最弱勇者とは呼ばせない~ダンジョン最下層に転移させられるも大罪少女と出会い、傲慢の継承者として誰よりも強くなってしまった

柊真菰

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第26話 モンスターフェスティバル、ウルフバンクの大群②

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 僕たちは、ウルフバンクの群れの前で、呼吸を整える。

「作戦は簡単だ。僕がアルスを先頭まで届ける。ただそれだけ、その間は…………」

「わかってるよ」

 アルスは僕が言わずとも黒剣となり、僕の右手に収まった。

『マスター、わたしはいつでもいける』

「そう焦るなって…………」
 
 運良くも、ウルフバンクの群れは道陰で隠れている僕たちに気づいていない。

「ふぅ…………」

 自分が今どんな表情をしているのか。

 わからない。

 でも、おかしいんだ。

 心のどこかでこの環境を楽しんでいる自分がいる気がするんだ。それは、ドンドン大きくなっていって、その感覚はまるであのに似ている。

 この心の奥底で燃え上がる炎が少しずつ、燃え上がっていく光景。

 その炎はまるで、僕自身を燃やし尽くさんとしているような気がする。

『マスター、私たちになら大丈夫。だって、私たちは最高の相棒ですから』

「…………そうだな、さぁ、いこうかっ!!」

 その言葉を皮切りに僕は勢いよく飛び出して、ウルフバンクの群れの中心へと飛び込んだ。

 どよめくウルフバンクの群れ、僕は黒剣を巧みに使い、周囲にいるウルフバンクを切り伏せていった。

 その一瞬の出来事に、ウルフバングの群れ全体の動きが止まり、周りの魔物が一斉にこちらを見つめた。

 だが、僕はそんなことは気にせず、前進する。

 ウルフバングの群れに考える時間を与えるな。

 突き進め、切り開けっ!目の前の障害を切り倒せっ!

