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第8章 竜を討つ者
第69話 聖都の一番長い日 その2
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火と鍛冶の神の神殿を出たミスティファーとイスカリオス、エルロイ。
その目に映ったのは大通りを埋め尽くす魔物の群れ、そしてそれに立ち向かう武神官、神官たちであった。街に立ち寄ったのであろう冒険者も混じっている。
「イスカリオス、私たちも!」
「ああ!」
顔を見合わせて頷き、参戦する二人。
「神よ、我らに仇なす敵を討ち果たしたまえ 神聖衝撃!」
「~~~ 爆炎球!」
倒れた武神官にトドメを刺そうとしていた獣鬼に神聖なる気弾を撃ち込むミスティファー。
敵の後方に爆炎球を放物線を描いて放り込むイスカリオス。犬鬼、小鬼、獣鬼といった低級の魔族が爆風で吹き飛ばされる。
「ソ、魔術?! 異端の使徒め!」
法王庁から応援に来ていた太陽神の神官の一人が、イスカリオスの使った術に気付いて詰め寄ろうとする。
が、
「あのさ! 今、異端だの何だの言ってる場合かい?! この魔族の群れ、倒す方が先決だろうが!」
白銀に輝く真銀の鎖帷子、鼻当て付きの兜、棘の付いた盾、真銀の戦斧を装備した山人の女戦士が、状況を鑑みない太陽神の信徒に怒鳴り散らす。
「だ、だが魔術師は、異端宣告を受けた奴らなのだぞ!」
なおも食い下がる太陽神の神官を、
「アタイはこの前、グレタの町で戦った! 聖堂騎士団も参加した、あの戦いさ! アンタらのお仲間、馬鹿みたいに魔族の軍勢に真っ正面からぶつかって行って、ほぼ全滅したよ! アンタもその轍を踏むかい?!」
と女戦士は、小鬼を真銀の斧で切り倒しながら睨み据える。
どうやら、あのグレタ攻防戦にも参加していたようだ。
その視線に篭められた怒気に身を竦める太陽神の神官。
そして、その神官に厳しい視線を送っているのは、女戦士だけではない。
他の冒険者や他教団の信徒なども、優先順位を取り違えている馬鹿に対して鋭い視線を送っている。
「く、くそっ! 異端者を庇いおって!」
分が悪いと悟った神官は、己の仲間の方へと戻っていった。
「助かったわ、ナウマウ」
ミスティファーは、女戦士に礼を言う。
そう、この山人は、迷宮都市マッセウの三大パーティの一つ、山人のみのパーティ〈鋼の怒り〉の頭目ナウマウであった。
「どういたしまして」
笑みを浮かべるナウマウ。
しかし、近寄ってきた板金鎧を着込み、鼻当て兜を被った山人の男が、長柄武器・カラスの嘴を振るいながら苦言を呈した。
「だが、イスカリオスよ。お前も迂闊だぞ。ここは太陽神のお膝元。そんなとこで堂々と魔術を使うなんて」
〈鋼の怒り〉メンバーのグレンだ。
「そうだね。念のため、逃げる算段しといた方がいいと思うよ」
鉄でできた四足獣の背で、身の丈ほどの長さの銃を構えた小札鎧と眼鏡の山人の男が忠告をする。
エリザベスと同じ師に魔工学を学んだデックだ。
「御忠告感謝する、そうさせてもらうよ。だが、戦いにケリが着いたら、ね」
そう兎にも角にも目の前の敵を倒すのが先決である。
「そういや、ヴァルとコーンズは?」
ナウマウの問いに、
「ヴァルは法王庁。コーンズは海で遭難してはぐれたわ。貴方たちこそ、何でこの街にいるの?」
と簡潔に応えて、逆に問い返すミスティファー。
「海で遭難? コーンズが? その割には平然としてるわね。まあ、いいわ。アンタたちの問題だし。アタイたちは勇者様とやらを見に来たってのもあるけど、あの有名な鍛冶師のポルトスさんがこっち向かってるって聞いて、ご教授賜ろうかと思ったのよ」
獣鬼の粗末な戦斧を棘付きの盾で受け止めて答えるナウマウ。
