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完全生命体をひん剥いてど〜すんのさ?

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 ■復讐するは吾にあり
 現在、地球人の話題は空に集中している。大洗礼の生き残りはヒマラヤ山脈やアンデス高地などではなくほとんどが成層圏に逃れている。津波襲来時に恒星間巡洋艦や大気圏往還機が駐機場周辺の人間を拾い上げた。そこへタッシーマ星間帝国が殺戮機械バーサーカーを派遣して難民を救済した。
 転生がもっとも困難になる「魂の喪失ロスト」問題を解決するのに有効なはずの冥界を渡る往生特急の利用について理由は定かでないがほとんど言及されることはなかった。しかしその事情は変わった。
 今後生じるであろう残り僅かな犠牲者を余すところなく回収する為に、重工業プラント衛星が列車を大車輪で新造している。

 その監督者は、あろうことか文豪カミュである。
 彼は驚きの声で迎えられた。いったいどの面を下げて地上に舞い戻ってきたのだろう。
 死後の世界をこの地上に落とすという、人工黙示録ともいうべき大悪行をなぜ、ひとびとは許したのか。普通に考えれば現世と来世の衝突は世界の破壊を意味している。
 彼はこう暴露した。

「誤った時間軸から来た侵略者が神を捏造しようと企んでいる!」
 特権者戦争開戦につぐ爆弾発言に世界はふたたびどよめいた。

「父祖樹という得体のしれない生命体が人型吸血食虫植物ウルトラファイトを率いて創造神話を書き直している!」

 彼は威勢の良い発言で無神論者を煽った。かつてシアに語った通り、革命者が徒党を組んで神と事を構える気満々だ。

「人間が唯一偉大であるのは、自分を越えるものと闘うからである!」

 カミュは死生観を根底から破壊する方程式を知っている。

 惑星プリリム・モビーレは万物流転の要石として特権者が据えたものだ。
 古来より宗教家や哲学者はいう。
「形あるものは必ず滅びる」

 じっさい、発生と消滅が森羅万象の法則だと人々が信じるままに、宇宙は生と死の世界に分割された。
 それは人類の宇宙進出を阻む特権者が仕掛けた巧妙な罠であり、惑星プリリム・モビーレが輪廻転生という茶番劇の回転軸として今もなお温存されている。

 カミュは喝破した。栄枯盛衰は変化の固定を否定する概念であって、必ずしも無に帰す必要はない。いったん「死ななければならない」という強迫観念が人間を抑制し、恐怖心に便乗した宗教が支配と簒奪をほしいままにしてきた。

「重要なのは変化し続けることであって、停滞は義務ではないどころか、害悪ですらある。だから、私はプリリム・モビーレを地球にぶつけて偽りの周期を破壊する。その後に生まれるのは無数の渦動だ。人々は運命の車輪をそれぞれの足で漕ぐべきだ」

 カミュはそういうと、一人の天使を伴って現れた。彼女――妻アンジェラの頭上から神々しく輝く輪を取り外し、彼女の両脚の間にはめた。

「神はすでに死んでいる。だが、彼に対する審判はまだ下されていない。われわれが甦らせ、裁きを下し、地獄の業火に投げ入れる」

 彼はこう叫んで父祖樹に宣戦布告した。その後、アンジェラと天使の一輪車乗り達が避難民を従えて成層圏を離脱した。

 ■シア・フレイアスターの仰天中二戦術
 ヴァレンシア姫に関する嫌疑もさることながら、シアの頭痛の種はカミュとガロンに対して支援者抜きの二正面作戦を強いられていることだ。

「で、結局、おか~さんはどっちに付くの?」

 LCC-577強襲揚陸艦スティックスの戦闘指揮所で長女れなが物思いに耽るシアに声をかけた。
「輪廻転生の破壊も、完全生命体による支配もまっぴらごめんよ」
「じゃあ、今まで通り人間は死ぬ方がいいの?」

 中二病娘は文豪や父祖樹の論拠を自分の養母がどう論破するのか聞いてみたかった。

「人間には形而上の存在が必要不可欠だと思うわ。往生特急に乗って霊魂の回収とクローン蘇生ができる時代になっても喪失ロストという克服できない問題がある。恐怖に麻痺したら人間はお終い」
「誰かさんはお母~さんを一番おそれているものね」

 真帆が皮肉たっぷりに玲奈を見やる。

「う、うっさいわね。あんただって太刀打ちできないでしょ~が。三千世界最強の何たらさんw」
「何よ~」

 言い返された妹は反論する代わりに姉を押し倒した。プリーツスカートが派手にめくれ、くんずほぐれつの喧嘩が始まる。

 シアは必殺のエルフ耳つまみエルフピッチを繰り出そうとして止めた。

「……そうだわ――面白い作戦を思いついた!」

 彼女の目の前で取っ組み合いはエスカレートして服剥ぎデスマッチキャットファイトに移行している。

 真帆が玲奈のセーラー服を襟元から破りとり、玲奈は妹のスカートをブルマごと引きちぎる。
「あのう……娘さんたちを叱らないんですか?」

 ハッシェが遠慮がちに尋ねる。そこへシアが歩み寄って何やら耳打ちした。
「ええっ? そ、そんな!」

 彼女の横でシアは暁と柊真とうまの元奪衣婆姉妹を手招きした。
 四人がひそひそ話を続ける間にオーランティアカの姉妹は身に着けている物を全て失い、互いに翼を毟りあっている。

