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95話〜魔の風〜

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 日が昇り、再び魔族が攻めて来た。
 寝返った騎士、屍者化した騎士、魔族の兵隊。
 それに加えて飛竜、ヘビーライノと呼ばれる四脚のモンスター、グーラリゲーターという名のモンスターが攻め込んで来ている。

 それを俺達は全力で迎え撃つ。
 今回の迎撃には俺達は援軍勢が出た。
 というのも、国の中央から火薬が届いたのだ。
 その火薬を使って砦に堀を築く。その準備が終わるまで俺達が時間を稼ぐのが今回の目的だ。

 そうすれば砦全体ではなく、砦の出入り口を中心に守りを固めれば良いと王は考えたのだ。

 俺達が踏ん張り、作業隊に敵の妨害が行かなければすぐに終わる作業らしい。
 俺達が踏ん張ればの話だが。

 だから俺達は踏ん張る。
 どれだけ体が悲鳴を上げても、疲労が襲ってきても。
 俺達は踏ん張り続けた。

 そんな時だった。

「あ~ぁ。無駄に頑張っちゃって~」

 突如、上空から明るく聞き覚えのある声が投げ落とされた。
 誰の声かと顔を上げるとそこにいたのは一人の女魔族。
 青紫色の肌に銀灰色の髪、血のように透き通った赤い双眸、蝙蝠のような巨大な翼をバッサバッサと羽ばたかせ、悪魔のような尻尾をクネらせながら俺達を見下ろす魔族。

 その顔を見て俺達は驚愕する。

「まさか、お前が大将だったとはな」

 色々と変わっているが、その顔を忘れた事は無い。

「人間を捨てたのかよ」

 アニキも彼女が誰か分かったようだ。

「セーラ!!」

 自らの欲望の為に周囲を利用し、蹴落とし
 た魔女は今、俺達の前に魔族となって現れた。

「やぁやぁ久し振りね。ハヤテにカラト。お前達は地を這いずり回るのがお似合いよ」

 ニュ~ッと目を細めながら話すセーラ。
 彼女はその身を隠し過ぎず、見せ過ぎない衣服を着ており、肩や腹には紫色の模様が刻まれている。

「それと、私はもうセーラじゃないの。私の名前はセラフィルア。魔王の寵愛を受け、地を這うしか能の無い人を超え、天に羽ばたく者よ」

 うっとりと、自らの言葉に酔うセーラ。
 人を捨てて魔女に落ち、そして魔女から魔族になった。

「そんな貴方達に最高のプレゼントをあげる。心が蕩ける感触に酔いしれなさい」

 バサァッと強く翼を羽ばたかせ、突風を巻き起こすセーラ。
 その風は俺達を包み込む。
 防ごうと腕で庇う俺達。
 だがその風には俺達を傷付ける威力は無かった。
 ただ、甘い匂いがしただけだった。
 が、その風には恐ろしい力があった。

「っ!? ……これは」

 突如視界がグニャリと歪む。立っていられない程ではないが、ふらつく。
 鼓動が早くなる。

「どう? 私の誘蕩ゆうとうの風は。魔王様のおかげで強化された魅了……いくら勇者の血を持っていても、抗うのは難しいんじゃない?」
「ぐっ……」

 彼女の声が頭の中で反響する。
 彼女の存在が、敵対者から愛しい者へとシフトしていく。
 おそらく奴はこの力で騎士達を寝返らせたのだろう。
 このまま行けば俺達も、そう思った時だった。

「ヴォオォォォォォォォォン!!」

 ウルが吠えた。
 途端に俺達にかけられていた強烈な魅了は解除された。

 ウルが新たに習得したスキル・解呪咆哮キャンセルバークだ。
 その名の通り、その遠吠えを聞いた者の状態異常を解除するスキルだ。
 しかもウルが使った力はそれだけじゃない。

