VMW部

もちぃ

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いざ仮想空間へ

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VMWにはグラウンドやフィールドは必要ない。人が30人入ることのできる部屋と、仮想空間へ飛びこむための装置があればどこでもプレイできる。

そんなわけでVMW部は贅沢にも二つの部屋を保有している。一つは電気椅子を彷彿とさせる不気味な椅子、その椅子に付随する無数の管、そして椅子の上にポツンと置かれた歪な形をしたヘッドセットでうめ尽くされており、何かの実験室のようで、正直言って近寄りがたい。

「ぱっと見だと人体実験してる部屋にしか見えないんだよな。…部室をピンクに染めれば人も来やすくなるかな。」
「いや全面ピンクってラブホテルか!行った事ないけど!」

そんな重苦しい空気を払拭するため、渾身の1人ボケツッコミをかますも重苦しい空気に加え薄寒い空気が加わり状況は悪化。

もう一つの部室はコンピュータールームとなっており、仮想世界内の映像を見ることが出来たり、戦いの細かい設定などができる。

「…といっても、1人じゃ模擬戦も出来ないからなぁ…。自主練するか。」

ため息をつきつつ、沢山あるうちの真ん中の椅子に座り、管の先にあるリングを手と足に通す。頭部にヘッドセットを装着し、これで準備はOKだ。原理はよくわからないが、これでVR世界へと赴ける。

VRゲーム機のようにヘッドセットが視界を覆っているため真っ暗だが、装着ししばらくすると、頭部にさわさわと撫でられているような感触がし、腕と足のリングが締まっていき、しっかりと僕の身体が椅子に固定される。

「…ふぅ。」

目を瞑り大きく深呼吸をする。数秒後、目を開けると四角い白い部屋へと招かれる。この時点ではまだ僕の身体の実体はない。白い部屋に僕の魂だけがふわふわと泳いでいる感じだ。

『現在ステージを構成しています。しばらくお待ちください。』

何もない部屋に大きくそんな文字が現れる。と、同時に真っ白だったはずの空間に徐々に色がつき始める。その色が前後、左右、上下と広がる。世界が、創られる。

『ステージ構成完了。身体の投影を開始します。』

その造られた世界に僕が顕現する。足先から僕の身体が投影されていく。数秒待つと、足先から頭まで、中山大志がこの世界に爆誕。

周りを見渡す。頭上ではチキチキ、と小鳥がさえずっている。木々に囲まれており、風がそよそよと頬を撫でる。自然特有の優しい香りが鼻腔を刺激し、そばにある大木に触れるとザラザラとしておりどっしりと硬い。

どこからどう見ても森のど真ん中。VMWのステージの一つである、森林へ転送完了だ。

手をグー、パーと三度ほど動かし、腿上げの要領で軽く足を動かす。

「っし。異常なしっと。相変わらず現実と大差ないなぁ。」

毎度のように現実さながらの世界に惚れ惚れする。聴覚や視覚はもちろん、触覚や嗅覚なんかもしっかりと再現できている。ためしたことはないが味覚も再現できているだろう。この世界が人工的に造られたものだとはとても思えない。

「っし、こっちの方だったよな。」

ひょいひょい、と木に登り、木々をジャンプで渡り、自主練場(僕が勝手に言っているだが)に向かう。軽くやっているが、とても僕くらいの高校生がこなせる芸当ではなく、側からみれば猿のような動きだろう。

しかしながら、僕が凄まじい身体能力を持っているわけでも実は人語を話す猿というわけでもない。いや、後者に関しては否定できないかもしれない。僕が20歳を迎えた際に、涙ながらに親から『実はあなたは保健所から引き取った猿なのよ…』と衝撃の告白をされる可能性はゼロではないからね。…もし本当に僕が猿でも…そんな僕でも友達でいてくれますか?

