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第12話 ダンジョン最下層、琥珀に封印された少女

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「ちょっと待って!!」

 咄嗟に右によけると、ジャイアントブレインオーガーは壁に衝突する。

 危なっ、今の直撃したら、確実に即死だったんですけど。

 しかも、魔物がしゃべったし。

 魔物がしゃべったという文献は僕が読んできた本にはなかった。

「って、考えている場合じゃない」

 ジャイアントブレインオーガーはゆっくりとこちらに振り向き、再び突進する構えをした。

 また、来るのかよ。でも、直接攻撃してこないよりかはマシか。

 でも、どちらにしよ何とかしないと僕が死ぬ。

『汝の覚悟を示せ』

 再びジャイアントブレインオーガーがしゃべると、それと同時に素早く突進。

 だが突進は一直線だ。よけらないほどでもない。

 タイミングを合わせ、難なくとよける。

「妙だな」

 片手斧があるのになんで、突進なんだ?あまりにも不自然だ。

『汝の勇気を示せ』

「っ!?」

 すると今度は片手斧を構えだした。

 ジャイアントブレインオーガーがしゃべるワード、そして行動の変化、もしかして…………。

 何かに気づく日向だったが、ジャイアントブレインオーガーは駆け上がるスピードで近づき、斧を振り上げる。

「早すぎっ!」

 やばい、間に合わないかも。

 見た目に反して、素早いジャイアントブレインオーガー。斧を振り下ろすスピードでも決して捉えられないスピードではない。ただ、体の反応が鈍い僕では気づいてから行動するまでタイムラグが大きすぎる。

 ならここは。

「斬っ!!」

 僕は地面に向けてスキルを発動し、その風圧を利用した。

 強い風圧によって、吹き飛ばされ、ぎりぎりでよけるも。

「危ない…………いて」

 右肩にチックとした痛み。僕は、右肩から血を流していた。

 完全にはよけきれなかったか。けど、よけきれないわけじゃない。

 スキルを駆使すれば、よけられるのはいいがそれでも、こんなことを続けていたら、いつか僕の体力に限界が来る。

 くそ、僕に攻撃する手段があれば、まだなんとかやれるのに。

 御剣くんみたいな強力なスキル、西郷くんや朱宮さんのような一撃必殺のようなスキル、なんでもいい。そんな攻撃できるスキルがあれば…………。

『汝、勇者とあれば、力を示せ』

「僕が勇者ってわかるのか!?」

 っと次の瞬間、視界からジャイアントブレインオーガーが姿を消した。

 かすかに感じるふっとした風の流れ。

 そういえば、風なんてあったっけ?ここはダンジョン最下層だ。風通しなんて皆無のはずだ。

 まさか、後ろ!?

