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70話〜箱入りワガママゆうしゃ娘とぼっち術師〜
しおりを挟む「ですから!! 私は勇者だと何度言えば分かるのですか!!」
ズンカズンカと地団駄を踏みながら私、オーブ王国第二王女であり勇者の祝福を受けたマリナ・フィーリア・オーブは、教国にあります聖勇教会の門番に詰め寄る。
「マリナという名の勇者は存じません」
「右に同じく」
「貴女達、私を馬鹿にしていますの!?」
「馬鹿にするも何も、存じていないものは存じておりませんとしか言えません」
「ぐぬぬ……このオーブ王国の第二王女にして勇者である私を知らないなんて」
「オーブ王国……初めて聞く名ですね」
「なっ!?」
「聞いた事あるか?」
「いや、私は無いな。歴代勇者を輩出していない国は記憶しておらんよ」
「だそうだ。自称勇者の娘。さっさと去れ」
「なっ、ななっ……キーッ!! ……で! す!! か!! ! ら!! !! 私は勇者なんですってば!!」
「はいはい。大人を揶揄うのはやめような」
ポンポンと私の頭を撫でる女騎士。
馬鹿にして。私は勇者なのに。
オーブ王国出身で初の勇者なのに。こんなに馬鹿にされるなんて……
「マリナ……」
落ち込む私に背後から声をかけて来たのは私の恋人のリナシア。
彼女は元はカナトという私のパーティーの魔術師の少年の恋人だったのだが、私もそこに加えてもらったのです。
本当なら私はカナトが好みだったので、彼と恋仲になりたかったのですが、彼が彼女がいるからダメだと言って断ったのです。
だから私はこの天才的頭脳を使って考えたのです。
私も恋人になれば良いと。
その為に私はリナシアの部屋に向かい、熱烈な説得を朝までした結果、恋人の中に加えてもらえたのです。
ですがそれの数日後カナトは悲しそうな顔と共にパーティーを抜けると言って出て行ってしまったのです。
初めは何故か分かりませんでしたが、きっと彼女二人を守る為に自分を鍛えに行ったのでしょう。
うんうん。そうに違いありません。
ですがそんな事気にする必要は無いのに。
だって私は勇者。
何人でも守ってみせますのに。
ただ不思議なのがカナトが去った後日、私のパーティーの騎士であるガリア・スティンガーもパーティーを抜けてしまったのです。
そんな私が何故聖勇教会のもとを訪ねているかと言いますと、ここでお休みになられている先輩勇者に会う為に来たのです。
勇者としての心構えを教えて頂こうと来たのですが、関係者でないのなら入れられないと門前払い。
私が何度勇者であると言っても聞き入れてもらえず、入れてもらえない。
「っ、もう良いです!!」
「ま、待ってよ」
諦め半分、怒り半分でズカズカと歩き出す私とその後を追いかけて来るリナシア。
今日の所は引きますが、また明日出直すとしましょう。
私は、欲しい物は手に入れる主義なのです。絶対に諦めませんからね!!
