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120話〜聖罰〜

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 カラトは悩んでいた。
 俺達が今いるのは聖勇教会の本拠地のある地。
 本拠地を目と鼻の先にした所に俺達、聖勇教会討伐連合は陣を構えていた。

 俺達が到着した際には、雪と氷で閉ざされていた地だったのだが、それはなんと幻術。
 ラナスティアの力でその力を解除し、俺達は陣を構えたのだ。

 陣を構えて既に一週間と三日。
 俺達は遂に明日、総攻撃を仕掛ける。
 人類と魔族混合による連合軍による総攻撃。
 いかに聖勇教会といえど耐え凌ぐ事は厳しいと、俺達は考えていた。
 が、そこで問題が発生した。

 聖勇教会の付近には、市民が暮らしていたのだ。
 聖勇教会の加護のもと暮らす民。
 中には聖勇教会の騎士の家族とかもいるのだろう。
 さながら、小さな国になっていた。

 その民達はどうするかと俺達が悩んだ時、ハヤテが手紙を出したのだ。
 近い内に攻め込むから、巻き込まれたくなければ逃げよと。

 一日三回。
 朝昼晩に一回ずつ送ったのだ。

 そんな矢先、聖勇教会から使者が一人送り込まれてきた。
 曰く、こちらに争う気は無いので話し合おうという事。
 するとそれを聞いたハヤテは

「邪教の使者に賜う言葉は無い」

 そう言って手にした聖装その使者を切り捨てたのだ。

 そして日時は流れ、総攻撃を明日に控えた夜。
 俺はなかなか眠れなかった。

 けれど時間は流れ、遂にその時を迎える事となる。





「いよいよだな。アニキ」
「あ、あぁ……そうだな」
「モーラの墓を荒らした邪教、聖勇教会……ここで討ち滅ぼしてくれるわ!!」

 怒りに震え、拳をギュッと握りしめるハヤテ。
 そんな俺達の所へ騎士が一人やってくる。

「勇者様。失礼します!!」
「なんだ? 何の用だ」
「ハッ。最後の軍議をするそうですので、来て頂きたいそうです」
「そうか……わかった。すぐに行く」

 騎士に呼ばれ、総攻撃前の最後の軍議へと向かう俺達。
 そこでまた、一波乱起きる事となる……



「ですので……まだ民の避難は済んでおらず、しばし時間を伸ばしてはいかがかと」

 ローライズ教国の騎士が跪きながらそう告げる。
 それを聞いてそれぞれの国から来た、騎士を纏める者達の表情は険しい。
 ジンバも目を閉じ、難しそうな顔をしている。

「……どうか、民のために」

 もう一押しするように騎士が再度告げる。
 が……

「それはならん」
「勇者殿!?」
「ハヤテ?」

 ハヤテがそれを否定した。

「ですが!!」
「くどい。それに俺は今回の攻撃の件を伝えていた……にも関わらず残ったのは奴等の自己責任。こちらが配慮する道理はない!!」
「ですが!!」
「くどいと言っている……それとも貴様なにか? まさかあの邪教の手の者か!!」
「け、決して!! 決してそのような事は!!」
「ほう? 本当か?」
「は、はい!! 私はそのような事は」
「ならばその証として……貴様が一番槍をやれ」
「……え?」

 ハヤテの言葉に目を点にする騎士。

「なんだ、聞こえなかったのか? お前が一番槍をやれと言ったのだ。できぬのか?」
「……い、いえ。そのような事は」
「でるのかできぬのか!! やるのかやらぬのかで言え!!」
「は、はいぃぃぃ!! やります!! 是非やらせてください!!」
「そうか。やってくれるか……ならば初めからそう言え」
「ははぁっ」

 顔を上げるや大急ぎで部屋を出て行く騎士。
 かわいそうに。
 今のハヤテにとって第一優先なのは聖勇教会とそれに与する者の殲滅。
 文字通り、聞く耳持たずな状況だ。

 そんなアイツに攻めるのを先延ばしにしようなんて言ったら……そう思いながら俺は胸の中で騎士に対して手を合わせた。

「さて、敵だが……突然、女だろうが子どもだろうが、皆殺せ。良いな?」

 有無を言わせない雰囲気のハヤテの言葉に俺達は頷く事しかできなかった。





 そしてその時は来た。
 なだれ込む連合軍。
 逃げ惑う人々。
 倒れる騎士達。
 飛び交う怒号。
 血飛沫が舞い、悲鳴がこだまする。

 だがその騒ぎも、すぐに収まる。
 それは、こちら側の騎士達が一旦引いた時だった。

「ゆ、勇者様だ!!」
「勇者様!!」
「どうか我等をお助けください!!」

 聖装を持ち、背中に黒い翼を出現させたハヤテが空に現れたのだ。
 それを見た聖勇教会の騎士達はハヤテに救いを求める。
 が、その声は無惨に砕かれる事となる。

「助ける? 笑わせるな。俺は、貴様等邪教徒を滅ぼしに来たのだからな」

 聖装の切っ先を高々と掲げてハヤテが告げる。
 その切っ先にエネルギーが集まり始める。
 魔力とかそんな、ハッキリとした物ではない。
 漠然とした力。
 純粋な力といえば良いだろうか。
 砂糖も塩も何も入っていない、真水のように純粋な力が聖装へと集まって行く。

