65 / 112
第四章:未来へのラウンドアバウト
皆でお喋り
しおりを挟む
「石川さん、田村さんね、フランスでレストランを経営してる凄い人なんだよ。ね?」
悠馬さんの話を聞いて、彼女の洗練された雰囲気は、海外で生活し、仕事も充実していることに起因するものだと合点がいった。
海外生活の長い日本人の方からは、その国の空気を感じることがある。
「まぁ、フランスで! だから大きなスーツケースをお持ちなのね」
石川様は微笑みながら、席を立ったままの彼女に腰を下すよう促す。
「コンシェルジュの翠川と申します。お寛ぎ頂けていますでしょうか」
「ええ、とっても。先ほどはタオルまで用意していただいて助かりました。サービスが行き届いていて素敵なお店ですね。」
「お役に立てたようで何よりです。お褒めいただき、ありがとうございます」
彼女の言葉が素直に嬉しかった。
お客様に、自分のした行いよりもルミエールを褒めていただくことが、私の一番の喜びになっていた。
「片桐さん、もう少ししたらこっちに来れるかもって言ってましたけど……田村さん、どうされます?」
悠馬さんは、すっかり田村様と打ち解けてしまったようだ。
流石、元アパレル会社の広報。
彼がSNSの人気ユーザーだったこともあるけれど、持ち前の人当たりの良さから、カフェの利用客には、以前の彼のことを知らずにファンになった人も少なくない。
「そうですね……彼も疲れていると思いますので、また後日、電話してみようと思います。皆さん、遅くまでお邪魔しました」
そう言って、田村様はスーツケースの持ち手に手をかける。
「残念、お時間が許せば色々とお話ししたかったのに……今日はこれからどうされるの?」
石川様が彼女を気遣うように聞く。
「はい、今日は二駅先のホテルに宿泊しますので」
「そうなのね。日本にはいつまで御滞在されるの?」
「それが……未定なんです。すみません、私、そろそろ行かないと」
一瞬、彼女の表情が曇った。
「急いでるところ、引き留めるようなことしてしまってごめんなさいね」
「いいえ、こちらこそすみません」
田村様は申し訳なさそうな顔つきで答えた。
「田村様、お見送りいたしますね。佐々木さん、お荷物をお願いします。石川様、そろそろ御夕食の準備ができると思いますので、こちらでお待ちくださいね」
これ以上、お二人に気まずい思いをさせてはいけない。
私は半ば強引に田村様に声をかけた。
悠馬さんと彼女を正門まで見送り食堂へ戻ると、石川様は気落ちした様子で夕食を召し上がっていた。
「石川様、大丈夫ですよ。滞在期間を聞かれただけで気を悪くするような方はいらっしゃらないと思います」
私が彼女に近寄って声をかけると、
「環ちゃ~ん、こういうのが良くないのよね、私」
と、しゅんとした顔で石川様が言う。
彼女は人の痛みがよく分かる分、より傷つきやすいのだ。
そこへ、一度厨房へ戻った悠馬さんが、彼と私の分と思しき二人分の夕食を持って現れた。
「環ちゃん、片桐さんが俺達も夕食を食べちゃってって。はい、どうぞ」
「ありがとう」
トレイに乗った今日の夕食はビーフシチュー。
口の中で、ほろほろとお肉が蕩ける一品だ。
私達は石川様のテーブルで一緒に夕食を取る事にした。
「片桐さん、まだ明日の仕込みでもやってるのかしら?」
石川様は心配そうに厨房の方を見やる。
「そうですね。食べ終わったら厨房をちょっと覗いてみますね」
私も実は先ほどから彼の動向が気になっていた。
『もう少ししたら行きます』と悠馬さんに言っていたわりには、なかなか、こちらに姿を見せないからだ。
悠馬さんの話を聞いて、彼女の洗練された雰囲気は、海外で生活し、仕事も充実していることに起因するものだと合点がいった。
海外生活の長い日本人の方からは、その国の空気を感じることがある。
「まぁ、フランスで! だから大きなスーツケースをお持ちなのね」
石川様は微笑みながら、席を立ったままの彼女に腰を下すよう促す。
「コンシェルジュの翠川と申します。お寛ぎ頂けていますでしょうか」
「ええ、とっても。先ほどはタオルまで用意していただいて助かりました。サービスが行き届いていて素敵なお店ですね。」
「お役に立てたようで何よりです。お褒めいただき、ありがとうございます」
彼女の言葉が素直に嬉しかった。
お客様に、自分のした行いよりもルミエールを褒めていただくことが、私の一番の喜びになっていた。
「片桐さん、もう少ししたらこっちに来れるかもって言ってましたけど……田村さん、どうされます?」
悠馬さんは、すっかり田村様と打ち解けてしまったようだ。
流石、元アパレル会社の広報。
彼がSNSの人気ユーザーだったこともあるけれど、持ち前の人当たりの良さから、カフェの利用客には、以前の彼のことを知らずにファンになった人も少なくない。
「そうですね……彼も疲れていると思いますので、また後日、電話してみようと思います。皆さん、遅くまでお邪魔しました」
そう言って、田村様はスーツケースの持ち手に手をかける。
「残念、お時間が許せば色々とお話ししたかったのに……今日はこれからどうされるの?」
石川様が彼女を気遣うように聞く。
「はい、今日は二駅先のホテルに宿泊しますので」
「そうなのね。日本にはいつまで御滞在されるの?」
「それが……未定なんです。すみません、私、そろそろ行かないと」
一瞬、彼女の表情が曇った。
「急いでるところ、引き留めるようなことしてしまってごめんなさいね」
「いいえ、こちらこそすみません」
