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口の中へ吐精する悦び
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ゲルデが身も心もザシャに捧げ、もうザシャ以外の男と結ばれるなど考えられなくなった――とザシャが確信してから数日後。町から帰ってきているはずなのに、ゲルデはなかなか〈森〉へやってこなかった。ザシャはいつもの小道で待っていたが、そわそわと落ち着かず、〈花畑〉への道を開いた。東側出口へ繋げ、ゲルデを迎えに行くためだ。
小道から道へ入り、〈森〉の東側出口そばへ出たザシャは、ゲルデの声と知らない声が何か話していることに気づき、とっさに木陰に隠れた。ザシャの視線の先では、〈森〉へ入ろうとするゲルデと、そのゲルデの腕を掴んで引き止める青年がいた。
二人の様子を見た瞬間、ザシャは打ちのめされたような気分になった。
青年はザシャより少し背は低いが、体格はがっしりとしており、ゲルデより明るい褐色の髪を持っている。ザシャを打ちのめしたのは、この青年がゲルデの腕を掴んでいたことではない。青年が女性から好まれそうな顔立ちをしていたからではない。
誰からも愛されて育った者特有の自信に満ちた表情が、ザシャに「自分は持たざる者だ」と思い出させた。自信に満ちた目でゲルデを見つめ、自分のものになると疑わない態度でゲルデに触れていることが、ザシャを打ちのめした。ザシャの目には、二人が似合いの恋人たちに見えた。
――そうだよな。そうだった。僕は〈狼〉、悪役だ。彼が何の〈役者〉かは知らないけれど、ゲルデは本来、僕みたいな悪役が触れていい娘じゃないんだ。
木の幹に額を押し当て、ザシャは重い重いため息を吐き出した。ザシャの地を這うようなため息が聞こえたのか、ゲルデの黒曜石の目が、ザシャを見つけた。ザシャを見つけたゲルデは青年を振り切り、兎のような足取りで〈森〉に飛び込んだ。
「ザシャ!」
ゲルデが名前を呼び駆け寄った瞬間、ザシャは腕を広げ、ゲルデを受け止めると同時に〈花畑〉へ転がり込んだ。道を歩く過程すら飛ばし、二人の体は瞬時に〈花畑〉の花々の上に倒れ込んだ。色とりどりの花が舞い上がるのを視界に入れながら、ザシャは上に乗ったゲルデを見上げた。
ゲルデの背後に広がる空は、灰色の雲が広がっている。ザシャを押し倒す形で〈花畑〉にやってきたゲルデは、慌ててザシャの上から降りようとした。
「ごっ、ごめんねザシャ! 重いよね、すぐ降りるから!」
もぞもぞと起き上がろうとしたゲルデを、ザシャは抱き寄せて阻止した。ザシャの胸板に耳を押し当てる形になり、ゲルデは目を白黒させ「ザシャっ?」と声を裏返す。対するザシャはゲルデの反応も知らず、どんよりと重い声でゲルデに尋ねた。
「さっきの彼は、知り合いかい?」
起き上がるのを諦めたゲルデは、「親戚だよ」と優しい声でザシャの質問に答えた。
「町に住んでるいとこのお姉さんたちがね、料理を教える代わりに彼のお嫁さんを探してって」
ザシャの腕の中で、ゲルデは「過保護だよね」とくすくす笑う。
「彼、長男だけど末っ子なの。上のお姉さんたちがみーんな片付いちゃったから、今度は彼のお嫁さんを探さなきゃいけないんだって」
「それは……ほんとかな。僕には、そう思えないな」
「ほんとだよ。私の友達は紹介できないけど、お母さんたちが〈森〉の子たちと引き合わせてみるって言ってたもの」
ゲルデはあの青年を身内としか見ていないようだが、ザシャからすれば、あの青年がゲルデと親しい男であることに変わりはない。しかも詳しい話を聞けば、彼は遠縁だという。町に住んでいるのも、〈役者〉の血が薄れているからだ。
遠縁で、〈役者〉の血も薄い。
〈役者〉の血が濃くなるのを忌避するならば、彼をゲルデの夫とする可能性もありうる。
