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二十二・晴れ、流れ
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「確かに宴とか祭とかいいとは言われてたけど……」
「その効果は案外馬鹿にできぬものだ。瘴気は澱んだ人の心からも生まれるのだから」
かつては鬼の発生が続いたときなどに祭をしていたという記録も残っている。しかし水蓮には他にも目的があるようだった。
「彼奴も木蓮が吾が伴侶となったことはもうわかっている。既に次の手を打っているだろう。それを挫いてやれば、あれは必ずここに攻撃をしかけてくるはずだ。吾らはそれを迎え撃つ」
「……うん」
「何かあるのか?」
「いや……実は私、宿堤様に一度も勝てたことなくて」
純粋な霊力だけの勝負なら木蓮の敵になるような人間はいない。しかし武芸の面では一度も勝てたことがない。木蓮には遠く及ばない霊力を補って余りあるほどに強い男なのだ。
「一人で戦うわけではないのだ。焔もいるし、吾もいる。どのみちあの男についた鬼を何とかせねば、邑は壊滅するだろう」
「そうだね……」
「そしてあの男についた鬼を倒しても終わるわけではない。彼奴はもはや手段を選ばぬであろう」
木蓮は視線を落とした。水蓮はあくまで淡々と話しているが、水夜の話をするときは僅かに表情が曇る。おそらくは今でも情があるのだろう。
鬼に対する憎しみも怒りも消えていない。どんな過去があろうともそれが引き起こしたことは消えない。他人の思いを利用して、弱みに漬け込むようなやり方も許せない。それでも殺す以外の方法はないのだろうかと木蓮は考え始めていた。
「――さて、事を起こす前に其方は力を蓄えねばならぬわけだが」
木蓮は水蓮の言葉に首を傾げる。力を蓄えるということを今まで考えたことがなかった。蜘蛛の鬼に奪われたとき以外、木蓮の霊力は絶えず溢れんばかりに満ちていたからである。
「男衆たちは修行で霊力を高めていたりするだろう。それは体という器を成長させ、霊力をより多く蓄えられるようにするものだが……今の其方は、その器の成長が終わっている状態と言えよう」
「そうなの?」
「吾が伴侶となった今、其方は人の身では耐えられないほどの力を溜め込めるようになっている。だが霊力の量が追いついておらぬ。先日の戦いでかなり霊力を使っていたようだからな」
今まで考えたことがなかったが、意識してみると確かにまだ体に余裕があるような気がする。木蓮が自分の手を見つめながら考えていると、焔が口を挟んだ。
「増やすのは難しくないけれど、霊力でいいの? 今なら神力でもある程度まで耐えられると思うけれど」
「慣れた力の方が使いやすいだろう。それに神力よりも霊力の方が自由な力だ」
神の力はそれぞれ固有の性質を持っている。しかし霊力は人によって多少の違いはあるが、基本的には何にでも変えることができる力だ。水蓮はしかし、少し考えてから木蓮に尋ねた。
「いや……其方の意思を確認しないわけにはいかぬか。今なら吾が力を其方に分け与えることもできるが、どうする?」
「戦いのことを考えれば、確かに慣れているものの方がいいけど……」
それとは別に、自分の中に水蓮の力があるという状態に対する欲のようなものもある。木蓮がそれを素直に言うと、先に焔が笑みを溢した。
「――だそうだけど?」
「そんなことを言われてしまっては、加減できぬかもしれぬぞ」
その瞬間、木蓮が座っていた場所から何本もの水の筋が現れた。水蓮の意のままに動く水は、木蓮の両手首をその頭上でまとめ上げた。
「んん……っ」
