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ヘヴィ・ギア
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■ 大洗礼後の地球
爛熟した二十七世紀文明の象徴ともいえる白夜大陸(旧南極)、アムンゼン・スコット基地を洗い流した濁流はとどまることを知らない。
ユーヤーク、パンプキング、レオグラード、ルマルエイセス、アキバーラといった旧地下五大都市すらも水浸しにした挙句、世界の屋根に氷水を浴びせた。
「ええ、直接的な水死者だけでも十億人。異常気象や疫病や食糧難など生存者をこれから襲う艱難を考えると三、四十億に跳ね上がるでしょう」
タッシーマ星間王国妃、チキバード姫は声を詰まらせた。先ほどから王宮には人類圏の首脳が詰めかけて緊急会談を開いている。
「やっぱり、大逆賊は大逆賊だ。シア・フレイアスターをあの三日間戦争のあと喪失刑にしておけばよかったものを!」
フランクマン・ロムルス共和国暫定大統領が激しく非難した。
「だいたい、二度も三度も人類に敵対した女をなぜ厚遇しておったのだ」
副大統領も姫に噛みついた。
「静粛に。ここは国連緊急安保理です。二国間協議の場ではありません。それに、シアは操られていただけです。今回も実行犯は別にいる可能性が濃厚です。彼女を侮辱すると人類圏臨時総書記チキバード・バレンシアの名において退場を命じますよ」
姫はヒヨコの髪飾りを揺らして声を荒げた。
「ほぉおおおおお! すいぶんと淫売を擁護なさる。さては、卒業後もそのよ~なご関ケぴョ!」
紅潮した姫の片手から白煙がたちのぼっている。衛兵が素早く血糊と狼男のサシミを片付ける。
「国連憲章第五条に基づく敵対行動と見なしフランクマン・ロムルス副大統領を議場より緊急排除しました」
姫君は会場のどよめきを凛とした声で制した。
「正確な情報に照らした客観的かつ冷静なご判断を願いたい」
部下の粗相を詫びるように共和国大統領が言った。
「さて、フレイアスター艦隊から送られてきた報告書によれば……」
チキバードは事件の背景に時間侵略者がいるという。暫定的に未来勢と呼ぶことにする。彼らもまた謎のロボット生命体に脅かされており、地方の分派が惑星露の都でガロン提督たちと接触したという。
「慈姑王朝ですね。それもまた、内紛しているからややこしい」
狼男の大統領は毛皮をかきむしった。
「彼らはロボットに対抗できる強烈兵器を欲しており、露の都に沸いたヴァンパイア達と利害一致したようです」
チキはバレル大佐のよこした動画を示した。
「ほう、これがウルトラファイト!?」
狼男が総毛だつほど不気味な姿が描かれている。
食虫植物というのか、冬虫夏草というのか、ともかく、見た目は愛らしい人間の女子高生のようだが、耳孔や鼻の穴から昆虫の触角のようなものが見え隠れしている。スカートからは二本の脚に加えて、にゅるにゅるした触手が生えており、胸元の鎖骨付近に蜂の巣のような複眼がある。人間の顔に見えた部分に再び着目してみると、顔は青白く、眼は死んだ魚のようでもあり、血が通っていない可能性がある。
「冬虫夏草と違うのは、養分を採るために寄生しているのではなく、外部臓器として活用する目的があります。その証拠に『彼女』は、必要に応じて生気を取り戻し、触手部分も格納して、まるで生きている人間のごとくふるまうのです」
姫が別の動画に切り替えた。おろしたてのセーラー服を纏ったウルトラファイトたちが下校途中のようにキャッキャッと談笑している。
「うげろぉ……。おっと、失敬」
大統領は吐き気を催した後、慌てて口元をぬぐった。
「三次元酔いを起こすのは当然です。遠近感がおかしいでしょ? だって、彼らは人間の十倍もあるのですから」
チキバードは意にも介さず、側近に酔い止めと冷たい水を配らせた。
「ありがとう。ところで、そのウルトラファイトに対抗策はあるんですか」