 振り返るとそこには大きく斧を構えるジャイアントブレインオーガー。

 う、うそだろ。

 どうやって、背後に…………。

 驚きを隠せない日向だが、すぐにジャイアントブレインオーガーは斧を横に振り切った。

 気づいた時にはもう遅く、斧は日向に直撃し、振り下ろした方向に吹き飛ばされ、壁に打ち付けられる。

 痛みはない。それどころか、感覚すらない。

「いてて…………っ!?」

 ゆっくりと、立ち上がろうとすると、痛覚だけでなく、左腕の感覚がないことに気づく。見れば、斧によって粉砕された自分の左腕が目に映る。

 頭が真っ白になった。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

 心臓の音が鳴りやまない。うまく呼吸ができない。

 心臓の脈打つ音とともに出血もひどくなり始めると、頭の中で、繰り返す。

 落ち着け、落ち着け、深呼吸だ。

「ふぅ…………ふぅ…………ふぅ…………はぁ…………」

 出血は呼吸を整えるとひどく出血することはなくなった。冷静になればなるほど、痛覚は戻っていく感覚に襲われ、冷や汗がじわっと浮かび上がってくる。

「早くここから離れて、左腕を何とかしないと」

 ジャイアントブレインオーガーの一撃で、だいぶ遠くへ飛ばされたが、運良くも距離を離せたし、斧での一撃で左腕を失った程度で、足も動く。

 ってこれもう絶望的じゃん。

 遅かれ早かれ、痛みは襲ってくるし、現状、この傷を応急処置することもできない。

 絶望というものが目の前に見え始めたころ、あるものが視界に写る。

 それは、扉だ。ここの入り口で見た扉よりも一回り小さい扉だ。

「なんだ、あれは…………」

 不自然にあるその扉を見つめていると、頭の中から声が聞こえてくる。

『助けて…………助けて…………助けて…………助けて…………』

 少女の声だ。

 もしかして、この扉の中から。

 …………いくしかない。

 どうせ、この先やれることは限りられているし、だったら、少しでも可能性のある選択肢を僕はとる。

 フラフラとふらつきながら、扉の前まで歩き、精いっぱいの力を振り絞って扉を開ける。

 開けるとそこには、祭壇のような柱が陳列しており、その先には大きな輝く宝石のような形をしたものが置かれていた。

「な、なんだこれ…………って」

 近づいてみると、琥珀のような形をした塊の中に一人の少女が目をつぶって眠っていた。

『助けて…………助けて…………助けて…………助けて…………』

「もしかして、しゃべれないから、こうして頭の中に…………」

 しかし、怪しい。どうして、ダンジョン最下層に少女が、こんな状態で、普通ならここはスルーするところだけど。

 うすうすと感じるヒリヒリとした感覚。どうやら、痛覚が戻り始めているようだ。

 まだ、我慢はできる…………。

「うぅ~ん、どうやったら…………?」

 怪しいとはいえ、この子を助ければ何かしらの助けになるかもしれない。かすかな希望だけど、それにかけるしか生き残る道はない。でも、どうやって、助けるんだよ。

 そこで、さらに頭の中で文字が浮かび上がってくる。

『スキル:斬の使用が可能です』

 その文字を見て、もしかして、と上を見上げる。

「使えるのか、この大きな塊に…………」

 するとドスンドスンっと大きな足音同時に、声が聞こえてくる。

『汝、勇者ならば、力を示せ』

「まじか、もう来たのかよ、ふぅ…………おい、そこのえ~と少女?お前を助けたら、あの怪物を倒せるか?」

『助けてくれるのですか?』

 おっ、返事が返ってきた。

「あ、ああっ!」

 確実に助けられるかわからないけど、今は確信が欲しいって、そろそろ本気で泣きたくなるぐらい痛いかも。

『倒すことはできます。ただし、あなたのその傷…………』

「もしかして、この状況が見えているのか?いや、今は僕の傷なんてどうでもいい、倒せるんだな、ならその言葉、信じるぞ」

 今は傷なんてどうでもいい、最悪、左は切断すれば命だけは助かるはずだ…………多分。とにかく今は、あのジャイアントブレインオーガーを何とかしないといけない。

「よし、いくぞ」

 大きな塊に両手を置くと、再び頭の中に文字が浮かび上がってくる。

『スキル:斬の使用が可能です。使用しますか?』

「当たり前だっ!」

『今の魔力では足りません。代わりに…を消費しますか?』

 足りないだって!?でも、今は迷っている暇なんてない。

「なんでもいいさっさとやれぇぇぇぇ!!」

『スキル:斬を琥珀の封印石に使用』

 すると、激しい熱がほとばしり、部屋全体が猛烈な熱気に覆われる。

「あっつ!?」

 何度もスキルが琥珀を切りつけ、そのたびに熱を発生させている。それは目に見えぬ速さ、1秒に数百回と繰り返し、一瞬で熱が膨張する。

 このままじゃ、この塊を砕く前に僕が溶けて、死ぬんだが!?

 まだ時間がかかりそうな状況の中、扉が破壊される音が聞こえてくる。

『汝、勇者ならば、力を示せ』

 場所までばれたか。でも、この暑さだ。そう簡単には進めな、えっ!?

 ジャイアントブレインオーガーが一歩、歩けば肉が焼ける音が聞こえてくるも難なくと近づいてきた。

 うそでしょ。てか、この部屋一体、どんだけ熱くなるんだよ。

 きっと、勇者の力のおかげでなんとかこの場にいられるんだろうけど、このまま温度が上がり続ければ、どちらにせよ…………。

 どっちにしろ、僕は死ぬってわけか。

 なんとなく、死ぬだなと思い始めた日向は少女がいる琥珀の封印石に目線を移した。

「よし…………やるか」

 何かを決心した日向は、ジャイアントブレインオーガーに見向きもせず、目を閉じた。

 少しずつ感じる熱さ。でも、不思議と痛みを感じない。さっきまで痛みを感じていたのに。

 きっと、その理由は…………。

「何を消費して、発動してるか知らないけど、全部だ。全部持っていていいっ!だから、何をしてでも、早く!この子を助けるんだっ!!」

 その瞬間、スキルの発動感覚が爆速的上昇し、その分、熱の発生も爆速的上昇、ジャイアントブレインオーガーですら足を止めた。

 僕は死を受け入れた。

 左上の負傷からの出血、そもそもジャイアントブレインオーガーが現れた時点で生存率は低かった。いや、ダンジョン最下層にいる時点で死ぬは確定していた。

 どうせ死ぬなら、今目の前にいる少女を助けるべきだ。

 きっとそのほうが死んだとしても悔いはないはずだ。

『どうして、そこまでして一生懸命に…………』

 聞こえてくる少女の声。幻覚かもしれないけど、ゆっくりと口を開き、答えた。

「…………どうせ死ぬなら、勇者らしくかっこよく死にたいだろ?」

 熱さを我慢しながら、笑顔で答える日向。それと同時に琥珀の封印石は熱波を放ちながら砕け散った。
 
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