水蓮は木蓮の顎を軽く掴み、唇を合わせる。舌で歯列をなぞられながら何かを流し込まれた。それはわずかに冷たいようで、しかし普通とは違う熱もある。けれどそれが何なのか木蓮にはわかっていた。水蓮がその身に纏う神の力が流し込まれているのだ。
深い口付けから解放された木蓮は肩で息をした。体が熱い。決して不快なものではないが、体のあらゆるところに強い力が流れている感覚がある。
「これほどまでに馴染むのが早いとは。妾の力は要らぬのではないか?」
焔が木蓮を見て言う。その口調の変化は焔が力を使おうとしている証だ。焔は木蓮の後ろに回り、うなじにそっと唇で触れてから、耳を軽く食んだ。
「っ……! あ……」
「――いい反応」
耳朶を軽く噛まれ、木蓮の体はぴくりと跳ねる。そして着物の合わせ目から手を差し込まれ、露わになった肌を撫でられると思わず声が漏れた。
「ふぁ……っ」
胸を優しく揉みしだかれながら首筋を舐められると、ぞくぞくとした感覚が全身に走る。背後から耳を食まれ、胸の先端を指の腹で擦られたり、軽くつままれたりすると体がびくびくと反応してしまう。焔は木蓮の反応を楽しむように愛撫を続けた。
「ん……ぁ、やぁ……」
「気持ちよかろう……こんなに色付いて」
「っ、ふぅ……ほむ、ら……さん……っ」
「もっと力を抜くがいい。妾にその身を委ねるのだ」
焔は木蓮の首筋を唇でなぞりながら、木蓮の胸を弄り続ける。体の奥が熱くなり内側から何かが流れ落ちていく感覚を木蓮は味わっていた。不意に伸びてきた水の筋に耳を突かれ、木蓮は思わず太腿を擦り合わせた。
「ひゃっ……あっ、あ……!」
胸だけでも充分に感じてしまうのに、耳まで弄られると声が抑えられない。水蓮が操る水はゆっくりと耳の中に入り込んでいく。内側で響く水音がさらに木蓮を煽っていくようだった。
「……っ、ん……んん……っ! それ、は……!」
「吾のことを忘れてもらっては困るな」
耳に触れる繊毛のような感触と水の音。それは木蓮の反応に合わせて少しずつ変化していく。水が落ちるような音や、川のせせらぎのような音。心が安らぎを覚えるのとは裏腹に体は火照っていう。
「其方の伴侶は少々大人気がないようだの」
「これはあくまで霊力を高めるための
ものだということは忘れてくれるなよ」
「神々の世では複数の相手と番うことも珍しくないというのに。――のう、木蓮?」
焔は木蓮の胸の突起を指で挟みながら軽く引っ張る。甘い声が漏れそうになった瞬間に、僅かに開いた口に水の筋が入り込んだ。息苦しいほどではないが、声はその水に吸い込まれてしまう。口の中で枝分かれした水に舌を絡め取られ、木蓮の腰がびくりと動いた。
焔は対抗するように木蓮の袴の紐をほどき、顕になった白い脚を撫でた。その手は徐々に腿の内側に潜り込み、その付け根の泉に到達する。
「ん……んんっ……」
「もう充分に濡れているようだな」
焔の指が泉の入り口をそっとなぞる。そしてゆっくりと中へ侵入してきた。指一本だというのにその圧迫感は強く、木蓮は思わず息を止めた。
「っ、く……ぅ……」
「息を詰めるでない。深く呼吸して、力を抜かねば」
焔は木蓮の耳元で囁きながら指を動かす。それに合わせて水蓮の水の筋が胸や耳から刺激を与えてきた。水蓮と焔に前後を挟まれ、二人に嬲られ続けていると体の芯が疼いてたまらない気持ちになる。
焔はゆっくりと指を出し入れしながら中を解していく。その指先が奥の一点に触れた瞬間、木蓮は小さく声を漏らした。
「んんっ……ぅ……!」
「ここか」
焔はその一点を何度も擦り上げる。その度に強い快感が走り、木蓮は体を跳ねさせた。指が触れる部分が熱い。無意識に腰が揺れると、焔は指を増やしてさらに中を掻き回した。
「っ、う……ん、ぅぅ……!」
「声が聞けぬのは残念だが、愛い反応よのう」
