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第4章 迷宮探索(ダンジョン・アタック)
第26話 不死者猛攻
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「ふおおお!」
普段の自信無げな雰囲気とは打って変わり、鼻息荒く仁王立ちするロウド。
その様子を見て不安になったオルフェリアは、少女に問う。
「お、おい、そこの娘! この薬、大丈夫か? 変な後遺症とか禁断症状とか出んだろうな?」
いきなり声を掛けられた少女は、眼鏡の下の目をパチクリさせた後、驚きの表情で素っ頓狂な声を上げる。
「え、え、え~! 何々?! もしかして知性持つ魔剣?! は、初めて見たぁ!」
少女は、リボンで結った馬の尻尾を振り乱しながら、オルフェリアに顔を近付ける。
「ね、ね、貴方、知性持つ魔剣よね?」
目を輝かせて自分に詰め寄ってくる少女に対し、
「え~い! 人の話を聞かんか! ロウドは大丈夫なんじゃろうな! なんか、かなり荒ぶっとるが!」
と問い返すオルフェリア。
「ん~……先生の作った薬だから、詳しいことは、ちょっと。まあ、アッパー系の薬とかも混ざってるとは思うけど、大丈夫だと思う。それよりも貴方、名前はなんて言うの? あ、私の名前はアナスタシアよ」
マイペースな赤金の髪の少女・アナスタシア。
知性持つ魔剣という珍しい物を目にして、完全に状況を忘れている様子である。
「妾の名はオルフェリア! 話なら後で幾らでもしてやるわい! 今は骸骨どもを何とかする事を考えろ!」
オルフェリアの怒声が響く。
オルフェリアの言葉通り、ロウドとアナスタシアの回りは、武具無しの普通の骸骨と武具を纏った骸骨兵士の群れに囲まれており、今にも二人に襲いかからんとしている状況である。
その内の一体がボロボロの剣を振りかざして、ロウドに斬りかかる。
「うおおお!」
雄叫びと共に目の血走ったロウドがオルフェリアを横に払った。
銀の剣閃の軌跡を闇に残しながら、オルフェリアの一撃は骸骨兵士の肋骨・背骨を粉砕し、上半身と下半身を見事に分断する。
床に落ちた上半身がバラバラに砕けて骨の細片と化した。
一撃で骸骨兵士を行動不能にしたロウドは、次の相手を探す。
「次はどいつだ?」
熱っぽい息を吐きながら、敵を睨めつけるその様は、普段のロウドからはかけ離れていた。
「ホントにこの薬、大丈夫なんじゃろうな」
オルフェリアは溜息混じりに呟いた。
「ちっ、ヤベえな」
面倒臭そうに呟くヴァル。
と言うより、本当に面倒臭い。
二体の骸骨騎士の連携の取れた攻撃により、ヴァルは追い込まれていたのだ。
致命的な一撃こそ何とか捌いて貰ってないが、浅い傷は体中にあり、そこからの出血が体力を奪っていた。
対して、骸骨騎士の方は、連携してのヒットアンドアウェイで少しの損傷も受けていない。
このままやってたらジリ貧になるのはヴァルの方である。
「次の攻撃来たら、一か八か……」
と言ってるうちに、骸骨騎士が骨馬に蹴りを入れた。
走り寄ってくる骨の人馬。
ヴァルの目前に来た骸骨騎士は、長剣を切り下ろす。
その上からの剣戟をヴァルは、なんと左腕を上げて受けた。
腕一本を犠牲にして、攻撃の機会を狙う気か。
長剣の刃が、前腕に巻いた毛皮を切り裂き肉に食い込む。
かと思われたが、金属質の音を立てて長剣は止まった。
