【R18】龍の谷に白木蓮

深山瀬怜

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六・蜘蛛

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 鬼が出た、という報せを受けて、木蓮はすぐさまその場所に向かった。しかし夜の襲撃だったこともあり、半鐘の音だけでは鬼の種類を判別することが出来なかった。どんな鬼が襲ってきているのかは、実際に目で見て確かめなければならない。
 縮地術を使い鬼の目の前に現れた木蓮は、木蓮が仕掛けた術にかかりもがいているそれを見つめた。それは黒く、夜に紛れている。しかしその赤い瞳が爛々と光り、木蓮をにらんでいた。木蓮はその場から動かずに鬼の姿を観察する。ひとつひとつの可能性を潰しながら、夜に溶け込んだ鬼の正体を割り出す。

『シャアアァァアア……』

 鬼が息を吐き出す。それは夜の中に白い霧を生み出した。霧は結界の役割も果たしている。木蓮はこれまで戦ったことがなかったが、鬼の中には結界を使い、人間を己の世界に引き入れてから食うものもいるということは知っていた。

(そういえば、あの龍神の本殿も仕組みは同じようなものか――)

 結界に閉じ込められてからも、木蓮は冷静にそんなことを考えていた。結界を破るための術はあるし、そもそも結界の主が倒されれば解除される。結界に閉じ込められたくらいのことでは動揺しない。しかし白い霧に包まれることで見えるようになった鬼の姿に、木蓮は息を呑んだ。

(大蜘蛛――こんな大きさは、邑の記録にも残っていなかった)

 巫は全ての戦いを記録に残す。未熟な巫でも、先人が積み重ねたものの上で戦うことが出来た。蜘蛛の鬼は無数の子蜘蛛を霊力を込めた炎で焼き払った五代前の巫の記録と、男衆の一人にとりついてその体を操った、顔くらいの大きさの蜘蛛を操られた人間ごと葬った三代前の巫の記録しかない。目の前にいる大蜘蛛は、そのどれとも違っているようだった。
 木蓮の身長を優に越す大きさの蜘蛛が、八本の脚を蠢かしている。まだ木蓮の術は破れていないらしく、苛立ち紛れに白い霧を吐いていた。

(まだ術が破られていないなら……今のうちに)

 霊力を込めた矢を三本同時に放つ。二本はその黒い体躯に弾かれたが、一本は赤い瞳に命中した。大蜘蛛が痛みにのたうち回りながら声を上げる。木蓮は続けざまに矢を放った。

(身は矢では弱すぎる……眼を狙うにしても、あれだけ動かれると難しい)

 木蓮は数本の矢を眼に命中させたところで、刀を抜いた。弓矢では倒しきれない。龍神の加護が与えられた刀で、近くから攻撃するしかないと踏んだのだ。片目を潰された大蜘蛛は木蓮の動きを追い切れてはいない。木蓮は縮地を使いながら大蜘蛛との距離を一気に詰めていった。
 木蓮に気付き振り上げられた一本の足を刀で切り落とす。その身のほとんどが瘴気に包まれている鬼は、龍神の浄化の力が大きな弱点だ。いくら体躯が大きくても、動きを封じて、弱い部分を攻撃すれば勝つことが出来る。
 木蓮が別の足を切り落とそうとした瞬間、大蜘蛛が叫ぶ。その口から吐き出されたのはこれまでのような白い霧ではなく、無数の透明な糸であった。木蓮はそれに気付き、大蜘蛛から離れようとする。しかし一歩遅かった。木蓮は四肢を拘束され、哀れな蝶のように蜘蛛の巣に磔にされる。