ゲルデの髪を梳きながら、ザシャは難しい顔でゲルデの話を聞いていた。顔つきに反し優しい手つきで髪を撫でられ、ゲルデは目をとろけさせてザシャに体をすり寄せた。
「ザシャ……。あの、今日は……しない?」
「……する」
現金なもので、ゲルデに誘われると、途端にザシャの気は晴れた。空を覆っていた雲は流れ、太陽が顔を覗かせる。
ザシャは髪から耳へと指を滑らせ、可愛らしい耳を指先でくすぐった。ザシャの指が、ゲルデの耳殻の形を確かめるようになぞる。ザシャの指が、耳朶の柔らかさを確かめるように指の腹で愛でる。ゲルデはとろけるような熱い吐息を漏らし、もじもじと身じろいだ。ザシャはシャツ越しにゲルデの熱い呼気を感じ、股ぐらをいきり立たせた。
ゲルデの手が、もぞもぞと動いてザシャの体を這う。目指した先は、今いきり立った肉棒だった。
「あの……あのね。いつもザシャが、気持ちよくしてくれるから……今日は私が、ザシャのこと気持ちよくしたいな」
ゲルデの指がザシャの欲棒の在り処を見つけ出し、硬くなりつつある愛しい肉竿を優しく撫で回す。その手つきが自分の手つきを真似ていると気づかないまま、ザシャはゲルデの積極性に興奮した。
ゲルデを抱いて半身を起こすと、ザシャはがばりとシャツを脱いだ。ゲルデも絨毯にぺたんと座り込んだまま、いそいそとケープを脱ぎ、胴着の紐を解いていく。脱いでいる間にもザシャの肉棒は硬度と角度を上げ、すべての服が絨毯の上に投げ捨てられる頃には、すっかり腹についていた。
血管が浮き反り返った肉棒を見て、ゲルデは眦と声をとろけさせた。
「昼間はお料理を教わったけど……夜はね、こっそり、本を見せてもらったんだよ」
ザシャの肉棒から目を離さず、ゲルデは華奢な手を伸ばすと、完全に勃起した肉棒にそろりと触れた。
「今までたっくさん気持ちよくしてもらったから……私にも、ザシャを気持ちよくさせてね」
子供の頭を撫でるように優しく亀頭を撫でたかと思うと、ゲルデは膝立ちになり、「えいっ」と可愛らしい掛け声を上げてザシャを押し倒した。たくさんの日を浴びふかふかになった絨毯に、ザシャが仰向けになる。ゲルデは膝立ちで起き上がると、ザシャの股間に顔が近づくよう、腹ばいになった。
ザシャの太腿を、ゲルデの細い指が滑る。何の意図もない動きだというのに、ザシャは腰から背筋にかけて興奮で鳥肌が立つのを自覚した。
ザシャが興奮しているのと同様、もしかすればそれ以上に、ゲルデも興奮しているようだ。悩ましげな吐息が、はぁ、と亀頭にかかる。その熱に、ザシャはぶるりと体を震わせた。身じろいだゲルデは、ザシャの太腿に手をかけ、わずかに這い上がって肉棒を顔の正面に捉える。
「こんな……近くで見るの、初めて……」
ふ、ふ、と獣のような呼吸がザシャの耳に届く。ゲルデの興奮が手に取るようにわかり、ザシャの息も荒くなっていく。ゲルデはゆっくりと、亀頭へ唇を寄せた。
「最初は……いっぱい、キスするのよって、教わったの」
むに、と柔らかな感触が亀頭に当たる。ちゅ、と音を立ててその感触が離れる。柔らかな感触――ゲルデの唇は、亀頭の先端、亀頭全体、雁首、裏筋、竿の全体、根元、陰嚢と徐々に下がっていく。ザシャの性器すべてにキスをするつもりなのか、ゲルデの唇は時間をかけ、丁寧に、じっくり下がっていった。
キスをするたび、ゲルデの指はザシャの太腿を撫でた。顔を離しては近づくたび、たぷんとした乳房がザシャの肌に押し当てられた。ふにふにと柔らかい唇、唇以上の柔らかさと質量を備えた乳房、ぴんと立った乳首の感触の差が、ザシャの官能を高める。ゲルデの肌が触れるたび、ザシャの肉棒はぴくんぴくんと跳ねた。
ゲルデの唇が、陰嚢の裏に押し当てられた。これでザシャの性器に、ゲルデの唇が触れていない箇所はなくなった。ゲルデはうっとりとため息をつき、ザシャの陰嚢へそっと手を添えた。
