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140話〜焼かれた故郷〜
しおりを挟む「そんな……」
急ぎの連絡を受け、ハヤテの命を受けてカザミ村に来た俺。
その横では案内役として連れて来ていたカラトが膝をついている。
(まぁ無理もない、か)
俺達の完全に広がる光景を見れば無理も無いだろう。
なんせ、自分の生まれ育って故郷が焼き払われていたのだ。
彼が生まれ、育った家は燃え尽き、黒焦げとなっている。
(にしても酷いな……こりゃ)
膝をつくカラトをそのままにし、周囲を見渡して歩き出す。
(よくもまぁこんなに焼いたもんだ……)
目に入る家々のほとんどが燃え尽きている。
(俺の親父でもここまでしねぇぞ……)
そんな事を思いながら村をもう一度見渡す。
(さて、アイツが一番知りたいであろう墓の様子は……っと)
以前来た時に行ったモーラの墓の様子を見に行ってみたが、やはり予想通りだった。
(……こりゃ、またハヤテの奴が荒れそうだな)
そのモーラの墓はもう、墓の形を成していなかった。
「連れて来たは良いがお前はお前で参ってそうだし、好きに過ごしてろ」
「でも」
「良いよ。参ったお前を連れていても邪魔にしかならん。なら家族の安否確認でもしてろ」
「……すまん」
「ほれさっさと行った行った」
シッシッと手を振ってカラトを追い払い、俺はアルの元へ向かう。
「急に悪いな」
「いえ……申し訳ありません。もてなしできるような」
「ふん。もてなそうとしたらぶん殴ってたから気にすんな」
そう言って何が起きたかを聞いていく。
そして分かったのは
「聖勇教会の残党か……」
「はい。皆が寝静まった頃を見計らった模様です」
「質の悪い事をしやがる奴らだな」
「全くです」
アル達の話を聞いて分かったが、今の聖勇教会に余裕はそれほど無いそうだ。
「食いもん奪ってから火を点ける、か」
「はい。よほど困っているのかと」
「おまけに竜まで出してくるとなれば、竜の飯も必要だしな……ありがとな。忙しい時に」
「もう行かれるのですか?」
「おう。報告しなきゃなんねぇからな。じゃな」
そう言ってアルと別れるが、問題はその後だった。
「おーい。帰るぞ」
「……」
連れて来たカラトが抜け殻のように呆けていたのだ。
「ったく……人間生きてりゃ別れの一つや二つあんだろうが」
何があったのか、近くにいた騎士をとっ捕まえて話を聞くと、どうやら母親が死んだらしい。
泣いていない辺り、もう泣き尽くしたのだろう。
「そら帰るんだからさっさと立て」
「……」
「……ったくほら。立てって」
促されてやっと立ち上がるが、その表情は暗い。
「……はぁ。ちょっと向こう見てくるから、それまでに落ち着いておけ」
そう言って俺はカラトをその場に残し、村の様子を見て周る事にした。
(勇者とはいえ、やはり人の子か。いや、俺が死に慣れているだけか……)
それはそれでどうなんだと思いながら、俺は暇を潰すのだった。
その頃とある教会では……
「あのハヤテとか言う偽勇者の居場所が分かりました」
「そうか……我々聖勇教会に従わぬ偽りの勇者め、逃さんぞ」
聖勇教会の残党が本部として使う教会。
そこで話し合われているのはハヤテに対する報復方法。
「我らに楯突いた事。必ずや後悔させてやる」
その者達が顔に浮かべる表情は決して、聖職者のものではなかった……
そしてそれと同じ頃……
「さて、そろそろ行くか」
石の上に座り、休憩していた青年は立ち上がり、歩き出す。
ボロ布をマントのように身体に巻き付け、身体を隠す青年。
背中には大きめのリュック、右手には杖が握られており、頭にはボロ布の一端をフードのように被っている。
彼の名はフグリ。
とある理由から仲間であるシキ達と別れ、いろいろとやらかして炭坑に放り込まれたが脱走。
その後はとある人物によって力を与えられ、勇者として罪を償うために生きていた。
この前も立ち寄った村で流行っていた病を鎮め、礼も受け取らずに去ったのだ。
(この先に確か魔族と人間が共存しようとする地があるのか……)
それはハヤテが治める地。
そこで新たな世界を学び、視野を広げようとしているのだ。
視野を広げ、いつの日かシキと再会したらその時には、心からの謝罪をしようと旅をしているのだ。
(雪が凄いけど、整備されているおかげで夕方までには着けそうだな)
そのまま雪かきされている道を歩くフグリ。
するとその先に
(人か?)
