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婚約者であるアマーリエに婚約破棄を突きつけたイソベルは、愛しいユリアナを連れて王宮へと向かった。
アマーリエがイソベルの婚約者となったのは、五歳の時だ。
忘れもしない。王妃が愛した庭でイソベルと引き合わされたアマーリエは、イソベルに一目ぼれして筆頭公爵である父親の権力を使ってイソベルの婚約者の座におさまった。
卑怯な女だ。
それでも幼いころは同じ年の子どもというのが珍しく、よく一緒に遊んだものだ。
イソベルが名を呼ぶとはにかむアマーリエは可愛らしくもあった。同時に傲慢でもあった。第一王子であるイソベルに、あれをしてはダメこれをしてはダメと煩く、付き合う相手さえアマーリエの気に入らない者は排除された。
王族の住まう王宮において、たかが公爵の娘の横暴など本来ならありえないことだが、当時は母である王妃が体調をくずしがちであったため王宮が落ち着かず、第一王子の婚約者となったアマーリエの横暴が通ってしまった。
物心がついてからそのことに違和感を覚えたが、すでに周りは公爵の息がかかった者で囲まれ、王子とはいえ子どもにすぎないイソベルにはその環境から抜け出す事が出来なかった。
アマーリエは、いや、メルルーナ公爵家はイソベルを囲い、いずれこの国をほしいままにするつもりなのだろう。それはなんとしても防がねばならなかった。
それだけではない。アマーリエはイソベルを押さえつけるために、いつもイソベルより優秀だと周りの者に言わせていた。アマーリエに比べると秀でたところがないと噂されるのは、王子として屈辱だった。
だが母である王妃の不調は長引き、イソベルはなかなかアマーリエの横暴から逃れることが出来なかった。
そんな中で、王立学園の入学を数年後に控えたイソベルに側近が三人ついた。誰もが高位貴族の子息であり、メルルーナ公爵家の派閥ではない者達だった。
メルルーナ公爵家に忖度しない彼らはイソベルの境遇に憤り、メルルーナ公爵家の影響を排除する事に協力してくれると申し出てくれた。
こんな嬉しいことはない。
メルルーナ公爵家の力は王宮にも及んでいたが、王立学園に通うようになればメルルーナ公爵家以外の貴族の目が増える。そうなれば理不尽な立場におかれているイソベルを助けることもできると彼らは約束してくれた。
実際、王立学園に通うようになると、メルルーナ公爵家の力は目に見えて衰えた。
母である王妃が公務に復帰したことも後押しになったのだろう。
イソベルの立場は、第一王子として、次期王太子として盤石になりつつあった。
そんな中でも、アマーリエとの婚約だけは続いていた。それだけではない。卒業後に婚姻する事まで決まってしまった。
王子の意を汲んで婚約解消すればいいのに。第一王子に縋りつこうとするアマーリエもメルルーナ公爵も醜く卑しい。
だがそんなイソベルを、学園で出会ったユリアナが助けてくれた。
ユリアナが捧げてくれた真実の愛で、イソベルはとうとうアマーリエを排除する事に成功したのだ。
長年メルルーナ公爵家にいいようにされていたイソベルを不甲斐なく思っていただろう父も、きっとイソベルの成長を喜んでくれるはずだ。
そして、イソベルの成長のきっかけとなったユリアナの事も。
イソベルは、ユリアナを真の婚約者にするつもりだ。
王宮からメルルーナ公爵家の影響力を排除し、王太子としてこの国を牽引していく。
その素晴らしい未来には、愛しいユリアナの存在は欠かせなかった。
「どうしたの? イソベル」
王宮へと向かう馬車の中で、すぐ隣に座るユリアナが可愛らしく小首を傾げる。彼女のピンクブロンドの髪が窓から入る光に透けてまばゆく輝く。
「やっとユリアナを婚約者に出来ると思うと、嬉しいんだ」
「私もよ!」