『哀レナリ、愚カナリ、幼キ巫ヨ――』

 大蜘蛛が言葉を発したことに木蓮は瞠目した。ほとんどの鬼は人を襲って食うという本能に従って行動する。そこに思考のようなものは存在しない。ましてや人間の言葉を使う鬼はほとんどいない。言葉を使う鬼には気をつけよ、と歴代の巫の記録にも残っている。ましてや人間の姿をしていないのに人間の言葉を使う鬼は、ほとんどの巫が討伐に失敗している。倒しきれずに追い返しただけならまだいい。大抵はそこで命を落としている。
 言葉を使うからといって、会話をしてはならない。それは言葉が使えるだけに厄介な攻撃をしてくる。木蓮は集中して指先に霊力を集めた。

(びくともしない、か……。とりあえずどうにかして脱出しないと)

 手が動かせないので、刀は使えない。自分の力だけで切り抜けるしかない。一応最終手段は用意しているが、それは木蓮の身の安全の保証がない術だ。なるべく使うのは避けたい。木蓮が次の手を考えていると、大蜘蛛がそろりそろりと蜘蛛の巣に囚われた木蓮に近付いてきた。

『我ガ糸カラ逃レルコトハ出来ヌ……ソレハ触レテイル者ノ霊力ヲ吸イ取ル糸ヨ』

 ますます脱出しなければならない状況だ。このまま時間を浪費すれば霊力を吸い取られ、反撃の手段は完全に奪われる。邑の守りに回している男衆に合図を送るか。一瞬その考えが頭をよぎったが、木蓮は首を横に振った。この大蜘蛛と男衆が戦っても勝てはしない。そもそも結界の中に入れない可能性もある。ここは木蓮一人で切り抜けなければならないのだ。
 しかし、そうしているうちにも霊力が体から抜けていく。木蓮は歯噛みした。

『嗚呼……ソレニシテモ美味イ霊力ダ……ココデ殺シテシマウニハ惜シイ』
「っ……何、を……」

 霊力を奪われ、体の力も抜けていく。霊力はない人間にとっては無くても何も起こらないものだが、霊力がある人間は、それを奪われると生命力も同時に奪われることになるのだ。大蜘蛛はその脚を一本持ち上げ、木蓮の着ている白い小袖と緋袴を縦に切り裂いた。そしてその頭部にある鋏角きょうかくを木蓮の白い肌に突き刺した。

『穢レヲ知ラヌソノ体……我ガ苗床ニシテヤロウ』
「……っ、苗床なんて……!」
『オ前ハ我ガ同胞ヲ屠ッタ。失ワレタ分ハ取リ返サネバナラヌ。オ前ホドノ霊力ガアレバ、サゾカシ強キ鬼ガ生マレルダロウ』
「そんなこと……絶対にさせない!」

 木蓮は大蜘蛛を睨み付ける。しかしその眼光にも蜘蛛は怯まない。蜘蛛はその口からしゅるしゅると細い糸を出し、露わになった木蓮の胸に巻き付けた。

「な、何を……っ、ぅ」
『穢レヲ知ラヌソノ体ニ教エテヤロウ。ソシテ、我ラノトコロマデ堕チテ来ルノダ』

 大蜘蛛は巻きつけられた細い糸を操り、木蓮の胸を軽く引っ張る。最初は痛みしか感じなかったのに、じわじわと熱が体に広がっていく。体の奥が疼くような感覚に木蓮は目を瞠った。

「何……っ、からだが……あつ……ッ」
『毒ガ効イテキタヨウダナ。ソレハ体ヲ麻痺サセ、代ワリニオ前ノ欲望ヲ引キ出ス』
「私は……っ、こんなものになんて……っ、ああ……ッ!」

 続いて大蜘蛛はその脚の繊毛で木蓮の肌をなぞり始めた。それが撫でられた場所が熱くなり、更に体の力が抜けていく。そして蜘蛛の脚が生み出した熱は木蓮の体の中心に集まり始める。蜘蛛の糸で胸を弄ばれ、脚の繊毛で白い腹や太腿をなぞられる度に木蓮はあえかな声を上げた。

(駄目だ……このままじゃ)