毛皮の下にしていた腕輪で刃を受け止めたのだ。
「うりゃっ!」
間髪入れず、大鬼殺しを横薙ぎに振るう。
分厚い刃が骨馬の骨の脚を叩き切った。
「!」
愛馬と共に床に倒れる骸骨騎士。
その兜の側頭部を、翻した得物の長柄で思いっ切りぶっ叩くヴァル。
大鬼殺しの長柄は真重鉄製であり、はっきり言って鈍器である。
そんな物で力一杯叩かれたら、どうなるか。
叩かれた兜の側面をボコッと大きく凹ませて、骸骨騎士は動きを止めていた。
おそらくは中の頭蓋骨が粉砕されたのだろう。
「まずは一匹! おっしゃ!」
ヴァルが吠えた。
敵の攻撃を受けるのに大鬼殺しを使っていたら、こちらが攻撃できない。
なので一か八か、腕輪で受けることにしたのだ。
少しでも位置がズレていたら腕は切り落とされていた。
賭けに勝ったヴァルは、残る一体を煽る。
「さあ、来いよ! お仲間と二人がかりでないと戦えねえか?」
嘲るような笑みを浮かべて、手招きをするヴァル。
しかし、その心中は、
『さっさと来いよ……こちとら、血ぃ流しすぎてクラクラしかけてんだからよ』
というものだった。
深い傷は無いとはいえ、体中に負った傷からの出血量は洒落ではなく、かなりヤバい状況になっているのだ。
視界がかすむ目を気力を振り絞って見開き、へたり込みそうな脚を踏ん張って立ち、大鬼殺しを構えるヴァル。
そんなことは分からない骸骨騎士は、仲間がやられたこともあってか、すぐには攻撃を仕掛けてこなかった。
『くそったれ、早く来い』
心の中で愚痴るヴァル。
骸骨騎士は、用心深くヴァルの様子を窺って、攻撃の機会を狙っている。
そして、その時は来た。
気張っていたヴァルだが、限界が来たのか、足元がふらつき大鬼殺しの穂先を床に付けたのだ。
骨の馬に蹴りが入った。
走り出す骨馬。目指すは当然、目の前の血まみれの男。
蹄の音も高らかに走り寄ってくる骨の人馬を見るヴァルの口元に浮かぶのは、笑みであった。
「ば~か。演技でふらついてやりゃあ、その気になりやがって」
そう、ふらついたのは演技だ。
いつまでたってもやってこない骸骨騎士をその気にさせるために、限界が来てふらついた演技をして見せたのである。
「うおりゃああ!」
雄叫びと共に、左下段から斜め右上へと振り抜かれる大鬼殺し。
それは骨の人馬を諸共にぶった切った。
衝撃で砕けた細かい骨が散らばり飛び、ヴァルの目の前で物言わぬ骨の山と化す骸骨騎士とその愛馬。
「はーっ、はーっ……」
大鬼殺しの石突きを床に突き、長柄にすがるようにして立つヴァル。
その口からは荒い息が漏れている。
「他の奴ら、上手くやってっか?」
そう言って見回す。
赤金の髪の少女を背に庇いながら、骸骨の群れと戦っているロウドが見えた。
「アイツ、あんなに強かったか?」
今、目に映るロウドは確かに強かった。
オルフェリアによる剣戟、盾による一撃でほとんど一撃で骸骨を潰している。
どうも、今まで見てきたロウドと違う。上手く言えないが、一撃の破壊力が段違いなのだ。
あの破壊力は自分に匹敵するんじゃないか、とヴァルは見てて思った。
まさか怪しい薬で筋力をドーピングしているなどとは露も知らず、暴れ回るロウドに感心するヴァル。
「おう、やるなぁ……でも、アイツ、あんな戦い方だったかな?」
自分のような力任せの戦い方とは違い、ロウドは正統派の剣技を習っていたはずである。
なのに、今の戦い方は、明らかに力任せの優雅さの欠片も無い戦い方であった。
「何だかなぁ」
