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128話〜再会〜

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「ふぁ……」
「もう朝だぞ。ほら、起きた起きた」

 朝、窓から差し込む陽射しが室内を明るく照らす。
 そんななか、まだウトウトとしていた俺は先に起きていたエンシに起こされたのだった。

「相変わらず早起きだな……昨日あんだけ遅くまで起きていたのに」
「早起きは普段の習慣。昨夜遅くまで起きていたのはその……だな」
「……ごめんごめん。少し意地悪だったな」

 起き上がり、着替えながらエンシに謝る。

(まぁ、俺に原因があるんだけど……)

 先日俺が言った、子を産んでくれという言葉。
 彼女はその言葉と向き合い、まじめに考えてくれた。
 俺の、はたから見ればポッと思い付いたから言ってみた感じの言葉を彼女はまじめに考えてくれたのだ。
 その結果彼女は、「その言葉が本心からの言葉ならば嬉しい。が、その言葉が完全に本心からとは思えない。だから、申し訳ないが今の君の申し出は受けられない」と、俺の目を見て言ってくれたのだ。

 しかも続けて、「嫌いだから断るのではない。君の事は愛しているから安心してほしい。ただ、君のその申し出に愛以外の何かを感じてしまったのだ……済まない。愛しているからこそ、君の愛を大切にしたいのだ」と言っていた。

 俺とは違う。
 俺が、次のステップに行く手段として子を産んでくれと言ったのに対し、エンシはまじめに考えてくれていたのだ。

 それを聞いて俺は少し、いや人として大切な事を見落としていた事に気が付いた。

 だから、彼女とはまだ恋人のままだ。
 彼女だけじゃない。
 ユミナ達ともまだ恋人のまま。

 いつか関係が進んだ時、俺は彼女達と今まで通り過ごせるだろうか。
 今まで通り、接する事ができるだろうか。

 少し、不安になってしまう。

 不安になるのは、俺がまだ子どもだからだろうか。
 未熟だからだろうか。

 それとも、皆と過ごせば成長できるだろうか。

「ほら、着替えにどれだけ時間をかけているつもりだ? 今日は色々と客人が来るんだ。早くしないと、朝食の時間が無くなるぞ?」
「……おう、そうだな。今行くよ」

 着替えにもだいぶ慣れたと思う。
 カザミ村にいたら着る機会は一生無かったと思う服。
 貴族が着る服とは少し違うけど、豪華な服。
 その豪華もただ着飾らせる物とは違う。
 豪華な宝石で煌びやかに彩る訳とは違う。

 そっと添えるだけ。
 あくまで主役は身に付ける側、着る側。

 魔族の貴族が身につける物は、料理でいう所のソースだ。
 それが加わる事で完成する。
 まさに最後の仕上げだ。

 俺が今着た服も同じ物だ。

 俺の為に、魔族の仕立て屋が用意した服。
 俺の欠点でもある、感情が荒れた際に起きる力の暴走に近い状態。
 それを抑制する為の魔術的加工が施されている。
 といっても脱げば勿論効果は無いし、暴走の度合いによっては抑えきれないと言われた。