とマリナが意気込んでいる頃……
「……凄かったなぁ」
パーティーを抜け、集会場で魔術師を募集中のパーティーがいないか探そうと教国に来て、俺は初めて巨大なモンスターを見た。
俺の名前はカナト。
オーブ王国の第二王女であるマリナ・フィーリア・オーブのパーティーで魔術師をしていた者だ。
得意な属性は火。
回復系はあまり得意では無かったが、そこは聖剣士であり恋人でもあったリナシアが補ってくれていた。
あぁ因みにだが、聖剣士と聖騎士は別のものだ。
どちらも祝福ではあるのだが、聖剣士は魔術の扱いにも長けた剣士。
聖騎士は扱うのが難しい光属性の魔術を扱える剣士の事だ。
まぁ聖騎士は聖剣士の上位互換と思えば良い。
まぁ、その聖剣士である恋人のリナシアとはもう別れたので良いんだ。
事の発端はある日の夜だった。
彼女に用があったので部屋を尋ねたのだが、戸をノックしようとして俺は体が固まってしまった。
中から彼女の艶やかな声が聞こえたのだ。
大人の恋仲の男女が出すような声だった。
まさか浮気されたかと思ったが、彼女はそんな事をする人では無い事は知っていたので、きっと一人でと思った俺は邪魔をしてはいけないと自分の部屋へと帰ってしまった。
次の日、リナシアは普通だった。
でも、その日を境に彼女は変わっていった。
「今日も勇者様の剣の冴えは良かったね」
「流石は勇者様……」
「マリナ……カッコよかったなぁ……」
「カナトも頑張ろうね!!」
少しずつ、勇者の事を褒める量が増えて行った。
そしてそんなある日だった。
その日俺達が受けたのは大砂漠に現れたモンスターの討伐。
前までは盗賊団がいた事もあり、彼等がある程度狩ってくれていたのだが、その盗賊団が掃討された事もあってか追い付かなくなっていたのだ。
討伐対象はスナモグリワニという小型~中型のモンスター。
名前の通り普段は砂の中に潜んでおり、獲物が真上を通ったタイミングで襲いかかる非常に危険なモンスターだ。
それを10頭。
討伐したのだが、終わったのは夜。
そのまま帰るのは危険だったので、野営する事になったのだ。
その日の夜。
俺は突然の尿意に目を覚まし、少し離れた所で済ませてからテントに戻っていた。
ガリアさんが見張りをし、俺のテントの両脇にマリナとリナシアのテントがそれぞれ張られていた。
ただ気になったんだ。
灯りの消えたリナシアのテント。
灯りは消えているが布が時々モコモコと動くマリナのテント。
自信は無かったが、嫌な予感がした俺はマリナのテントへと忍足で近付き、耳を澄ませた。
その俺の耳に届いたのは
「あっ、あぁ!! ヒィッア!? ……お願いマリナァァァッ!!」
「フフッ。さぁさぁもっと可愛い声で鳴いて下さいな?」
「ンンンゥゥゥッ!!」
直後、テントの一部が濡れた。
俺は何が起きたのか分からなかった。
「はぁはぁ……はぁ……んっ」
「とても愛らしいですわ……可愛い私のリナシアさん」
「私も幸せですぅ……カナトじゃ味わえない幸せ……ありがとうございます。マリナ様ぁ……」
「ふふっ。さぁさ……もっと鳴いて下さいな」
「んんっ、ま……待ってぇぇぇ……」
そこで俺は理解した。
俺は恋人を、勇者に取られたのだと。
その次の日、俺は宿に戻るや勇者にパーティーを抜ける事を伝えて逃げた。
自分が惨めに思えた。
勇者に恋人を取られて今まで通りいられる自信がなかった俺は、彼女達から逃げた。
その後俺は教国に来たのだが、タイミングの良い事に勇者の子孫のパーティーと勇者の弟のパーティーによる試合が行われる事になっていた。
勇者の子孫と弟の試合。
どんなものだろうかと試合を見に行って俺は驚いた。同じく魔術を得意とする者同士が魔術で身体を強化して殴り合う。
ムキムキマッチョが細身の青年に素手で倒される。
あろう事か、子孫と弟による試合が行われなかったのだ。
その時だった。ルクスィギス様がキレ、直後に自らモンスターへと姿を変貌させたのだ。
それを見て当然逃げ惑う観客達。
その観客の中に、モンスターと戦おうとするも人の波に飲まれて流されるアイツ等を見た。
ただ不思議な事に、ガリアの姿はそこに無かった。
