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「いま例の男爵令嬢の取り巻きはどれくらいいるのかしら」

「7名です。同じクラスで顔のいい方はもういないので、他のクラスも危ないんではないかという話ですわ」

 エミリアが物憂げにため息をつく。

「下位貴族でも顔のいい方は犠牲になってしまうのね」

「例の男爵令嬢をなんとか止められないかしら」

 アリーナが頬に手をあてて悩み、ティセも眉を寄せた。第二王子だけなら王室の醜聞ですむが、7人も被害にあっているとなるとただ事ではない。

「難しいと思いますわ。殿下が庇うなら下手に関われませんもの」

 厄介なことだった。

「せめて同じクラスの方は守りたいわね」

「そうね。あの男爵令嬢が私たちのクラスに来るなんてごめんだもの」

「ほんとだわ。あり得ない」

 アリーナ、アンリ、エミリア。

 ぞっとするわ、と少女達は顔を見合われたが、ではどうすればいいかというと中々案が出ない。

「ティボー子爵令息も最初は遠巻きにしていたのよね。なのに気づいたら取り巻きになっていたんでしょう」

 第二王子の様子を知るためにイレーネから話を聞いていたアンリは、気づかわし気にイレーネを見る。

「ええ。恐ろしいほど魅力がある方」

 悄然とするイレーネをみんなが気の毒そうに見る。アンリだけが何かを考えこんでいた。

「ただの魅力かしら」

「どういうこと?」

「いくら誘われても、殿下の浮気相手に簡単に近づくような方が、そんなにいるのかと思って」

 アンリの提案に皆んなが顔を見合わせる。

「まさか、魔法が関わっているというの?」

 アリーナが恐る恐る聞くと、アンリが頷いた。

「可能性はあると思うの。私たちのクラスには、魔導士長のご子息もいるし、相談してみてはどうかしら」

「クライスに?!」

 エミリアが飛び上がった。

「もしかして、親しいの?」

「幼馴染なんです。気難しいから、簡単に相談に乗ってもらえるか」

「エミリアから話してもらう事は出来るかしら」

「はい、ええ、まあ」

 エミリアがアリーナに助けを求めるように見る。

「どうしたの?」

 アリーナが紅茶のカップを持ったまま首を傾げると、エミリアが言いにくそうに口を開いた。

「アリーナ様が一緒だったら、話を聞いて貰えるかもしれません。クライスはアリーナ様に憧れているから」

 アリーナとティセが顔を見合わせた。

「どういう事?」

「クライスは孤児院にいた事があるんです。昔、誘拐されて、色々あって孤児院で保護されていたそうなんです。その孤児院は、ダヴィッド公爵領にあったので、孤児院を慰問されるアリーナ様に助けられたって」

 アリーナには覚えがない。母が慈善活動に力を入れているから領地の孤児院にはよく行っていたが、子どもだったので一緒に遊んだ覚えぐらいしかなかった。それも10歳ぐらいまでの事だ。領地でお披露目された後は社交と勉強に忙しくて顔を出せていない。一応王子の婚約者だったので、公爵令嬢として以上の教育を受けていた。

「ごめんなさい。思い出せないわ」

「いいんです。クライスが一方的に憧れているだけですから」

 力になれるか分からないけれど、一緒にクライスに頼んでみる事にした。










「クライス、ちょっといい?」

 翌日、移動教室の時にエミリアが声をかけるとクライスは嫌そうに顔を顰めた。

「忙しい」

「分かってる。お昼に時間を取って欲しいの。大切な話があって。お願い」

 エミリアが頭を下げると、クライスはため息をついた。

「分かった。もう行くぞ」

「うん。ありがとう。引き止めてごめんね」

 クライスはエミリアを一瞥もせずに立ち去った。それをこっそり見ていたアリーナとティセは目で合図する。

「難物ね」

「協力してくれるかしら」

「そう願うしかないわ」









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