誰かが道脇の石に座り込んでいる。
「どうかしましたか?」
駆け寄り、話しかけるフグリ。
すると相手は顔を上げる。
なんと相手は獣人族の女性だった。
「あ、転んでしまいまして……この先に住んでいるのですが歩けなくて」
「それは大変ですね……私が背負いますよ」
リュックを身体の前に掛け直し、相手に背を向けてしゃがみ込む。
「で、ですが」
「自分もこの先に用事がありまして。平気ですよ」
「そ、そうですか……では、お言葉に甘えて」
そう言ってフグリの背に乗る獣人族の女性。
「それで行き先はあっちで合ってますか?」
「はい。あの、ハヤテ様の」
「ハヤテ様って良かった。僕もそこへ向かう途中だったんですよ」
「そうなんですか?」
「はい。よろしければハヤテさんの話、聞かせてくれませんか?」
「あ、はい! 喜んで!」
こうして歩きながらハヤテの話を聞く事にしたフグリなのだった。
「ふぅ。着きました~」
「すっかり暗くなっちゃいましたね」
人を一人背負ってせいか歩みが遅くなり、到着したのは夜になってしまったフグリ。
「何者だ」
「ここに住んでいる人が途中の道で困っていたようだったので、お連れしました」
領地への入り口にある簡易門にて、見張に訳を説明するフグリ。
背中の女性も説明した事もあり、すんなりと中に入る事ができた。
「えっと家はあっちで」
女性に言われ、家に向かうフグリ。
家は門から近い事もあり、すぐに着く事ができたのだが
「こんな遅くまで……心配したんだぞ!」
「ごめんなさいお父さん。困っている所をこの方が助けてくれたの」
「おぉ、娘を……本当にありがとうございます」
「あ、いえ……当然の事をしたまでです」
女性の父親に手を握られ、千切れるのではないかと思うほどの勢いで上下に振られるフグリ。
「もう外も暗いですし、もし良かったら泊まっていって下さい」
「そうですね。それが良いですよ!」
「おい母さん! お客さんだぞ!」
「え、いやそれは……」
「良いから良いから」
そう言われ、家に引きずり込まれるフグリ。
その後は部屋の奥から出て来た女性の母親も訳を知るやフグリに感謝し、部屋に通し、温かい食事を振る舞った。
さらに
「一晩と言わず、ここにいる間は我が家を使ってください。我が家にお金はあまりありませんが、温かいベッドと食事を用意する事はできますから」
と言われ、旅の疲れもあった事からフグリはその申し出に感謝しながら頷くのだった。
そして
「……ベッドで眠るのはいつ以来だろうか」
その日の夜。
日記を書き終わったフグリは借りたベッドに入りふと、そんな事を思っていた。
炭鉱では硬い地面で眠り、脱走して旅を始めてからは基本は野宿だったのだ。
ベッドで、それもフカフカのベッドで眠るのなんてかなり久し振りの事だった。
「風呂も借りれて……まさかこうなるとはな」
この地にも宿は一応ある。
部屋が無くても、ラウンジの一角でボロ布で包まれれば良いと思っていたのに、女性を助けたらこうなった。
「……人生って、本当に分からないな」
過ちからスタートし、その償いの旅の最中。
人の温かさを知る事になるとは思わなかったと思いながら、目を瞑るフグリ。
だったのだが……
「……落ち着かなくて寝れねぇ」
久し振りのベッドに落ち着く事ができず、しばらく眠れないのだった。
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