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 オスカーがマリアと楽しい夜を過ごし家に戻ったのは、次の日の昼過ぎの事だった。

 家に戻るとすぐに父から呼び出しがあった。呼び出される覚えのないオスカーは首をかしげたが、父の執事がせかすので足早に父の執務室へと向かった。

「やっと戻ったか。この馬鹿息子が」

「父上?」

 執務室で会った伯爵は、大層機嫌が悪かった。

「せっかくの幸運を不意にしおって。馬鹿が」

「なんのことですか」

「アッカーソン侯爵家との縁談が破談になった」

「は?」

 破談になったとは、エリーゼの婚約のことだろうか。なぜこのタイミングでエリーゼとの婚約がなくなったのかは分からないが、嫁にいくというならまぁ見逃してやらないこともない。

「エリーゼがやっと嫁に行く気になったんですか」

「なにを言っているんだ」

「ですから、僕が侯爵家を継ぐからエリーゼを嫁に出すことにしたんでしょう」

「ここまで愚かだったとわな。この馬鹿者が!」

 頭の痛くなるような発言をきいて、伯爵は執務机から立ち上がり、息子の元へ行くとオスカーを殴り飛ばした。

「でぐへっ」

 オスカーが部屋の隅にふっとばされる。

「な、な、なんで殴るんですか!?」

「なんで、だと? 何を勘違いしたかしらんが、お前はエリーゼ様と結婚して初めて侯爵家の人間となれるのだ。娘『婿』にな。誰に何を吹き込まれたかしらんが、侯爵家の後継者はエリーゼ様ただ一人。我が家に侯爵家の血は流れておらん。お前なんぞが侯爵家の後継者になれるはずがなかろう!!」

 伯爵はオスカーを部屋の隅に追い詰めると、無理やり立ち上がらせ、ボディを三発、さらに右頬と左頬を続けて殴った。

「ほげほっ」

 殴られた勢いでまた別の隅まで吹き飛ばされ、オスカーが血を吐く。

「貴様のようなゴミ屑は二度とエリーゼ様の前に顔を出すな」

「おい、誰か! この屑を部屋にぶちこんでおけ。絶対に出すなよ!!」

「「はっ」」

 部屋に控えていた護衛がオスカーを担いで部屋に連れていく。

「ローズマリー様、申し訳ありません」

 伯爵は元々家を継ぐ予定ではなかった。

 それで同派閥である侯爵家の騎士として、エリーゼの母である先代侯爵に仕えていた。

 兄が急死し、家を継ぐことになったが、こころはいまも先代女侯爵の騎士のつもりでいる。

 亡き女侯爵に娘を頼まれたというのに、このような事になり、伯爵は謝っても謝り切れない思いだった。











 部屋に閉じ込められたオスカーには、なぜこうなったのかが分からなかった。自分は次期侯爵として見出されたのではなかったのか?!

 だが父の言うことが真だとすると、エリーゼに婚約破棄されたオスカーには侯爵家の後継者としての椅子は回ってこないことになってしまう。

 ならどうすればいいか。


 簡単なことだ。エリーゼの婚約者に戻ればいい。

 エリーゼはオスカーに従順だった。頬の一つ二つでも張り、言うことをきかせれば泣いてオスカーに婚約者に戻ってきてくれと頼むだろう。

 元々、エリーゼが勝手に婚約破棄したせいで、オスカーは父に殴られることになったのだ。このくらいの報復はあたりまえだ。

 あとはどうやってこの部屋から逃げ出すか。

 オスカーは賢く夜を待つことにした。





 その夜、部屋から抜け出そうとしたオスカーは簀巻きにされて、鉱山に出荷された。





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