焔は木蓮の首筋に舌を這わせながら囁く。そして水蓮は耳朶に軽く歯を立て、耳の奥にぴったりと水の筋を這わしてきた。二人の愛撫を一身に受け続け、木蓮の体は限界を迎えようとしていた。
「っ! ん……ん……んぅっ!」
その瞬間、木蓮の体が大きく痙攣し、中がきつく締まる。焔はその締め付けに逆らうように指を動かし続ける。木蓮は体を震わせながら焔の腕を掴もうとしたが、力が入らずに触れるだけになってしまった。
不意に水の筋が肌をなぞり、胸の飾りを軽く掠める。ひとつひとつの刺激は弱くとも、今の木蓮には劇薬のようなものであった。木蓮の腰が跳ね、大量に溢れた蜜が焔の手をぐっしょりと濡らした。
「ん、ぅ……んんっ!」
焔が指を、水蓮が水の筋を引き抜くと、木蓮の体から力が抜けた。快感の余韻から抜け出せないでいる体を後ろから焔が優しく抱き止める。焔に体を預けて息を荒げている木蓮に水蓮が言った。
「具合はどうだ?」
「まだ……よくわからない」
確かに力は漲っているように感じるが、そんなことを考える余裕はない。焔はそんな木蓮の首筋を軽く吸った。
「充分みたいよ。すごく美味しい」
「つまみ食いとは感心せんな」
焔が妖しげな微笑を浮かべ、水蓮がほれを諌める。そのやりとりで木蓮が今しがた自分が何をされたかを悟った。
「神の使いではあるが、元は妖狐だ。少々人の気を吸うようなこともする」
「まあそういうこと。でも味は極上ね。力が弱かったとしても鬼に好かれちゃいそうよ」
「それは……あんまり嬉しくないかな……」
木蓮は苦笑いを浮かべる。鬼に狙われるのは霊力が強い者というのはこれまでも言われてきたことだったが、それ以外にも味の好みがあるらしい。
「邑長の家系は鬼が好む霊力を持つ場合が多い。戦いに出れば食われる可能性が高い故に中の守りに徹するようになったと言われておる」
水蓮が補足する。木蓮はゆっくりと体を起こしながら思案した。鬼にも好みというのはある。人が食べ物に好き嫌いがあるのと同じことだろう。
「邑長の家系ということは……泰良も?」
「あれはまだ成長しきっておらぬから、封印を破る糧としてはあまり使えぬが……その食欲のままに喰らう可能性がないとは言えぬな」
「……そう」
今、彼はどうしているのだろう。宿堤は表向きはこれまでと同じように振る舞っているだろう。しかし泰良が母を喪ったというのは曲げられない事実だ。しかも母親が鬼になってしまったなど、小さな子供の心に消えない傷が残ってしまうだろう。その心の痛みは木蓮もよく知っていた。
「木蓮。だからこそ宴は必要なのだ。この世界にあるのは悲しみばかりではない。残酷かもしれぬが、前だろうが後ろだろうがどれだけ遅かろうが進まねば水は澱むのだ」
木蓮は頷いた。かつて両親を失って悲しみに暮れていた木蓮は鬼に対する復讐心で前に進んだ。無理にでも進まなければ囚われてしまうと言われたからだ。それを教えてくれた人が今は過去に囚われている。そして邑の中にも多くの澱みがあるだろう。それを晴らす流れを作り出さなければならない。木蓮はしっかりと拳を握りしめた。
***
鍛錬を終えた悠來は、額の汗を軽く拭った。邑に鬼が現れたあの日から、自主的に鍛錬をする者が減ってしまった。あんな光景を目の当たりにしてしまったらそれも仕方ないのかもしれない。見知った人間が鬼になってしまったことも、これまで邑を守ってきた巫が限界を迎えて鬼になる前に殺されてしまったのも、心を塞ぐには充分な出来事だ。
しかし悠來は確かな手応えを感じてもいた。代々神事に使う布を作り続け、それを戦闘に使う術を研究し続けてきた。それがようやく実戦で役に立つところまできたのだ。ここでその歩みを止めるわけにはいかない。それに、次の巫が決まるまでは男衆だけで鬼に立ち向かわなければならないのだから。
