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103話〜悪因悪果〜

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 フグリはマインスチルの酒場で潰れていた。

 というのも俺、今までやって来た事がいろいろとバレてシキの所を追い出されたのだ。

 ホノカに無理やり迫った事。
 それだけでなく、この町で見かけた複数の女とも遊んだ事。
 全てが、いつの間にか記録されていたのだ。
 そしておまけに、ミナツキを背後から襲って返り討ちに遭った事もバレた。

 この事に関してシキは

「ホノカとはもう別れたから勝手にして構わないけど、この町の人にした事までは見過ごす事はできない」

 と俺に言い、このまま側に置いておくと自分達の評判まで悪くするから出て行けと言われたのだ。

 なんとアイツ、ホノカの事は一切気にしていなかったのだ。
 別れたとか言って、一度でも恋人だったんなら怒りそうなものだが。
 そんな事を思いつつ、シキ本人からホノカとはもうなんの関係では無いと言われたので、出て行くならとホノカを連れて行こうとしたのだ。

 ホノカは見てくれも良い。
 まぁ、そこそこ強いが俺よりは弱いので押さえる事は容易い。
 せっかくシキから奪い取るために近付いたんだ。
 わざわざ手放してなるものか。そう思っていたのに

「私はここに留まって償いを続ける。彼が良いと言うまで、私は出て行かないわ」

 そんな事を言いやがったのだ。
 しかもこっちに来てから自分も襲われかけた。
 そんな相手について行く訳が無いと言ったのだ。

 結果、直前にミナツキに襲いかかった事もあって俺の追放は満場一致で決定。
 最後の最後に情けとして、自分から騎士の所に行くか、突き出されるか選べと言われたので、俺は自分で行くと言って出て来て今に至る訳だ。

「まぁ、行く訳無いのに馬鹿な奴だぜ」

 酒を飲みながら肩を震わせ、静かに笑う。

 腹ごしらえをしたらさっさとこんな所おさらばして、適当な町で静かに暮らすとしよう。
 ツマミを口に放り込みながら未来予想図を描く。
 そんな時、俺の視界に俺好みの女が映った。
 見た感じ年上。大人の色っぽさのあるイイ女だ。

「すみません。お隣、宜しいですか?」
「あら、どうぞどうぞ」

 ニコリと微笑んで返す女性。
 右目の下の黒子が色っぽい。
 少し釣り上がった目。外側に向かって跳ねた青い髪。
 色っぽさと冷たさが同居している、いかにも大人って感じの人だ。

「お一人ですか?」
「えぇ、まぁね。待ち合わせしていたのだけれど、来れなくなったみたいでね」

 友人だろうか。待ち合わせをすっぽかされるなんて可哀想に。
 これは、俺が慰めてやらねばな。

「あ、俺もなんですよ~。友達がね、急に来れなくなっちまって」
「あら、そうなの。お揃いね」
「ですね~。あ、俺フグリって言います」
「私はカルミアルク。よろしく、フグリの坊や」

 そう言って一緒に飲み始める。
 話していた分かったのだが、カルミアルクには恋人はいないそうだ。
 なら、ご友人には悪いがお持ち帰りさせてもらおう。
 この町で作る最後の思い出。
 それをこんなにイイ女で作れるのなら最高。いや、最上の思い出になる。




「んん~っ、久しぶりにいっぱい飲んだわ~」
「おやおや、歩けますか?」
「ちょっとフラつくわね……」
「なんなら送りますよ。ささっ、捕まって」

 あれから何杯飲んで飲ませた事か。
 カルミアルクは酒に強いのかなかなか酔わず、大変だったがやっと酔ったようだ。

 彼女の腰に手を回し、支えながら店を出る。
 時折その魅力的なヒップに手を伸ばし、その感触を楽しむ。

 まぁ当然、家になんて連れて行かない。
 適当な宿に連れ込んで楽しむか、それともまた路地裏か。
 想像するだけで興奮してくる。

「ささ、こっちですよ。カルミアルク」

 そう、歩いている時だった。

「あ、いたいた。おいカルミアルク!! 探したぞ!!」
「んふぇ~?」

 突然背後から声がかけられ、それにカルミアルクが反応する。
 どうやら知り合いらしい。

(ったく、これから楽しむつもりなのによ……誰だ邪魔しやがるのは!! )

 イラつきながら振り返る俺。 
 だが俺は、相手を見て酔いが覚めた。

「いや~、済まない。やっと仕事が片付いてな」

 いわおのような男性が目の前に立っていたのだ。
 思わず相手を見上げてしまう俺をよそに、カルミアルクは

「あっ、ダ~リンだ~!! やっほー!!」

 呑気に手を振っている。

「やっほーじゃないだろ。店にいなかったから探したんだぞ?」
「えへへ~、ごめんごめん~。ダーリンが放ったらかしにしたから~、彼と飲んでたのー」
「彼? ……えっと君は誰だい?」
「えっ、と俺は……」
「それに何でカルミアルクの尻を触っているんだ?」
「あっ!! これは……」
「だよね~!! さっきからイヤらしく触って来ててさー!!」
「い、いやこれは違うんです!!」
「まさかお前、俺の妻を!!」
「いやいやいやいや!! 恋人はいないって聞いていたから!! 言っていたから!! 知らなくて!!」
「夫婦は恋人とは言わんだろ!!」
「ヒイィィィッ!!」

 その怒号に飛び上がる俺。
 その拍子に俺の懐から財布が落ちる。

「……何故お前が妻の財布を」
「あっ、こ、これは……」

 そう、俺は彼女の財布をくすねてさっきの店の会計を済ませたのだ。

「どうやら、詳しい話を聞かせてもらう必要がありそうだなぁ……」
「ひっ、ま、待ってくださいよぉ~」

 バキゴキゴキと指を鳴らしながら迫る旦那。
 何とか逃げ出そうと俺はカルミアルクを旦那へと突き飛ばして駆け出す。

「あっ!! こら待ちやがれ!!」
「待つかバーカ!!」

 カルミアルクを抱きとめたせいで追いかけられない旦那。
 予定は狂ったがさっさとこの国を出るべく走る俺。
 だが予定は更に狂う事になる。

 ゴスッ!! 