 あくまで気休め。
 それでも無いよりかはあった方がありがたい。

 そうして着替えた俺は朝食を済ませ、客人が来るまでの僅かな時間を俺は自分の部屋でカガリとマリカと過ごしていた。



「こうして過ごすのは久しぶりですね」
「最近エンシさんばかりでしたからね」
「それは……済まない」

 二人に謝りながらマリカが淹れてくれたお茶を飲む。
 彼女がよく淹れてくれるお茶には落ち着く効果があるのだ。
 種類としてはハーブティーに近い感じだ。

「もー、私もいますよぉぅ」
「分かってるよカガリ」

 撫でてと言わんばかりに、しゃがんで頭を突き出して来たカガリの頭を撫でてやる。

「はふぅ……」

 ただ撫でてやるだけで息を漏らすカガリ。
 こんな事で喜んでくれると、何故か不思議と嬉しく感じる。

 そんな事をしている内に客人が来る時間になった。

「悪いな。また撫でてやるからさ」

 そう言ってカガリ達と別れる。
 向かうのは家主の間。
 王城とかでいう謁見の間みたいな広い部屋だ。
 ここに来た当初はそんな物があるのかと驚いたが、ラナに聞いた所魔族の貴族の屋敷には普通にあるらしく、逆に人間の遺族の屋敷には無いのかと聞かれてしまった。
 まぁ、そんな屋敷とは縁が遠い俺に分かるはずもなく、知らんとだけ言っておいた。



 そして家主の間に来た俺。
 俺が座るのは家主の椅子。
 まぁ言ってしまえば玉座みたいな物だ。
 そこに座って客人を待つ。

 そんな俺は更に上着を着ている。
 いかにも領主様、みたいな感じの上着。
 これが少し重い。

 というのもこっちは威厳やら権力的なのを視覚的に示す役目もあるとのこと。
 その上着だが、俺が力を使った時に現れる黒い翼のように黒い生地が使われている。
 他にも肩周りには装飾が施されている。
 その装飾だが、右肩にはヨロイガラスの羽毛が、左肩にはコウテイオオワシの羽毛が使われている。
 その装飾はそれぞれの二の腕辺りまで覆う、小さなマントのような装飾。
 それはまるで、肩で羽を休めているようにも見える。

 そしてこのコウテイオオワシだが、タルガヘイム付近に生息する鳥類モンスターの中で最強格と言われており、ドラゴン種を除けば空で敵無しとまで言われている。
 その姿は白い羽毛で翼と頭を覆い、胴や足を茶色の羽毛で覆われている。
 翼を広げれば最小個体でも二メートルを超えており、最大個体では五メートルを超えるそうだ。
 その巨体から生み出す羽ばたきは力強く、農家から家畜を盗んだり、凶暴な個体に至ってはゴブリンやオーガを獲物としてさらうのだ。
 しかもそのさらわれるのはゴブリンやオーガの子どもではなく、普通に大人なのだ。

 そのコウテイオオワシの白い羽毛が装飾に使われている。

 そんなコウテイオオワシの羽毛が何故手に入ったのかと言うと、ラナが飼っているからだ。
 ラナは他にも屋敷で、ウルとルフと同じレイブウルフ、ヨロイガラス、コウサイワニ、ユリョウチョウ、ウガチカブト、タチクワガタといった強力なモンスターを飼育している。

 その飼育されているコウテイオオワシの羽毛を使って作られたのだ。

 それを着て、家主用の椅子に座って待つ。
 そんな俺の前にまず現れたのはモフランティカ獣国の王であるレオン・モフランティカだった。

 彼と会うのは今回で二度目なのだが、今回は前回と様子が違う。

 まず引き連れている従者の数が違う。
 前回は数名程度だったのだが、今回はざっと見て30人程はいる。
 全員正装と言えば良いだろうか。
 モフランティカ獣国の民族衣装を着ている。
 湿度の高い島国なためか服は通気性の良いデザインとなっており、肩や太もも、脇腹が露出している。
 一見すると踊り子みたいな服装にも見えるが、踊り子ほどは露出していない。

 その従者達の背後には持って来られた土産が並べられている。
 染められて色鮮やかな布。
 加工された肉や魚。
 煌びやかに輝く宝石。
 それら全てが俺達への土産なのだ。

 そしてその従者の達の先頭であぐらで座りつつ両手をついて頭を下げるレオン。
 彼の服装も従者達と似てはいるが彼だけは白い布を頭に被り、その布を額辺りを一周する程の大きさの輪で留めている。

