上 下
135 / 143

135話〜解かれる封印〜

しおりを挟む

「また来る事になるとはな」
「俺としても驚きだ」

 ラナからの情報でタケリビ山に来たハヤテ達。
 共にラナとロウエン、カガリも来ているのだが、何故かセラも来ている。

「本当はラナには残って欲しかったんだけどな」
「あら? 足手纏いになるつもりはないのだけれど?」
「いや、俺の留守を頼みたかったんだ。アニキだけじゃ不安だからな。それにあそこは前はラナの領地。何かあった時頼れるからな」
「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない。でも安心なさい。みんな、貴方のこと認めているわよ」

 ラナの言葉が本当ならば嬉しい。
 だがまだ領主らしいことをできていない俺を本当に認めてくれているのだろうか、と少し不安にもなってしまう。

「……んま、そう気負うなよ。俺達もいるんだ。要所要所で頼ってくれや」
「ロウエン……そうだな。ありがとう」
「そうだ。それで良い。それにミナモ達だっているんだ。何かあっても大丈夫さ」
「そうだよな。よし、さっさと用事を終わらせて帰るか」
「そうですね。ご主人様!」

 ロウエンとカガリの言葉に頷き、山を登る。
 以前来た時と違い、暑く感じるタケリビ山。

「で、どうやって封印を解くんだ?」
「簡単だ。山の一部となって竜を封印し続けている術者を殺す。それだけだ」
「え、まだ生きてんの!?」
「生きている。というよりは魔力回路として活かされている、と言いますか」
「カガリの説明でだいたい合っている」

 カガリの言葉に頷きながら歩くロウエン。
 だが、俺がいまいち分かっていない事に気付いたのだろう。
 ロウエンが口を開く。

「分かりやすく説明するために、ちょっとあり得ない例えをするぞ」
「お、おう。頼む」
「一言で言うなら、橋が流れないように人を柱の根元に埋めているみたいな感じだな」
「下手な例えね」
「悪かったな。じゃあお前は何か良い例えがあるのかよ」
「……そうねぇ」
「畑に水を引く水路、みたいなものですかね」
「そうね。カガリちゃんの例えが一番近いかもね」

 カガリの言葉にラナが頷き、ロウエンも悔しそうにしながら頷く。

「畑がこの山。龍脈や霊脈を流れる膨大な魔力が皮の水。そして埋められた術者達が水路ね」
「な、なぁ」
「ん? どした」
「龍脈とか霊脈ってなんだ?」
「……そこからか。龍脈っていうのはなんていうか……」
「なんと言ったら良いかしらね」

 歩きながら考えるロウエンとラナ。
 どうやら二人にも難しい話題らしい。

「一言で言うなら、自然界に存在する純粋な魔力、ですかね」
「カガリちゃん……詳しいわね」
「前いた所でそんな事が書物に書かれていましたから」
「そうなのか。ま、その説明で間違いはないだろ。次から使わせてもらうわ」

 カガリの例えに頷きながら自分も使うかと、呟くロウエン。

「んで」
「あっ……」
「なんでお前も来てんの?」

 俺はセラに話を振った。

「戦力としてもあまり頼りにならないのに、なんで来てんの?」
「そ、それは……」
「私が呼んだのよ」
「ラナが? なんで」
「封印を解くのに、一人でも多い方が良いのよ」
「……」

 ラナにチラリと見られ、俯くセラ。

 自分の中で許したと思っていても、忘れた頃にセラへの憎悪が湧き上がってくる。
 ハッキリ言って、自分でもどうしたいのか分からない。
 痛めつけるだけでもなく、前の関係に戻るでもない。
 ただ、近くに置いておく。
 目の届く範囲に置いておく。
 魔力のパスを繋いで彼女の魔力を吸い上げる。
 
 苦しませたいのかと聞かれると違う。
 もし苦しませたいのならばまたタケリビ山の火口に捨てていた。

(なら何故俺は……)

 答えが分からない中、俺はロウエン達と共に山を登った。



「さて、着いたな」
「……」
「安心しろって。今日は投げ入れねぇからよ」

 あの日の事を思い出したのだろう。
 震えるセラにロウエンがそう言うが、当のセラはその身を焼かれた時の事を思い出したのだろう。
 顔色が悪い。

「さ、準備を始めましょ。と言っても、必要なのは聖装なのだけれどね」
「聖装か? ちょっと待ってろ」

 ラナに言われ、聖装を呼び出す。

「これでどうしたら良い?」
「やることは簡単よ。今から私が指定する地点に雷を落として欲しいの。できるでしょ?」
「分かった。どこに落とせば良い?」
「そうね……龍脈からここに繋がる道に落としてくれれば良いわ」
「そんなんで良いのか?」
「えぇ。あくまで術者達は封印を維持させるために龍脈から魔力を引き入れるための駒。その一個が壊れれば封印は弱まる」
「そうしたら俺がその封印を斬る。それで終わりだ」

 刀に手を置くロウエン。
 封印を斬るという以上、俺にはできない事なのだろう。

「場所なんだけど」

 続けてラナが詳しい場所を教えてくれる。

「分かった。やってみる」

 聖装を掲げ、ラナから聞いた場所に雷を落とす。

「ロウエン、お願い」
「あいよ……んじゃ、始めますかねぇ」

 そう言って刀を抜きながら立ち上がるロウエン。

「上手くいくと良いんだがな……少し離れていてくれ」

 そう言って俺達を遠ざけるとロウエンは集中するように目を閉じる。

 そして目を開き、刀の切っ先を地面に向けて振り上げる。
 その刀身にはユラユラと赤黒い炎が纏わされている。

「さぁ、消えろ。古き弱き封印よ!!」

 そのまま地面に刀を突き刺す。
 すると火口をグルッと囲うように陣が浮かび上がる。
 続けて地面が揺れ始める。
 その揺れは徐々に大きくなっていき、やがて山全体が揺れ始める。