「ふん。解除された所でまた魅了すれば良いだけ!!」

 再び羽ばたくセーラ。
 だが何故か俺達に魅了は効かない。

「……なるほど。ウル、ナイスだ!!」
「ヴォン」

 ウルの解呪咆哮は、本来なら持たない状態異常に対する耐性付与効果を得ていたのだ。
 そのおかげで今の俺達は魅了に対する耐性を得る事に成功したのだ。

「……ふん。効かないなら直で痛めつけるしかないわよねぇ!!」
「来るぞ!!」

 それぞれ得物を構える俺達目掛けて急降下してくるセーラ。

「痛めつけて連れ帰って、ペットにしてやるよ!!」

 目をカッと見開いて迫るセーラ。
 その手に得物は無いが、その鋭い爪で俺達に襲いかかって来た。

 一瞬で伸びた鋭い爪は硬度も十分にあり、俺の槍と対等に切り結び、ロウエンとすら切り結んでいた。
 更にアニキが放った光剣を切り払い、ユミナが放った矢を器用に挟み切り、カガリとエンシさんの同時攻撃を捌き切っていた。

 しかもそれと同時に魔力を三日月状の衝撃波として放ったり、爪で受けられない攻撃は翼で受け止める、尻尾を足に巻きつけて投げ飛ばすといった攻撃をしていた。

 明らかに、アニキといる時や大砂漠の盗賊団にいる時、ルクスィギスの所にいる時と比べて強くなっていた。

「アッハッハッハッハァ~。良いわ良いわこの力!! この力こそ私に相応しいわ!!」

 喜色に顔を染め、俺達と相対するセーラ。

「人に生まれながらそれを捨てる……か」
「悪いわねぇ。こっちの方が性に合ってるわ!!」
「そうかい……まぁそんな事、これっぽっちも知った事じゃねぇけどな!!」
「くっ!!」

 ロウエンが瞬く間に、セーラの爪を全て切り落とす。

「っ……」
「悪いな。俺達には俺達の目的があるんだ……さっさと終わらさせてもらうぞ」

 刀の切っ先をセーラに向け、目を細めるロウエン。
 だが、そんなロウエンを見てセーラは笑っていた。

「……やっぱり、アンタが一番の障害ね」
「悪いな。お前にかける情けは持ち合わせていないのでな!!」

 地を蹴り、セーラへと迫るロウエン。
 爪を振るう猶予は与えまいと一気に加速して迫るロウエン。
 だがセーラは笑顔を崩さない。
 余裕を崩さない。

 そんな彼女の余裕には当然理由があった。
 そしてその理由は今、俺達のいる所へと迫っていた。

 俺達の間をすり抜けてロウエンに迫る白い刃。

「ッ!?」

 対するロウエンは、突如踵を地面に立てるようにして急停止し、刀でその刃を受け止める。

「……っ、お前は」
「久しぶりだね……カイナァ 」

 ロウエンと切り結ぶ一人の女性。
 膝まである長く白い髪。
 袖がないコートにストレートパンツ、そしてロングブーツ。
 全てが雪のように白い。
 そして手に持つ刀はロウエンのと違い、鍔の部分が無い。

「強くなったようね……カイナ!!」
「っ……何故お前がここにいる」
「あら、姉に対して随分な事を言うのね……」

 ロウエンを押し切り、蹴り飛ばす相手。
 対するロウエンは背後に跳ぶ事でダメージを軽減させる。

「あ、そうそう。今日来ているのは私だけじゃないから」
「何? ……!?」

 背中の大太刀を抜くと同時に振り返り、それを振り下ろすロウエン。
 その大太刀の刃は、鉄板の様な形をした大剣によって受け止められた。

「ちっ……来てやがったか。このシスコン野郎が」
「姉様の手を煩わせるとは……兄と思うのも腹立たしいですね!!」

 大剣でロウエンの大太刀を受け止めたのはなんと、見た目は背丈が俺の肩ぐらいの少年だった。

「よしよし抑えてて!!」
「分かってます……ってうわ!?」
「ちっ!!」

 ロウエンに切りかかる女性と少年と切り結ぶと同時に魔力を放出し、相手を吹き飛ばそうと試みるロウエン。
 少年の方は吹き飛ばす事に成功したが女性の方は上手くそれを受け流していた。
 その直後、二人から距離を取るロウエン。

「……ちっ、姉ちゃん達がまさか来るとはな。他にもいるんじゃねぇだろうなぁ?」
「さぁ? どうかしらね……私が聞いているのはキガンと行けって言われただけだから」
「……そうかい。指示の主はクソ親父か」
「そうよ、って言ったらどう?」
「別に、驚きはしねぇよ……」
「そう。可愛くないのね」