「「「あんな化け物どうしろと」」」
「「「人類の手に余る」」」
「「「ライブシップが沈められたっていうじゃないか」」」
フランクマン大統領をはじめ、各国の首脳からも同じ質問が飛んだ。
「貴女のお国の殺戮機械とやらで退治できるんでしょうな? ならば、なぜ手をこまねいて……」
「アリスギー副大統領が仰る通り、やはりこれはタッシーマの策略……」
囂々たる喧騒を激震が掻き消した。
「「「――――ッ?!」」」
一同は声を失った。
王宮の天井がさっぱりと消え去り、巨大な鋼鉄の鎧が覗き込んでいる。赤い装甲スカートが豪奢なドレスの様に広がっている。
『王立第一巨科兵団ムラニシ・アカネ元帥、勅命により馳せ参じました』
バイザーがあがり、等身大の少女が顔をのぞかせる。
さぁっと黒髪が風になびく。つい見とれて、その方向に視線を巡らせると、王宮広場を同様の機体がびっしりと埋めている。
「じゅ、重メイドサーバントだと? た、大量破壊兵器保有禁止条約違反じゃないのかね?」
タッシーマを快く思わない勢力は、ここぞとばかりに批判した。
「今さらあたしの許可が必要?」
フランチェスカ・コヨーテ・枕崎はチキバードの腰に手をまわし、軍神の名をほしいままにした。
■タッシーマ星間帝国ヴァレンシア公領ポート・ヴァレンシア
事件が日常と化す世界で平常心がどういう価値を持つだろうか。シアはぐらつく見当識を立て直すだけで気力を使い果たした。
つい、半日前まで人類の敵呼ばわりされたかと思えば、三顧の礼で迎えられる。ジェットコースターのような境遇に心休まる暇はない。
またいつか、周囲が手の平を返すとも限らない。
「寝られやしないわ」
彼女は甲板に出ると寝汗で湿ったセーラー服をびりりと破いた。そよぐ風に翼を任せる。王都の街明かりが地平線に浮かぶ。ちぎれたレオタードやスカートの残骸が吹きすさぶ中を進んでいく。港の上空には先客がいた。
自然と手を取り合い、遠い鬼火を背に、グルグルと夜のとばりを舞い踊る。
「まだアンジェラの事を想っているの?」
物憂げな中央作戦局長の心中を言い当ててみせる。
「あんな娘じゃなかったのに……」
「大佐の予想を信じたくはないけど、相手が特権者戦争の立役者となれば、コロッと参ってしまわない子はいないでしょうね」
「繋ぎ止められなかったわたしが悪いとは思うけど……」
「転生システムを破壊して人類の未来を閉じてしまうなんて、ずいぶん後ろ向きだと思わない? その程度のコだったのよ」
「はーぁ。アンタみたいなプラス思考ができればねぇ。女はなかなか『次、行こう』なんて切り替えは出来ないものよ」
「あらまぁ。勤務中は男みたいな口の利き方してるくせに?」
「貴女は勘違いしているわ。男を真似ることが男に勝つことじゃないの。男前な乙女で在り続けることが大事よ」
「査察機構が崩壊しても、戦闘純文学者も失墜しても、とうぶん女性優位は揺らぎませんよ。どーんと構えましょう」
シアはこともなげに言った。
「あなたねぇ……」
メディアは言いよどんだが、言い返せるだけの自信が残っていることをシアが先に見ぬいてしまう。
「もしかして、あのアカネとかいう子。気になるんじゃ?」
内心を見透かされて局長は照れ隠しする。
「べ、別にそういうつもりじゃないんだけど、ちょっと引っかかって……」
「わたしも! フランチェスカのやつ、わたしというヨメがありながら~~」
「ほぉんと。チキちゃんもチキちゃんよね。シアという元カノが居ながら、ドコであんな子を」
「探ってみる?」
「そうよ。こういう時こそ、査察機構中央作戦局長権限~~」
メディア・クラインはビキニパンツとアンダースイムショーツの間に挟んだ宝珠を取り出してみせた。
術式を展開して艦隊共同交戦システムに働きかける。驚いたことにハンターギルドの専用回線は復旧していた。もっとも、タッシーマ星間帝国の勢力圏を中心とした暫定的なものだが。とうぜん、アクセスできるデータも帝国軍に準拠する。