 と俺の顔面にブッとい丸太のスイングが打ち込まれ、俺はぶっ倒れた。

「ウゲェェァッ!! イッテェェェェッ!!」

 後頭部を地面に叩きつけ、のたうち回る俺。
 そこへさっきの旦那が、カルミアルクを担いでやって来る。

「おう、よくやったな」
「大将の奥さん探すの手伝って良かったですよ」
「全くだな」
「イッテェェェェ……な、何しやがん……だ……」

 思わず叫びかけたが、俺の言葉は急速に勢いを失った。
 というのも、旦那の他に二人の男が新たに現れたのだが、二人とも旦那に負けずとも劣らずな程にガッチガチのムッキムキなのだ。

 そして、その手には何も持っていない。
 そう、俺はラリアットを顔面に打ち込まれたのだ。

「おうおうおう!! 大将の奥さんに手ェ出すたぁ良い度胸支援じゃねぇかアンちゃんよぉ!!」
「人の女に手ェ出したんだ……覚悟できてんやろぉなぁ!! オォン!!」
「ウヒイィィッ!?」

 俺を引き起こし、両側から怒鳴り散らす男達。
 男達の顔には刃物による傷痕が走っており、視覚からも威圧して来る。

「おい何とか言えやゴルァ!!」
「黙っとんやねぇぞ青ガキャァ!!」
「玉ついとんかつオラァ!!」
「その口は飾りかアァン!!」
「もしもし聞こえてますかぁ~!!」
「お返事はどうしたぁ!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

 気付けば俺は泣きながら謝っていた。

「謝って済んだら騎士様はいらんのですよ!!」
「ごめんなさい以外に言えんのかオラァ!!」
「まぁまぁ、夜も遅し声を荒げんな」
「す、すみません」
「すいやせん」
「ごめんなぁ。でもお前が急に逃げたからいけないんだぞ?」
「すっ、すみません……もうしませんから」
「うんうん。でも、悪い事したと思ったから逃げたんだろ?」
「はっ、はい……本当にすみませんでした」
「うーん……困ったなぁ」

 旦那は顎に手を当てて考える素振りを見せる。

 それを見ながら俺は心の中で神に祈った。
 ここで何とかしないとヤバいと、俺の本能が告げていたのだ。
 が、今の今まで好き勝手して、挙句恋人の仲を引き裂くような事をする俺に、神が微笑むはずがない。

「そうだなぁ……とりあえずここで話すのも何でし、俺の家に行こうか」
「へ……」
「連れて行け」
「へい」
「うす」
「い、嫌だぁぁぁぁっ!!」

 両脇を大男に抱えられ、俺はカルミアルクの旦那の家へと連れて行かれる。

 俺は知らなかった。
 手を出そうとしたカルミアルクの旦那の家がどんな家なのか。





「さぁ、着いたぞ」
「こ、ここは……」

 連れて来られたのはメチャクチャデカイ屋敷。

 このマインスチルには冒険者ギルドの他に、ある組織がいる。
 その組織は国内の大きな鉱山を複数所有しており、そこで採れる鉱石を国に納めている。
 その鉱石は実は騎士達の剣や鎧、盾に使われているのだ。

 その採掘で雇用を生み出し、採れた鉱石で騎士団に貢献する。

 騎士団が表の番人なら、彼等は裏の番人。

「ようこそ、コークマイン組へ」

 気付けば俺は漏らしていた。





「おや、彼女は?」
「お? あぁ……人間界の何つったっけ。クラング王国だったかな。そこに行ったぞ」
「宜しかったのですか?」

 魔族領にある屋敷で、エンジは部下に酒を注ぎながら話す。

「宜しいのですかってお前、行っちまったんだから仕方ねぇだろ」
「ですが」
「半分飛び出して行っちまったけどなぁ」
「セッカク様達を送りますか?」
「あん? 何で?」
「何でって……もし討ち取られたりしたら」
「そうなったらそうなっただろ」
「えっ……」
「もし討ち取られたらそれがアイツの運の尽き。それまでってこったな」

 自身も酒を飲むエンジ。

「では、今回は助けにはいかないのですか?」
「あ~、まぁな。それにアイツ、何か牢から連れて行っていたし……ただでは死なんだろ」
「…….そうだと良いのですが」
「……何だお前、アイツに惚れたか?」
「えっ!? ……あ。いやその……」
「やめとけやめとけ。アイツはお前の手でどうにかできるようか玉じゃねぇよ」
「で、ですから!!」
「あ~分かった分かったよ」

 シッシと追い払うように手を振りながら酒を飲むエンジ。

(まぁ一応……見張りって訳じゃねぇがスイコとライエンを送り込んでいるし、何かありゃ知らせが来んだろ)

 エンジはグラスで口元を隠しながら思案する。

 事が上手く運ぶのなら助けに行くが、それが叶わないようなら見捨てる。

 そうするように娘二人には言い聞かせてある。

(……さぁて、どう動くか……楽しませてもらおうじゃないか)
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