 肩を竦めながら話す女性と舌打ちをするロウエン。

「悪いハヤテ、そっちの手伝いは行けん」
「……分かった。そっちは任せるぞ」
「あぁ、任せろ」
「ふふっ、随分と仲良しなのねぇ……羨ましいわ」
「血の繋がったお前等よりも最高の仲間だぜ?」
「そう……ならそのお仲間さんのお腹を貴方の目の前で引き裂く事にしましょうか」
「……やれるもんならやってみろよ、その前にお前を斬る」

 ロウエンの言葉に、喉をクツクツ鳴らしながら笑う女性。

「良いわ!! 面白い……このセッカクに相応しい獲物だわぁ。せめて守って見せなさい、カイナァ!!」
「来いよ……」

 直後、ロウエンとキガン。
 更にセッカクの姿が消えた。
 いや、実際に消えた訳ではない。
 目で追えない程の速さで動き回っているのだ。

「っ、ロウエンが抑えてくれている間に……アニキ!!」
「分かっている!!」

 俺の呼びかけアニキは光剣を扇状に展開し、セーラ目掛けて放つ。
 その中を、俺は木々が生い茂る森を駆け抜けるように駆け抜ける。

「ハハッ、無駄なあがきぃ!!」
「無駄かどうかは分からねぇだろ!!」

 セーラへと迫り、彼女の爪と俺の槍がぶつかる。

「ううん分かるよ!! 君が負けて!! 無様に命乞いして!! 私のペットになる未来が!! 毎日毎日私の機嫌を取る姿も、可愛がってもらおうと媚びを売る姿も!! 全部見えるよ!!」
「ついに正気を失ったか!! セーラ!!」
「残念私はセラフィルアなのよ!!」

 鋭い爪で切り付けてくるセーラ。
 その爪を躱しながら槍を打ち込む。
 が、その槍を躱される。

 直後、援護の為に放たれた光剣と矢が俺の挟むように突き抜け、セーラへと迫る。

「っ!? 邪魔!!」

 それを躱すと今度はエンシとマリカが切り掛かる。

「ウッザイ、なぁ!!」

 鬱陶しそうに二人に切り掛かるセーラだが、なんと二人はセーラの爪を切り飛ばした。

「ちっ……何で」
「俺を忘れてねぇか!!」
「っ……ふざけんなよ!! クソがぁっ!!」
「っ!? ……のわっ!!」

 爪が伸びるのが間に合わないと判断するとセーラは、尻尾を俺の槍に巻き付け、なんと投げ飛ばした。

「はぁ、はぁ……クソが。バカにしやがって……でもなんで……ははぁん。なるほどねぇ……エラス。アンタ随分な事してくれるじゃない」

 セーラの視線の先にいたのはエラスとミナモ。
 二人はフーやウルとルフに守られながら補助スキルを使い、ユミナ達の能力を底上げしていたのだ。

「くふふっ……種が分かれば簡単、ねぇ!!」
「まずい!!」

 二人目掛けて飛ぶセーラと、二人を守る為に駆ける俺。
 当然、フー達も迎え撃つ為に動くがセーラはそれをスルリと躱す。

「まずはお前からぁ!!」

 その鋭い爪をまずはエラスの顔に突き立てるべく振り下ろすセーラ。

「っ……」
「エラスさん!!」

 そのエラスを守る為に抱きしめるミナモ。

「させるかぁぁぁぁぁっ!!」

 その二人の元へと走る俺。
 そして振り下ろされる爪。
 それは……



「……あれ? あっ」
「……なんで」
「っ……お前」

 俺の背中に深々と突き刺さった。

「っ……無事、だな?」
「ハ、ハヤテ!!」
「……っぁぁっ!!」
「邪魔すんじゃねぇよ!!」
「ぐっ……ごほっ」

 爪を引き抜き、俺を蹴り飛ばすセーラ。
 蹴り飛ばされ、咳き込む俺に駆け寄るエラスとミナモ。

「あ~ぁ。エラスの顔を焼くための毒を爪に仕込んだのに、無駄になっちゃったじゃ~ん」
「毒!?」
「そ、毒。さっさと解毒しないと、ハヤテが死んじゃうよ~? アハハッ♪」
「ミナモさん」
「分かってる。早くしないと」
「まぁ、そんな事させないんだけど……っ、邪魔すんなよクソバカラト!!」
「解毒はお前達に任せる……こっちは、何とか抑える!!」