そう呟いた時、爆音と共に炎が爆ぜた。
そちらに目を向けると、貴霊と、ミスティファー・イスカリオス・コーンズが対峙していた。
イスカリオスが短杖を向けているのを見ると、おそらく爆炎球を放ったのであろう。
「くかかかか! 効かぬ、効かぬ! 未熟な術者よ! それではこちらから行くぞ!」
貴霊は哄笑し、呪術の詠唱を始めた。
コーンズが詠唱を邪魔しようと炸裂矢を放つが、まるで効いていない。
「神よ 神聖なる一撃を我が敵に 神聖衝撃!」
ミスティファーが神聖術の中で数少ない直接攻撃の術を放った。
神気を直接敵にぶつけて攻撃する術であるが、下級の不死者の動く骸骨、生ける死体などは一撃で粉砕できる。
神聖衝撃を受けた貴霊は少しよろめいたが、詠唱が途切れることはなかった。
「物言わぬ石像となるが良い! 石化!」
術が発動し、イスカリオスを襲った。
衝撃が全身を貫き、末端の手足の指から石化が始まる。
「徐々に己の体が石化していく恐怖に怯えるが良い! 未熟な術者よ! くかかかか!」
貴霊・ホルベイルの高笑い。
どうやら一瞬で石化するような術ではないらしい。
だからといって呑気にしていられる訳でもないが。
とにかく完全に石化する前に何とかしないと。
そう思い、石化解除の神聖術を唱えようとするミスティファーにホルベイルが迫る。
「解除などさせはせん」
そう言って、ミスティファーに燐光に包まれた骨の手を伸ばしてくるホルベイル。
退こうとしたとしたミスティファーだが、ホルベイルの方が一瞬早く森人の血を引くたおやかな手を掴んだ。
「くう!」
思わず呻き声が漏れた。
掴まれた所から体の熱が奪われたように感じたのだ。
まるで氷を当てられたかのように冷たく皮膚感覚が麻痺していく。
そして、そこから全身に広がる倦怠感。
「おうおう! いつ吸っても生者の精髄は美味じゃ」
どうやら、生命力そのものを掴んだ所から吸収しているらしい。
掴まれていない方の腕一本で連接棍を振り、ホルベイルを攻撃しようとするミスティファー。
しかし、それはあえなく振り払われた。
「くかかかか! 接近戦は得意ではないが、お主如きの攻撃など容易く振り払えるわ!」
さすがは上級不死者と言うべきか。
「ミスティファーを放せ!」
最後の炸裂矢を放つコーンズ。
顔面に当たるがホルベイルは全く気にしていない。
「くかかかか! 儂に傷を付けたければ、魔力の篭められた武器を持ってこい!」
ホルベイルの哄笑が響き渡る。
骸骨のように見えるが、これは有り余る魔力と霊体が凝縮された物で、半分物理・半分霊体の代物。
故にそれに有効打を与えるには、高レベルの術、もしくは魔力の篭められた武器でなければ駄目なのだ。
そう、つまりこのパーティではロウドの持つオルフェリアだけが奴にダメージを与えられる武器である。
しかし、そのロウドは今、薬をキメて狂騒状態で暴れ回っている。
「ロウドを正気に戻すか」
ヴァルは血まみれの体に鞭打って、狂戦士のように暴れ回っているロウドの方に歩き始めた。
不死者猛攻 終了
普段の自信無げな雰囲気とは打って変わり、鼻息荒く仁王立ちするロウド。
その様子を見て不安になったオルフェリアは、少女に問う。
「お、おい、そこの娘! この薬、大丈夫か? 変な後遺症とか禁断症状とか出んだろうな?」
いきなり声を掛けられた少女は、眼鏡の下の目をパチクリさせた後、驚きの表情で素っ頓狂な声を上げる。