 次々とウルフバングを切り裂き、前へと進む。

 中には特殊個体のウルフバングが中級魔法を使って、僕を足止めしようとするが、即座に魔法で打ち返す。

「邪魔だっ!ファイヤーボールっ!!」

 魔法の威力も大したことはない。このまま突き進めば、すぐに先頭まで辿り着ける。

 一分一秒、無駄な動きをせずに、僕は突き進んだ。

「んっ!?」

『マスター、先頭に』

「わかってる」

 先頭が見えかかったあたりで、一体だけ毛皮が赤い色ウルフバングが見えた。

 あれが、統率しているウルフバンクだ。

「ふん、運がいいねっ!!」

 僕は飛び上がり、赤い毛皮のウルフバンクを目でとらえた。

 あいつを倒せば、終わる。

 赤い毛皮のウルフバンクは僕に気づくと、逃げるように背を向けて走り出した。

 そのスピードは早く、一瞬で見失う。

「ちっ!!」

『マスターっ!?後ろっ!!』

「なぁ!!」

 背後からウルフバンクの猛攻。

 群れるウルフバンクは統率しているウルフバンクを守るように急に攻撃を仕掛けてきた。

 アルスの咄嗟の指示に僕は間一髪、黒剣で防ぐことができた。

 だが、おかげで統率しているウルフバンクを奥へ逃げられ、ほかのウルフバンクは、前進するのではなく、足を止めて、こちらを向いて、棍棒を構えた。

「完全に標的になったか」

 これだと、話が変わってくる。

 僕の作戦はウルフバンクが前進する前提で回っていた。でも、今は僕を標的として殺気を放ち、棍棒を構えている。

「ふぅ…………これこそまさしく、モンスターフェスティバルってやつだな」

『モンスターフェスティバル?』

「魔物が群れる祭りって意味、つまり、俺たちが今置かれている状況のことだよ」

 っと僕は軽く言った。

 だが、内心かなり焦っていた。

 なぜなら、この瞬間、僕たちが取れる選択肢は一つしかないからだ。

 標的にされた僕たちは、ウルフバンクすべてを相手にし、すべてを倒さなければならない。

 そして、最後に統率しているウルフバンクも倒す必要がある。

 果たして、今の僕たちにそんなことができるだろうか。

 僕は口角を上げながら、一粒の汗を流した。

『マスター、魔力感知より推定でも五百以上を確認しました』

「五百?思ったより、少ないな」

 数千は覚悟していたが、その約半分か。

 僕は大きく深呼吸をしながら、黒剣を目の前にいる大群のウルフバンクに突き出した。

「突き進むぞっ!アルスっ!」

『はいっ!マスター、どこまでもついていきます』

 攻め上げてくるウルフバンクは、僕たちを囲いながら、棍棒を大振りに振るう。

 だが、その動きは単調で難なくとかわしながら、確実に一体ずつ減らしてく。

「ふぅ…………」

『マスター、次は右っ!!』

「わかってるっ!!」

 五百ほどのウルフバンクが次々と攻め込んでくるものの、その行動は突進に近く、棍棒を大きく振り上げるだけ。

 まるで、人形と戦っているみたいだった。

『おそらく、統率しているウルフバンクの命令が影響しているのかも』

「たしかに、ありえない話じゃないな」

 脳のないタカは脅威にすらなりえない。

 あくまで、統率しているウルフバンクの命令に従うだけということか。

「とはいえ、それでもこの数だ……早めにけりをつけないと」

 この大きな一本の道がどこまで続いているのかわからない以上、統率しているウルフバンクがどこまで逃げたのかもわからない。

 前進しながら、攻めてくるウルフバンクを切り倒していくと、途中で赤い毛皮のウルフバンクとはまた違う黒い毛皮のウルフバンク二体が連携して攻め込んできた。

「あぶなっ!!」

 黒い毛皮のウルフバンクは同じ右手に棍棒を持っているが、明らかに雰囲気が周りのウルフバンクとは違った。

 冷静にこちらを警戒し、攻撃する隙を伺うような姿勢に僕は足を止めた。

「あきらかに周りのウルフバンクとは違うよな」

『知性が高いウルフバンク、気をつけて』

「言われなくても、わかってるよ」

 黒い毛皮のウルフバンクが現れた途端に、周りのウルフバンクの動きが止まった。

 僕たちを囲み、まるで見世物かのように、見つめて、つたなく笑っている表情を浮かべていた。

「安全な場所で鑑賞なんて、甘く見られたなっ!!」

 怒りをあらわにしながら足に魔力を込める。

 すると、足全体に黒雷がほとばしり。瞬発的な脚力で黒い毛皮のウルフバンクの後ろに回り込んだ。

 そして、瞬く間に黒い毛皮のウルフバンクの首を切り飛ばした。

 その瞬間を見た周りのウルフバンクはどよめき、一気に表情を激変させた。

『マスター、周りのウルフバンクの敵意が減少してる』

「そうみたいだな」

 あきらかに周りのウルフバンクに変化が起きている。

 さっきまで分の命を考えず猛攻をしてきたのに、今では恐怖でこちらに近づいてこようとすらしてこない。

 おかしい。ウルフバンクが僕におびえている。

 統率スキルの命令は絶対だ。統率しているウルフバンクが命令を上書きしない限り、恐怖しても攻め込んでくるはずだ。

 もしかして、奥で何かあったのか。

「今がチャンスだ。一気に駆け抜けるぞっ!」

『はいっ!マスターっ!!』

 さらに奥へと突き進んでいくと、大きな扉が見える。

 それは、今まで見た扉よりも小さく、まるで人が入ることを想定されていたと思うほどに小さかった。

「見えた!」

 もう何体ウルフバンクを倒したのかわからない。

 でも、やっと追い詰めることができた。

 僕はさらに突き進んだが、途中で足を止めた。

「…………どうなってんだ」

 突き進む途中、僕たちは信じられない光景を目にした。
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