「ここが、赤ちゃんの素を作るところだから……いっぱい舐めて、吸って、ご奉仕しなきゃ……」
陰毛に触れることも厭わず、ゲルデはザシャのずっしり重い陰嚢に唇を寄せた。愛しげにキスの雨を降らせ、桃色の小さな舌を伸ばしてちろちろと舐め、遠慮がちに口に含み、優しく吸う。ちゅぴ、ちゅぱ、と卑猥な音が〈花畑〉に響く。
ゲルデの唇が、舌が、指が、胸が、ザシャの下半身のあちこちに触れる。ザシャは荒くなる息を抑え、足にぐっと力を込めた。
ひとしきりザシャの陰嚢を愛撫したゲルデは、れ、と舌を伸ばし、熱い肉筒の根元を舐めた。
「下から、丁寧に、上に向かって……」
従姉妹たちに見せられた本で覚えたらしい知識を、ぼそぼそと復唱する。そしてその通りに、舌を這わせる。唇とは異なる柔らかで濡れた感触が、血管が浮き上がる幹をゆっくり這い上がる。根元から雁首、そして鈴口へ至るまで、ゲルデは一度も舌を離さなかった。愛しいザシャへ丁寧に愛撫をするゲルデだが、裏筋への愛撫は特に丁寧で念入りだった。
「この、段差になってるところ……継ぎ目、みたいな、ところは……いっちばん、気持ちよくなってもらえるところ……」
得た知識を思い出す際、ゲルデは肉棒のそばでぽそぽそと呟く。吐く息がザシャの肉棒をくすぐり、ザシャは焦らされているような、くすぐったさに似たもどかしさを感じた。
そのもどかしさも、ゲルデの舌が触れれば弾けて消える。場所を確かめるように、柔らかな舌がぺろり、ぺろりと敏感な箇所をなぞる。ザシャがうめき声を漏らし感じている快楽を表すと、ゲルデは舌を尖らせ、裏筋だけを下から上へ右から左へと縦横無尽に舌を這わせる。
ザシャが足を震わせ絨毯を強く握りしめ、もう数往復もしないうちに吐精する――という寸前で、ゲルデは裏筋への愛撫をやめた。はぁ、と熱い息が裏筋にかかり、ザシャの肉棒がもどかしげにびくびくと跳ねた。ゲルデはザシャが射精寸前だったとは知らず、お遣いを忘れたことを咎められた子供のような声で呟いた。
「ここばっかりしちゃ、だめなんだった……」
ゲルデはザシャの太腿に手を置いたまま、もぞもぞと動き、また肉棒の根元へ顔を寄せた。そして舌を押しつけると、亀頭の先端までねっとりと舐め上げた。ちゅ、ちゅ、と音を立てて唇を押し当てては離し、舌を伸ばしては懸命に逞しい肉茎を舐め、ザシャを喜ばせようと奉仕する。
亀頭へ辿り着いたゲルデは、ぴたりと動きを止め、先走り液の滲む鈴口を見つめた。
「透明なのが、にじみ出てくるところ……」
尖らせた舌が、にゅる、と鈴口に押し当てられる。裏筋よりも控えめな動きで、痛くないか確認するよう、遠慮がちに舌が動く。ゲルデの心配は杞憂だ。ザシャの頭にあるのは、快感だけだった。
慣れない快感に、ザシャは思わず足を引っ込める。だが足を引っ込めたところで、ゲルデから肉棒が離れるわけではない。ザシャの足を優しく撫でながら、ゲルデは亀頭に唇を押し当て、吸い上げるように鈴口を刺激した。息苦しいのか、興奮しすぎているのか、はふ、はふ、と不器用な呼吸がザシャの耳に聞こえる。
口による肉棒への愛撫は、膣内への挿入とはまた違う快感だった。初めての口淫による快楽と、初恋の相手であるゲルデにこんなところを舐めさせている罪悪感、そして背徳感が、腰の抜けそうなほどの快楽に置き換えられる。ザシャは無意識に絨毯をずり上がろうとした。ゲルデはザシャの足にしがみついて逃がさない。いつもと逆の立場になっていることに、二人は気づいていなかった。
ゲルデは大きく口を開け、かぽ、と亀頭だけを口に含んだ。唾液でぬるぬるの舌が、ザシャの赤く膨らんだ亀頭を舐め回す。瑞々しい果実のような唇が窄められ、じゅる、と卑猥な音とともに亀頭が吸い上げられる。ザシャは肉棒の中で白濁がせり上がってくるのを感じた。今ここで射精すれば、精と同時に何か大事なものまで抜け出てしまうのではないか。そう思うほどの快感が、今すぐ飛び出したいとザシャの尿道で暴れ回る。
