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135話〜解かれる封印〜
しおりを挟む「また来る事になるとはな」
「俺としても驚きだ」
ラナからの情報でタケリビ山に来た俺達。
共にラナとロウエン、カガリも来ているのだが、何故かセラも来ている。
「本当はラナには残って欲しかったんだけどな」
「あら? 足手纏いになるつもりはないのだけれど?」
「いや、俺の留守を頼みたかったんだ。アニキだけじゃ不安だからな。それにあそこは前はラナの領地。何かあった時頼れるからな」
「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない。でも安心なさい。みんな、貴方のこと認めているわよ」
ラナの言葉が本当ならば嬉しい。
だがまだ領主らしいことをできていない俺を本当に認めてくれているのだろうか、と少し不安にもなってしまう。
「……んま、そう気負うなよ。俺達もいるんだ。要所要所で頼ってくれや」
「ロウエン……そうだな。ありがとう」
「そうだ。それで良い。それにミナモ達だっているんだ。何かあっても大丈夫さ」
「そうだよな。よし、さっさと用事を終わらせて帰るか」
「そうですね。ご主人様!」
ロウエンとカガリの言葉に頷き、山を登る。
以前来た時と違い、暑く感じるタケリビ山。
「で、どうやって封印を解くんだ?」
「簡単だ。山の一部となって竜を封印し続けている術者を殺す。それだけだ」
「え、まだ生きてんの!?」
「生きている。というよりは魔力回路として活かされている、と言いますか」
「カガリの説明でだいたい合っている」
カガリの言葉に頷きながら歩くロウエン。
だが、俺がいまいち分かっていない事に気付いたのだろう。
ロウエンが口を開く。
「分かりやすく説明するために、ちょっとあり得ない例えをするぞ」
「お、おう。頼む」
「一言で言うなら、橋が流れないように人を柱の根元に埋めているみたいな感じだな」
「下手な例えね」
「悪かったな。じゃあお前は何か良い例えがあるのかよ」
「……そうねぇ」
「畑に水を引く水路、みたいなものですかね」
「そうね。カガリちゃんの例えが一番近いかもね」
カガリの言葉にラナが頷き、ロウエンも悔しそうにしながら頷く。
「畑がこの山。龍脈や霊脈を流れる膨大な魔力が皮の水。そして埋められた術者達が水路ね」
「な、なぁ」
「ん? どした」
「龍脈とか霊脈ってなんだ?」
「……そこからか。龍脈っていうのはなんていうか……」
「なんと言ったら良いかしらね」
歩きながら考えるロウエンとラナ。
どうやら二人にも難しい話題らしい。
「一言で言うなら、自然界に存在する純粋な魔力、ですかね」
「カガリちゃん……詳しいわね」
「前いた所でそんな事が書物に書かれていましたから」
「そうなのか。ま、その説明で間違いはないだろ。次から使わせてもらうわ」
カガリの例えに頷きながら自分も使うかと、呟くロウエン。
「んで」
「あっ……」
「なんでお前も来てんの?」
俺はセラに話を振った。
「戦力としてもあまり頼りにならないのに、なんで来てんの?」
「そ、それは……」
「私が呼んだのよ」
「ラナが? なんで」
「封印を解くのに、一人でも多い方が良いのよ」
「……」
ラナにチラリと見られ、俯くセラ。
自分の中で許したと思っていても、忘れた頃にセラへの憎悪が湧き上がってくる。
ハッキリ言って、自分でもどうしたいのか分からない。
痛めつけるだけでもなく、前の関係に戻るでもない。
ただ、近くに置いておく。
目の届く範囲に置いておく。
魔力のパスを繋いで彼女の魔力を吸い上げる。
苦しませたいのかと聞かれると違う。
もし苦しませたいのならばまたタケリビ山の火口に捨てていた。
(なら何故俺は……)
答えが分からない中、俺はロウエン達と共に山を登った。
「さて、着いたな」
「……」
「安心しろって。今日は投げ入れねぇからよ」
あの日の事を思い出したのだろう。
震えるセラにロウエンがそう言うが、当のセラはその身を焼かれた時の事を思い出したのだろう。
顔色が悪い。
「さ、準備を始めましょ。と言っても、必要なのは聖装なのだけれどね」
「聖装か? ちょっと待ってろ」
ラナに言われ、聖装を呼び出す。
「これでどうしたら良い?」
