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「私でお役に立てるなら」

 重ねて私が立候補すると、ランス様が驚いて目を見開いた。

「君は一度、あの女の被害にあいかけている。恐ろしくはないか」

 口の中が渇いていく。

「恐ろしい、です」

 ダンに理不尽に婚約破棄を突きつけられた時。足元から世界が崩れるような思いをした。

 あの時は、家を守るために必死だったけれど、あんな思いはもうしたくない。

 けれど、ランス様は。

 ううん。エマも。いま、矢面に立とうとしてるんだ。

 私一人じゃ無理。でもきっと。

「守って、くださいますか」

 ランス様を見上げた。彼は痛ましそうに私を見て、テーブルの上に置かれた私の手に大きな彼の手を添えた。

「震えている」

「はい。お恥ずかしいですが、恐いと、思います」

「そんな無理をする事はないんだ」

 彼の言うとおりだ。私はきっと、守られる側に入っていいんだろう。

 でもエマは私が戦えると信じてくれた。

 その信頼に応えたい。それに。おこがましいとは思うけれど。彼を。



 守りたい。



「私は、とるにたりない小娘に過ぎません。でもエマが、それに貴方が信じてくださるなら。

 戦えます」



 ランス様は苦虫をかみつぶしたような顔をした。

 そして添えただけの手を、握りしめた。

「正直、手詰まりだった。上級貴族の令嬢はみな隠され、残った令嬢達ではあの女を罠にはめるには足りない。でも『それ』が君である必要はないんだ」

 私は、掴まれていない方の手を、彼の大きな手の上に重ね合わせた。

「私ひとりでは、とても。恐ろしくて無理だと思います。でもそうではない。違いますか」

 すぐそばにいる、ランス様の瞳をのぞき込む。神秘的なアースアイが、私の姿を映していた。

 でも彼はすぐに目をそらしてしまった。なのに、ぎゅっと手を握られる。

 どうしてだろう。分からなくて、じっとランス様を見つめた。

 彼はしばらく私から視線を逸らしていたけれど、ためらうように視線を揺らしながら、私を見た。



 やっと見てくれた。



 嬉しくて、口元が綻ぶ。

「守って、くださいますか」

「ああ」

 絞りだすような、ランス様の声。

「ああ、もちろんだ。絶対に、君を守る。あの女に、髪の毛一つさえ、傷つけさせたりしない」

 彼の眼はもう揺れない。それが嬉しかった。





 後でエマに聞いたら、「こうなると思ったんだ」と言われた。





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