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99話〜歓待〜
しおりを挟む「やっと着いた~」
「着きはしたがまだ関所があるだろ? まだまだだぞ」
歩きながら伸びをするユミナに、肩を竦めながらアニキが言う。
入国の為には関所での検査をパスしなければならない。
検査といっても持ち物を調べられたり、なんでここに来たのかを聞かれる程度だ。
がここは少し違うらしく、身体検査も行われた。
服を脱がされて怪しい物を持ち込んでいないかの検査らしい。
「すまんな。服の下に隠し持つやつが以前いてな……それで追加されたんだ」
「そ、そうか。大変だな」
そんな会話を交わしながら服を脱がされる。
俺の担当は女のように線の細い男性。
彼もまた神族の末裔らしく、神秘さと上品さを兼ね備えている。
また全員鎧といった物で武装していない。
そう言う文化なのか、全員シーツを体に巻き付けたかのような服装をしている。
「すぐ終わるからな~」
そんな事を言いながら俺の体をチェックしていく検査員。
が、彼の動きが止まる。
「……どうした?」
「お、お前……」
「うん?」
「この星印は」
彼は俺の左肩にある星形の痣を見て驚いた様子の彼。
「星? ……あぁ、肩の痣か。それがどうか」
「も、申し訳ございません!! 勇者様とは知らずに!!」
「え……いや急にどうし」
「すぐに馬車を用意しますのでお待ち下さい!!」
彼は文字通り、顔を真っ青にしながら慌てて検査室を飛び出して行く。
しばらくして検査官が戻って来たのだが一人ではなく、おそらく上司と思われる厳つい顔をした男性も共に来た。
「……この方に星の痣が?」
「はあ。左肩に……失礼します」
「あ、はぁ……」
試験管は俺に一言言うと後ろを向かせ、上司に俺の痣を見せる。
「これが、その痣です」
「は、はわわわ……」
俺の痣を見るなり、その厳つさからは想像もつかない声を出す上司。
「そ、そそそ……その痣は!!」
「おんなじやつがアニキの右肩にもあるけど」
「右は良いのです!! 左にある事に意味があるのです!!」
「え、そうなの?」
「はい。詳しい話は移動中にしますのでこちらへ」
「え、えっと仲間がいるんだけど」
「お仲間様も後程、別の馬車にてお連れいたします。ですのでこちらへ。おい」
「ハッ!!」
「神女王陛下へ急ぎお伝えしろ。勇者様が今からそちらへ向かうとな」
「ハハッ!!」
「えっ、神王女王陛下って……」
「はい。リヒティンポス神国の主、アフロティティア・リヒトゥリア神女王陛下です」
俺はどうやら、とんでもない相手と会う事になったようだ。
「おぉ!! あの中に勇者様が!!」
「なんという事だ!!」
「まさか生きている内に見れるとは」
俺が乗る馬車に向けられる言葉。
それには全て、感動の念が込められていた。
「あの、そんなに凄い事なんですか?」
「詳しい事は神女王陛下から聞いて頂きますが、この国の民は皆、貴方を待ち望んでおりました」
「俺を? 何故……」
「その痣が答えでございます」
「肩の?」
「はい。これより詳しい話は神女王陛下よりお聞きくだされ、勇者様」
「お、おう……にしても」
馬車の窓から外の様子を伺う。
「キャーッ!! 勇者様よ!!」
「素敵ー!!」
沿道で黄色い声援を送ってくれる女性達。
「ウォーッ!! 勇者様ァァァッ!!」
「こっちも見てくれー!!」
男性達も盛り上がっている。
どうやらこの国では勇者という事に、かなりの価値があるようだ。
その後、城へと連れて来られた俺は数名の女性神族に連れられて廊下を歩いていた。
何かを警戒しているのか女性神族は一応、武装してはいるものの皆簡素だ。
武器は木製の丸盾と長い槍。
防具に至っては胸当てしかしていない。
形だけの武装なのかと思いながら着いて行く。
「あの……」
「はい?」
「退屈でしょうか?」
「……退屈?」
「はい。何もお話しなさりませんので」
俺の前を歩く女性神族が歩きながら話す。
太ももまである白縹色の髪を左右に揺らしながら彼女は話す。
「もし退屈なのでしたらその……もう少し行きました所におもてなし用の庭園がございます。少し、休まれて行かれますか?」
「庭園? ……いや、居れば別に退屈って訳じゃ」
「そうですか……」
静かな、氷のように澄んだ声で彼女は話す。
「ご無理はなさらないように」
「長旅の疲れもありますし」
すると後ろを歩く二名の女性神族が口を開く。
片方は肩口で切りそろえられた群青色の髪の女性。もう片方は濃紺の髪をポニーテールにしている。
「どう、なさいますか?」
「う、うーん……その庭園ってのは休憩に適した所なのか?」
