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『無事、白紙となった』

 その言葉に、家族一同が喜びを露わにする。待ちに待った瞬間だった。

 娘が妻や息子と抱き合い涙を浮かべている。

 使用人一同もこっそりと涙を拭った。しかし嬉しいのはわかるがいつまでも玄関ホールにいるものではないと家令が公爵家一同をサロンに誘導する。

「しかし王子殿下は明日の朝日を拝めるものかな」

 ひとしきり喜び合い、一同がサロンでくつろぐ頃、イリーマスが単純な疑問を落とした。

 第一王子とは浅からぬ縁だ。子どもの頃から知った仲でもあり、浅はかな性根も知れている。婚約破棄の件では殺意を抱いたが、無事解消となったいまは命まで取ろうとは思っていない。

「王妃の実家が人員を送り込む。しばらくは持つだろう」

 王妃の実家は王派閥の伯爵家だ。派閥の筆頭ではないが王家に娘を嫁がせられる程には大きい。ただし王妃の婚姻当時と現在では事情が変わっている。

 王妃の父である前当主が亡くなっているのだ。

 現在は王妃の兄が当主を継いでいるが、王妃とこの兄は仲が悪い。第一王子との仲も微妙だ。それは、伯爵家が第一王子派閥ではなく王派閥であることからも読み取れる。
 
 第一王子を見捨てる事はないだろうが、毎日側妃の殺意が仕事をする環境で以前のように人員を消費させるかは疑問だ。

「王宮は対応しないのですか?」

 王国はこのところ安定していて王宮の人材も豊富だ。第一王子の近衛のように一部の人材は腐っているが。
 しかし依然として王宮では側妃の影響が強いため、側妃の殺意にどこまで対応出来るかは疑問に思える。

「対応はするだろうが王宮の人員は貴重だ。見限られた王子の為に減らすことはないだろう」

 つまりはそういう事だ。

「幼い頃とは違います。殿下には、自分の派閥を作る時間がありました」

 メルルーナ公爵家が、頭を下げた王のために惜しまずに投入した数多の人員のおかげで、第一王子には時間が与えられた。結果的には十数年という時間が。幼子が成人するまでの時間が。

 一時の婚約でも、第一王子がアマーリエを大切にしメルルーナ公爵家を尊重していたら、こうはならなかっただろう。

 メルルーナ公爵家が第一王子派閥の筆頭になった未来もあったかもしれない。メルルーナ公爵家は代々中立派なのでかなり低い可能性ではあるが。

 あるいはアマーリエとの婚約を白紙に戻し、自分の派閥の筆頭となる家の娘と婚約を結び直していたとしても、このような日は来なかった。

 第一王子も、王も、王妃も、メルルーナ公爵家に甘えやるべき責務を果たさなかったことが今日を招いたのだ。

「そういうことだ。我が家の力に依存した上で我が家を顧みることがなかった。殿下も成人だ。明日の朝日を拝むことが出来ずとも、自業自得だろう」

 メルルーナ公爵家の面々は、思い思いに頷いた。




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