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10・薔薇の花園

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 放課後、和紗は雛の言うとおりに温室に向かっていた。園芸部が管理している温室はかつては学園の目玉にもなっていたが、現在はほとんど誰も近寄らない場所となっている。園芸部により綺麗に保たれてはいるが、その存在を知らないまま学園を卒業していく人もそれなりにいるくらいだ。
 温室に入ると、花の甘い香りに出迎えられた。温室の中で育てられているのは薔薇がほとんどらしい。花の前に小さなネームプレートがあるおかげで、花にはそれほど詳しくない和紗もその薔薇の品種を知ることができた。
 色とりどりの薔薇が世界を鮮やかに染めていた。これほど綺麗なら、もっと人が見に来てもいいものなのに、と和紗は思った。けれど人が訪れるということはそれだけ管理が難しくなるということも理解している。園芸部はそれを嫌っているのか、おおっぴらに温室のことを宣伝することはなかった。
 用事がなければいつまでも花を見ていたい。それほどまでに見事な薔薇園だった。色だけではなく花の形も様々だ。中には桜のような花をつけているものもある。そういえば桜はバラ科だったか、などと思いながら和紗は薔薇のアーチをくぐり、温室の奥に進んでいった。
 雛は温室で待っているとは言ったが、温室のどのあたりにいるとは言わなかった。初めて入った温室は迷路のようで、和紗は薔薇に埋もれてしまうのではないかと思いながら雛を探す。
 温室の最奥部へたどり着くと、そこには柱に蔓薔薇を絡ませた西洋風四阿ガゼボがあった。そこに見覚えのある頭を見つけた和紗は声をかけようと口を開く。しかしその状態で固まってしまった。

「来てくれたんですね、和紗先輩」

 和紗に気付いた雛の方から声をかけられる。けれど和紗は雛の横にもう一人いることの方が気になっていた。雛にしがみつくようにしているその女子生徒のことを和紗はよく覚えていた。以前雛と一緒にお守りを渡してくれた後輩。名前は染谷優香という。優香は栗色の髪を耳に掛けながら和紗に会釈をした。

「どうして――」

 来るのは雛だけだと思っていた。雛は和紗が巻き込んでしまった相手だ。だから責任を取らなければならない。けれど優香は関係ないはずだ。。戸惑う和紗に向かって、雛は柔らかな笑みを浮かべた。

「優香も、和紗先輩といいことがしたいんですって」

 雛はもじもじしている優香のブラウスをめくる。そこには和紗や雛と同じ、ピンク色に光る模様があった。けれど和紗は優香とはここ最近顔を合わせていない。つまり優香は和紗からではなく、雛から感染したのだ。

「雛ちゃん、何で……これは私達だけで止めておこうって言ったよね?」

 和紗は硬い声で雛に尋ねる。そもそもどうすれば治るかもまだわからない状況で、それをいたずらに広めるのは避けたかった。しかし雛は優香のプリーツスカートの中に手を入れながら応えた。

「和紗先輩は他の人にこれが広がるのを心配してくれていたんですよね? でも……あんなに気持ちいいことも、和紗先輩のことも、私一人だけで独占することはできません」
「そういう問題じゃないんだよ、雛ちゃん……」

 これは病気なのだ。しかも治療法は見つかっていない。それがわかっていて他人に広げることは許されないことだ。しかし雛は微笑みながら優香のスカートをめくりあげ、股を開かせて薄い黄色の下着を和紗の目の前に晒す。

「和紗先輩……わたし……」

 優香のショーツには既に、小さく丸い染みがついていた。それが何を意味しているかは和紗も理解している。体の奥がずくん、と疼いたのを鎮めるように、和紗は自分の腹の上に手を置いた。

「優香にこの前のことを話したんです。そしたら、優香も和紗先輩に気持ちいいことを教えてほしいって」

 雛は妖しい笑みを浮かべながら、優香のショーツの染みの部分に指を這わせた。

「……っぅ……んっ」

 優香が噛み締めた唇から、あえかな声を漏らす。雛はその染みに沿って指先で円を描くように撫でていた。徐々にショーツの色が濃くなっている部分が広がっていく。二人の様子を見ていることしかできない和紗の体も、それを見て蜜を溢し始めていた。

