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56話〜厄介事〜

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「ほら、出口が見えて来たぞ」
「ワウ~」

 ウルの背中にエルフの子を乗せ、無事に洞窟を抜け出した俺達。
 歩きながら何故この洞窟に来たのかを聞いたのだが、どうやらこの洞窟で採れる鉱物の中にあるキラメキパールを母親の誕生日にプレゼントしようとしたのだという。
 ので、俺達も良いキラメキパールを探すのを手伝ってあげた。
 そのせいで、ちょっとばかり戻るのが遅くなってしまったのだが……

「ま、俺も一緒に怒られてやるからよ」
「ごめんなさい……」
「気にすんなって。ま、これからは一人じゃなくて誰か大人に一緒に行くんだぞ?」
「うん。ありがとう!!」
「おうよ」
「ウルもありがとうね!!」
「ワウ!!」

 まぁおかげで、彼も納得のキラメキパールを見つける事ができたので良しとしよう。

「お母さん、喜んでくれるかな……」
「まぁ、怒られはするだろうが喜んでくれるだろ……多分、な」

 母親が喜ぶプレゼント。
 俺の母親はアニキからのプレゼントは凄く喜んでいたのを思い出すが、俺からのはどうだったかもう覚えていない。
 覚えていないという事は多分、そこまで俺にとって嬉しい事でも無かったという事だろう。

「とりあえず、さっさと帰るか」

 そんな事を呟きながら村へと帰る俺達。
 案の定、エルフの子は母親と再会するやつメチャクチャ怒られて、泣かれていた。
 そんで、彼が誕生日プレゼントとして探して来たキラメキパールを差し出すやメチャクチャ喜んでいた。
 そんな二人を見て、俺は羨ましかった。
 そんな事を思っていると、背後から話しかけられた。

「よう、ハヤテ。お疲れだったな」
「ロウエン。帰っていたのか」
「おう、ちょっと前に着いてな……話、良いか?」
「お、おう。俺もちょっと話があってよ」
「珍しいな……じゃあまぁ、先に良いか?」
「おう」
「んじゃ、こっち来てくれ」

 ロウエンに連れられ家の前に行く。
 するとそこには二人の騎士が立っており、ミナモ達に先に挨拶をしている。
 片方は男性で片方は女性だ。

「ジンバの部下の騎士。ガキの方がラピスで女の方がサフィアだ」
「ラピスさんとサフィアさんですか」
「どちらもジンバが一押ししている部下だ。ちゃんと働いてくれるさ」
「一押ししている部下って……なんでそんな人達が」
「貴方がハヤテさんですか?」
「え……まぁ、はい」

 ロウエンと話している俺の所へミナモ達への挨拶を終えた二人がやって来る。

「初めまして。私の名はサフィア・シアハスキー。ジンバさんの下で騎士をやらせて頂いております」
「は、 はぁ」
「そしてこちらが」
「……ナヨナヨしてんな~。小枝みてぇに細いんだな。アンタ」
「こらラピス!! ちゃんと挨拶しなさい!!」
「へいへい……ラピス・シアハスキー。よろーね」
「ちゃんと、挨拶を、しな、さい!!」
「……は、はーい。ラピス・シアハスキー。よろしくお願いします」
「お、おう」

 先に挨拶をしたサフィアさんは俺より歳が上のようで落ち着いた様子の女性だ。
 腰まである髪は深い海のように濃い青色をしており、おっとりとした優しい目をしている。
 次に挨拶をしてくれたラピスだが、俺よりは歳下に見える。
 彼は髪をツンツンと立てており、刺々しい髪型をしている。
 目は勝気で表情は余裕と自信で満ち溢れている。

「二人は姉弟?」
「はい」
「名字一緒なんだから当たり前だイデ!?」
「こーら。そんな話し方をしちゃダメでしょ? ハヤテさんは聖装に選ばれた凄い人なんだから」
「あ、あはは……」
「いてて~……」
「分かった?」
「はいはい……全く。こんなゴリラ女だから嫁の貰い手がいな」
「何か言った?」
「……」