ナウマウは火と鍛冶の神の武神官で、ご多分に漏れず鍛冶師だ。真銀の装備品は、己であつらえた物である。
そんなナウマウにとって、高司祭にして国王ドゥガンの直弟子の凄腕鍛冶師のポルトスは憧れの的なのだ。
「ポルトスに会いに来たのかい? 今、後ろの神殿にいるよ」
背後の神殿を指差すイスカリオス。
「え? アンタたち、何でポルトスさん知ってんの?」
「いや、この街に来る途中で知り合ってね。一緒に来たんだよ」
「ええ~! 何それ! 紹介しなさいよ!」
イスカリオスに詰め寄るナウマウ。
少し呆れた口調でグレンが一言。
「ナウマウ。後にしろ」
「あ、うん」
我に帰ったナウマウが前を向き直す。
「だけどポルトス氏は、こんな大事になってんのに何で神殿に篭もってるの?」
長尺の銃で獣鬼の頭をヘッドショットで撃ち抜き破裂させながら、デックが疑問を口にする。
デックの得物はエリザベスの物より長い分、威力もデカいようだ。
「ちょっと、あの人レベルじゃなきゃどうしようも無い厄介な武器があってね、それを打ち直してるのよ。私たちは、それが終わるまでの時間稼ぎをしにきたって訳」
ミスティファーの言葉に鍛冶師として興味を引かれたナウマウ。
「へえ……それはこの事態を打開できるほどの物なの?」
「ええ、間違いなくね」
ミスティファーの返事を聞いて、ニヤリと笑うナウマウ。
「グレン! デック! ここ死守するよ」
頭目の言葉に頷く二人。
「「おう!」」
敵味方入り乱れての激戦の続く大通り。
そこに影が差した。
「な、何だ?」
上を見上げた冒険者は、大通り上空を飛び回る三羽の巨大猛禽類を目にし、悲鳴を上げる。
「うわあ!」
巨大猛禽類の背に乗っていた小鬼が、積載していた人の頭ほどの石を眼下に投下する。
狙いが甘く、石は味方のはずの魔族にも当たっているが、自分さえ良ければいい小鬼にとって、そんなことは些細なことだ。
兜を被っていたとしても落ちてくる石の直撃を受けたら、只では済まない。ましてや頭の防具無しなら尚更だ。
胴鎧だけの武神官の幾人かが頭に直撃を食らって、あえなくお陀仏となっていく。
「~~ 雷撃!」
空を舞う襲撃者に対し、魔術を放つイスカリオス。
しかし、高速で飛行する彼らを捉えることはできず躱されてしまった。
「くそったれ!」
歯噛みするナウマウ。
こちらもやはり空を飛べなければ、対処ができない。
しかし、イスカリオスの使う飛行は、複数の人間に掛けた場合、格段にスピードが落ちる。いい鴨にしかなるまい。
さりとてイスカリオス一人だけで空を飛んだところで、複数の巨鳥の相手はできはしない。
万事休すか、と思われた時、火と鍛冶の神の神殿の屋根を飛び越えて、何かが大通り上空へと現れた。
首の付け根に人を乗せた飛竜だ。
「ワ、飛竜騎士?!」
デックが驚愕に目を見張る。
両脇に飛竜のの翼を模した飾りを付けた額冠、硬革鎧、太く長大な馬上槍、騎乗している飛竜も守れそうな大きな盾。
そんな装備の飛竜騎士は、豪奢な金髪をなびかせて名乗りを上げる。
「我こそは、ルキアン竜騎帝国・飛竜騎士団が一人、レベッカ・ミンツ・ルキアン! 魔族よ、覚悟しろ!」
レベッカが踵で飛竜の体を蹴り、合図する。
「行くぞ、トーイ!」
雄叫びを上げ、巨大猛禽類へと挑みかかる飛竜トーイ。
それをぼーっと見上げていたミスティファーに声が掛かる。
「上は任せといて大丈夫みたいだね。地上はこちらで何とかしようよ」
エルロイだ。
姿が見えなかったが、着ている綿入れ布鎧に返り血があるところを見ると、彼も戦っていたようだ。
「な、何だ! こんなの勝てるわけねえ!」
「泣き言を言うな! 我らは至高なる太陽神の信徒として、魔族から逃げてはならんのだ!」
少し先の十字路の所で戦っていた太陽神の神官や武神官が騒いでいる。