「ほら、もうこんなに覚えたんですよ? 最初は何にも知らなかったのに、先輩に触ってほしいって思うだけでこんな」
「雛ちゃん……」

 和紗に憧れる気持ちは確かにあったのだろう。優香は和紗に大会で勝てるようにとお守りを贈ってくれるような子だったのだから。けれどそれが別のものに変質してしまったのを目の当たりにして、頭を強く殴られたかのような衝撃を受けていた。
 雛の指の動きがだんだん強くなる。それはいつしか濡れた布地を押し付けるようなものに変わっていた。それに合わせて優香が身体を震わせる。

「んっ……ああっ……和紗、せんぱ……ッ!」

 広げている優香の足が、雛の指の動きに合わせるようにびくりと痙攣するように動いた。雛はその指の動きを止めずに言う。

「ほら。見てください、和紗先輩。どんどん溢れてきますよ。またショーツがダメになっちゃうね、優香」
「っ、はぅ……あ、あああ……っ!」

 優香は雛のブラウスの袖を掴みながら嬌声をあげる。和紗はその姿に、罪の意識を感じながらも確かに興奮していた。吐息が漏れてしまうのを堪えている和紗を見ながら、雛はするすると優香のショーツを脱がせた。

「ほら、もうこんなになっちゃってるんですよ。優香は和紗先輩のことがすごくすごく大好きだから」

 雛は愛液で濡れ光る優香の陰唇を指で広げ、和紗に見せつけるようにした。優香の呼吸に合わせて蠢動する蜜壺からは透明な液体が絶えずとろとろと溢れ出している。

「はぅ……う、ぁ……せんぱい……はやく……」

 優香は潤んだ目で和紗を求める。
雛が煽るように優香の陰核の周辺を指で何度も擦りあげた。優香の嬌声は大きくなっていく。溢れた愛液で優香の下には小さな水たまりができていた。

「う、ぅう、ああ……っ、あん……! 和紗、先輩……せんぱいに、イかせて、ほしい……ッ!」
「ですって、先輩。どうします? 別にここで優香を見捨ててもいいですけど」

 雛の狙いがわからない。かといってこのまま何もせずに逃げ出せるような状況でもなかった。優香は和紗を求めているのだ。それが雛によって感染させられたものだとしても、この瞬間に過ぎた快楽に苦しみ、和紗のことを必要としているのは事実だ。

「――わかった。イかせてあげるよ、優香ちゃん」

 優香が嬉しそうに微笑む。和紗は覚悟を決めて優香の前に膝をついた。自分を求めている人間を拒むことは和紗にはできなかった。和紗は優香の性器に顔を近付ける。

「いい?」

 短く和紗が尋ねると、優香は熱に浮かされたような目をしながらうなずいた。雛は優香の上半身を支えながら、そのブラウスの前を開け、柔らかそうな胸を隠していたブラジャーをずらす。雛の手が優香の胸を掴むのと、和紗が優香の秘裂を舌でなぞるのはほぼ同時だった。

「ああっ……せんぱ……それ、きもちい……っ、ああぁん……!」
「いいよ、力抜いて。もっと気持ちよくなって」

 最初は遠慮がちだった和紗の舌使いが、徐々に大胆になっていく。膣内にも入り込み、溢れてくる蜜にむしゃぶりつくように何度も何度も舐める。その度に優香の体はびくびくと過剰なまでの反応を見せた。
 雛は両手の指で優香の乳首を転がしている。優香は上と下からの両方の刺激で、体の中の何かが決壊していくような快楽を感じているようだった。苦しい。苦しいのに気持ちが良くて、止めてほしいのに止めてほしくない。優香は無意識に和紗の頭を自分の体に押し付けるように抱え込む。

「せんぱ……も、っ……イく、イッちゃ……ぁあああん……ッ!」

 その瞬間、優香の性器から透明な液体が噴き出した。それは目の前にいた和紗のにかかり、その端正な顔を汚していく。絶頂の余波で力が入らない体を雛に預けながら、優香が口を開いた。

「ごめんなさい、先輩……汚しちゃって……」
「いいよ。優香ちゃんが気持ちよかったなら」

 和紗は鞄の中に入れていたウェットティッシュで自分の顔を軽く拭いた。そして優香とキスをしている雛に声をかける。

「雛ちゃん、こういうことはもうこれっきりにしてほしいかな」
「駄目ですよ。和紗先輩はみんなの王子様なんだから。和紗先輩ならそういうことをされてもいい、って子はいっぱいいるんです」
「でも、これは病気なんだよ。私がそういうことをしたら……もっと広がってしまう」