修練場を片付けて外に出ると、そこには泰良が一人でいた。刀を持ち、藁束に切りつけている。悠來は泰良が刀を鞘に収めたところで話しかけた。
「もう少し踏み込みを強くしたほうがいいな」
「悠來にいちゃん!」
「いつもは家で鍛錬してるだろ? 何かあったのか?」
悠來が尋ねると、泰良は俯いた。
「家にいづらくて……」
「まあ……そうなっても仕方ないか」
已須見のことももうわかっているだろう。その上、実の姉のように慕っていた木蓮を父親である宿堤が殺したのだ。
「父上もあの日からずっと部屋に閉じこもっているし……何をすればいいかわからなくて」
「そうときに体を動かすのを選べるのはすごいことだぞ」
悠來も慕っていた武羅瀬が死んだ後はひたすら鍛錬した。それは武羅瀬ならそうするだろうと思ったからだ。
「でも……なんかみんな変な感じだ」
「そりゃああんなことがあればなぁ」
邑全体が沈んでいる。邑の人間が鬼になってしまうのは、木蓮の前の巫が死んだとき以来だ。そしてそれと同時に強い力を目覚めさせた木蓮は、鬼に脅かされ続けるこの邑を救ってくれると思われていたのだ。その木蓮が死んでしまったということは、希望が消えたも同然だ。
「次の巫が立てば、少しは変わるかもしれないけれど……」
木蓮ほどの力を持つ者などいない。邑長の家系は外の戦いには出られない。それらの条件から次の巫が誰になるのかはおおかた予想はできていた。
「武羅瀬さんがいたら、歴史上最もいかつい巫が生まれたかもしれないけどな」
まだ誰にも言われていないが、悠來は薄々自分が次の巫であることを察していた。しかし自分では邑の人間を安心させることができないこともわかっていた。冗談めかして言いながらも心は塞いでいく。地面に視線を落としたそのとき、泰良が空を指差した。
「悠來にいちゃん、あそこに何か――」
雲の裏側で何かが動いているように見えた。けれどその姿ははっきりとしない。悠來が目を凝らしたその瞬間に、何の前触れもなく雨が降り出した。
「その効果は案外馬鹿にできぬものだ。瘴気は澱んだ人の心からも生まれるのだから」
かつては鬼の発生が続いたときなどに祭をしていたという記録も残っている。しかし水蓮には他にも目的があるようだった。
「彼奴も木蓮が吾が伴侶となったことはもうわかっている。既に次の手を打っているだろう。それを挫いてやれば、あれは必ずここに攻撃をしかけてくるはずだ。吾らはそれを迎え撃つ」
「……うん」
「何かあるのか?」
「いや……実は私、宿堤様に一度も勝てたことなくて」
純粋な霊力だけの勝負なら木蓮の敵になるような人間はいない。しかし武芸の面では一度も勝てたことがない。木蓮には遠く及ばない霊力を補って余りあるほどに強い男なのだ。
「一人で戦うわけではないのだ。焔もいるし、吾もいる。どのみちあの男についた鬼を何とかせねば、邑は壊滅するだろう」
「そうだね……」
「そしてあの男についた鬼を倒しても終わるわけではない。彼奴はもはや手段を選ばぬであろう」
木蓮は視線を落とした。水蓮はあくまで淡々と話しているが、水夜の話をするときは僅かに表情が曇る。おそらくは今でも情があるのだろう。
鬼に対する憎しみも怒りも消えていない。どんな過去があろうともそれが引き起こしたことは消えない。他人の思いを利用して、弱みに漬け込むようなやり方も許せない。それでも殺す以外の方法はないのだろうかと木蓮は考え始めていた。
「――さて、事を起こす前に其方は力を蓄えねばならぬわけだが」
木蓮は水蓮の言葉に首を傾げる。力を蓄えるということを今まで考えたことがなかった。蜘蛛の鬼に奪われたとき以外、木蓮の霊力は絶えず溢れんばかりに満ちていたからである。