「はい。勇者様がいつ来ても良いように手入れが行き届いております」
「そうか……行きたいけれど、女王様を待たせる訳には」
「ッ!!」
次の瞬間、その場にいた全員が跪いた。
「えっ……な、何!?」
誰か偉い人でも来たのかと思い、辺りをキョロキョロ見回す。
が、そんな人は誰もいない。
つか跪いた神族達は皆、俺に向けて頭を下げている。
「え、えっと……これは?」
戸惑いながら俺が尋ねると、俺の前を歩いていた神族が口を開く。
「勇者様から我等の長に対してそのようなお心遣い。神女王陛下のお耳に入られれば泣いて御喜びになるかと」
「い、いやそんな大袈裟な」
「いえ。決して、決して大袈裟な事ではありません」
「そうなの?」
「はい。そうなのです」
「そ、そうなのか……と、とりあえず顔を上げてくれないか? その、変な感じがするからさ」
「ははっ」
そう言って顔をあげる神族達。
「急な事で申し訳ございません。ではこちらへ。神女王陛下はこちらにおられます」
「お、おう……」
立ち上がった神族達に先導され、先へと進む。
進んだは良いのだが……
俺は玉座とも取れるほど立派な椅子に座らされていた。
(どうしてこうなった!? )
謁見の間と言われて通されたのに、俺に椅子に座って待つように言うやさっさと帰ったぞあの女神族。
これがこの国のやり方なのだろうかと、自分を無理矢理納得させて落ち着く。
この謁見の間には両側にドアが二つあり、片方は普通のドアなのだがもう片方は鎖で固く閉ざされている。
「……にしても」
落ち着き、知らず知らずの内に出た言葉に神族達がビクッと身体を震わせる。
「……綺麗だなこの部屋。まるで全然使われていないみたいだ」
普段使うから綺麗にするのではなく、まるで神聖な所だから綺麗にするといった感じなのだ。
隅々まで清掃が行き届いており居心地が非常に良い空間となっている。
時折吹き抜ける風は心地よく、視線の先にある庭園は手入れが行き届いており、眺めも良い。
なおさらここに座るのは神女王陛下の方が良いのではと思ってしまうのだった。
「神女王陛下、入室です!!」
部屋のドアが開けられ、数十人の神族を引き連れた女性が入室する。
スラリとした手足にクセの無いブロンドの髪。
その髪は足首付近まで伸びている。
少し力を込めれば折れてしまいそうなほど華奢な身体。
服装は他の神族と変わらず、シーツを身体に巻き付けたようなもの。
ただ首回りや手首、額にはネックレスやブレスレットといったアクセサリーを着けている。
ただそれは絢爛豪華、権力を見せ付けるための物ではなく、彼女の美しさを引き立たせるような物。
そして彼女は碧玉のように綺麗な目は俺をまっすぐ見て
「お初にお目にかかります。勇者様」
跪き、深々と頭を下げた。
「あ、どうも……ハヤテです」
「リヒティンポスの王、アフロティティア・リヒトゥリアと申します。遠路はるばるお越し頂き、喜びのあまり言葉もございません」
「そ、それなんだが……俺の仲間は」
「はい。お連れ様は皆、城に入られましたのでご心配はございません」
連れて来た神族も頭を下げているしなんというか、まるで王様になった気分だ。
「我等皆、勇者様が来る時をずっと待っておりました」
「どうして俺を?」
「私達には勇者が大恩があるのです」
「大恩……それは先代の事か?」
「はい。正確には、左肩に星の痣を持つ勇者に大恩があるのです」
「成程な……それで俺もって事か」
「はい。左肩に星の痣を持つ勇者が来たのは貴方で三人目。グリフィル様とそのご子孫であるガスランサス様。そして、貴方です」
「ガスランサス……どこかで聞いたような。あっ」
ガスランサスという名前。
それは俺が住んでいたカザミ村の初代村長で、今はその隣にあるオヤシロ村にて祀られている勇者だ。
「そのガスランサスもここに来たのか……」
「はい。詳しいお話は後程いたしますが……勇者様、よろしいですか?」
「ん? ……あ、はい」
アフロティティア女王に促され、椅子から立ち上がる。
「お見せしたい物がございます。どうかこちらへ」
「……分かった」
「お話しは歩きながら致しますので、どうぞ」
そういうと女王は鎖で固く閉ざされたドアへと向かい、鍵を開けてドアを開ける。
そのドアの向こうを見て俺は息を呑んだ。
「どうぞ勇者様。こちらへ」
その向こうにある廊下は、ビッシリと水晶で覆われていたのだ。
それを見て俺は息を呑んだ。
「この先に見せたい物が?」
「はい。我等と勇者様の大切な繋がりであります、神勇水晶が貴方様を待っております」
そう言って彼女は、水晶の廊下へと踏み出した。
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