上 下
11 / 40

第11話 ダンジョン最下層、ジャイアントブレインオーガー現る

しおりを挟む
「うぅ…………こ、ここは?」

 目が覚めると、視界には真っ暗な闇が広がっていた。

 そうだ、僕はジェルマンさんに…………。

「ってことは、ここが、ジェルマンが言っていた、ダンジョン最下層」

 視界が闇に慣れ始めると、鮮明に物が見え始める。

 舗装されたようにきれいな道が奥へと続き、壁一面灰色の岩で覆われていた。

 そして、現在、ダンジョン最下層で僕一人、絶体絶命のピンチの状況。

「まず、ここがどこのダンジョンか調べないとな」

 運がいいのか、前のようなめまいもないし、体も重くない。怪我もないみたいだし、これなら十分に調査できる。

 ダンジョンは大陸ごとに一つ存在する。普通に考えるならサルモネ大陸に存在するエレガス迷宮だが、もしそうだとしても、状況は変わらない。

 ダンジョンはよくレベル上げとして使われることがあるが、それはあくまで上層のみ、中層、下層、深層、そして最下層と続き、僕がいる場所が最下層。つまり、ダンジョン最深部だ。

「いや、まずは安全な場所を見つけるのが先決か」

 僕はしばらくまっすぐ道なりに進んで歩いた。

 ダンジョンには各ポイントに魔物が一切立ち入らないエリアが存在する。そのエリアの数は無数に存在する。

「とはいえ、最下層っていうから、魔物がたくさんいるのかと思ったけど、いったいも見当たらないな」

 魔物なんて図鑑でしか見たことないため、できる限り慎重に動きたい。なんせ、僕には戦うほどの力がないからね。

「しかし、本当に不気味だ」

 視界に写るのはずっと同じ景色。本当に僕は進めているのだろうか。

「このままじゃ体力が先につきそうだ」

 今の僕には水も食料もない。このままじゃ、脱水症状で死ぬか、餓死するかのどちらかだ。

 ってなんでこんなに冷静になってるんだ、僕は。

 普通ならこの状況を受け入れられず、泣きじゃくるのが普通だろ。もしかして、この世界に来てから、感覚がマヒしているのか?

「…………やっぱり、おかしい」

 前に進んでいるように感じない。

 僕は今、何をしているんだ。

 いくら進んでも、同じ景色に疑いを持った僕は灰色の壁に近づき、手を置いた。

「スキル、斬っ!!」

 反応がない。魔物以外のすべてを斬ることができるスキルが発動しない。

 つまり…………。

「僕はすでに魔物の攻撃を受けている?」

 その考えがよぎった瞬間、ある可能性が見えてきた。

 僕が持つスキル斬は魔物以外を斬ることができるスキル。一見、魔物以外と聞き使う際に場面が限られると思われるが、これは少しひっかけの部分がある。

 それは魔物以外と記載されている部分だ。魔物以外、つまり魔物以外であれば斬ることができるということだ。

 なら、その身に受けた攻撃すらも斬ることができるのが道理だ。

 僕はそっと自分の手を胸に添えて。

「スキル、斬を使用する」 

 すると、頭の中で聞いたことのない声が聞こえてくる。

『スキル:斬の使用を確認しました』


 目が覚める。

 凍り付くような殺意の視線、獲物を狙う獣を息吹。

 視界には群れるネズミのような形容をした魔物がこちらを見つめ続けていた。

 あれが、魔物…………。

 逃げなきゃダメだ。でも今から体を越して逃げるとしても、逃げられるか?