 うん、取り敢えずこの短時間で二人のパワーバランスは分かったよ。

「それで、なんで二人を連れて来たんだ?」
「……ラギルが脱走した」
「……ラギルって、あの時のか?」
「あぁ。アビスドラン戦の後、ハヤテを貶めようとして牢にぶち込まれたあのラギルだ」
「マジかよ……でもどうして。見張りはいたんだろ?」
「当然だ。ただいくつかの牢が開けられ、その中にラギルの牢が入っていたそうなんだ」
「……逃げ出した奴等を捕まえようとバタついている隙に行方を眩ませた、って所か?」
「ジンバ達はそう見ている」
「ロウエンはどう見ている?」
「……ラギルが捕まった時、少数ではあるがラギルの部下は残った。おそらくそいつ等が牢を開けたと見ている」
「確証は無いのか?」
「……あぁ。昨晩、その部下が斬り殺されているのが発見されてな。死人に口無しって奴だ」
「ひでぇ……」
「そこで私達が派遣されたのです」
「なんで……って、心当たりしかないな」
「奴はハヤテ、お前を恨んでいる可能性があるからな。ジンバが気を利かせてくれたって訳だ」
「……感謝しかないな」
「大丈夫、とは思うがな……奴の狙いがストレートにハヤテなら守りようはあるが、お前を苦しめるためにミナモやユミナ、エンシを狙う可能性もある。となると俺だけでは守れん。いくらウル達が強くても奴には勝てんからな」
「そうだよな……でも、何処へ行ったんだろうな」
「さぁな……まぁ二人は腕も良い。勝てずとも守ってはくれるさ」
「そうか」
「んで、お前の話ってのは何だ?」
「あぁ。簡単な事なんだけどな」

 俺は洞窟であった事を話した。
 出せなかったはずの光の玉を出せた事。
 俺が持つ祝福の勇者・陰と何か関係があるのかどうかを聞いてみた。

「使えなかったスキルが使えた、か……イメージしたら使えたんだな?」
「あ、あぁ。何か祝福と関係あるのか?」
「うーん……」

 珍しく手を顎に当てて考えるロウエン。

「詳しくないから一概には言えんが、その可能性は高いだろうな」
「やっぱりか」
「昔にも同じ事があったらしいんだ」
「前にもいたのか?」
「あぁ……あぁ~、思い出した。そいつもハヤテと同じように力を解放していったんだ」
「解放した? どういう事だ?」
「これはあくまで俺の仮説だが、勇者というのはその世に安寧をもたらす者だと思っている」
「お、おう」
「それはつまり、人も魔族も分け隔てなく暮らせる世という事だ」
「そうだな」
「その為にはどうする必要がある?」
「……両者が争わないで、手を取り合うとか?」
「そうだな。その為には必要なのは、両者に負けない力だ」
「武力って事か?」
「まぁ大雑把に言ってしまえばそう考える者もいる。だがハヤテ、思い出してみろ。お前は、できなかったはずのスキルを使ったのだろ?」
「おう……あ」
「そう。スキルのルールは、適性がないと使えないというもの。だがお前はそのルールの外に一歩踏み出した。それがどういう事か分かるか?」
「……今までの常識を覆す、ってやつか?」
「覆すじゃなくて、覆したってやつだな。そうだ、お前はお前でこの世に新たなルールを作ってしまったんだ。それもお前にしか適用されない、それこそ理不尽なルールをな」
「そんな!?」
「だが、それこそが必要なんだ。両者が辿り着けない力を持たなければ、両者を押さえ付ける事は難しい。同じ力では時間はかかるがいつかは辿り着かれる。そうなっては、お前の正義を貫くのは難しいだろう」
「……」
「ま、その為にはお前達は二人なんだろうな」
「……アニキの事か?」
「そうだ。お前が暴走した時の為のストッパーがバカであり、バカが暴走した時のストッパーがお前なんだ。だから、アイツもその気になればルールの外に出られるはずだ」
「……でもなら、何で今までの勇者は」
「勇者は人間だ。つまりそれはどういう事か分かるか?」
「……魔族より早く死ぬ」
「そうだ。そしていくら勇者といえど魔族を全滅させる事はできない。つまり」
「……勇者は人間に恨みを持つ魔族が残っている」
「そうだ。だから今の今まで争いが無くならないんだ」
「そうか……」
「ま、あくまで俺の仮説だがな。まぁそれこそ、今までの勇者達がルールの外に出られる程の器じゃなかった可能性だってある」
「成程……」
「ただ、100人が信じてもお前が自分を信じなきゃ意味が無いんだ。100人が信じなくても、お前はお前を信じ続けろ」
「おう。ありがとうな」
「にしてもそうか……」
「ん?」
「……いや、こっちの話だ。まぁ色んな意味で、これからもよろしくな」
「おう、こちらこそな!!」

 珍しくロウエンが右手を出して来たので握り返す。

「……ハヤテ、お前少しデカくなったか?」
「そうか?」
「……気のせい、かもな」
「なんだよ~」

 何ていうかロウエンのやつ、出会った頃と比べて丸くなった気がする。
 少し前はこんな話をするなんて思っていなかったしな。

「ま、その力をどう使うか。結局はお前次第だって事も忘れんなよ?」
「おう。分かってるよ」

 ロウエンの仮説が本当なら、勇者とは凄い素質を持つ者という事になる。
 それを生かすも殺すも己次第。
 俺は、生かす事ができ……

(いや、まずはそこから信じないとな……生かせるって)

 俺はまず、そこから信じる事にした。





「にしても、アイツは何処に行ったんだろうなぁ……」
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