最弱勇者とは呼ばせない~ダンジョン最下層に転移させられるも大罪少女と出会い、傲慢の継承者として誰よりも強くなってしまった

柊真菰

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第36話 勇気の試練へ

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 心の中の不純物が抜けていくような感覚に襲われる。

 痛くない、苦痛もない。ただスラッと洗い流されていくような感覚。

 アルスのもとへ戻ると、真っ先に胸に飛び込んできた・

「アルスっ!?」

「ヒナタっ!!」

 僕の顔色を窺うと、雰囲気で察したのかアルスは一歩下がった。

「やっぱり、ダメだったんだね」

「最初っから、こうなるってわかっていたのか?」

「…………うん」

 少し間をおいてアルスは答えた。

 別に攻めるつもりはない。

 きっとアルスは僕にチャンスをくれたんだと思う。もう一人の僕と向き合うチャンスを。

 少し調子のいい考え方かな。でも理想の結果では出なかったけど、僕にとって価値ある会話だった。

「別にアルスが気を落とすことなんてない。やれるだけのことはやった。それだけで僕は満足だ」

 そうだ、やれることはやった。それでいいじゃないか。

 それにこんなところで情けない姿をさらしたら、もう一人の僕に笑われる。

 僕はきっとこの出来事を忘れない…………と思う。

「それに僕にはまだ最後の戦いが残ってる」

「初代勇者、東條サチだね」

「やっぱり、知ってるんだな。もう一人の僕も知っていたみたいだし」

 初代勇者、東條サチ、おそらくその言葉が示すのはあの始まりの七人の勇者だ。

 だけど、それはおかしな話だ。

 初代勇者たちは魔王討伐後、元の世界に戻ることなく各大陸で国を築き上げ、この世界をはんえいさせた歴史が確かに存在する。

 日本人特有の苗字と名前…………もしかしたら、この世界の本に書かれていることはうそなのかも。

 だとしても、おかしいことに変わりはない。初代勇者は生きているはずがないし、そもそもなんでダンジョン最下層にいるんだ。

「東條サチは初代勇者として、勇敢に魔王に戦い、勝利した。でもその後、突然行方をくらましているの」

「行方をくらましたっ!?聞いたことないぞ」

 おかしい、そんな内容を僕が読んだ本には一切書かれていなかった。

 誰かが隠蔽いんぺいしたのか?

 …………いや、今はそんなことを考えても仕方がないか。

「てか、よくそんなこと知ってるな」

「魔女だったころの私は、よく魔法で外の世界を見ていたから」

「まぁ、封印されていたら暇だろうしな。って今は時間がないだった。アルス、何か、東條サチの弱点はないのか?」

 今の僕が目覚めたところで、初代勇者、東條サチに勝てない。

 研ぎ澄まされた巧みな剣術、それに力もスピードも戦闘の経験も僕に勝てる要素が何一つない。

 そんな状態で、東條サチと戦ったところで勝算はないに等しいだろう。

「弱点はない。でも勝つ方法ならある」

「あるのかっ!?」

「うん。でも、それを実行するには、勇気が足りない」

「勇気?………んっ!?」

 亀裂が深くなり、さらに大きく地面が揺れ、 僕の視界は徐々にかすんでいった。

 それと同時に意識が遠のいていく感覚に襲われる。

「うぅ、もう…………」

「これ以上、この世界は持たな。ヒナタ、話は現実世界でっ!!」

「え、それってどういう」

 そこで、ぷつっと糸が切れるかのように意識が途切れた。



 そして、世界の声が響き渡る。

『傲慢の継承が完全に完了しました…………』




 目を見開くと、そこには刀を構えた東條サチの姿があった。

「うぅ…………ここは、そうか戻ってきたんだな」

 鮮明に思い出せる。

 もう一人の僕との会話を、アルスとの最後の会話を。

 僕は、こみあげてくる涙をずっとこらえながら、立ち上がる。

 アルスの死、それが今になって心響く。

 でも、まだ戦いは終わっていない。

 前を向け、泣くのはこの戦いが終わった後だ。

「またせたな、東條サチっ!!」

「どうやら、乗り越えたようですね、勇者日向。あなたら、乗り越えると信じていましたよ」

「敵に褒められるなんて、不思議な気分だ。でも、情けはかけないぞ」

「これは試練です。全力で来なさい」

『頑張りましょうっ!マスターっ!!』

「ああっ!!…………ってえええええええっ!!!!」

 思わず、人生一番の変な声が響き渡った。
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