「レ、レオン。その、久しぶり」
「お久しぶりです。ハヤテ様」

 深々と頭を下げながら話すレオン。
 その姿は以前、俺を見るや友と言ってきた彼とは別人に見えた。

「我等モフランティカの者は、ハヤテ様の理念に賛同しております。どうかその理想の実現に協力できればと思いまして」
「そ、そうか……それは嬉しいけど、口調どうした?」
「……やはり、気になりますか」
「うん。気になるから戻してくれるとありがたいかな」
「だよな~。マジで助かるわ」
「レ、レオン獣王!!」
「良いじゃねぇかよ。相手もその方が良いって言ってんだしよ」
「ですが……」
「あ、俺はこっちの方が助かります」
「ぐぬぬ……では」

 従者の中で一番偉いと思われる人がレオンを注意するが、俺の言葉で何とか下がってくれた。

「それで急にどうした? あっちから魔族領に来るのじゃ大変だったろ。何かあったのか?」
「まぁ、少し……あってな。来た訳だ」

 レオンの国とタルガヘイムは本来、行き来できない事はかなりの距離がある。
 一応有事の際にすぐ動けるようにウインドウッドの家とカザミ村のアルの屋敷には転移門で繋がっている。
 他にも群狼程度ならば俺の中で育った勇者や魔族の力で転移する事も可能だ。

「本当ならもう少ししてから来ようと思っていたんだがな……ある人に頼まれて来たんだ」
「ある人?」
「あぁ。それで予定を繰り上げてこっちに来させてもらったんだ」
「そうだったのか……それで、その頼んできた人っていうのは?」
「あぁ。済まない……彼女を連れて来てくれ」
「ハッ!!」

 レオンに言われ、従者が一人部屋を出て行く。

 が、その従者は割とすぐにその人物を連れて戻って来た。

「お連れ致しました」
「ありがとう。ハヤテ、彼女がその依頼主だ」
「彼女って、君は……」

 その彼女は白い法衣を着た、銀髪の少女。
 ただその法衣は所々汚れ、本人の顔も汚れている。

「……久しぶりだな。スティラ」

 その少女の名はスティラ。
 かつて俺がこの手で滅ぼした聖勇教会にいた聖女だ。

「はい。その節は……その、教会が大変な事を」
「その事はもう良い。いや、良くないか……俺の方こそ済まなかった。頭に血が上って……」
「いえ……あの」
「それで、今日は何の用で来た?」
「……その、私をここに置いて欲しいのです」
「……それは、誰かの指示か?」
「いえ。私の意思です……」
「何かあったのか?」
「それは……」
「その事は俺の口から話させてくれ」

 そう言って室内に入って来る一人の男性。
 フード付きマントを着た男性は一礼すると話し始める。
 ただ、まぶかに被ったフードのせいで顔はよく分からないが、声は聞き覚えがある。

「申し遅れた」

 そう言って彼はフードを取り、その顔を見せる。
 初めて会った時には短かった金髪は伸ばして三つ編みにし、右肩から垂らしている。

「我が名はガーラッド・バーデルヘル。聖女スティラの護衛の任をローライズ教王より受け、同行致しました」

 彼は勇者の血を引く者で、とあるパーティーのリーダーを務めている者。
 出会いは最悪だったが、悪い奴ではない……と思う。

 そんな彼が、教国内にも数あるパーティーの中でも彼が選ばれたという事はどういう事か。
 嫌でも想像が付いた。

「……何があったんだ」

 俺の問いかけにガーラッドが口を開く。

「聖勇教会の残党狩りが各地で行われている。そいつらから彼女を守る為に俺が来た」
「残党狩りだと? 詳しく話せ」
「少し、長くなるぞ」
「……なら場所を変えるか。ラナ」

 名を呼ぶと音もなく彼女は現れる。

「場所を変える。後の事を頼んだ」
「はいはい。お任せなさい」
「ガーラッド、スティラ、それとレオンも来てくれ」

 そう言って俺は、3人を連れて部屋を出たのだった。
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