「男衆たちは修行で霊力を高めていたりするだろう。それは体という器を成長させ、霊力をより多く蓄えられるようにするものだが……今の其方は、その器の成長が終わっている状態と言えよう」
「そうなの?」
「吾が伴侶となった今、其方は人の身では耐えられないほどの力を溜め込めるようになっている。だが霊力の量が追いついておらぬ。先日の戦いでかなり霊力を使っていたようだからな」
今まで考えたことがなかったが、意識してみると確かにまだ体に余裕があるような気がする。木蓮が自分の手を見つめながら考えていると、焔が口を挟んだ。
「増やすのは難しくないけれど、霊力でいいの? 今なら神力でもある程度まで耐えられると思うけれど」
「慣れた力の方が使いやすいだろう。それに神力よりも霊力の方が自由な力だ」
神の力はそれぞれ固有の性質を持っている。しかし霊力は人によって多少の違いはあるが、基本的には何にでも変えることができる力だ。水蓮はしかし、少し考えてから木蓮に尋ねた。
「いや……其方の意思を確認しないわけにはいかぬか。今なら吾が力を其方に分け与えることもできるが、どうする?」
「戦いのことを考えれば、確かに慣れているものの方がいいけど……」
それとは別に、自分の中に水蓮の力があるという状態に対する欲のようなものもある。木蓮がそれを素直に言うと、先に焔が笑みを溢した。
「――だそうだけど?」
「そんなことを言われてしまっては、加減できぬかもしれぬぞ」
その瞬間、木蓮が座っていた場所から何本もの水の筋が現れた。水蓮の意のままに動く水は、木蓮の両手首をその頭上でまとめ上げた。
「んん……っ」
水蓮は木蓮の顎を軽く掴み、唇を合わせる。舌で歯列をなぞられながら何かを流し込まれた。それはわずかに冷たいようで、しかし普通とは違う熱もある。けれどそれが何なのか木蓮にはわかっていた。水蓮がその身に纏う神の力が流し込まれているのだ。
深い口付けから解放された木蓮は肩で息をした。体が熱い。決して不快なものではないが、体のあらゆるところに強い力が流れている感覚がある。
「これほどまでに馴染むのが早いとは。妾の力は要らぬのではないか?」
焔が木蓮を見て言う。その口調の変化は焔が力を使おうとしている証だ。焔は木蓮の後ろに回り、うなじにそっと唇で触れてから、耳を軽く食んだ。
「っ……! あ……」
「――いい反応」
耳朶を軽く噛まれ、木蓮の体はぴくりと跳ねる。そして着物の合わせ目から手を差し込まれ、露わになった肌を撫でられると思わず声が漏れた。
「ふぁ……っ」
胸を優しく揉みしだかれながら首筋を舐められると、ぞくぞくとした感覚が全身に走る。背後から耳を食まれ、胸の先端を指の腹で擦られたり、軽くつままれたりすると体がびくびくと反応してしまう。焔は木蓮の反応を楽しむように愛撫を続けた。
「ん……ぁ、やぁ……」
「気持ちよかろう……こんなに色付いて」
「っ、ふぅ……ほむ、ら……さん……っ」
「もっと力を抜くがいい。妾にその身を委ねるのだ」
焔は木蓮の首筋を唇でなぞりながら、木蓮の胸を弄り続ける。体の奥が熱くなり内側から何かが流れ落ちていく感覚を木蓮は味わっていた。不意に伸びてきた水の筋に耳を突かれ、木蓮は思わず太腿を擦り合わせた。
「ひゃっ……あっ、あ……!」
胸だけでも充分に感じてしまうのに、耳まで弄られると声が抑えられない。水蓮が操る水はゆっくりと耳の中に入り込んでいく。内側で響く水音がさらに木蓮を煽っていくようだった。
「……っ、ん……んん……っ! それ、は……!」
「吾のことを忘れてもらっては困るな」
耳に触れる繊毛のような感触と水の音。それは木蓮の反応に合わせて少しずつ変化していく。水が落ちるような音や、川のせせらぎのような音。心が安らぎを覚えるのとは裏腹に体は火照っていう。
「其方の伴侶は少々大人気がないようだの」