ザシャは手を伸ばし、股間に顔を埋めるゲルデの頭を撫でた。仰向けになっているザシャには見えていなかったが、ゲルデの腰が、ぴくんと跳ねた。
頭を撫でられたゲルデは、媚びるように尻を振り、ますます激しくザシャの亀頭を舐め回す。円を描きながら舐めていたかと思うと、口を窄め、唇で扱くように口から出し入れする。手は陰嚢を撫で回し、肉棒をさする。
ザシャはゲルデの頭に手を置いたまま、目も眩む快楽にゲルデの名前を連呼した。
「ゲルデ、ゲルデっ……」
ゲルデの口内で、ザシャの肉棒はびくびくと跳ね回る。射精の兆候だが、ゲルデはわかっていない。ちゅっぱちゅっぱと音を立てて強く吸い上げたとき、ザシャの肉棒は一際強く脈打ち、ゲルデの口内に白濁を撒き散らした。
突然注ぎ込まれた白濁を受け止めきれず、ゲルデはごふっとむせて肉棒を放そうとした。しかしザシャはゲルデの頭を押さえ、そのまま口の中にすべての精を吐き出した。たとえ射精の快楽に酔いしれていても、ゲルデより遙かに力のあるザシャの手は、ゲルデの抵抗をものともせず頭を押さえ続けていた。
射精し終えて、ザシャはようやく我に返った。ゲルデの頭から手を離し、起き上がってゲルデの口からずるりと肉棒を抜いた。解放されたゲルデは激しく咳き込み、絨毯へ座り込むと、喉の奥へ流しきれなかった精液を手のひらへ吐き出した。それを見て、ザシャはゲルデの口へ手を入れ、すべての精液を掻き出してやった。
「ご、ごめん、ゲルデ。苦しかったろう、まずかったろう」
「ん、んん……」
けほ、とむせながら、ゲルデはほんのり顔を赤らめた。
「おいしくは、ないけど……ザシャの味って思うと……ドキドキしたよ」
唇の端についた精液をぺろりと舐め取り、ゲルデは恥じらいながらも微笑んだ。艶めいた仕草と愛らしい笑顔の差に、ザシャは目眩にも似たときめきを覚えた。萎えたばかりの肉棒に、血が通い出す。
「それじゃあ……今度は僕が、ゲルデを気持ちよくしてもいいかな」
ゲルデの返事も待たず、ザシャはゲルデを押し倒した。お礼だと言わんばかりに可愛がられたゲルデは、その日の帰り道、かれた声でザシャを「やりすぎ!」と叱ったのは言うまでもない。
小道から道へ入り、〈森〉の東側出口そばへ出たザシャは、ゲルデの声と知らない声が何か話していることに気づき、とっさに木陰に隠れた。ザシャの視線の先では、〈森〉へ入ろうとするゲルデと、そのゲルデの腕を掴んで引き止める青年がいた。
二人の様子を見た瞬間、ザシャは打ちのめされたような気分になった。
青年はザシャより少し背は低いが、体格はがっしりとしており、ゲルデより明るい褐色の髪を持っている。ザシャを打ちのめしたのは、この青年がゲルデの腕を掴んでいたことではない。青年が女性から好まれそうな顔立ちをしていたからではない。
誰からも愛されて育った者特有の自信に満ちた表情が、ザシャに「自分は持たざる者だ」と思い出させた。自信に満ちた目でゲルデを見つめ、自分のものになると疑わない態度でゲルデに触れていることが、ザシャを打ちのめした。ザシャの目には、二人が似合いの恋人たちに見えた。
――そうだよな。そうだった。僕は〈狼〉、悪役だ。彼が何の〈役者〉かは知らないけれど、ゲルデは本来、僕みたいな悪役が触れていい娘じゃないんだ。
木の幹に額を押し当て、ザシャは重い重いため息を吐き出した。ザシャの地を這うようなため息が聞こえたのか、ゲルデの黒曜石の目が、ザシャを見つけた。ザシャを見つけたゲルデは青年を振り切り、兎のような足取りで〈森〉に飛び込んだ。
「ザシャ!」
ゲルデが名前を呼び駆け寄った瞬間、ザシャは腕を広げ、ゲルデを受け止めると同時に〈花畑〉へ転がり込んだ。道を歩く過程すら飛ばし、二人の体は瞬時に〈花畑〉の花々の上に倒れ込んだ。色とりどりの花が舞い上がるのを視界に入れながら、ザシャは上に乗ったゲルデを見上げた。
