上 下
39 / 112
第三章 : 想いを重ねるリトグラフ 

石川様と御主人の思い出

しおりを挟む
「おばあちゃん、反抗してたんだ。勇気あるね」

「おばあちゃんだって、ビクビクしながら、おじいちゃんに会っていたのよ。校内と通学路以外は話すことさえできなかったの」

何処か遠くの方を見つめながら、石川様が話しを続ける。

その僅かな間隙を縫うように片桐さんが、石川様と私の分の紅茶とスイーツを持って姿を見せる。
流石、片桐さん。さりげない気遣いが本当に有難い。

「失礼します。どうぞ、お話を続けてください」

トレイを持ち、そっとその場を去ろうとする彼を美来ちゃんが引き留める。
片桐さんは少し、ばつが悪そうにしつつも、私達の恋愛話に加わる事にしたようだ。

「あら、片桐さんまで加わるのね」

石川様が少し冷やかす様に、そう言うと、いよいよ片桐さんは動けなくなってしまった。

「それで、おばあちゃん達は、どうやって結婚までこぎつけたの?」

美来さんがストレートに問い掛ける。

「……そうね。簡単に言えば、駆け落ちみたいなものかしら」

穏やかな口調で石川様は大胆な発言をする。

「簡単じゃないし!」

美来さんの的確で小気味好い指摘に調子を合わせる様、私と片桐さんも『うんうん』と二人同時に頷く。

石川様は『フフフ』と少しだけ、この状況を楽しんでいるかの様に笑い、また静かに話始める。

「おじいちゃんと学校の帰り道に、どうしても寄ってみたい甘味処があって、ある日こっそり二人で行ってしまったの……それを同級生の親御さんに見られてしまって」

「告げ口されたの?」

「そうね。告げ口のつもりはなかったのかもしれないけれど」

結果、石川様はご両親から交際を固く禁止され、使用人に終始、見張られる様になってしまったのだという。
その後に、ご両親の決めた縁談相手の方と無理矢理、会う約束をされ、思い悩んだ彼女は体調を崩してしまい入院をする事になってしまう。

「あの時は、おじいちゃん以外の人、全てが敵の様に思えてしまって。親には親なりの『娘には苦労させたくない』って思いがあったのかもしれないけれど……」

「おじいちゃんとおばあちゃんの家って、そんなに環境の違いがあったの?」

「ううん。同じ私立の学校だったから、そんなに違いはなかったと思うわ……ただ、おじいちゃんのお家が経営していた会社の業績が悪化し始めてしまって」

「そんな事で……おばあちゃんの両親、冷たい!」

「……そうね。私も当時は、そう思ったの。だから結局、高校を卒業して、すぐに二人で東京に逃げる様に家を出てしまったのよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

片翅の火蝶 ▽半端者と蔑まれていた蝶が、蝋燭頭の旦那様に溺愛されるようです▽

偽月
キャラ文芸
  「――きっと、姉様の代わりにお役目を果たします」  大火々本帝国《だいかがほんていこく》。通称、火ノ本。  八千年の歴史を誇る、この国では火山を神として崇め、火を祀っている。国に伝わる火の神の伝承では、神の怒り……噴火を鎮めるため一人の女が火口に身を投じたと言う。  人々は蝶の痣を背負った一族の女を【火蝶《かちょう》】と呼び、火の神の巫女になった女の功績を讃え、祀る事にした。再び火山が噴火する日に備えて。  火縄八重《ひなわ やえ》は片翅分の痣しか持たない半端者。日々、お蚕様の世話に心血を注ぎ、絹糸を紡いできた十八歳の生娘。全ては自身に向けられる差別的な視線に耐える為に。  八重は火蝶の本家である火焚家の長男・火焚太蝋《ほたき たろう》に嫁ぐ日を迎えた。  火蝶の巫女となった姉・千重の代わりに。  蝶の翅の痣を背負う女と蝋燭頭の軍人が織りなす大正ロマンスファンタジー。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

処理中です...