 湖面に石が投げ込まれて広がる波紋。
 それを逆再生するように、エネルギーが聖装へと集まっていく。

 そして……

「絶えろ。邪教よ」

 スッと、静かに聖装が振り下ろされる。

 俺が見た事のない冷たい目で聖勇教会の騎士達を見下ろしながら聖装を振り下ろす。
 それを、聖勇教会の騎士達はただただ見ている事しかできなかった。
 崇拝対象から邪教と言われ、討伐対象と言われたのだ。

 彼等はその時何を思っただろうか。
 悲しみだろうか。
 絶望だろうか。
 それは俺には分からない。

 そして槍から放たれる一筋の光。
 それは毒々しいまでに白く輝き、いかなる色でも塗り替える事が出来ぬほどに白く輝いている。

 その光が相手を飲み込むのは一瞬だった。
 その光に飲み込まれる時まで、手を合わせて祈っている者もいた。

 そのまま光は聖勇教会の騎士達だけでなく拠点まで飲み込み、天高く昇る傘のような雲を作り上げた。





 それからの事を少しだけ話す。

 聖勇教会側の生存者はほとんどいなかった。
 生存者といっても人ではない。
 奴隷として連れていた魔族が生きていたのだ。
 その魔族達はラナスティアが保護し、引き取る事となった。

 その後、俺の出番は無かった。
 主な話し合いはハヤテがしていたし、難しい内容はロウエンやラナスティア、エンシやマリカが助けていた。
 ロウエンとラナスティアは経験を生かして、エンシとマリカは騎士として貴族として培ってきた経験でハヤテを助けていた。
 が、俺には何もできなかった。

 ミナモやユミナは疲れたハヤテにマッサージをしてやったり、お茶を出したりとサポートしてあげている。

 なのに俺は、そんな事もできなかった。

 勇者ともてはやされて来た俺には、ただ一人の弟を労う事すらできなかった。
 いや、お疲れと一言言うぐらいならできる。
 できるのだが、環境がそれを許さない。
 ハヤテは勇者の力を自在に操り、聖装にも選ばれて邪教を滅ぼした英雄。
 対する俺は、未だに自由に勇者の力を扱えない、聖装にも選ばれていない出来損ない。

 現に、騎士が言っていたのを俺は聞いた。

「勇者様のお兄さんだと聞いてどれほどのものかと期待したけど」
「正直言って期待外れだったな~」
「だな!! あんなんで勇者を名乗れるんなら誰でもできるぜ!!」

 そんな事を彼等は話していた。
 それを俺は、否定できなかった。

 いくら俺がセーラに利用されていたとはいえ、俺はハヤテの力に気付けなかった。

 以前、俺は当時持てる力を発揮してハヤテを止めた事があったが、もうハヤテはあの時以上の力を手にしている。
 明らかに、俺よりも上のステージに立っている。
 二、三段上とかそんな所じゃない。
 もう階が違うんだ。
 俺の手が、文字通り届かない所に彼の背は行ってしまったのだ。

「あの時アニキが俺を置いていかなければ、今の俺はいなかっただろう。ありがとうな」

 とまで言われてしまった。

 もう、あの頃のハヤテはいない。
 俺が壊した。
 俺が殺した。
 俺が変えてしまったのだ。



 その話し合いの後、聖勇教会がリヒティンポス神国から奪った大水晶を戻す事。
 更には残っていた資料から、各地に設けられた支部とも言える聖勇教会の教会への立ち入り調査。
 以上の二つの事が決められた。

 こちらは大した被害を出さずにそれぞれの国へと変える事となった。
 俺達もラナスティアの屋敷へと帰った。

 それから、しばらくは平和だった。





「よく来てくれたな。ロウエン」
「いや、構わんさ」

 総攻撃から三日経ったある日、ラナスティアの屋敷の一室にロウエンは呼び出されていた。

「それで、調べてくれたか?」
「あぁ。俺も不思議に思っていたからな」

 ロウエンが抱いた疑問。
 それは簡単なもので、聖勇教会の幹部達の抵抗がアッサリしており、最も簡単に制圧されたというもの。
 相手が聖装と勇者の力を解放したハヤテだから手も足も出なかったと言われればそれまでだが、ロウエンは気になった。

 なので幹部達の遺体を調べる事にしたのだが、そこで恐ろしい事実が判明した。

「アイツ等全員、殺された後に操られていた形跡が見つかった」
「……何?」
「おまけに、全員の祝福が奪われていた」
「祝福が……」
「まぁ、理を超えられる力を持つお前なら心配しなくても平気だろうが……」
「……そうか。よく調べてくれたな。ありがとう」
「気にするな……お前にできない事をするのが俺の役目だ」
「助かるよ。ロウエン」
「……あぁ。じゃあ、な」

 そう言ってロウエンは自身を呼び出し相手と別れ、部屋を出る。
 が、呼び出した本人はしばらく部屋に残って何かを考えた後、部屋を出た。

「……モーラ」

 廊下を歩きながら彼は静かに、ポツリと呟く。

「仇を討ったよ……」

 窓から空を見上げる声の主。
 その目はうつろで、清々しかった。
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