ゲルデの背後に広がる空は、灰色の雲が広がっている。ザシャを押し倒す形で〈花畑〉にやってきたゲルデは、慌ててザシャの上から降りようとした。
「ごっ、ごめんねザシャ! 重いよね、すぐ降りるから!」
もぞもぞと起き上がろうとしたゲルデを、ザシャは抱き寄せて阻止した。ザシャの胸板に耳を押し当てる形になり、ゲルデは目を白黒させ「ザシャっ?」と声を裏返す。対するザシャはゲルデの反応も知らず、どんよりと重い声でゲルデに尋ねた。
「さっきの彼は、知り合いかい?」
起き上がるのを諦めたゲルデは、「親戚だよ」と優しい声でザシャの質問に答えた。
「町に住んでるいとこのお姉さんたちがね、料理を教える代わりに彼のお嫁さんを探してって」
ザシャの腕の中で、ゲルデは「過保護だよね」とくすくす笑う。
「彼、長男だけど末っ子なの。上のお姉さんたちがみーんな片付いちゃったから、今度は彼のお嫁さんを探さなきゃいけないんだって」
「それは……ほんとかな。僕には、そう思えないな」
「ほんとだよ。私の友達は紹介できないけど、お母さんたちが〈森〉の子たちと引き合わせてみるって言ってたもの」
ゲルデはあの青年を身内としか見ていないようだが、ザシャからすれば、あの青年がゲルデと親しい男であることに変わりはない。しかも詳しい話を聞けば、彼は遠縁だという。町に住んでいるのも、〈役者〉の血が薄れているからだ。
遠縁で、〈役者〉の血も薄い。
〈役者〉の血が濃くなるのを忌避するならば、彼をゲルデの夫とする可能性もありうる。
ゲルデの髪を梳きながら、ザシャは難しい顔でゲルデの話を聞いていた。顔つきに反し優しい手つきで髪を撫でられ、ゲルデは目をとろけさせてザシャに体をすり寄せた。
「ザシャ……。あの、今日は……しない?」
「……する」
現金なもので、ゲルデに誘われると、途端にザシャの気は晴れた。空を覆っていた雲は流れ、太陽が顔を覗かせる。
ザシャは髪から耳へと指を滑らせ、可愛らしい耳を指先でくすぐった。ザシャの指が、ゲルデの耳殻の形を確かめるようになぞる。ザシャの指が、耳朶の柔らかさを確かめるように指の腹で愛でる。ゲルデはとろけるような熱い吐息を漏らし、もじもじと身じろいだ。ザシャはシャツ越しにゲルデの熱い呼気を感じ、股ぐらをいきり立たせた。
ゲルデの手が、もぞもぞと動いてザシャの体を這う。目指した先は、今いきり立った肉棒だった。
「あの……あのね。いつもザシャが、気持ちよくしてくれるから……今日は私が、ザシャのこと気持ちよくしたいな」
ゲルデの指がザシャの欲棒の在り処を見つけ出し、硬くなりつつある愛しい肉竿を優しく撫で回す。その手つきが自分の手つきを真似ていると気づかないまま、ザシャはゲルデの積極性に興奮した。
ゲルデを抱いて半身を起こすと、ザシャはがばりとシャツを脱いだ。ゲルデも絨毯にぺたんと座り込んだまま、いそいそとケープを脱ぎ、胴着の紐を解いていく。脱いでいる間にもザシャの肉棒は硬度と角度を上げ、すべての服が絨毯の上に投げ捨てられる頃には、すっかり腹についていた。
血管が浮き反り返った肉棒を見て、ゲルデは眦と声をとろけさせた。
「昼間はお料理を教わったけど……夜はね、こっそり、本を見せてもらったんだよ」
ザシャの肉棒から目を離さず、ゲルデは華奢な手を伸ばすと、完全に勃起した肉棒にそろりと触れた。
「今までたっくさん気持ちよくしてもらったから……私にも、ザシャを気持ちよくさせてね」
子供の頭を撫でるように優しく亀頭を撫でたかと思うと、ゲルデは膝立ちになり、「えいっ」と可愛らしい掛け声を上げてザシャを押し倒した。たくさんの日を浴びふかふかになった絨毯に、ザシャが仰向けになる。ゲルデは膝立ちで起き上がると、ザシャの股間に顔が近づくよう、腹ばいになった。
ザシャの太腿を、ゲルデの細い指が滑る。何の意図もない動きだというのに、ザシャは腰から背筋にかけて興奮で鳥肌が立つのを自覚した。