「これはあくまで霊力を高めるための
ものだということは忘れてくれるなよ」
「神々の世では複数の相手と番うことも珍しくないというのに。――のう、木蓮?」
焔は木蓮の胸の突起を指で挟みながら軽く引っ張る。甘い声が漏れそうになった瞬間に、僅かに開いた口に水の筋が入り込んだ。息苦しいほどではないが、声はその水に吸い込まれてしまう。口の中で枝分かれした水に舌を絡め取られ、木蓮の腰がびくりと動いた。
焔は対抗するように木蓮の袴の紐をほどき、顕になった白い脚を撫でた。その手は徐々に腿の内側に潜り込み、その付け根の泉に到達する。
「ん……んんっ……」
「もう充分に濡れているようだな」
焔の指が泉の入り口をそっとなぞる。そしてゆっくりと中へ侵入してきた。指一本だというのにその圧迫感は強く、木蓮は思わず息を止めた。
「っ、く……ぅ……」
「息を詰めるでない。深く呼吸して、力を抜かねば」
焔は木蓮の耳元で囁きながら指を動かす。それに合わせて水蓮の水の筋が胸や耳から刺激を与えてきた。水蓮と焔に前後を挟まれ、二人に嬲られ続けていると体の芯が疼いてたまらない気持ちになる。
焔はゆっくりと指を出し入れしながら中を解していく。その指先が奥の一点に触れた瞬間、木蓮は小さく声を漏らした。
「んんっ……ぅ……!」
「ここか」
焔はその一点を何度も擦り上げる。その度に強い快感が走り、木蓮は体を跳ねさせた。指が触れる部分が熱い。無意識に腰が揺れると、焔は指を増やしてさらに中を掻き回した。
「っ、う……ん、ぅぅ……!」
「声が聞けぬのは残念だが、愛い反応よのう」
焔は木蓮の首筋に舌を這わせながら囁く。そして水蓮は耳朶に軽く歯を立て、耳の奥にぴったりと水の筋を這わしてきた。二人の愛撫を一身に受け続け、木蓮の体は限界を迎えようとしていた。
「っ! ん……ん……んぅっ!」
その瞬間、木蓮の体が大きく痙攣し、中がきつく締まる。焔はその締め付けに逆らうように指を動かし続ける。木蓮は体を震わせながら焔の腕を掴もうとしたが、力が入らずに触れるだけになってしまった。
不意に水の筋が肌をなぞり、胸の飾りを軽く掠める。ひとつひとつの刺激は弱くとも、今の木蓮には劇薬のようなものであった。木蓮の腰が跳ね、大量に溢れた蜜が焔の手をぐっしょりと濡らした。
「ん、ぅ……んんっ!」
焔が指を、水蓮が水の筋を引き抜くと、木蓮の体から力が抜けた。快感の余韻から抜け出せないでいる体を後ろから焔が優しく抱き止める。焔に体を預けて息を荒げている木蓮に水蓮が言った。
「具合はどうだ?」
「まだ……よくわからない」
確かに力は漲っているように感じるが、そんなことを考える余裕はない。焔はそんな木蓮の首筋を軽く吸った。
「充分みたいよ。すごく美味しい」
「つまみ食いとは感心せんな」
焔が妖しげな微笑を浮かべ、水蓮がほれを諌める。そのやりとりで木蓮が今しがた自分が何をされたかを悟った。
「神の使いではあるが、元は妖狐だ。少々人の気を吸うようなこともする」
「まあそういうこと。でも味は極上ね。力が弱かったとしても鬼に好かれちゃいそうよ」
「それは……あんまり嬉しくないかな……」
木蓮は苦笑いを浮かべる。鬼に狙われるのは霊力が強い者というのはこれまでも言われてきたことだったが、それ以外にも味の好みがあるらしい。
「邑長の家系は鬼が好む霊力を持つ場合が多い。戦いに出れば食われる可能性が高い故に中の守りに徹するようになったと言われておる」
水蓮が補足する。木蓮はゆっくりと体を起こしながら思案した。鬼にも好みというのはある。人が食べ物に好き嫌いがあるのと同じことだろう。
「邑長の家系ということは……泰良も?」
「あれはまだ成長しきっておらぬから、封印を破る糧としてはあまり使えぬが……その食欲のままに喰らう可能性がないとは言えぬな」