俺は俺で逃げ惑う人に降り注ぐ瓦礫を火球と炎柱で迎え撃ったりしたのだが、それで精一杯だった。
そんな中、勇者の弟は圧倒的な力で見事にモンスターを打ち倒し、平和を取り戻す事に成功していたのだ。
「すげぇ……かっこいい」
俺が彼に抱いた印象はそれだった。
俺もあんな風になりたいと思った。
そう思った俺は、彼が倒れた後運び込まれた教会へと行ったのだが、警備の都合上許可の無い者は入れられないと言われてしまい、その日諦める事にしたのだ。
そして今日も先程、見舞いとして花を渡してくれと門番でもある聖騎士に渡した所、スキルで何度もチェックされた結果、渡してもらえる事になったのだ。
「凄かったなぁ……」
今思い出しても圧巻だった。
背中より生えた翼が、敵に一切の抵抗を許さずに蹂躙する。
一方的な戦いとはまさにアレの事を言うのだろうと思った。
あの力が知りたい。
あの力を解析したい。
あの力を側で見たい。
いつしか俺はそう思っていた。
それと同時に、今の俺では彼の側には立てないとも理解した。
あんな力を振るう彼の側にいる仲間はきっと、相当レベルの高い人達だ。
それこそ俺とは雲泥の差があるだろう。
だからって諦める訳にはいかない。
己を鍛え、いつしか彼の側で戦い、俺から最愛の人を奪ったマリナと、俺を裏切ったリナシアに復讐を……
と思ってもそれを素直に肯定できない。
マリナはオーブ王国の第二女王だ。
下手にやれば俺は追われる身になってしまう。
そうなっては意味が無い。
「どうするかなぁ……」
噴水前のベンチに腰かけ、腕を組んで考える。
いや、そもそも復讐にも色々もある。
マリナ達を地獄に叩き落とす事もそうだが、マリナ達より幸せになり、リナシアに俺を捨てた事を後悔させるのも立派な復讐だ。
うん。
それなら俺も追われる身にはならない。
それに幸せも人の数だけある。
仲の良い家庭を作る事や貧しくても笑顔が絶えない家庭だってそうだ。
「俺の幸せかぁ……うーん」
魔術師として成功する事も良いなと思う。
だがその道のりは長いだろう。
考えれば考える程、なりたい幸せの形が増えてくる。
果たしてどれを選ぼうかと悩んでいると不意に背後から声をかけられた。
「……もしかして君は」
「……あれ、その声は」
聞き覚えのある声に思わず振り返るとそこにいたのは
「ガリアさん?」
「やはりカナト君だったか。良かった、合流できて」
「いや、ガリアさん……何でここに? つか、勇者達といたんじゃ?」
「あぁ、その事だが……私はあそこを辞めてきたよ」
そう、鋭い目を細めて笑いながら返すのはガリア・スティンガー。
オーブ王国の騎士の一人で、国王から直々にマリナの護衛としてパーティーに入れられた実力の持ち主。
俺より背が高く、長い銀髪を頭の後ろで一纏めにし、鎧を着込んでいる青年騎士。
だが面白い事に、騎士達の間では彼は常に一人を好むと言われていた。
食事の時も一人でポツンと離れた所で食べ、訓練後の着替えも皆が終わってから一人で着替え、風呂も皆が終わってから一人サッと済ませる。
その為、彼の裸を見た事がある騎士は一人としていないと言い、彼の裸を見れた者はその年の運を使い果たすとすら言われていた。
そんな彼が言った言葉を俺は理解できずに固まっていると、彼はもう一度言ってくれた。
「私は、勇者のパーティーを辞めてきた」
「え、何で……」
「君を一人にさせたくないからね」
「えぇ……」
「とりあえず宿に行こうか。君の方でもう取ってあるかい?」
「あ、いや……」
「ん? もしかして出た所だったかい?」
「あ~、まぁ……はい」
「そうかそうか。なら私の所に来なさい。うん、そうしよう」
満足そうに頷くガリア。
宿はまぁ、資金面の都合上安い所に移ろうと思い、ちょうど引き払った所だったのだ。
まぁ、あまり持ち合わせは無いが誘って来たのは向こうだ。
甘えるとしよう。
「そう、です……ね。はい、そうします」
俺はガリアさんが利用する宿へと向かった。
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