 大蜘蛛のいいようにされるわけにはいかない。大蜘蛛は木蓮の霊力を奪っている。それを食らった大蜘蛛が邑を襲ったら、おそらく誰も太刀打ちできないだろう。

(暫く嬲るつもりだ……すぐに殺すつもりはない)

 時間はまだある。しかし勝機は見えなかった。体の熱は耐え難いほどになっている。大蜘蛛は再び糸を吐き、木蓮の脚を広げた状態で固定した。何をするつもりなのかがわからないほど木蓮も初心ではない。だがこの状況を切り抜ける方法が思いつかない間に、大蜘蛛の毒で歪に高められた性感で何も考えられなくなっていく。
 不意に蜘蛛が糸を吐き、それを撚り合わせたもので木蓮の割れ目をなぞった。くちゅり、と濡れた音が響いた瞬間、大蜘蛛の目がにたりと笑ったような気がした。

『体ハ正直ダナ……モウコンナニ淫ラナ蜜ヲ溢シテイル』
「っ、あぁ……やめ……、触るな……!」
『慣レヌ刺激ハサゾカシ辛カロウ。ダガジキニ悦クナル。我ガ霧ノ中デソノ魂ヲ堕トスノダ、巫ヨ』

 大蜘蛛は撚り合わせた糸を舌のように使い、透明な蜜を溢す木蓮の秘部を何度もなぞる。強烈な刺激に木蓮の腰が無意識に揺れる。しかし木蓮は巫の矜持でもってその快楽を必死で否定した。溺れてはならない。思考を止めてはならない。木蓮が堕ちれば邑は滅びてしまうだろう。喘ぎながらも抵抗する木蓮に、大蜘蛛はもう一本糸を伸ばした。それは蜘蛛の毒とこれまでの刺激でぷくりと膨れた赤く小さな実に巻き付く。

『ククク……ココモ赤クソソリ立ッテ。穢レヲ知ラヌ巫ニ、未知ノ快楽ヲ教エテヤロウ』
「やめ……っ、ぁ、ああッ! いやぁああっ!」

 それは木蓮にとって初めて味わう感覚であり、その穢れなき身には強烈すぎるものだった。大蜘蛛は赤い目で木蓮を蔑むように見る。

『ククク……他愛モナイ。所詮人間ナド我ラノ糧デシカナイノダ』
「っ……」

 何も言い返せなかった。頭が回らない。体に力も入らない。ただ未知の感覚の余韻に体を震わせるだけだった。

『強キ巫トイエド、女ニハ変ワリナイ。――サテ時ハ満チタ。終ワリノ刻ヲ愉シモウジャナイカ』
「いや、やめ……ッ! それだけは……!」
『嗚呼、楽シミダ――我ガ分身ヲ孕ムガイイ!』

