女性好きなのに、何故、自然にケンさんとイチャイチャできるのか……

僕がぼーっと見つめていると、
「もう、マコちゃん。ユウキ君が冷めた目で見てるから~。でもその蔑んだような目が、またいいのよね」
ケンさんが、ねっとりした視線を送ってきた。
僕はすっかり「高飛車な女」という設定を二人につけられていた。

(本当はマコトなんかより、よっぽど小心者だけど……)

カメラマンの丹羽さんが来ないことに、驚くぐらいがっかりしている自分がいた。
さっきケンさんが『例の彼』って言ってたっけ……
丹羽さんも男性が恋愛対象の人だったんだ。

その日は丹羽さんがいなかったので、女装をしても写真を撮ってもらうことができなかった。

「なんかユウキ、今日つまんなそうだね?」

マコトは僕の表情の変化に気づいていた。

「そう?」

僕は動揺を隠したつもりだった。

「丹羽さんがいないから?」

マコトは、あっさりと僕の心情を読み取った。

「そ、そんなことないよ」

思わず声が上擦る。

「分かりやすいな、ユウキは……ねぇ、ケンさん?」

「あら~、ユウキ君。丹羽さんのこと気になってるの? やめときなね、あの人は……」

含んだ言い方をするケンさんは、言葉とは裏腹に、訊いて欲しそうな顔つきをした。

「何かあるんですか? 丹羽さんて……」

「ふふ、マコちゃん。何も教えてあげてないの?」

ケンさんは楽しそうにマコトに話を振る。

「ユウキには刺激が強そうで……」

「僕だって、そういう話くらい、聞いたことはあるから」

心臓がバクバク打っているのを隠しながら、強がって言った。

「あのね……」

マコトの生温かい息が僕の耳に伝わる。
その話は、思ったよりもずっとディープな内容で、自分が足を踏み入れた世界の裏側を垣間見たような気がした。


「丹羽さんは、この界隈ではちょっとした有名人で、気に入った男は必ず落としちゃうの……ユウキ君も凄く綺麗だから気をつけなさいね」

「そ、そんな……僕は男性に興味がないから大丈夫です」

少しだけ嘘をついた。
丹羽さんの魅力は、やはり自分だけが感じたものではないようだ。

「マコトは丹羽さんのこと、どう思ってるの?」

さり気なく自分から話題を逸らさせようと、マコトに話しを振る。

「うーん……俺は好きな子もちゃんといるしね。丹羽さんはカッコいいし色気のある人だと思うけど、俺は、ああいういかにもな人、苦手だからさ……」

人間観察に長けているマコトが下した丹羽さんの評価は、あまりいいものではなかった。

「ふーん、マコトが言うんだから危ない人なんだね」

そう僕が言うと、ケンさんは高らかに笑った。

「二人とも可愛い顔して、言うこと、えげつないわね」

「そうですかぁ?」

マコトはケンさんと二人、突き合いながら笑っていた。
マコトは適応能力が高く、いつも無意識に僕のことを置き去りにした。




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