 目先にはまっすぐに続く道があり、その道に走れば、この群れから逃れることはできる。

 でも、この魔物、図鑑で見たことがある。

 ダンジョンで灰色の悪魔と呼ばれる魔物、ネムー。幻覚を誘発させるホルモンを噴射させ、深い幻覚にいざなうことから悪魔と呼ばれ、廃人になったところを捕食する肉食魔獣だ。

 遅かれ早かれ、捕食されるのは目に見えている。それに、僕が幻覚に目覚めていると確信を持たれれば、襲われるのも明確だ。なら、僕がとる選択肢は一つ。

「逃げるっ!!」

 目先に広がる道へ駆け抜ける僕に反応してネムーの群れが追いかけてくる。

「やっぱり、そう簡単には逃がしてくれないよな、ただ…………斬っ!!」

 スキルを使い、ネムーの群れの先頭の足元を切りつけると一瞬、足を止めた。戦闘が足を止めることで、その前を走るネムーが先頭のネムーにぶつかり、足を止めた。

「よしっ!」

 これで少しは時間を稼げるはずだ。今のうちに少しでも遠くに。

 ネムーは灰色の悪魔と呼ばれるほど厄介な魔物だが、群れに割には知性が乏しく、バカという特性がある。そのため、単純な行動しかできない。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ…………これは」

 まっすぐ走り続けると途中、僕の身長の何倍もある大きな扉が立ちふさがった。

 後ろから、ネムーの群れが襲ってくる様子はない。

 ひとまず、逃げ切れたかな、それより。

「大きな扉だな」

 よく見ると文様が書かれていて、文字も刻まている。しかし、言語理解のスキルをもってしても読むことができなかった。

「テンプレを考えるなら、ボス部屋だろうけど…………」

 通った道に戻ったとしても、ネムーの群れに遭遇する確率は高いし、何をしないままだと、餓死して死ぬだけだ。

 なら、入ってみる以外に選択肢はない。

「よしっ!行くか…………」

 強く頬を叩き、気合を入れる日向。

 両手で扉に触れて、軽く押すと見た目に反して普通の扉のように軽く開いた。

「思ったより軽い」

 扉の先には真っ暗な空間が広がっていた。

 何もない。っと扉の先の部屋へと足を踏み入れた。

「本当に何もないし、真っ暗だ」

 しばらく、慎重にまっすぐ歩いていると、後ろから扉の閉まる音が聞こえる。

「え、ちょっと!?」

 咄嗟に扉の前まで駆け足で駆け寄るも、間に合わずぎりぎりで閉じてしまう。

「噓だろ…………」

 扉を押し開けしてみるも、びくともせず、軽く絶望した。

 まさか、こんな罠があるなんて、まぁネムーの群れに襲われることがもうないと思えば、まだいいか。

 日向は立ち上がり、とりあえず、周りを見渡すと、真っ暗な部屋に灯が輝き、部屋全体を照らした。

 何が起こったのかと、周りを警戒すると、上から突然、何か大きなものが落ちてきた。

「な、なんだぁ!?」

 地面が大きく揺れ、視界が煙で覆われるも、大きな巨体の影がハッキリと見える。

 茶色の毛皮に、二つの大きな角、右手には片手斧をもち、こちらを鋭い目でにらんでいた。

『うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

「…………ぁ」

 声が出ないほど、僕は目の前にいる化け物から目が離せない。

 獣ような荒々しい息吹を鳴らし、鋭い赤い瞳がこちらを凝視する。身を守るためか魔物が鎧を装備している。

 数々の本を読んだ僕ですら、魔物が鎧を着ていたなんて文献はなかった。

 ただこの魔物の正体はわかる。

 茶色毛皮に大きな二つの角、そして、赤い瞳と片手斧で、すぐにわかる。

 魔物の中で最強種とされる鬼に属する魔物、ジャイアントブレインオーガー。

 たしか、先代の勇者が仲間と力を合わせて討伐したって文献に書いてあったけど、目の前にするここまで迫力があるのか。

『ダンジョンに挑みし挑戦者よ』

「しゃ、しゃべったぁ!?」

『汝の勇気を示せ』

「え…………」

 その言葉を皮切りにジャイアントブレインオーガーは僕にめがけて突進した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

処理中です...