「え、え、え~! 何々?! もしかして知性持つ魔剣?! は、初めて見たぁ!」
少女は、リボンで結った馬の尻尾を振り乱しながら、オルフェリアに顔を近付ける。
「ね、ね、貴方、知性持つ魔剣よね?」
目を輝かせて自分に詰め寄ってくる少女に対し、
「え~い! 人の話を聞かんか! ロウドは大丈夫なんじゃろうな! なんか、かなり荒ぶっとるが!」
と問い返すオルフェリア。
「ん~……先生の作った薬だから、詳しいことは、ちょっと。まあ、アッパー系の薬とかも混ざってるとは思うけど、大丈夫だと思う。それよりも貴方、名前はなんて言うの? あ、私の名前はアナスタシアよ」
マイペースな赤金の髪の少女・アナスタシア。
知性持つ魔剣という珍しい物を目にして、完全に状況を忘れている様子である。
「妾の名はオルフェリア! 話なら後で幾らでもしてやるわい! 今は骸骨どもを何とかする事を考えろ!」
オルフェリアの怒声が響く。
オルフェリアの言葉通り、ロウドとアナスタシアの回りは、武具無しの普通の骸骨と武具を纏った骸骨兵士の群れに囲まれており、今にも二人に襲いかからんとしている状況である。
その内の一体がボロボロの剣を振りかざして、ロウドに斬りかかる。
「うおおお!」
雄叫びと共に目の血走ったロウドがオルフェリアを横に払った。
銀の剣閃の軌跡を闇に残しながら、オルフェリアの一撃は骸骨兵士の肋骨・背骨を粉砕し、上半身と下半身を見事に分断する。
床に落ちた上半身がバラバラに砕けて骨の細片と化した。
一撃で骸骨兵士を行動不能にしたロウドは、次の相手を探す。
「次はどいつだ?」
熱っぽい息を吐きながら、敵を睨めつけるその様は、普段のロウドからはかけ離れていた。
「ホントにこの薬、大丈夫なんじゃろうな」
オルフェリアは溜息混じりに呟いた。
「ちっ、ヤベえな」
面倒臭そうに呟くヴァル。
と言うより、本当に面倒臭い。
二体の骸骨騎士の連携の取れた攻撃により、ヴァルは追い込まれていたのだ。
致命的な一撃こそ何とか捌いて貰ってないが、浅い傷は体中にあり、そこからの出血が体力を奪っていた。
対して、骸骨騎士の方は、連携してのヒットアンドアウェイで少しの損傷も受けていない。
このままやってたらジリ貧になるのはヴァルの方である。
「次の攻撃来たら、一か八か……」
と言ってるうちに、骸骨騎士が骨馬に蹴りを入れた。
走り寄ってくる骨の人馬。
ヴァルの目前に来た骸骨騎士は、長剣を切り下ろす。
その上からの剣戟をヴァルは、なんと左腕を上げて受けた。
腕一本を犠牲にして、攻撃の機会を狙う気か。
長剣の刃が、前腕に巻いた毛皮を切り裂き肉に食い込む。
かと思われたが、金属質の音を立てて長剣は止まった。
毛皮の下にしていた腕輪で刃を受け止めたのだ。
「うりゃっ!」
間髪入れず、大鬼殺しを横薙ぎに振るう。
分厚い刃が骨馬の骨の脚を叩き切った。
「!」
愛馬と共に床に倒れる骸骨騎士。
その兜の側頭部を、翻した得物の長柄で思いっ切りぶっ叩くヴァル。
大鬼殺しの長柄は真重鉄製であり、はっきり言って鈍器である。
そんな物で力一杯叩かれたら、どうなるか。
叩かれた兜の側面をボコッと大きく凹ませて、骸骨騎士は動きを止めていた。
おそらくは中の頭蓋骨が粉砕されたのだろう。
「まずは一匹! おっしゃ!」
ヴァルが吠えた。
敵の攻撃を受けるのに大鬼殺しを使っていたら、こちらが攻撃できない。
なので一か八か、腕輪で受けることにしたのだ。
少しでも位置がズレていたら腕は切り落とされていた。