ザシャが興奮しているのと同様、もしかすればそれ以上に、ゲルデも興奮しているようだ。悩ましげな吐息が、はぁ、と亀頭にかかる。その熱に、ザシャはぶるりと体を震わせた。身じろいだゲルデは、ザシャの太腿に手をかけ、わずかに這い上がって肉棒を顔の正面に捉える。
「こんな……近くで見るの、初めて……」
ふ、ふ、と獣のような呼吸がザシャの耳に届く。ゲルデの興奮が手に取るようにわかり、ザシャの息も荒くなっていく。ゲルデはゆっくりと、亀頭へ唇を寄せた。
「最初は……いっぱい、キスするのよって、教わったの」
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キスをするたび、ゲルデの指はザシャの太腿を撫でた。顔を離しては近づくたび、たぷんとした乳房がザシャの肌に押し当てられた。ふにふにと柔らかい唇、唇以上の柔らかさと質量を備えた乳房、ぴんと立った乳首の感触の差が、ザシャの官能を高める。ゲルデの肌が触れるたび、ザシャの肉棒はぴくんぴくんと跳ねた。
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「ここが、赤ちゃんの素を作るところだから……いっぱい舐めて、吸って、ご奉仕しなきゃ……」
陰毛に触れることも厭わず、ゲルデはザシャのずっしり重い陰嚢に唇を寄せた。愛しげにキスの雨を降らせ、桃色の小さな舌を伸ばしてちろちろと舐め、遠慮がちに口に含み、優しく吸う。ちゅぴ、ちゅぱ、と卑猥な音が〈花畑〉に響く。
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ひとしきりザシャの陰嚢を愛撫したゲルデは、れ、と舌を伸ばし、熱い肉筒の根元を舐めた。
「下から、丁寧に、上に向かって……」
従姉妹たちに見せられた本で覚えたらしい知識を、ぼそぼそと復唱する。そしてその通りに、舌を這わせる。唇とは異なる柔らかで濡れた感触が、血管が浮き上がる幹をゆっくり這い上がる。根元から雁首、そして鈴口へ至るまで、ゲルデは一度も舌を離さなかった。愛しいザシャへ丁寧に愛撫をするゲルデだが、裏筋への愛撫は特に丁寧で念入りだった。
「この、段差になってるところ……継ぎ目、みたいな、ところは……いっちばん、気持ちよくなってもらえるところ……」
得た知識を思い出す際、ゲルデは肉棒のそばでぽそぽそと呟く。吐く息がザシャの肉棒をくすぐり、ザシャは焦らされているような、くすぐったさに似たもどかしさを感じた。
そのもどかしさも、ゲルデの舌が触れれば弾けて消える。場所を確かめるように、柔らかな舌がぺろり、ぺろりと敏感な箇所をなぞる。ザシャがうめき声を漏らし感じている快楽を表すと、ゲルデは舌を尖らせ、裏筋だけを下から上へ右から左へと縦横無尽に舌を這わせる。
ザシャが足を震わせ絨毯を強く握りしめ、もう数往復もしないうちに吐精する――という寸前で、ゲルデは裏筋への愛撫をやめた。はぁ、と熱い息が裏筋にかかり、ザシャの肉棒がもどかしげにびくびくと跳ねた。ゲルデはザシャが射精寸前だったとは知らず、お遣いを忘れたことを咎められた子供のような声で呟いた。
「ここばっかりしちゃ、だめなんだった……」
ゲルデはザシャの太腿に手を置いたまま、もぞもぞと動き、また肉棒の根元へ顔を寄せた。そして舌を押しつけると、亀頭の先端までねっとりと舐め上げた。ちゅ、ちゅ、と音を立てて唇を押し当てては離し、舌を伸ばしては懸命に逞しい肉茎を舐め、ザシャを喜ばせようと奉仕する。
亀頭へ辿り着いたゲルデは、ぴたりと動きを止め、先走り液の滲む鈴口を見つめた。
「透明なのが、にじみ出てくるところ……」
尖らせた舌が、にゅる、と鈴口に押し当てられる。裏筋よりも控えめな動きで、痛くないか確認するよう、遠慮がちに舌が動く。ゲルデの心配は杞憂だ。ザシャの頭にあるのは、快感だけだった。