 魔術で身体強化をし、更に頭上に光輪を出現させたカラトがセーラへと挑む。
 そんな中俺は

「あっ、ぐぅ!! ……ガァァアァァァァッ!!」

 セーラに打ち込まれた毒によって、体を内側から焼かれるような激痛に襲われていた。





「バカな男ね。本気で私に勝てると思っているの?」

 セーラは、馬鹿の一つ覚えのように突っ込んで来たカラトを見て蔑む。
 頭の上にメルヘルチックな天使の輪っかなんて乗せて馬鹿みたい。
 そうよ。アイツはバカなの。
 ずっと私に持ち上げられて、良い気になって周りの見えないバカでクズだったのに。

「カッコつけてるんじゃねぇぞエセ勇者が!!」
「勇者なんてもうこりごりだよ!!」

 翼を羽ばたかせて飛び上がると奴も負けじと飛び上がり、追ってくる。

「お前風情が私と同じ空に上るか!! この痴れ者が!!」
「どの口が言う!!」

 強化した肉体で直接攻撃をしかけるカラトは、私が距離を取るとすかさず光剣を放ってくる。
 それも普通の剣だけじゃない。
 刀身が緩やかにカーブしているもの。
 ブーメランのように曲がっているもの。
 先端が枝分かれしているもの。
 様々な光剣を生み出して放って来る。

「ちっ、お前も毒漬けにしてやるよ!!」

 自慢の爪で毒を打ち込んでやろうと一気に迫る。
 するとカラトは光剣の一つを手にし、私と切り結んだのだ。

「なっ!?」
「バカにするなよ……いつまでも、俺はあの時の俺じゃない!!」
「くうっ!!」

 弾かれ、蹴り飛ばされる。
 が、そこは私。
 アビルギウス様の寵愛を受け、人を捨て魔族へと生まれ変わった私はその程度では怯まない。
 すかさず体勢を立て直し、再びカラトへと迫る。

 迫るのだが

「角度良し!! 撃てぇ!!」

 地面から聞こえた号令。
 続けて聞こえるのはけたたましい轟音。
 直後、私の全身を鉄の玉が打った。

「きゃぁっ!?」

 思わぬ攻撃に体勢を崩す私。
 そこへすかさずカラトの光剣がなだれ込み、全身を刺し貫く。

「ギャアァァァァァッ!?」

 激痛のあまり私の口からは、私に相応しくない、激痛にまみれた悲鳴が上がる。

 誰が、どこから攻撃したと。
 翼を羽ばたかせて上空へ退避する私。
 そこで私が見たのは、丹精かけて魅了したはずの騎士達が正気に戻り、奪ったはずの砲車で私を狙っている光景だった。

「ど、どうして……」

 分からない。
 自力で解いたのか、それとも外的要因が何かあったのか。
 何故魅了が解けたのかを考えていると、顔面を強い衝撃が襲った。
 メキッと軋む音が頭の中に響く。

 私の顔に、鉄の球が撃ち込まれたのだ。

 私の美しい顔が、鼻が、口が歪む。

 続けて撃ち込まれた球が腹にめり込む。

 足を打つ。

 太ももを打つ。

 更に撃ち込まれた球は形が変わっていた。
 さっきまで撃ち込まれていたのは丸い鉄の球だったのだが、砦側から新しく撃ち込まれたのは先端が尖った円柱状の弾。

 その弾は私の翼に穴を穿ち、空を舞う力を奪う。

 地に落とされた私にまたも撃ち込まれる砲弾。
 放物線を描くように降り注ぐ砲弾は狙い澄ましたかのように私の周囲に着弾し、土煙を次々と生み出す。

「ドンドン撃ち込めー!!」
「砲身がぶっ壊れても構わん!! あるったけ撃ち込め!!」
「天使野郎を少しでも休ませるんだ!!」
「撃て撃て撃てぇ!!」
「教国の援軍が言うには、倒れている青年は勇者だ!! 彼が立ち上がるまで俺達で時間を稼ぐんだ!!」