「ね~おか~さ~~ん。おね~~ちゃんめて~~」

 真帆が涙目で仲裁を訴える。すでに右の翼は手羽先肉のようにピンク色の鳥肌をさらしている。

「潮時ね」
 シアは小声で【凍時】の術式を唱えた。姉妹はとてもお嫁に行けないようなポーズのまま空中に静止した。

 暁がヌードモデルを真面目にデッサンするような目つきで観察している。柊真はときおり姉に助言を求めながら、真剣に数式を書き付けている。

「どうかしら?」
 じっと小一時間ほど作業を見守った後、シアは進捗状況を尋ねた。

「ええ、シアさんの予想どおり、術者同士の衝突において幾つかの特徴的な兆候が見られました」
 柊真は壮絶な姉妹喧嘩から何らかのヒントを見出したようだ。

「そっちの方はどうかしら?」
 シアはプリリム・モビーレの3D惑星儀ごしにハッシェを呼んだ。
「ええ……地獄大陸のこことここ。あと、レーテ―河流域のこの付近に幽子波異常アノマリーが見られます」

 惑星儀の該当箇所が明滅し、人口分布図が被さる。
「奪衣婆の人口密集地と重なるわね。やはり、未来は貴女たちの双肩にかかっているわ!」
 既に勝利したかのようにシアが言う。
「でも。出来っこないですよ。完全生命体を『脱がす』だなんて!」
 及び腰のハッシェ。
「プリリム・モビーレの軌道を変えるには他に方法が無いのよ。三人でお仲間を説得してちょうだい。奪衣婆の総力を結集してほしいの」
「シアさん。無茶を言わないでください。貴女の提案は奪衣婆の滅亡につながるんですよ」
 さすがに受け入れ難いとばかりに暁が首を振る。
「このままでは惑星が砕けてしまうわ」
 シアも厳しい現実を突きつける。
「奪衣婆やめてメイドサーバントになっても、剥ぎ取りの仕事は世話して下さるんでしょうねぇ? 私たちは他人を脱がしてナンボなんですよ」
 柊真は譲れない一線を提示した。
「ええ。警察のお仕事なんかどうかしら? 戦闘純文学者はヒエロニムス繊維の服が無いと術式が使えないの」
 シアはこともなげに言い返した。
「暴徒鎮圧とか犯人取り押さえですか? かっこいい」
 暁が目を輝かせる。
「わたしも機動隊員やってみたいかも」
 ハッシェも同意する。
「とりあえず、その線でお友達を説得してみてちょうだい」
 シアは半ば強引に強襲揚陸艦三隻を送り出した。バーニャの輝きが地獄大陸の闇へ消えていく。

「完全生命体をひん剥いてど~すんのさ?」
 新品のセーラー服に袖を通しながら玲奈がぼやいた。
「父祖樹の意図する『神』が人間の延長線上にあると仮定するなら、医学的に人体構造を踏襲していると考えられるわ」
 シアは人体図を指しながら答えた。
「完全生命体が服を着てるとは思えないけど……」
 真帆も上の空でブルマに脚を通している。
「奪衣婆たちに頑張ってもらうのは人格の剥離よ。『神』の理性を一皮むけば、生物学的な反射が顔を出すわ。成人が普段は抑圧している子供じみた部分」
「たしかに、神話でも聖書でも神様って時々嫉妬したり中二っぽくふるまうよね」
 中二病者玲奈が自嘲気味に言う。
「原始反射とも言われる行動よ。乳児が寝返りをうったり。神格生命体は未知数だけど、なにがしか不随意な動きを引き出せるはず」
「だいたい見えてきたよ。お母さんもエゲつないね。神が取り乱した隙を突こうなんてさ」
「うっさいわね。ここ一番にエゲつない戦闘力を発揮するといわれているのよ。シア・フレイアスターは」
シアは惑星プリリム・モビーレ儀をクルンと回した。

「あとは攻撃をココと此処に導いてやるだけよ。問題は文豪ね」
真帆が立体像をつつきながら難しい顔をした。



「本日はお日柄もよく、愚者王様におかれましては……」
大アルカナ市の目抜き通りに超大型水晶玉が設えられ、黒山の人だかりができている。
人々の目は希望に満ち溢れている。
ガロン提督という英雄が決戦兵器をもたらしてくれたのだ!
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