慣れない快感に、ザシャは思わず足を引っ込める。だが足を引っ込めたところで、ゲルデから肉棒が離れるわけではない。ザシャの足を優しく撫でながら、ゲルデは亀頭に唇を押し当て、吸い上げるように鈴口を刺激した。息苦しいのか、興奮しすぎているのか、はふ、はふ、と不器用な呼吸がザシャの耳に聞こえる。
口による肉棒への愛撫は、膣内への挿入とはまた違う快感だった。初めての口淫による快楽と、初恋の相手であるゲルデにこんなところを舐めさせている罪悪感、そして背徳感が、腰の抜けそうなほどの快楽に置き換えられる。ザシャは無意識に絨毯をずり上がろうとした。ゲルデはザシャの足にしがみついて逃がさない。いつもと逆の立場になっていることに、二人は気づいていなかった。
ゲルデは大きく口を開け、かぽ、と亀頭だけを口に含んだ。唾液でぬるぬるの舌が、ザシャの赤く膨らんだ亀頭を舐め回す。瑞々しい果実のような唇が窄められ、じゅる、と卑猥な音とともに亀頭が吸い上げられる。ザシャは肉棒の中で白濁がせり上がってくるのを感じた。今ここで射精すれば、精と同時に何か大事なものまで抜け出てしまうのではないか。そう思うほどの快感が、今すぐ飛び出したいとザシャの尿道で暴れ回る。
ザシャは手を伸ばし、股間に顔を埋めるゲルデの頭を撫でた。仰向けになっているザシャには見えていなかったが、ゲルデの腰が、ぴくんと跳ねた。
頭を撫でられたゲルデは、媚びるように尻を振り、ますます激しくザシャの亀頭を舐め回す。円を描きながら舐めていたかと思うと、口を窄め、唇で扱くように口から出し入れする。手は陰嚢を撫で回し、肉棒をさする。
ザシャはゲルデの頭に手を置いたまま、目も眩む快楽にゲルデの名前を連呼した。
「ゲルデ、ゲルデっ……」
ゲルデの口内で、ザシャの肉棒はびくびくと跳ね回る。射精の兆候だが、ゲルデはわかっていない。ちゅっぱちゅっぱと音を立てて強く吸い上げたとき、ザシャの肉棒は一際強く脈打ち、ゲルデの口内に白濁を撒き散らした。
突然注ぎ込まれた白濁を受け止めきれず、ゲルデはごふっとむせて肉棒を放そうとした。しかしザシャはゲルデの頭を押さえ、そのまま口の中にすべての精を吐き出した。たとえ射精の快楽に酔いしれていても、ゲルデより遙かに力のあるザシャの手は、ゲルデの抵抗をものともせず頭を押さえ続けていた。
射精し終えて、ザシャはようやく我に返った。ゲルデの頭から手を離し、起き上がってゲルデの口からずるりと肉棒を抜いた。解放されたゲルデは激しく咳き込み、絨毯へ座り込むと、喉の奥へ流しきれなかった精液を手のひらへ吐き出した。それを見て、ザシャはゲルデの口へ手を入れ、すべての精液を掻き出してやった。
「ご、ごめん、ゲルデ。苦しかったろう、まずかったろう」
「ん、んん……」
けほ、とむせながら、ゲルデはほんのり顔を赤らめた。
「おいしくは、ないけど……ザシャの味って思うと……ドキドキしたよ」
唇の端についた精液をぺろりと舐め取り、ゲルデは恥じらいながらも微笑んだ。艶めいた仕草と愛らしい笑顔の差に、ザシャは目眩にも似たときめきを覚えた。萎えたばかりの肉棒に、血が通い出す。
「それじゃあ……今度は僕が、ゲルデを気持ちよくしてもいいかな」
ゲルデの返事も待たず、ザシャはゲルデを押し倒した。お礼だと言わんばかりに可愛がられたゲルデは、その日の帰り道、かれた声でザシャを「やりすぎ!」と叱ったのは言うまでもない。
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十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
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