 木蓮の懇願も聞かず、大蜘蛛は糸を吐き、その繊毛で木蓮の敏感な突起を責め立てる。直接的で強烈な刺激に木蓮は嬌声を上げた。

「ぅあぁあっ! いやっ、ああぁっ!」
『イイ声ダ……人ノ子ゴトキガ我ラニ刃向カウカラダ』

 大蜘蛛は自らの毒と愛撫で蜜を溢れさせている木蓮の秘部に、自らの脚を這わせる。その脚には無数の突起があり、それが与える痛みと快楽で木蓮は狂乱状態に陥った。

「いやぁああっ! いやっ、やだぁあああっ!」
『ホラ……我ノ糸ガ貴様ヲ孕マセル』
「――っ⁉ いやっ、それだけは……やめてぇえええっ!」

 大蜘蛛の糸が木蓮の中に入り込んでくる。それは細く長く蠢きながら胎内に入り込み、木蓮を快楽で狂わせた。

「いやぁああっ、ああぁっ! いやっ、いやぁっ!」
『コレデ終ワリダ。我ノ苗床ニナレ』
「っ……いや、だ……」

 大事な部分を糸で掻き回され、あり得ない程の快楽を与えられて尚、木蓮は矜持を喪ってはいなかった。回らない頭と力の入らない体。何一つ自分の自由にはならないながらも、最悪の事態を避ける方法を考える。
 そして、はた、と違和感に気が付いた。
 鬼となった生物は巨大化したりそれまでは持っていなかった毒を持つようになったりと、性質を変えるということは知られている。けれど基本的な生態はあまり変わらないと考えられていた。
 だがこの大蜘蛛はどうだろうか。そもそも人語を解するところで違和感を覚えるべきだったが、奇妙なところはそこだけではない。蜘蛛の生殖は頭部近くにある蝕肢によって行われる。糸を使うことはない。

(そうか、この糸自体が瘴気の塊――)

 大蜘蛛は木蓮の思考を遮るように大量の糸を吐き出した。それは木蓮の中に入り込み、その胎内で暴れ回る。

『サテ……我ガ分身ヲ孕ミ、産ムガイイ。我ラノ血ト魂ヲ継グ子ヲ』
「いや……嫌だ……、ああっ、あああ……ッ!」

 過ぎた快楽に溢れた涙が木蓮の顔を汚していく。もう霊力はほとんど底を尽きていた。けれどこのまま鬼に屈するわけにはいかない。木蓮は大蜘蛛の糸で胎内を蹂躙されながらも、最後の力を振り絞って、大蜘蛛には気付かれないように術を発動させた。

『サア受ケ取ルガイイ、我ガタネヲ!』
「っ、あ、ああ……ん、ぁ……ああッ!」

 体の中が燃えるように熱くなる。けれど同時にそれを打ち消すような冷たさも感じた。大蜘蛛は驚いて木蓮の中から糸を引き抜く。木蓮の秘部からは白濁と透明な液体がごぽりと溢れたが、大蜘蛛を驚かせたのはそれではなかった。

『貴様……マダソンナチカラヲ……!』

 木蓮は答えなかった。答えるような余裕は残っていなかった。文字通り力を使い果たしていた。しかし大蜘蛛の糸は先が焼け爛れたようになり、そこから少しずつ灰となって崩壊を始めていく。

『ダガ悪足掻キモココマデノヨウダナ』

 流石にそこから大蜘蛛を倒すには力が足りなかった。しかし未だに身動きは取れないし、霊力は底を尽きている。大蜘蛛の糸が再び勢いよく木蓮に伸ばされた瞬間、木蓮の目の前に炎が広がった。

『グワァアア……!』

 炎に包まれた大蜘蛛が悶え苦しむ。一瞬のうちに起きた出来事に驚く木蓮の前に、白銀の耳と同じ色の柔らかそうな尻尾を持つ女が降り立った。

『キ、貴様ハ……!』
わらわ三狐神みけつかみが眷属、ホムラである。蜘蛛の鬼よ、覚悟いたせ――」

 三狐神、またの名を宇迦之御魂神ウカノミタマノカミ。その眷属と名乗る狐の耳と尾を持った妖艶な女は、大蜘蛛に向かって指を鳴らした。その瞬間に大蜘蛛を包んでいた炎が更に激しく燃え上がり、大蜘蛛は断末魔を上げながら灰となっていった。
 大蜘蛛が作り出していた白い霧が晴れていく。鬼と相対したのは夜半だったが、既に空は白み始めていた。

「あ……ありがとう、ございます……助けてくれて」
「何を言う。妾は増やすことはできても、浄化はできぬ。其方があれに一矢報いなければ、妾の力では倒すことは出来なかった」

 木蓮は蜘蛛の糸から解放されたが、立ち上がることができずにいた。焔は木蓮の前にしゃがみ込む。

「ふむ……間一髪のところで退けたが、霊力は使い切ってしまったようだな。その状態ではいくら待っていても動けるようにはならない」
「っ……でも、行かなきゃ……」
「滝に行くのであろう。それならば妾が特別に、そこに行ける程度に霊力を恢復してやろう」
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