上 下
2 / 10

2

しおりを挟む
「どういうこと」

 その日、居間に集まった面子を見て、ロザリーには嫌な予感がした。




「エミリーの婚約者の家が没落したんだ。婚約は解消することになった」

 嫌な予感は当たる。特に、この家では。

 

「だからって、なんで私とロブの婚約がなかったのことになるの」

 不安に押しつぶされそうになり、ロザリーはにこにこしている両親とロブの両親、そしてなぜか同じソファに座っているエミリーとロブを見た。


「ロザリーは姉だろう。エミリーの事が可愛くないのか」

 人のものを奪っていく傍若無人な妹など可愛いわけがない。

 それに普通の家なら長女から婚約が決まるものではないだろうか。

「エミリーが言っていたのよ。ロザリーは学院でも人気があるって」

「それにロザリーには婚約の申し込みがあるが、エミリーにはあまりいい家からの申し込みはないからな。このままではエミリーが行き遅れてしまう。その点、ロブなら安心だし。ロザリーとロブの婚約は公になっていないから、婚約者を変えてもロザリーの瑕疵にはならないだろう」

「ロザリーなら、もっと素敵な人と婚約できるわ」

 ロブとロザリー両家の両親が揃った席で、ロザリーの婚約はなかったことになった。

「お姉様なら、婚約を譲ってくれるわよね」

 勝ち誇ったようにエミリーがロブの横に座り腕に纏わり付いていた。
 ロブは引きつったような顔をしているが、両家の両親になにかを言う気はないようだ。

「ロブはエミリーの婚約者になりたいの?」

「婚約は家同士のことだから」

 ロザリーと婚約してもエミリーと婚約しても、ビッスル伯爵家とワイリー子爵家が縁づくことは変わらない。
 貴族の令嬢としてその理屈は分かったが、気持ちが納得しなかった。






「ふざけないで!」






 ロザリーが力の限り叫ぶ。

 初めての反抗だ。

 ロブの両親は驚いたような顔をしたが、ロザリーの両親はうんざりした顔だ。



「我が儘をいうな。おまえの婚約者はすぐに決まる」



 父の一言にたまらなくなって、ロザリーは居間を飛び出し部屋に駆け込んだ。

「ロザリー!」

 ロブの声がしたが、両家両親になだめられたのか、誰も追ってはこなかった。
 部屋に閉じこもったロザリーの耳に、居間から笑い声が聞こえてくる。

 父も母もアクセサリーもドレスも、素敵なものはすべてエミリーが奪っていった。ロザリーの元に残るのは、エミリーが飽きた子どものようなドレスやおもちゃばかりだ。

 ロブだけは違うと思いたかった。ロブはロザリーの家族の事も知っている。ロザリーの気持ちを分かってくれると思ったのに。結局、ロブもエミリーに奪われてしまった。



「くやしい! くやしい! くやしい!」



 ベッドにしがみつき、何度も何度も、ロザリーは拳をたたきつけた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

金の亡者は出て行けって、良いですけど私の物は全部持っていきますよ?え?国の財産がなくなる?それ元々私の物なんですが。

銀杏鹿
恋愛
「出て行けスミス!お前のような金のことにしか興味のない女はもううんざりだ!」  私、エヴァ・スミスはある日突然婚約者のモーケンにそう言い渡された。 「貴女のような金の亡者はこの国の恥です!」  とかいう清廉な聖女サマが新しいお相手なら、まあ仕方ないので出ていくことにしました。  なので、私の財産を全て持っていこうと思うのです。  え?どのくらいあるかって?  ──この国の全てです。この国の破綻した財政は全て私の個人資産で賄っていたので、彼らの着てる服、王宮のものも、教会のものも、所有権は私にあります。貸していただけです。  とまあ、資産を持ってさっさと国を出て海を渡ると、なんと結婚相手を探している五人の王子から求婚されてしまいました。  しきたりで、いち早く相応しい花嫁を捕まえたものが皇帝になるそうで。それで、私に。  将来のリスクと今後のキャリアを考えても、帝国の王宮は魅力的……なのですが。  どうやら五人のお相手は女性を殆ど相手したことないらしく……一体どう出てくるのか、全く予想がつきません。  私自身経験豊富というわけでもないのですが、まあ、お手並み拝見といきましょうか?  あ、なんか元いた王国は大変なことなってるらしいです、頑張って下さい。 ◆◆◆◆◆◆◆◆ 需要が有れば続きます。

婚約者を妹に奪われました。気分が悪いので二人を見なくて良い場所へ行って生きようと思います。

四季
恋愛
婚約者を妹に奪われました。気分が悪いので二人を見なくて良い場所へ行って生きようと思います。

本当は幼馴染を愛している癖に私を婚約者にして利用する男とは、もうお別れしますね─。

coco
恋愛
私は、初恋の相手と婚約出来た事を嬉しく思って居た。 だが彼は…私よりも、自身の幼馴染の女を大事にしていて─?

婚約破棄と言いますが、好意が無いことを横においても、婚約できるような関係ではないのですが?

迷い人
恋愛
婚約破棄を宣言した次期公爵スタンリー・グルーバーは、恥をかいて引きこもり、当主候補から抹消された。 私、悪くありませんよね?

メイクをしていたなんて俺を騙していたのか、と婚約破棄された令嬢は自分の素顔を見せる。素顔をみてまた婚約してくれと言ってももう遅い

朱之ユク
恋愛
 メイクが大好きなお年頃のスカーレットは婚約者に自分がメイクをしていることを言うと、なんと婚約者のグレイからメイクをしているなんて俺を騙していたのかと言われて、なんと婚約破棄されてしまった。  最後の両親との話し合いの時にメイクをせずに挨拶に行ったら、やっぱりあの時の言葉は嘘だったと言われたけど、そんなことを言われてももう遅い。  私はメイクをしながら自由に生きていきます。

聖女を無能と罵って婚約破棄を宣言した王太子は追放されてしまいました

もるだ
恋愛
「お前とは婚約破棄だ! 国から出ていけ!」 王命により怪我人へのお祈りを続けていた聖女カリンを罵ったのは、王太子のヒューズだった。若くて可愛い聖女と結婚するつもりらしい。 だが、ヒューズの暴挙に怒った国王は、カリンではなく息子の王太子を追放することにした。

双子の妹は私から全てを奪う予定でいたらしい

佐倉ミズキ
恋愛
双子の妹リリアナは小さい頃から私のものを奪っていった。 お人形に靴、ドレスにアクセサリー、そして婚約者の侯爵家のエリオットまで…。 しかし、私がやっと結婚を決めたとき、リリアナは激怒した。 「どういうことなのこれは!」 そう、私の新しい婚約者は……。

妹が処刑さる……あの、あれは全て妹にあげたんです。

MME
恋愛
妹が好きだ。妹が欲しい物はみんなあげる。それであの娘が喜ぶなら何だって。それが婚約者だって。どうして皆が怒っているんだろう。お願いです妹を処刑しないで下さい。あれはあげたんです。私が我慢すればいいのです。

処理中です...