開示された資料によると、重メイドサーバント/ヘヴィ・ギアはIAMCPがVRMMOシステムのテストベッドとして試作したという。仮想世界で巨大ロボット兵器をエミュレーションするにあたり、そこではじき出した計算結果に基づいて「実物」を製作することで、リアルとヴァーチャルの物理学が「どれほど乖離しているのか」検証したかったのだという。
フィードバックデータを得た後に試作機は廃棄されたと公式には記録されている。
「おぼろげながら見えてきたわ。この戦争の本当の黒幕が……」
シアは声を震わせずにはいられなかった。虚空に原色のウインドウやフォントがチカチカと瞬いている。あふれ出る涙が冷酷な分析結果を曇らせる。
だが、人類の行く末がシアの判断にかかっているのだ。できることなら、厳しい結果に私情を交えたい。しかし、手ぬるさは却って状況を悪化させる。
「チキ……貴女はずっとお友達でいてほしかったけど……」
シアの面前には状況証拠が積み重なっていく。
「……いいえ。これからもずっとお友達でいてほしいから……」
強襲揚陸艦のサブシステムは一連の騒動をタッシーマ星間帝国によるマッチポンプだと断言している。
「この手で殺さなければならない……」
シアは募る思いを振り払うように光学キーボードをたたく。いくら条件を緩和してみても、IAMCPの流出データがタッシーマ星間帝国に渡った痕跡は隠せない。
「あたしの手できっちりと」
妖精王国を苛んでいるロボット軍団の機体とヘヴィ・ギアのシニフィエが合致した。タッシーマ星間帝国の文化パターンを見逃すよう、何度もスクリプトを書き直した。しかし、シアのあがきは徒労に終わる
「引導を……引導を……」
ガロン提督やカミュの存在とタッシーマ星間帝国をどう関連付ければいいのか、シアは判断に迷う。まだ説明がつかない部分が多すぎるのだ。チキバードはシロであってほしいと願う。
「ごめんね……大好きだった……から……大好きだからこそ……」
<タッシーマ星間帝国が全面関与している可能性 99・8…>
シアは、回線をシャットダウンした。
爛熟した二十七世紀文明の象徴ともいえる白夜大陸(旧南極)、アムンゼン・スコット基地を洗い流した濁流はとどまることを知らない。
ユーヤーク、パンプキング、レオグラード、ルマルエイセス、アキバーラといった旧地下五大都市すらも水浸しにした挙句、世界の屋根に氷水を浴びせた。
「ええ、直接的な水死者だけでも十億人。異常気象や疫病や食糧難など生存者をこれから襲う艱難を考えると三、四十億に跳ね上がるでしょう」
タッシーマ星間王国妃、チキバード姫は声を詰まらせた。先ほどから王宮には人類圏の首脳が詰めかけて緊急会談を開いている。
「やっぱり、大逆賊は大逆賊だ。シア・フレイアスターをあの三日間戦争のあと喪失刑にしておけばよかったものを!」
フランクマン・ロムルス共和国暫定大統領が激しく非難した。
「だいたい、二度も三度も人類に敵対した女をなぜ厚遇しておったのだ」
副大統領も姫に噛みついた。
「静粛に。ここは国連緊急安保理です。二国間協議の場ではありません。それに、シアは操られていただけです。今回も実行犯は別にいる可能性が濃厚です。彼女を侮辱すると人類圏臨時総書記チキバード・バレンシアの名において退場を命じますよ」
姫はヒヨコの髪飾りを揺らして声を荒げた。
「ほぉおおおおお! すいぶんと淫売を擁護なさる。さては、卒業後もそのよ~なご関ケぴョ!」
紅潮した姫の片手から白煙がたちのぼっている。衛兵が素早く血糊と狼男のサシミを片付ける。
「国連憲章第五条に基づく敵対行動と見なしフランクマン・ロムルス副大統領を議場より緊急排除しました」
姫君は会場のどよめきを凛とした声で制した。
「正確な情報に照らした客観的かつ冷静なご判断を願いたい」
部下の粗相を詫びるように共和国大統領が言った。
「さて、フレイアスター艦隊から送られてきた報告書によれば……」
チキバードは事件の背景に時間侵略者がいるという。暫定的に未来勢と呼ぶことにする。彼らもまた謎のロボット生命体に脅かされており、地方の分派が惑星露の都でガロン提督たちと接触したという。
「慈姑王朝ですね。それもまた、内紛しているからややこしい」
狼男の大統領は毛皮をかきむしった。
「彼らはロボットに対抗できる強烈兵器を欲しており、露の都に沸いたヴァンパイア達と利害一致したようです」
チキはバレル大佐のよこした動画を示した。
「ほう、これがウルトラファイト!?」
狼男が総毛だつほど不気味な姿が描かれている。
食虫植物というのか、冬虫夏草というのか、ともかく、見た目は愛らしい人間の女子高生のようだが、耳孔や鼻の穴から昆虫の触角のようなものが見え隠れしている。スカートからは二本の脚に加えて、にゅるにゅるした触手が生えており、胸元の鎖骨付近に蜂の巣のような複眼がある。人間の顔に見えた部分に再び着目してみると、顔は青白く、眼は死んだ魚のようでもあり、血が通っていない可能性がある。
「冬虫夏草と違うのは、養分を採るために寄生しているのではなく、外部臓器として活用する目的があります。その証拠に『彼女』は、必要に応じて生気を取り戻し、触手部分も格納して、まるで生きている人間のごとくふるまうのです」
姫が別の動画に切り替えた。おろしたてのセーラー服を纏ったウルトラファイトたちが下校途中のようにキャッキャッと談笑している。
「うげろぉ……。おっと、失敬」
大統領は吐き気を催した後、慌てて口元をぬぐった。
「三次元酔いを起こすのは当然です。遠近感がおかしいでしょ? だって、彼らは人間の十倍もあるのですから」
チキバードは意にも介さず、側近に酔い止めと冷たい水を配らせた。
「ありがとう。ところで、そのウルトラファイトに対抗策はあるんですか」
「「「あんな化け物どうしろと」」」
「「「人類の手に余る」」」
「「「ライブシップが沈められたっていうじゃないか」」」
フランクマン大統領をはじめ、各国の首脳からも同じ質問が飛んだ。
「貴女のお国の殺戮機械とやらで退治できるんでしょうな? ならば、なぜ手をこまねいて……」
「アリスギー副大統領が仰る通り、やはりこれはタッシーマの策略……」
囂々たる喧騒を激震が掻き消した。
「「「――――ッ?!」」」
一同は声を失った。
王宮の天井がさっぱりと消え去り、巨大な鋼鉄の鎧が覗き込んでいる。赤い装甲スカートが豪奢なドレスの様に広がっている。
『王立第一巨科兵団ムラニシ・アカネ元帥、勅命により馳せ参じました』
バイザーがあがり、等身大の少女が顔をのぞかせる。
さぁっと黒髪が風になびく。つい見とれて、その方向に視線を巡らせると、王宮広場を同様の機体がびっしりと埋めている。
「じゅ、重メイドサーバントだと? た、大量破壊兵器保有禁止条約違反じゃないのかね?」
タッシーマを快く思わない勢力は、ここぞとばかりに批判した。
「今さらあたしの許可が必要?」
フランチェスカ・コヨーテ・枕崎はチキバードの腰に手をまわし、軍神の名をほしいままにした。
■タッシーマ星間帝国ヴァレンシア公領ポート・ヴァレンシア
事件が日常と化す世界で平常心がどういう価値を持つだろうか。シアはぐらつく見当識を立て直すだけで気力を使い果たした。
つい、半日前まで人類の敵呼ばわりされたかと思えば、三顧の礼で迎えられる。ジェットコースターのような境遇に心休まる暇はない。
またいつか、周囲が手の平を返すとも限らない。
「寝られやしないわ」
彼女は甲板に出ると寝汗で湿ったセーラー服をびりりと破いた。そよぐ風に翼を任せる。王都の街明かりが地平線に浮かぶ。ちぎれたレオタードやスカートの残骸が吹きすさぶ中を進んでいく。港の上空には先客がいた。
自然と手を取り合い、遠い鬼火を背に、グルグルと夜のとばりを舞い踊る。
「まだアンジェラの事を想っているの?」
物憂げな中央作戦局長の心中を言い当ててみせる。
「あんな娘じゃなかったのに……」