まぁ流石に僕は人間だが、つまるところ僕の本来の身体能力は一般的な高校生より少し優れているくらい。そんな僕がサーカス団のような動きを出来ているのは、VMWのゲーム性にある。

VMWはプレイヤー同士の戦闘時、宙返りや壁走りなど、ド派手なアクションができるように身体能力が現実世界より大幅に強化されている。全員が全員室伏広治で吉田沙保里と思ってもらうと分かりやすいだろう。いや、それ以上か。

そのため、

「っと!」

木から木への着地をミスり足を滑らせ落下しそうになるも、片腕を伸ばして枝を掴み、地面への激突を回避、なんてこともできる。そのまま枝にぶら下がり、ぶらぶらとブランコのように揺れ、その勢いで逆上がりの要領で木の上へと着地。

「危ない危ない…結構落ち着いて対処できたな。」

身体能力が平均程度の僕でもこれくらいの所業簡単にこなせるので、運動が苦手でもそんなに気にする必要はない。ここら辺も、運動嫌いを夢中にさせるという意味でVMWへ寄せられる期待の一つとなっている。

さてと、そろそろ目的地に到着かな。木からくるりと一回転し、地面に着地。そこそこな高さだけれども、こちらの世界では痛覚がかなり軽減されている。

VMWは魔法を放って戦うスポーツだ。魔法はそこそこの質量を有しており、威力も凄まじい。生身で魔法をまともに喰らうと痛いなんてもんじゃないはずだ。痛覚を軽減されていないとよっぽど痛みに飢えている人がいない限り、誰もVMWをプレイしないだろう。

少し着地をミスした気がするけれどこの程度痛くもなんともない。

「っても、痛みがゼロになるわけじゃないから注意しないとね。」

いつだったか、今と同じように木の上を跳躍しながら移動していたら、気を抜いていたようで鋭い枝が腹部に突き刺さり、串刺し状態になったことがある。思わず目を逸らしてしまうほどグロい光景だったが、それでもあの時は注射を打たれたような痛みだったし、『ああああ僕の身体がキズモノにぃ!!このままじゃお嫁に行けないよ!ってワシ男やないかーい!』と喚く余裕すらあった。とはいえ、痛いことに変わりはないし戦闘中その痛みがずっと続くと考えると普通に辛い。

「さて、今日も始めますか。」

ぽんぽん、と腕を軽く叩くと半透明なウィンドウが出現する。そこには仮想世界での僕のステータスが表示される。

「…あ。ステータスオープン!」

なろう小説なら一度は言っておきたいよね、これ。

『中山大志 男性 16歳
属性魔法 風
MP 100/100
HP 96/100 
状態異常 なし
身体の損傷 足に軽度の捻挫』

HP、つまりヒットポイントと、MP、マジックポイント。これは選手が保有している魔力で、MPを消費し魔法を放つことができる。

試合ではHPが0になると戦闘不能となり、強制的にVMW内の待機室へと戻される。待機室では巨大なモニターで試合の様子は観れるが、再度戦闘に参加することはできない。一度戦闘不能になるとそこで終わりだ

HP、MPの上限はプレイヤー全て100で固定。僕のHPは4減った96。やはり先ほどの着地で少しダメージを負ってしまったようだ。

HPは自然に回復しない上に、痛みを感じないので、こういう小さなダメージが重なっていつのまにかHPが0になり戦闘不能に、なんてこともあるらしい。

ちなみに、ダメージを負った部分は動かしづらくなる。今回は軽い捻挫だったのであまり変化がないが、過激な戦闘により大きく損傷した場合はまったくと言っていいほど動かなくなる。例えば片足を大きく損傷すると、歩くことすら困難になってしまう。

この辺は現実に従事してるかな。痛みをあまり感じないだけで、身動きは取れなくなってしまう。

しかし、一度怪我をすると二度と回復をすることができない、というわけではない。

「『ヒール』」

負傷した足に手をかざし、詠唱を唱える。淡い光が放たれ、少しひしゃげた僕の足が元どおりに。

『中山大志 男性 16歳
属性魔法 風
MP 92/100
HP 100/100 
状態異常 なし
身体の損傷 なし』  

ステータスが更新される。回復魔法を唱えることによって、HPや身体の損傷、様々なデバフ効果を与える状態異常も治すことができる。しかし、通常魔法を使うよりも多くMPを消費するので、実戦では傷を治し、敵を倒し、傷を治し、また敵を倒すと言った、いわゆるゾンビアタックを繰り返すことは難しい。                    

「そんじゃ、やりますか。」

胸の前で掌と拳を合わせる。眼前にある大木を前に、僕の口角はいつのまにか上がっていた。
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