 周囲を見てみると、通信用の水晶で話しながら絶やす事なく弾を全方位から撃ち込んでいた。
 そう、こちら側に砲車をもたらした奴等も魅了が解けた事で私達と敵対関係になったのだ。

「くっぅぅぅ……ふざけやがって!!」

 翼に空いた穴は魔族特有の回復力で回復するが、砲弾で穴が空かぬように頑丈になっていく。
 それに連れ、薄く、しなやかで絹のような感触だった翼は硬く、鱗のような物に覆われていく。

 私に相応しくない翼へと形を変えていくのだ。

「ッッッァァァアアアアアアァァァァァァァァッ!!」

 それに耐えられずに私は叫ぶ。
 甲高い悲鳴のような叫び。
 それは衝撃波となって砲弾を吹き飛ばす。

「アッ、アァァッ……こんな、こんな姿……」

 よく見てみると私の体の至る所に鱗が生えていた。
 それは全て砲弾が何度も当たった所。
 硬い鱗で守る事で防御力を上げたのだ。
 だがそんな姿私には相応しくない!! 

「こんな姿じゃアビルギウス様が選んでくれない……もう相手をしてくれない。そんなの、そんなのダメなの!!」

 両手で顔を覆うと掌に伝わる鱗の感触。
 そう、その鱗は私の顔にも生えていたのだ。

「へっ、醜い姿だな。まるで」
「黙れカラ」
「お前の心そのものだ!!」

 カラトの渾身の右ストレートが顔面に突き刺さるように撃ち込まれ、クルクルと回りながら吹っ飛ぶ。

「……っ、つぁぁぁぁっ!! クソが!! クソがクソがクソがァァァァァァッ!!」

 起き上がり叫ぶ。
 そんな私の視界に映るのはハヤテのエラス、それとハヤテの女。
 ハヤテの女は自分で傷付けたのか、右腕から出血しており、ハヤテの口の端がわずかに赤くなっている。

 エラスがハヤテの女に回復スキルを使っている事から、どうやらあの女は自分の血をハヤテに飲ませたようだ。
 何故だ。

 そう思ったが答えを出すよりやる事は決まった。

「は、ははっ……」

 固く、醜くなった翼を羽ばたかせ、三人の元へと飛ぶ。

「しまっ!?」
「トロイなぁお前!! トロすぎだぁ!!」

 私を追って来るカラトを蹴り退け、三人へと迫る。

 ハヤテが目を覚まそうが覚まさまいが知らん。
 ただ、目を覚ました時に目の前で仲間が死んでいた時にどんな顔をするのかが見てみたい。

 だから私は

「今度こそ死ねよ!! エラァァァス!!」

 まずはエラス目掛けて爪を振り下ろす。

 まずはこの女からだ。
 その次にハヤテの女を殺す。
 その様を想像して笑ってしまう。

 が、私は考えてなかった。

 何故、ハヤテの女がハヤテに血を飲ませたのか。
 そしていつから飲ませていたのか。

「フヒャハハハハッ!! ヒヒヒャァハハハハッ!! ……しぃブベバアァァァァァッ!?」

 突如、地面から巻き起こった竜巻きによって打ち上げられ、地面に叩き付けられる。

 何が起きたか分からず、目をパチクリさせる。

 そんな中、何かが起き上がる気配を感じた私はその気配の方へと目をやる。

「う、嘘……」

 立ち上がっていた者は風を従えていた。
 その風はその者の緑の髪を、旗持ちの旗のように靡かせる。
 槍を持ち、髪を靡かせ、ゆっくりと目を開けるソイツ。
 若草を思わせる緑色の目がまっすぐ私を見る。

 見られて、私は震えた。

 格が違う。
 相手が初めて格上に思えた。
 だって、だってだってだってアイツはそんな奴じゃないのに。

「ど、どうしてアンタを見て震えてんのよ!! 何で!!」

 それを否定するように叫ぶ。

「ハヤテなんかに震えなきゃいけないのよ!!」

 その日私は初めて、ハヤテを格上と捉えた。
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