「……そう」
今、彼はどうしているのだろう。宿堤は表向きはこれまでと同じように振る舞っているだろう。しかし泰良が母を喪ったというのは曲げられない事実だ。しかも母親が鬼になってしまったなど、小さな子供の心に消えない傷が残ってしまうだろう。その心の痛みは木蓮もよく知っていた。
「木蓮。だからこそ宴は必要なのだ。この世界にあるのは悲しみばかりではない。残酷かもしれぬが、前だろうが後ろだろうがどれだけ遅かろうが進まねば水は澱むのだ」
木蓮は頷いた。かつて両親を失って悲しみに暮れていた木蓮は鬼に対する復讐心で前に進んだ。無理にでも進まなければ囚われてしまうと言われたからだ。それを教えてくれた人が今は過去に囚われている。そして邑の中にも多くの澱みがあるだろう。それを晴らす流れを作り出さなければならない。木蓮はしっかりと拳を握りしめた。
***
鍛錬を終えた悠來は、額の汗を軽く拭った。邑に鬼が現れたあの日から、自主的に鍛錬をする者が減ってしまった。あんな光景を目の当たりにしてしまったらそれも仕方ないのかもしれない。見知った人間が鬼になってしまったことも、これまで邑を守ってきた巫が限界を迎えて鬼になる前に殺されてしまったのも、心を塞ぐには充分な出来事だ。
しかし悠來は確かな手応えを感じてもいた。代々神事に使う布を作り続け、それを戦闘に使う術を研究し続けてきた。それがようやく実戦で役に立つところまできたのだ。ここでその歩みを止めるわけにはいかない。それに、次の巫が決まるまでは男衆だけで鬼に立ち向かわなければならないのだから。
修練場を片付けて外に出ると、そこには泰良が一人でいた。刀を持ち、藁束に切りつけている。悠來は泰良が刀を鞘に収めたところで話しかけた。
「もう少し踏み込みを強くしたほうがいいな」
「悠來にいちゃん!」
「いつもは家で鍛錬してるだろ? 何かあったのか?」
悠來が尋ねると、泰良は俯いた。
「家にいづらくて……」
「まあ……そうなっても仕方ないか」
已須見のことももうわかっているだろう。その上、実の姉のように慕っていた木蓮を父親である宿堤が殺したのだ。
「父上もあの日からずっと部屋に閉じこもっているし……何をすればいいかわからなくて」
「そうときに体を動かすのを選べるのはすごいことだぞ」
悠來も慕っていた武羅瀬が死んだ後はひたすら鍛錬した。それは武羅瀬ならそうするだろうと思ったからだ。
「でも……なんかみんな変な感じだ」
「そりゃああんなことがあればなぁ」
邑全体が沈んでいる。邑の人間が鬼になってしまうのは、木蓮の前の巫が死んだとき以来だ。そしてそれと同時に強い力を目覚めさせた木蓮は、鬼に脅かされ続けるこの邑を救ってくれると思われていたのだ。その木蓮が死んでしまったということは、希望が消えたも同然だ。
「次の巫が立てば、少しは変わるかもしれないけれど……」
木蓮ほどの力を持つ者などいない。邑長の家系は外の戦いには出られない。それらの条件から次の巫が誰になるのかはおおかた予想はできていた。
「武羅瀬さんがいたら、歴史上最もいかつい巫が生まれたかもしれないけどな」
まだ誰にも言われていないが、悠來は薄々自分が次の巫であることを察していた。しかし自分では邑の人間を安心させることができないこともわかっていた。冗談めかして言いながらも心は塞いでいく。地面に視線を落としたそのとき、泰良が空を指差した。
「悠來にいちゃん、あそこに何か――」
雲の裏側で何かが動いているように見えた。けれどその姿ははっきりとしない。悠來が目を凝らしたその瞬間に、何の前触れもなく雨が降り出した。
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