 この症状には散々苦しめられている。そこから全てが狂ってしまったのだ。
 何もなければ、稔と体の関係を持つこともなかった。自分の気持ちは抑え込めていた。そのまま時間が解決して、そのうち兄以外の誰かを好きになる日が来ればそれでいい。和紗はそう思っていたのだ。稔の幸せのためにはそれが一番いいと思っていたのだ。それなのに、自分の手でそれを壊してしまっている。
 なまじ、その体を知ってしまったから余計に辛くなる。ただの兄妹でいられた時期の方がよかった。そんな苦しみを他者に撒き散らすようなことはできない。
 しかし雛はゆっくりと自分のブラウスを脱ぎながら、和紗に言った。

「人間は、もともとこういう欲を持つのが普通だったんですよ。私達は自然な姿に戻っただけのこと」
「それが不都合だったから、人間は性欲を捨てたんだよ」
「教科書みたいな答えですね。でもずるいじゃないですか。普通にしていたら、私達はこの悦びを知らないまま死んでいく。私達の体はこんなに気持ちよくなれるのに、それを眠らせたままで人生を終えていく。そんなのあんまりです」
「知らない方がいいことだってあるよ、雛ちゃん」

 雛は和紗の手を自分の真紅のショーツの中へと導く。生温かくぬめる液体が和紗の指を濡らした。

「私は知ってよかったと思ってますよ、和紗先輩」

 雛が和紗の手を持って、その指を膣の中に挿入していく。それは和紗の手を使っているだけの自慰だった。和紗は、ぐちゅぐちゅと響く水音に耳を犯されているような気分になった。

「こんなにいいものを知らないでいたなんて、今までの人生損していたなって。優香もそうですよ。私達は私達自身の意思とは関係なく、この悦びを奪われている」

 ようやく呼吸が落ち着いたらしい優香が、まだ体に引っかかるようにして残っていた制服を脱ぎながら和紗を抱きしめる。そして優香の手は和紗のスカートの中に入り込み、ショーツを少しずらして蜜壺の中に侵入した。

「っ……あ、だめ、優香ちゃ……ッ」
「すごく濡れてますよ、先輩。私のこと舐めながら、興奮していてくれたんですか?」
「それは……っ」

 雛は和紗の手を使った自慰を続けている。溢れ出したものが手首まで伝っていき、地面に落ちていく。同時に優香には性器を指でかき混ぜられ、和紗は徐々に何も考えられなくなっていった。

「和紗先輩。私は嬉しかったんです。先輩に触ってもらえて。そして先輩に触れることができて――」
「優香ちゃん、そこは……ッ!」
「雛とも話して決めたんです。ここを私達の花園にしようって」
          
 雛が強引に和紗の唇を奪う。雛の舌が素早く入り込み、和紗の口内を蹂躙し始めた。雛の手が和紗の手から離れ、和紗の耳を塞ぐ。頭の中に響く淫らな音。頭の芯が痺れていく。和紗はもう手を離されているはずなのに、自らその手を動かして、雛の性器を掻き回していた。

「ここを印を持った人と、印がほしい人なら、誰でも入っていいところにするんです。和紗先輩を中心にして、みんなが気持ちよくなれる場所にしましょう?」

 二人が言うことは到底受け入れられるものではない。それなのに頭がぼんやりとして、否定するための言葉が出てこなかった。体を支配する快楽に、思考は簡単に敗北する。淫らな音だけが響く温室で、和紗は大きな波に呑み込まれていった。

***

 それから一週間。温室の奥にある西洋風四阿で、和紗は今まで話をしたこともない後輩とキスをしていた。雛と優香が密かに噂を広め、温室に行けば王子様に愛してもらえるということになっているらしい。
 これが愛なのかどうか、和紗には甚だ疑問だった。けれど求められるのなら応えるしかない。むせ返るような薔薇の香り。そして隠しきれない淫靡な匂いの中で、これで幸せになる人がいるのなら、それでもいいのかもしれないと和紗は思い始めていた。
 かつて人間が手放した欲の中に溺れながら、秘密の睦み合いの時間は過ぎていった。
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