どうやら十字路を曲がった先に厄介な敵がいるようだ。
太陽神の信徒どもを蹴散らして、ソイツは曲がり角から姿を現した。
人の倍以上の背丈の人の形をした鉄の塊。鉄の呪人形だ。
しかも二体。
「そういや、さっきアレ、しこたま落とされてたな」
目を細めるナウマウ。
「鉄の呪人形か。戦うのは初めてだね」
デックが呟く。
「硬いわよ、アレ。ヴァルが大鬼殺し振るっても、少ししか傷付けられなかったんだから」
戦った時を思い出し、うんざりした顔でぼやくミスティファー。
「マジかよ」
ミスティファーの言葉を聞いて、渋面になるグレン。
「こんなの突き刺さらないよね?」
エルロイは得物の刺突用短剣をぶらぶらさせて苦笑い。
「それでもやるしかない。おそらく、ここにいるメンツん中で一番戦闘経験のあるのはアタイらだ。見ろよ、あの太陽神の奴らの不甲斐なさ」
ナウマウの言うとおり、太陽神の神官や武神官は「不退転」とか「光のために命賭すべし」とか言って、鉄の呪人形に立ち向かっていくのだが、文字通りの鉄腕の一振りで薙ぎ倒されている。
「熟練の聖堂騎士でもいれば話は別だけど、こんな所でぬくぬくしてた奴らじゃ、ねえ?」
エルロイの厳しい一言。
そう聖堂騎士団ならともかく、こんな結界に守られた街で衛兵をしていた奴らなど、幾ら集まろうが烏合の衆だ。
ちなみに何故、この大通りに弱小部隊が派遣されて実戦経験豊富な聖堂騎士団が一人もいないのか。
それは、この大通りには他教団の神殿が並んでおり、守りはそこの武神官などに任せればいい。と枢機卿たちが判断したから。
あわよくば他教団の戦力を削ごうという目論見もあったりする。
「さて、じゃあ行こうか」
真銀の戦斧を一振りし、二体の鉄の呪人形へと歩き出すナウマウ。
そして、それに続くグレン、デック、ミスティファー、イスカリオス。
エルロイは少し距離を置いて、ついて行く。
「鉄の呪人形二体か。キツいなぁ……ま、詩のネタにはなるよね」
聖都の一番長い日 その2 終了
その目に映ったのは大通りを埋め尽くす魔物の群れ、そしてそれに立ち向かう武神官、神官たちであった。街に立ち寄ったのであろう冒険者も混じっている。
「イスカリオス、私たちも!」
「ああ!」
顔を見合わせて頷き、参戦する二人。
「神よ、我らに仇なす敵を討ち果たしたまえ 神聖衝撃!」
「~~~ 爆炎球!」
倒れた武神官にトドメを刺そうとしていた獣鬼に神聖なる気弾を撃ち込むミスティファー。
敵の後方に爆炎球を放物線を描いて放り込むイスカリオス。犬鬼、小鬼、獣鬼といった低級の魔族が爆風で吹き飛ばされる。
「ソ、魔術?! 異端の使徒め!」
法王庁から応援に来ていた太陽神の神官の一人が、イスカリオスの使った術に気付いて詰め寄ろうとする。
が、
「あのさ! 今、異端だの何だの言ってる場合かい?! この魔族の群れ、倒す方が先決だろうが!」
白銀に輝く真銀の鎖帷子、鼻当て付きの兜、棘の付いた盾、真銀の戦斧を装備した山人の女戦士が、状況を鑑みない太陽神の信徒に怒鳴り散らす。
「だ、だが魔術師は、異端宣告を受けた奴らなのだぞ!」
なおも食い下がる太陽神の神官を、
「アタイはこの前、グレタの町で戦った! 聖堂騎士団も参加した、あの戦いさ! アンタらのお仲間、馬鹿みたいに魔族の軍勢に真っ正面からぶつかって行って、ほぼ全滅したよ! アンタもその轍を踏むかい?!」
と女戦士は、小鬼を真銀の斧で切り倒しながら睨み据える。
どうやら、あのグレタ攻防戦にも参加していたようだ。
その視線に篭められた怒気に身を竦める太陽神の神官。
そして、その神官に厳しい視線を送っているのは、女戦士だけではない。
他の冒険者や他教団の信徒なども、優先順位を取り違えている馬鹿に対して鋭い視線を送っている。
「く、くそっ! 異端者を庇いおって!」
分が悪いと悟った神官は、己の仲間の方へと戻っていった。
「助かったわ、ナウマウ」
ミスティファーは、女戦士に礼を言う。
そう、この山人は、迷宮都市マッセウの三大パーティの一つ、山人のみのパーティ〈鋼の怒り〉の頭目ナウマウであった。
「どういたしまして」
笑みを浮かべるナウマウ。
しかし、近寄ってきた板金鎧を着込み、鼻当て兜を被った山人の男が、長柄武器・カラスの嘴を振るいながら苦言を呈した。
「だが、イスカリオスよ。お前も迂闊だぞ。ここは太陽神のお膝元。そんなとこで堂々と魔術を使うなんて」
〈鋼の怒り〉メンバーのグレンだ。
「そうだね。念のため、逃げる算段しといた方がいいと思うよ」
鉄でできた四足獣の背で、身の丈ほどの長さの銃を構えた小札鎧と眼鏡の山人の男が忠告をする。
エリザベスと同じ師に魔工学を学んだデックだ。
「御忠告感謝する、そうさせてもらうよ。だが、戦いにケリが着いたら、ね」
そう兎にも角にも目の前の敵を倒すのが先決である。
「そういや、ヴァルとコーンズは?」
ナウマウの問いに、
「ヴァルは法王庁。コーンズは海で遭難してはぐれたわ。貴方たちこそ、何でこの街にいるの?」
と簡潔に応えて、逆に問い返すミスティファー。
「海で遭難? コーンズが? その割には平然としてるわね。まあ、いいわ。アンタたちの問題だし。アタイたちは勇者様とやらを見に来たってのもあるけど、あの有名な鍛冶師のポルトスさんがこっち向かってるって聞いて、ご教授賜ろうかと思ったのよ」
獣鬼の粗末な戦斧を棘付きの盾で受け止めて答えるナウマウ。
ナウマウは火と鍛冶の神の武神官で、ご多分に漏れず鍛冶師だ。真銀の装備品は、己であつらえた物である。
そんなナウマウにとって、高司祭にして国王ドゥガンの直弟子の凄腕鍛冶師のポルトスは憧れの的なのだ。
「ポルトスに会いに来たのかい? 今、後ろの神殿にいるよ」
背後の神殿を指差すイスカリオス。
「え? アンタたち、何でポルトスさん知ってんの?」
「いや、この街に来る途中で知り合ってね。一緒に来たんだよ」
「ええ~! 何それ! 紹介しなさいよ!」
イスカリオスに詰め寄るナウマウ。
少し呆れた口調でグレンが一言。
「ナウマウ。後にしろ」
「あ、うん」
我に帰ったナウマウが前を向き直す。
「だけどポルトス氏は、こんな大事になってんのに何で神殿に篭もってるの?」
長尺の銃で獣鬼の頭をヘッドショットで撃ち抜き破裂させながら、デックが疑問を口にする。
デックの得物はエリザベスの物より長い分、威力もデカいようだ。
「ちょっと、あの人レベルじゃなきゃどうしようも無い厄介な武器があってね、それを打ち直してるのよ。私たちは、それが終わるまでの時間稼ぎをしにきたって訳」
ミスティファーの言葉に鍛冶師として興味を引かれたナウマウ。
「へえ……それはこの事態を打開できるほどの物なの?」
「ええ、間違いなくね」
ミスティファーの返事を聞いて、ニヤリと笑うナウマウ。
「グレン! デック! ここ死守するよ」
頭目の言葉に頷く二人。
「「おう!」」
敵味方入り乱れての激戦の続く大通り。
そこに影が差した。
「な、何だ?」
上を見上げた冒険者は、大通り上空を飛び回る三羽の巨大猛禽類を目にし、悲鳴を上げる。
「うわあ!」
巨大猛禽類の背に乗っていた小鬼が、積載していた人の頭ほどの石を眼下に投下する。
狙いが甘く、石は味方のはずの魔族にも当たっているが、自分さえ良ければいい小鬼にとって、そんなことは些細なことだ。
兜を被っていたとしても落ちてくる石の直撃を受けたら、只では済まない。ましてや頭の防具無しなら尚更だ。
胴鎧だけの武神官の幾人かが頭に直撃を食らって、あえなくお陀仏となっていく。
「~~ 雷撃!」
空を舞う襲撃者に対し、魔術を放つイスカリオス。
しかし、高速で飛行する彼らを捉えることはできず躱されてしまった。
「くそったれ!」
歯噛みするナウマウ。
こちらもやはり空を飛べなければ、対処ができない。
しかし、イスカリオスの使う飛行は、複数の人間に掛けた場合、格段にスピードが落ちる。いい鴨にしかなるまい。
さりとてイスカリオス一人だけで空を飛んだところで、複数の巨鳥の相手はできはしない。
万事休すか、と思われた時、火と鍛冶の神の神殿の屋根を飛び越えて、何かが大通り上空へと現れた。
首の付け根に人を乗せた飛竜だ。
「ワ、飛竜騎士?!」
デックが驚愕に目を見張る。
両脇に飛竜のの翼を模した飾りを付けた額冠、硬革鎧、太く長大な馬上槍、騎乗している飛竜も守れそうな大きな盾。
そんな装備の飛竜騎士は、豪奢な金髪をなびかせて名乗りを上げる。
「我こそは、ルキアン竜騎帝国・飛竜騎士団が一人、レベッカ・ミンツ・ルキアン! 魔族よ、覚悟しろ!」
レベッカが踵で飛竜の体を蹴り、合図する。
「行くぞ、トーイ!」
雄叫びを上げ、巨大猛禽類へと挑みかかる飛竜トーイ。
それをぼーっと見上げていたミスティファーに声が掛かる。
「上は任せといて大丈夫みたいだね。地上はこちらで何とかしようよ」
エルロイだ。
姿が見えなかったが、着ている綿入れ布鎧に返り血があるところを見ると、彼も戦っていたようだ。
「な、何だ! こんなの勝てるわけねえ!」
「泣き言を言うな! 我らは至高なる太陽神の信徒として、魔族から逃げてはならんのだ!」
少し先の十字路の所で戦っていた太陽神の神官や武神官が騒いでいる。
どうやら十字路を曲がった先に厄介な敵がいるようだ。
太陽神の信徒どもを蹴散らして、ソイツは曲がり角から姿を現した。
人の倍以上の背丈の人の形をした鉄の塊。鉄の呪人形だ。
しかも二体。
「そういや、さっきアレ、しこたま落とされてたな」
目を細めるナウマウ。
「鉄の呪人形か。戦うのは初めてだね」
デックが呟く。
「硬いわよ、アレ。ヴァルが大鬼殺し振るっても、少ししか傷付けられなかったんだから」
戦った時を思い出し、うんざりした顔でぼやくミスティファー。
「マジかよ」
ミスティファーの言葉を聞いて、渋面になるグレン。
「こんなの突き刺さらないよね?」
エルロイは得物の刺突用短剣をぶらぶらさせて苦笑い。
「それでもやるしかない。おそらく、ここにいるメンツん中で一番戦闘経験のあるのはアタイらだ。見ろよ、あの太陽神の奴らの不甲斐なさ」
ナウマウの言うとおり、太陽神の神官や武神官は「不退転」とか「光のために命賭すべし」とか言って、鉄の呪人形に立ち向かっていくのだが、文字通りの鉄腕の一振りで薙ぎ倒されている。
「熟練の聖堂騎士でもいれば話は別だけど、こんな所でぬくぬくしてた奴らじゃ、ねえ?」
エルロイの厳しい一言。
そう聖堂騎士団ならともかく、こんな結界に守られた街で衛兵をしていた奴らなど、幾ら集まろうが烏合の衆だ。
ちなみに何故、この大通りに弱小部隊が派遣されて実戦経験豊富な聖堂騎士団が一人もいないのか。
それは、この大通りには他教団の神殿が並んでおり、守りはそこの武神官などに任せればいい。と枢機卿たちが判断したから。
あわよくば他教団の戦力を削ごうという目論見もあったりする。
「さて、じゃあ行こうか」
真銀の戦斧を一振りし、二体の鉄の呪人形へと歩き出すナウマウ。
そして、それに続くグレン、デック、ミスティファー、イスカリオス。
エルロイは少し距離を置いて、ついて行く。
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聖都の一番長い日 その2 終了
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