「やることは簡単よ。今から私が指定する地点に雷を落として欲しいの。できるでしょ?」
「分かった。どこに落とせば良い?」
「そうね……龍脈からここに繋がる道に落としてくれれば良いわ」
「そんなんで良いのか?」
「えぇ。あくまで術者達は封印を維持させるために龍脈から魔力を引き入れるための駒。その一個が壊れれば封印は弱まる」
「そうしたら俺がその封印を斬る。それで終わりだ」
刀に手を置くロウエン。
封印を斬るという以上、俺にはできない事なのだろう。
「場所なんだけど」
続けてラナが詳しい場所を教えてくれる。
「分かった。やってみる」
聖装を掲げ、ラナから聞いた場所に雷を落とす。
「ロウエン、お願い」
「あいよ……んじゃ、始めますかねぇ」
そう言って刀を抜きながら立ち上がるロウエン。
「上手くいくと良いんだがな……少し離れていてくれ」
そう言って俺達を遠ざけるとロウエンは集中するように目を閉じる。
そして目を開き、刀の切っ先を地面に向けて振り上げる。
その刀身にはユラユラと赤黒い炎が纏わされている。
「さぁ、消えろ。古き弱き封印よ!!」
そのまま地面に刀を突き刺す。
すると火口をグルッと囲うように陣が浮かび上がる。
続けて地面が揺れ始める。
その揺れは徐々に大きくなっていき、やがて山全体が揺れ始める。
「わわわわわ!?」
「おうおう、結構揺れるな」
驚く俺と面白そうなロウエン。
「これは凄いわね……」
ラナもしゃがんでおり、その背後ではカガリとセラもしゃがんでこらえている。
その揺れはしばらく続いた後、ゆっくりとおさまっていった。
そして次に異変が起きた。
火口の底に溜まっている溶岩がポコポコと泡立ち始めたのだ。
それはやがて激しくなり、やがてザバァッと音を立てて中から何かが現れる。
「あれは……」
「あれだな」
溶岩の中から現れたのは一匹の竜。
血のように鮮やかで、炎のように力強い、それでいて夕日に染まった空のように美しい赤い鱗で全身を覆った巨大な竜が、これまた巨大な翼を広げ、羽ばたかせて溶岩から飛び上がる。
「これが……」
「エンシェントフレイムドラゴンよ」
ラナがその名を言うと同時に、竜は火口から飛び出し、まるで今までの分を取り戻すかのように空を舞った。
「お主達が私を呼んだのか」
「呼んだと言いますか」
「封印を解いたんだ」
「封印を……そうか」
ロウエンの言葉に目を閉じる竜。
空を飛び回った後、竜は俺達に気付くと目の前に降り立ち、話を始めたのだ。
「それで、私に何を望む。封印を解いたという事は、何かあるのだろう?」
目を開け、俺を見ながら問う竜。
そんな竜に俺は正直に言う。
「俺の仲間として、力を貸してほしい」
俺の願いを叶えるために、俺は素直に伝えた。
場所は変わってタルガヘイム近辺の森。
そこになんと、カナト率いるリスリーが来ていた。
「流石に少し冷えるな……できるだけ野宿はしたくないな」
「そうですね。一応防寒魔術は使えますけど、そろそろフカフカの布団で眠りたいですからね」
隣を歩くジュリアスと話しながら歩くカナト。
彼がここまで来たのには理由がある。
それは、魔族と人が共に共存できる国を作ろうとしている勇者がいると噂を聞いたからだ。
勇者は魔王を倒す、魔族の天敵というのがカナトの認識。
その勇者が魔族と共存を目指すと聞いて、いったいどんな人なのかと見てみたくなったのだ。
「ま、このまま行けば今日中には着くだろう」
「だと良いですね」
そう話す二人。
その後ろを歩くステラとアバランシアも仲良さげに話している。
モンスター達も時折カナト達に構ってとちょっかいを出しながらも良い子に歩いている
そんな彼等の進行方向の茂みがザワつく。
モンスターかと警戒するカナト達。
そんな彼等の目の前に現れたのは
「女の子?」
二人の女の子だった。
が、二人のうちの片方はカナト達に気付くともう片方を守るように前に出てこう言った。
「貴方達は、人間? それとも魔族?」
「俺達か? 俺達は人間だけど」
その問いに何を聞いているんだというように答えるカナト。
すると相手は安心したように一度息を吐いてからこう言った。
「私達をこの先にあるタルガヘイムに、そこの領主さんの所まで連れて行ってください」
なんと彼女達の目的地も、カナト達と同じだった。
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