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第四章:未来へのラウンドアバウト
腕を強く掴まれて
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◇
整え直した髪に悠馬さんに頂いたバレッタを付け、食堂へ戻ると、私達とすれ違いだったのか長谷川様も皆とテーブルを囲み、談笑されていた。
「長谷川様、お帰りになってたんですね」
と私が少し離れた位置から声をかけると、長谷川様はグラスを持ったまま、ひょっこりと顔だけをこちらに覗かせて、
「おー! 環ちゃん、悠馬さん。何処行ってたの?」
と言った。
「ああ、もう……ごめんなさい。長谷川さん、私のせいなのよ~」
叔母さんは少し酔いが冷めて落ち着いてきたらしく、私と悠馬さんの方をちらりと見やると、バツの悪そうな顔して肩を竦めた。
「叔母さん、気にしないで」
彼女のところに小走りで駆け寄ると、
「おお!! 私の可愛い環ちゃん。ごめんね~」
と熱い抱擁を受けた。
そんな私達をぽかんとした顔で眺める長谷川様に、悠馬さんは小声で事の次第を説明してくれているようだ。
「環ちゃん、悠馬君、おかえり。さぁ、二人もお料理の続き頂いちゃいましょう」
石川様は私達が席に戻れるように、それとなく声をかけてくれた。
「……お二人には申し訳ないのですが、メインのお料理を皆さんにはお出ししましたので、今、お二人の分もお持ちしますね」
そう言うと、片桐さんはナプキンを軽く畳んで椅子に置き、席を立った。
「あっ、片桐さん。いいよ、俺が取りに行くから」
悠馬さんが、そう言って後を追うと、
「大丈夫です。悠馬さんと翠川さんは、ゆっくり座っていてください」
と、片桐さんは悠馬さんを軽く手で制し、厨房に姿を消した。
片桐さんに『座っていてください』と言われたものの……
私達が席を外していた間も、きっと皆のお料理等をサーブしたりて片桐さんは寛げていないはずだ。
「……私、ちょっと厨房に行ってくるね」
そう言って私が席を離れようとした瞬間、悠馬さんが私の腕をきつく掴んだ。
「片桐さんが『座ってて』って言ってくれたんだからさ……話してようよ」
「……うん、分かった」
――悠馬さんが時々、分からなくなる。
さっき片桐さんと私が話していた時は『席を替わろうか』なんて言っていたのに……
「……環ちゃん、ごめん。さっき腕、痛かったでしょ?」
「ううん、大丈夫……ほら、悠馬さんも今日は飲んじゃお」
悠馬さんの空いたグラスにワインを注ぐ。
彼の視線が自分の横顔辺りに向けられていることに気づき、手元が狂いそうになる。
「悠馬さんはワイン結構飲むんだっけ?」
動揺を隠す為、在り来りの話題を彼に振る。
「うん、好きだよ……やっぱり似合ってる」
「あ、えっ⁉ これ?」
私が髪に付けたバレッタを指さすと、悠馬さんは視線を逸らさずに笑顔で頷いた。
ドキッとするくらい綺麗な澄んだ瞳で……
整え直した髪に悠馬さんに頂いたバレッタを付け、食堂へ戻ると、私達とすれ違いだったのか長谷川様も皆とテーブルを囲み、談笑されていた。
「長谷川様、お帰りになってたんですね」
と私が少し離れた位置から声をかけると、長谷川様はグラスを持ったまま、ひょっこりと顔だけをこちらに覗かせて、
「おー! 環ちゃん、悠馬さん。何処行ってたの?」
と言った。
「ああ、もう……ごめんなさい。長谷川さん、私のせいなのよ~」
叔母さんは少し酔いが冷めて落ち着いてきたらしく、私と悠馬さんの方をちらりと見やると、バツの悪そうな顔して肩を竦めた。
「叔母さん、気にしないで」
彼女のところに小走りで駆け寄ると、
「おお!! 私の可愛い環ちゃん。ごめんね~」
と熱い抱擁を受けた。
そんな私達をぽかんとした顔で眺める長谷川様に、悠馬さんは小声で事の次第を説明してくれているようだ。
「環ちゃん、悠馬君、おかえり。さぁ、二人もお料理の続き頂いちゃいましょう」
石川様は私達が席に戻れるように、それとなく声をかけてくれた。
「……お二人には申し訳ないのですが、メインのお料理を皆さんにはお出ししましたので、今、お二人の分もお持ちしますね」
そう言うと、片桐さんはナプキンを軽く畳んで椅子に置き、席を立った。
「あっ、片桐さん。いいよ、俺が取りに行くから」
悠馬さんが、そう言って後を追うと、
「大丈夫です。悠馬さんと翠川さんは、ゆっくり座っていてください」
と、片桐さんは悠馬さんを軽く手で制し、厨房に姿を消した。
片桐さんに『座っていてください』と言われたものの……
私達が席を外していた間も、きっと皆のお料理等をサーブしたりて片桐さんは寛げていないはずだ。
「……私、ちょっと厨房に行ってくるね」
そう言って私が席を離れようとした瞬間、悠馬さんが私の腕をきつく掴んだ。
「片桐さんが『座ってて』って言ってくれたんだからさ……話してようよ」
「……うん、分かった」
――悠馬さんが時々、分からなくなる。
さっき片桐さんと私が話していた時は『席を替わろうか』なんて言っていたのに……
「……環ちゃん、ごめん。さっき腕、痛かったでしょ?」
「ううん、大丈夫……ほら、悠馬さんも今日は飲んじゃお」
悠馬さんの空いたグラスにワインを注ぐ。
彼の視線が自分の横顔辺りに向けられていることに気づき、手元が狂いそうになる。
「悠馬さんはワイン結構飲むんだっけ?」
動揺を隠す為、在り来りの話題を彼に振る。
「うん、好きだよ……やっぱり似合ってる」
「あ、えっ⁉ これ?」
私が髪に付けたバレッタを指さすと、悠馬さんは視線を逸らさずに笑顔で頷いた。
ドキッとするくらい綺麗な澄んだ瞳で……
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