田村様は申し訳なさそうな顔つきで答えた。
「田村様、お見送りいたしますね。佐々木さん、お荷物をお願いします。石川様、そろそろ御夕食の準備ができると思いますので、こちらでお待ちくださいね」
これ以上、お二人に気まずい思いをさせてはいけない。
私は半ば強引に田村様に声をかけた。
悠馬さんと彼女を正門まで見送り食堂へ戻ると、石川様は気落ちした様子で夕食を召し上がっていた。
「石川様、大丈夫ですよ。滞在期間を聞かれただけで気を悪くするような方はいらっしゃらないと思います」
私が彼女に近寄って声をかけると、
「環ちゃ~ん、こういうのが良くないのよね、私」
と、しゅんとした顔で石川様が言う。
彼女は人の痛みがよく分かる分、より傷つきやすいのだ。
そこへ、一度厨房へ戻った悠馬さんが、彼と私の分と思しき二人分の夕食を持って現れた。
「環ちゃん、片桐さんが俺達も夕食を食べちゃってって。はい、どうぞ」
「ありがとう」
トレイに乗った今日の夕食はビーフシチュー。
口の中で、ほろほろとお肉が蕩ける一品だ。
私達は石川様のテーブルで一緒に夕食を取る事にした。
「片桐さん、まだ明日の仕込みでもやってるのかしら?」
石川様は心配そうに厨房の方を見やる。
「そうですね。食べ終わったら厨房をちょっと覗いてみますね」
私も実は先ほどから彼の動向が気になっていた。
『もう少ししたら行きます』と悠馬さんに言っていたわりには、なかなか、こちらに姿を見せないからだ。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎ 〜Romance in Abū Dhabī〜 【Alphapolis Edition】
佐倉 蘭
キャラ文芸
都内の大手不動産会社に勤める、三浦 真珠子(まみこ)27歳。
ある日、突然の辞令によって、アブダビの新都市建設に関わるタワービル建設のプロジェクトメンバーに抜擢される。
それに伴って、海外事業本部・アブダビ新都市建設事業室に異動となり、海外赴任することになるのだが……
——って……アブダビって、どこ⁉︎
※作中にアラビア語が出てきますが、作者はアラビア語に不案内ですので雰囲気だけお楽しみ下さい。また、文字が反転しているかもしれませんのでお含みおき下さい。
横浜で空に一番近いカフェ
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
大卒二年目のシステムエンジニア千晴が出会ったのは、千年を生きる妖狐。
転職を決意した千晴の転職先は、ランドマークタワー高層にあるカフェだった。
最高の展望で働く千晴は、新しい仕事を通じて自分の人生を考える。
新しい職場は高層カフェ! 接客業は忙しいけど、眺めは最高です!
【完結】パンでパンでポン!!〜付喪神と作る美味しいパンたち〜
櫛田こころ
キャラ文芸
水乃町のパン屋『ルーブル』。
そこがあたし、水城桜乃(みずき さくの)のお家。
あたしの……大事な場所。
お父さんお母さんが、頑張ってパンを作って。たくさんのお客さん達に売っている場所。
あたしが七歳になって、お母さんが男の子を産んだの。大事な赤ちゃんだけど……お母さんがあたしに構ってくれないのが、だんだんと悲しくなって。
ある日、大っきなケンカをしちゃって。謝るのも嫌で……蔵に行ったら、出会ったの。
あたしが、保育園の時に遊んでいた……ままごとキッチン。
それが光って出会えたのが、『つくもがみ』の美濃さん。
関西弁って話し方をする女の人の見た目だけど、人間じゃないんだって。
あたしに……お父さん達ががんばって作っている『パン』がどれくらい大変なのかを……ままごとキッチンを使って教えてくれることになったの!!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
カラマワリの兄弟
衣更月 浅葱
キャラ文芸
3歳年上の兄はおれにとって、まるで台風のようだった。
舞台は貴族の街、ルピシエ市。
この街の一警官ギルバートはある秘密を抱えていた。
それは、『魔薬』によって人ならざる者と化した兄を魔薬取締班から匿っているといること。
魔薬とは、このルピシエ市に突如として蔓延した、摩訶不思議な力をさずける魔法のような薬であり、そしてそれは簡単に人を人間の域から超えさせてしまう悪魔のような薬でもある。
悪魔と化した元人間を誰が受け入れようか。
秩序を守る為にその悪魔達は、『魔薬を使用した』ただ一つの罪を理由に断罪された。次々と魔薬取締班に処刑された。
ギルバートの兄にも、その足音は近づいている…。
誰も知らない幽霊カフェで、癒しのティータイムを。【完結保証】
双葉
キャラ文芸
【本作のキーワード】
・幽霊カフェでお仕事
・イケメン店主に翻弄される恋
・岐阜県~愛知県が舞台
・数々の人間ドラマ
・古より続く除霊家系の呪縛
+++
人生に疲れ果てた璃乃が辿り着いたのは、幽霊の浄化を目的としたカフェだった。
カフェを運営するのは(見た目だけなら王子様の)蒼唯&(不器用だけど優しい)朔也。そんな特殊カフェで、璃乃のアルバイト生活が始まる――。
舞台は岐阜県の田舎町。
様々な出会いと別れを描くヒューマンドラマ。
※実在の地名・施設などが登場しますが、本作の内容はフィクションです。
※原稿完成済み。2025年1月末までに完結します(12万文字程度)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる