狼の仮面

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御堂は走る。ひたすらに走った。

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御堂は走る。ひたすらに走った。
どこへ向かっているのかは自分でもよくわからない。ただ、足を止めることができなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
呼吸が苦しい。心臓が破裂してしまいそうなほど激しく脈打っている。それでも御堂は走り続けた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
どれくらいの時間、走り続けていただろうか? もう何時間も走っているような気がするし、ほんの数秒しか経っていないようにも思える。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
御堂は足を止めた。全身汗まみれで、犬のように身震いした。しずくが後光のように輪を描いて飛散する。月の光を受けて虹がかかる。綺麗だ。もっと身震いする。また飛沫が虹をえがく。感動して思わず吠える。
「うぉぉぉーん」
すると遠くから誰かが近づいてきた。あの男だった。男は御堂を見ると駆け寄り、肩に手をかけた。「おい、大丈夫か?」男は問いかけてきた。
誰の声だろう? 耳鳴りで聞き取れない。
男はもう一度言った。
「本当に大丈夫か?だいぶ苦しそうだが」
御堂は答えた。
「ええ、なんとか」男は安堵の息を吐いた。
「そうか。よかった」
御堂は男を見上げた。背が高い。かなり高い方だ。百八十センチ以上はある。黒いコートを着ていた。
「大丈夫ならいいんだが、お前、顔が異常に毛深いぞ? まるで獣みたいだ」と男は後ずさった。「あなたこそ、顔がおかしいですよ」と御堂は言い返した。「私は普通だが?」
「いえ、変です。どう考えても」と御堂は指摘する。
「お前、私にケンカを売ってるのか? だとしたら買ってやるぞ。俺は猟友会の者だしな…」
男は散弾銃を構えた。
「すみません、冗談なんです」と御堂は謝った。
「ならいいんだ。だが、お前の顔はどう見てもオオカミ顔だぞ。その顔だと人間社会で暮らすのは大変だろ? どうだ、私のところで暮らさないか?」
「どういうことですか?」
「つまり、私がお前を飼おうということだ」
「……」御堂は黙り込む。
「嫌なのか?」
「はい」と御堂は答える。
「なぜだ?」
「俺は人間です」
「……ふむ。そういうことか」
「……」
男は微笑んだ
「安心しろ。君が狼男なのは私とアンジェラ嬢だけの秘密にしておいてやる。だから君は人間のまま生きていける。そうだな?」
御堂はうつろな目つきで男を見た。そして呟く
「はい」
「結構。ところで、君の住所は?それと電話番号も教えてもらおうか」
「草薙御堂、東京在住、番号は〇×△□-○○○……」
御堂は素直に男の質問に答えていく。
「ありがとう。これで契約完了だ。これからよろしく頼むよ、御堂」
「はい」
「さあ、行こうか」と男が歩き出す。
御堂も後に続く。その先には御堂牧場という看板がかかっていた。御堂の顔が大きく描かれている。門をくぐると檻があった。その中に光る無数の眼。四つん這いの御堂が群れを成していた。
もう御堂に理不尽と不条理に異議申し立てるだけの理性は残ってなかった。代わりにクゥンと恭順の態度を示した。
〈了〉
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