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「ごめんなさい。二人とも」

 食堂から校庭の隅のベンチに場所を移し、私はミリアとエマに謝った。

 あんな騒ぎのあった後では、人の多いところにはとてもいけない。

「貴女のせいじゃないわ」

「そうよ。ダンの馬鹿野郎が全面的に悪いんだから」

 エマは右手に拳を作ってベンチを叩いた。

「ダンの相手って、例の女でしょ。男子生徒を片端から誘惑して、婚約を壊しまくっているって噂の転校生。放っておくと大変なことになるわよ」

「そうね、エミリー。今日はもう返った方がいいわ。早めに手を切らないと、ダイアナ様のように名誉を汚されてしまうわ」




 ダイアナ様というのは、侯爵令嬢のダイアナ・スペンサーの事。

 彼女は婚約者をユリア・ロバーツ男爵令嬢に誘惑され、彼女を嗜めようとして罠にかけられ学園から追放されてしまった。

 怒ったスペンサー公爵が、ダイアナ様の元婚約者の家を潰したので、元婚約者も学園を退学したが。それでダイアナ様の名誉が回復する訳ではない。

 よく考えれば、ダンはさっき公衆の面前で私を貶める事で、私を学園から追放しようとしていたのかもしれない。

 背筋が寒くなり、私は身体を抱きしめた。

「そうね。そうするわ」

 そのまま私は教室には返らず、馬車を呼んで帰宅する事にした。鞄はエマが取って来てくれた。








「お父様。申し訳ありません」

 帰宅した私は、執事に言ってすぐに父と面会した。

 仕事中なのに父の執務室にお邪魔するのは申し訳なかったが、事が事だ。手遅れになってはいけない。

「どうしたんだ、エミリー」

 お昼に帰宅した私に、父は訝し気な視線を向けた。

「婚約者のダンに、学園の食堂で婚約破棄を宣言されました。ユリア・ロバーツが関わっていると思われます」

 父は一瞬呆気にとられ。

「あの女か!」

 顔を怒りに染めた。

 ユリア・ロバーツが婚約破棄させた婚約を数えるには、両手の指では事足りない。

 学園に子どもを通わせている貴族の間ではもう噂になっていて、とくにダイアナ・スペンサー侯爵令嬢の件は決定的だった。

 それぞれの家で考え方は違っても、女児は家を繁栄させるための大事な駒だ。それをいたずらに壊されてはたまらない。

 たかが男爵令嬢だが、彼女を使って高貴な方の婚約を壊したい有力者がいるらしく、婚約を壊された家は泣き寝入りしている。

 我が家も、泣き寝入りしたくなければ、こちらから婚約を破棄しなければ、面目が保てない。

「すぐにピュール家とは婚約破棄しよう。婚約破棄が成立するまで、お前は学園を休みなさい」

「はい」

 顔を合わせればどんな難癖をつけられるか分からない。

 弱腰に見えるかもしれないが、ユリアを家の力で潰せない以上、付け入る隙を与えないことが大事だった。




 それにしても。これほどの貴族家を敵に回してユリアは一体何をしたいのか。

 もし彼女が望み通り、公爵令嬢を蹴落として王子の妻となっても、これほど貴族家に嫌われていれば、社交界で生きていけないだろうに。

 父と分かれて自室で寛いでいたが、考えても仕方のない事は考えない。

 ダンとユリアの事は、もう忘れることにした。






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