勢いよく抱き着いてきたユリアナを抱き返し、イソベルは幸せそうに笑みをこぼした。
アマーリエがイソベルの婚約者となったのは、五歳の時だ。
忘れもしない。王妃が愛した庭でイソベルと引き合わされたアマーリエは、イソベルに一目ぼれして筆頭公爵である父親の権力を使ってイソベルの婚約者の座におさまった。
卑怯な女だ。
それでも幼いころは同じ年の子どもというのが珍しく、よく一緒に遊んだものだ。
イソベルが名を呼ぶとはにかむアマーリエは可愛らしくもあった。同時に傲慢でもあった。第一王子であるイソベルに、あれをしてはダメこれをしてはダメと煩く、付き合う相手さえアマーリエの気に入らない者は排除された。
王族の住まう王宮において、たかが公爵の娘の横暴など本来ならありえないことだが、当時は母である王妃が体調をくずしがちであったため王宮が落ち着かず、第一王子の婚約者となったアマーリエの横暴が通ってしまった。
物心がついてからそのことに違和感を覚えたが、すでに周りは公爵の息がかかった者で囲まれ、王子とはいえ子どもにすぎないイソベルにはその環境から抜け出す事が出来なかった。
アマーリエは、いや、メルルーナ公爵家はイソベルを囲い、いずれこの国をほしいままにするつもりなのだろう。それはなんとしても防がねばならなかった。
それだけではない。アマーリエはイソベルを押さえつけるために、いつもイソベルより優秀だと周りの者に言わせていた。アマーリエに比べると秀でたところがないと噂されるのは、王子として屈辱だった。
だが母である王妃の不調は長引き、イソベルはなかなかアマーリエの横暴から逃れることが出来なかった。
そんな中で、王立学園の入学を数年後に控えたイソベルに側近が三人ついた。誰もが高位貴族の子息であり、メルルーナ公爵家の派閥ではない者達だった。
メルルーナ公爵家に忖度しない彼らはイソベルの境遇に憤り、メルルーナ公爵家の影響を排除する事に協力してくれると申し出てくれた。
こんな嬉しいことはない。
メルルーナ公爵家の力は王宮にも及んでいたが、王立学園に通うようになればメルルーナ公爵家以外の貴族の目が増える。そうなれば理不尽な立場におかれているイソベルを助けることもできると彼らは約束してくれた。
実際、王立学園に通うようになると、メルルーナ公爵家の力は目に見えて衰えた。
母である王妃が公務に復帰したことも後押しになったのだろう。
イソベルの立場は、第一王子として、次期王太子として盤石になりつつあった。
そんな中でも、アマーリエとの婚約だけは続いていた。それだけではない。卒業後に婚姻する事まで決まってしまった。
王子の意を汲んで婚約解消すればいいのに。第一王子に縋りつこうとするアマーリエもメルルーナ公爵も醜く卑しい。
だがそんなイソベルを、学園で出会ったユリアナが助けてくれた。
ユリアナが捧げてくれた真実の愛で、イソベルはとうとうアマーリエを排除する事に成功したのだ。
長年メルルーナ公爵家にいいようにされていたイソベルを不甲斐なく思っていただろう父も、きっとイソベルの成長を喜んでくれるはずだ。
そして、イソベルの成長のきっかけとなったユリアナの事も。
イソベルは、ユリアナを真の婚約者にするつもりだ。
王宮からメルルーナ公爵家の影響力を排除し、王太子としてこの国を牽引していく。
その素晴らしい未来には、愛しいユリアナの存在は欠かせなかった。
「どうしたの? イソベル」
王宮へと向かう馬車の中で、すぐ隣に座るユリアナが可愛らしく小首を傾げる。彼女のピンクブロンドの髪が窓から入る光に透けてまばゆく輝く。
「やっとユリアナを婚約者に出来ると思うと、嬉しいんだ」
「私もよ!」
勢いよく抱き着いてきたユリアナを抱き返し、イソベルは幸せそうに笑みをこぼした。
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