「わわわわわ!?」
「おうおう、結構揺れるな」

 驚く俺と面白そうなロウエン。

「これは凄いわね……」

 ラナもしゃがんでおり、その背後ではカガリとセラもしゃがんでこらえている。

 その揺れはしばらく続いた後、ゆっくりとおさまっていった。

 そして次に異変が起きた。
 火口の底に溜まっている溶岩がポコポコと泡立ち始めたのだ。
 それはやがて激しくなり、やがてザバァッと音を立てて中から何かが現れる。

「あれは……」
「あれだな」

 溶岩の中から現れたのは一匹の竜。
 血のように鮮やかで、炎のように力強い、それでいて夕日に染まった空のように美しい赤い鱗で全身を覆った巨大な竜が、これまた巨大な翼を広げ、羽ばたかせて溶岩から飛び上がる。

「これが……」
「エンシェントフレイムドラゴンよ」

 ラナがその名を言うと同時に、竜は火口から飛び出し、まるで今までの分を取り戻すかのように空を舞った。



「お主達が私を呼んだのか」
「呼んだと言いますか」
「封印を解いたんだ」
「封印を……そうか」

 ロウエンの言葉に目を閉じる竜。
 空を飛び回った後、竜は俺達に気付くと目の前に降り立ち、話を始めたのだ。

「それで、私に何を望む。封印を解いたという事は、何かあるのだろう?」

 目を開け、俺を見ながら問う竜。
 そんな竜に俺は正直に言う。

「俺の仲間として、力を貸してほしい」

 俺の願いを叶えるために、俺は素直に伝えた。





 場所は変わってタルガヘイム近辺の森。
 そこになんと、カナト率いるリスリーが来ていた。

「流石に少し冷えるな……できるだけ野宿はしたくないな」
「そうですね。一応防寒魔術は使えますけど、そろそろフカフカの布団で眠りたいですからね」

 隣を歩くジュリアスと話しながら歩くカナト。
 彼がここまで来たのには理由がある。

 それは、魔族と人が共に共存できる国を作ろうとしている勇者がいると噂を聞いたからだ。

 勇者は魔王を倒す、魔族の天敵というのがカナトの認識。
 その勇者が魔族と共存を目指すと聞いて、いったいどんな人なのかと見てみたくなったのだ。

「ま、このまま行けば今日中には着くだろう」
「だと良いですね」

 そう話す二人。
 その後ろを歩くステラとアバランシアも仲良さげに話している。
 モンスター達も時折カナト達に構ってとちょっかいを出しながらも良い子に歩いている

 そんな彼等の進行方向の茂みがザワつく。

 モンスターかと警戒するカナト達。
 そんな彼等の目の前に現れたのは

「女の子?」

 二人の女の子だった。
 が、二人のうちの片方はカナト達に気付くともう片方を守るように前に出てこう言った。

「貴方達は、人間? それとも魔族?」
「俺達か? 俺達は人間だけど」

 その問いに何を聞いているんだというように答えるカナト。
 すると相手は安心したように一度息を吐いてからこう言った。

「私達をこの先にあるタルガヘイムに、そこの領主さんの所まで連れて行ってください」

 なんと彼女達の目的地も、カナト達と同じだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】淑女の顔も二度目まで

凛蓮月
恋愛
 カリバー公爵夫人リリミアが、執務室のバルコニーから身投げした。  彼女の夫マクルドは公爵邸の離れに愛人メイを囲い、彼には婚前からの子どもであるエクスもいた。  リリミアの友人は彼女を責め、夫の親は婚前子を庇った。  娘のマキナも異母兄を慕い、リリミアは孤立し、ーーとある事件から耐え切れなくなったリリミアは身投げした。  マクルドはリリミアを愛していた。  だから、友人の手を借りて時を戻す事にした。  再びリリミアと幸せになるために。 【ホットランキング上位ありがとうございます(゚Д゚;≡;゚Д゚)  恐縮しておりますm(_ _)m】 ※最終的なタグを追加しました。 ※作品傾向はダーク、シリアスです。 ※読者様それぞれの受け取り方により変わるので「ざまぁ」タグは付けていません。 ※作者比で一回目の人生は胸糞展開、矛盾行動してます。自分で書きながら鼻息荒くしてます。すみません。皆様は落ち着いてお読み下さい。 ※甘い恋愛成分は薄めです。 ※時戻りをしても、そんなにほいほいと上手く行くかな? というお話です。 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※他サイト様でも公開しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

婚約破棄ですか? 無理ですよ?

星宮歌
恋愛
「ユミル・マーシャル! お前の悪行にはほとほと愛想が尽きた! ゆえに、お前との婚約を破棄するっ!!」 そう、告げた第二王子へと、ユミルは返す。 「はい? 婚約破棄ですか? 無理ですわね」 それはそれは、美しい笑顔で。 この作品は、『前編、中編、後編』にプラスして『裏前編、裏後編、ユミル・マーシャルというご令嬢』の六話で構成しております。 そして……多分、最終話『ユミル・マーシャルというご令嬢』まで読んだら、ガッツリざまぁ状態として認識できるはずっ(割と怖いですけど(笑))。 それでは、どうぞ!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...