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第二章 : 夜のしじまのカーテンコール
SNSに奮闘中
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コンシェルジュ・デスクに戻り、午後の業務予定を確認する。
今日は夕食の準備は石川様の一人分。私と片桐さんの分を含めて三人。
後は、常備している備品の発注、共有スペースの掃除等……
コツが少し分かりかけてきたので、入居者の方が外出している事が多い日中ならば、一時間位は広報業務に充てる時間が捻出できるかもしれない。
一通りの日常業務を終え、早速、SNSの作成準備に取り掛かる。
Photoupは、片桐さんにコツを教えて貰うとして、もう一つの課題は、呟き型SNSのtalkerの方だ。
写真のセンス同様、文章能力にも自信がなかった。
世間ではSNSを当たり前のように多くの人が使いこなし、個々のネットワークを築いたり、自分の才能を披露する場等としても活用している。
――やっぱり私には、これって物が何もないんだ。
そう独り言ちながら、とりあえず思いつくままに文章を入力してみる。
『アパルトマン lumière(ルミエール):家具付き・食事付き(希望制)・コンシェルジュ、シェフ在住。セキュリティ万全、女性一人暮らしも安心。短期滞在も相談可。只今入居者募集中』
要点は全て抑えているものの、これではルミエールの持つ独特の雰囲気や魅力がまるで伝わって来ない。
就職の面接で上手く自分をアピールできないのも、納得の文才のなさ。
小説家の書くような比喩表現なんて、どうやって生活していたら身に付く物なんだろうか……
やっぱり読んできた本の量に比例するのかな。
とりあえず定型文だけ保存しておいて、少しアレンジした人を惹きつけるような文章を考えてみることにした。
『アパルトマン lumière(ルミエール):素敵なインテリアとイケメンシェフのお料理を堪能。映画のような日常を貴方に……』
片桐さん、怒るかな。
ちょっと言い回しが古いんだよね。我ながら……
半ば、やけになって入力しては削除を繰り返していると、それ以上は無駄と諦めさせるかのように電話が鳴った。
「もしもし、環ちゃん。SNSの方はどう?」
電話は神通力でも持っているのではないかと疑がわしい叔母さんからだった。
今回もその能力を発動したかのようなタイミングで電話を掛けてきた。
「は、はい。まだちょっと奮闘中です」
「あら、そうなの。実は新しく入居希望の方から連絡があってね。審査はOKだったので、明日にでも書類一式持っていくわね」
「ありがとうございます。通常入居の方ですか?」
「そう。とりあえず一年てことで。それがちょっとした有名人みたいなの!」
「え?! 何方ですか?」
「まぁ、明日のお楽しみって事で」
叔母さんの声からすると、相手は若い男性、恐らく好みの容姿をしているのだろう。
なんていう、しょうもない推理力だけは自信があったりする。
――23時過ぎ、入居者が全員帰宅した事を確認し、戸締りを終え自室に戻る。
叔母さんが言っていた『ちょっとした有名人』が気になり、SNSにアップする文面もろくに浮かばぬまま疲れた体でベットに滑り込むと、吸い込まれる様に深い眠りに落ちた。
今日は夕食の準備は石川様の一人分。私と片桐さんの分を含めて三人。
後は、常備している備品の発注、共有スペースの掃除等……
コツが少し分かりかけてきたので、入居者の方が外出している事が多い日中ならば、一時間位は広報業務に充てる時間が捻出できるかもしれない。
一通りの日常業務を終え、早速、SNSの作成準備に取り掛かる。
Photoupは、片桐さんにコツを教えて貰うとして、もう一つの課題は、呟き型SNSのtalkerの方だ。
写真のセンス同様、文章能力にも自信がなかった。
世間ではSNSを当たり前のように多くの人が使いこなし、個々のネットワークを築いたり、自分の才能を披露する場等としても活用している。
――やっぱり私には、これって物が何もないんだ。
そう独り言ちながら、とりあえず思いつくままに文章を入力してみる。
『アパルトマン lumière(ルミエール):家具付き・食事付き(希望制)・コンシェルジュ、シェフ在住。セキュリティ万全、女性一人暮らしも安心。短期滞在も相談可。只今入居者募集中』
要点は全て抑えているものの、これではルミエールの持つ独特の雰囲気や魅力がまるで伝わって来ない。
就職の面接で上手く自分をアピールできないのも、納得の文才のなさ。
小説家の書くような比喩表現なんて、どうやって生活していたら身に付く物なんだろうか……
やっぱり読んできた本の量に比例するのかな。
とりあえず定型文だけ保存しておいて、少しアレンジした人を惹きつけるような文章を考えてみることにした。
『アパルトマン lumière(ルミエール):素敵なインテリアとイケメンシェフのお料理を堪能。映画のような日常を貴方に……』
片桐さん、怒るかな。
ちょっと言い回しが古いんだよね。我ながら……
半ば、やけになって入力しては削除を繰り返していると、それ以上は無駄と諦めさせるかのように電話が鳴った。
「もしもし、環ちゃん。SNSの方はどう?」
電話は神通力でも持っているのではないかと疑がわしい叔母さんからだった。
今回もその能力を発動したかのようなタイミングで電話を掛けてきた。
「は、はい。まだちょっと奮闘中です」
「あら、そうなの。実は新しく入居希望の方から連絡があってね。審査はOKだったので、明日にでも書類一式持っていくわね」
「ありがとうございます。通常入居の方ですか?」
「そう。とりあえず一年てことで。それがちょっとした有名人みたいなの!」
「え?! 何方ですか?」
「まぁ、明日のお楽しみって事で」
叔母さんの声からすると、相手は若い男性、恐らく好みの容姿をしているのだろう。
なんていう、しょうもない推理力だけは自信があったりする。
――23時過ぎ、入居者が全員帰宅した事を確認し、戸締りを終え自室に戻る。
叔母さんが言っていた『ちょっとした有名人』が気になり、SNSにアップする文面もろくに浮かばぬまま疲れた体でベットに滑り込むと、吸い込まれる様に深い眠りに落ちた。
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