「大佐の予想を信じたくはないけど、相手が特権者戦争の立役者となれば、コロッと参ってしまわない子はいないでしょうね」
「繋ぎ止められなかったわたしが悪いとは思うけど……」
「転生システムを破壊して人類の未来を閉じてしまうなんて、ずいぶん後ろ向きだと思わない? その程度のコだったのよ」
「はーぁ。アンタみたいなプラス思考ができればねぇ。女はなかなか『次、行こう』なんて切り替えは出来ないものよ」
「あらまぁ。勤務中は男みたいな口の利き方してるくせに?」
「貴女は勘違いしているわ。男を真似ることが男に勝つことじゃないの。男前な乙女で在り続けることが大事よ」
「査察機構が崩壊しても、戦闘純文学者も失墜しても、とうぶん女性優位は揺らぎませんよ。どーんと構えましょう」
シアはこともなげに言った。
「あなたねぇ……」
メディアは言いよどんだが、言い返せるだけの自信が残っていることをシアが先に見ぬいてしまう。
「もしかして、あのアカネとかいう子。気になるんじゃ?」
内心を見透かされて局長は照れ隠しする。
「べ、別にそういうつもりじゃないんだけど、ちょっと引っかかって……」
「わたしも! フランチェスカのやつ、わたしというヨメがありながら~~」
「ほぉんと。チキちゃんもチキちゃんよね。シアという元カノが居ながら、ドコであんな子を」
「探ってみる?」
「そうよ。こういう時こそ、査察機構中央作戦局長権限~~」
メディア・クラインはビキニパンツとアンダースイムショーツの間に挟んだ宝珠を取り出してみせた。
術式を展開して艦隊共同交戦システムに働きかける。驚いたことにハンターギルドの専用回線は復旧していた。もっとも、タッシーマ星間帝国の勢力圏を中心とした暫定的なものだが。とうぜん、アクセスできるデータも帝国軍に準拠する。
開示された資料によると、重メイドサーバント/ヘヴィ・ギアはIAMCPがVRMMOシステムのテストベッドとして試作したという。仮想世界で巨大ロボット兵器をエミュレーションするにあたり、そこではじき出した計算結果に基づいて「実物」を製作することで、リアルとヴァーチャルの物理学が「どれほど乖離しているのか」検証したかったのだという。
フィードバックデータを得た後に試作機は廃棄されたと公式には記録されている。
「おぼろげながら見えてきたわ。この戦争の本当の黒幕が……」
シアは声を震わせずにはいられなかった。虚空に原色のウインドウやフォントがチカチカと瞬いている。あふれ出る涙が冷酷な分析結果を曇らせる。
だが、人類の行く末がシアの判断にかかっているのだ。できることなら、厳しい結果に私情を交えたい。しかし、手ぬるさは却って状況を悪化させる。
「チキ……貴女はずっとお友達でいてほしかったけど……」
シアの面前には状況証拠が積み重なっていく。
「……いいえ。これからもずっとお友達でいてほしいから……」
強襲揚陸艦のサブシステムは一連の騒動をタッシーマ星間帝国によるマッチポンプだと断言している。
「この手で殺さなければならない……」
シアは募る思いを振り払うように光学キーボードをたたく。いくら条件を緩和してみても、IAMCPの流出データがタッシーマ星間帝国に渡った痕跡は隠せない。
「あたしの手できっちりと」
妖精王国を苛んでいるロボット軍団の機体とヘヴィ・ギアのシニフィエが合致した。タッシーマ星間帝国の文化パターンを見逃すよう、何度もスクリプトを書き直した。しかし、シアのあがきは徒労に終わる
「引導を……引導を……」
ガロン提督やカミュの存在とタッシーマ星間帝国をどう関連付ければいいのか、シアは判断に迷う。まだ説明がつかない部分が多すぎるのだ。チキバードはシロであってほしいと願う。
「ごめんね……大好きだった……から……大好きだからこそ……」
<タッシーマ星間帝国が全面関与している可能性 99・8…>
シアは、回線をシャットダウンした。
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