賭けに勝ったヴァルは、残る一体を煽る。
「さあ、来いよ! お仲間と二人がかりでないと戦えねえか?」
嘲るような笑みを浮かべて、手招きをするヴァル。
しかし、その心中は、
『さっさと来いよ……こちとら、血ぃ流しすぎてクラクラしかけてんだからよ』
というものだった。
深い傷は無いとはいえ、体中に負った傷からの出血量は洒落ではなく、かなりヤバい状況になっているのだ。
視界がかすむ目を気力を振り絞って見開き、へたり込みそうな脚を踏ん張って立ち、大鬼殺しを構えるヴァル。
そんなことは分からない骸骨騎士は、仲間がやられたこともあってか、すぐには攻撃を仕掛けてこなかった。
『くそったれ、早く来い』
心の中で愚痴るヴァル。
骸骨騎士は、用心深くヴァルの様子を窺って、攻撃の機会を狙っている。
そして、その時は来た。
気張っていたヴァルだが、限界が来たのか、足元がふらつき大鬼殺しの穂先を床に付けたのだ。
骨の馬に蹴りが入った。
走り出す骨馬。目指すは当然、目の前の血まみれの男。
蹄の音も高らかに走り寄ってくる骨の人馬を見るヴァルの口元に浮かぶのは、笑みであった。
「ば~か。演技でふらついてやりゃあ、その気になりやがって」
そう、ふらついたのは演技だ。
いつまでたってもやってこない骸骨騎士をその気にさせるために、限界が来てふらついた演技をして見せたのである。
「うおりゃああ!」
雄叫びと共に、左下段から斜め右上へと振り抜かれる大鬼殺し。
それは骨の人馬を諸共にぶった切った。
衝撃で砕けた細かい骨が散らばり飛び、ヴァルの目の前で物言わぬ骨の山と化す骸骨騎士とその愛馬。
「はーっ、はーっ……」
大鬼殺しの石突きを床に突き、長柄にすがるようにして立つヴァル。
その口からは荒い息が漏れている。
「他の奴ら、上手くやってっか?」
そう言って見回す。
赤金の髪の少女を背に庇いながら、骸骨の群れと戦っているロウドが見えた。
「アイツ、あんなに強かったか?」
今、目に映るロウドは確かに強かった。
オルフェリアによる剣戟、盾による一撃でほとんど一撃で骸骨を潰している。
どうも、今まで見てきたロウドと違う。上手く言えないが、一撃の破壊力が段違いなのだ。
あの破壊力は自分に匹敵するんじゃないか、とヴァルは見てて思った。
まさか怪しい薬で筋力をドーピングしているなどとは露も知らず、暴れ回るロウドに感心するヴァル。
「おう、やるなぁ……でも、アイツ、あんな戦い方だったかな?」
自分のような力任せの戦い方とは違い、ロウドは正統派の剣技を習っていたはずである。
なのに、今の戦い方は、明らかに力任せの優雅さの欠片も無い戦い方であった。
「何だかなぁ」
そう呟いた時、爆音と共に炎が爆ぜた。
そちらに目を向けると、貴霊と、ミスティファー・イスカリオス・コーンズが対峙していた。
イスカリオスが短杖を向けているのを見ると、おそらく爆炎球を放ったのであろう。
「くかかかか! 効かぬ、効かぬ! 未熟な術者よ! それではこちらから行くぞ!」
貴霊は哄笑し、呪術の詠唱を始めた。
コーンズが詠唱を邪魔しようと炸裂矢を放つが、まるで効いていない。
「神よ 神聖なる一撃を我が敵に 神聖衝撃!」
ミスティファーが神聖術の中で数少ない直接攻撃の術を放った。
神気を直接敵にぶつけて攻撃する術であるが、下級の不死者の動く骸骨、生ける死体などは一撃で粉砕できる。
神聖衝撃を受けた貴霊は少しよろめいたが、詠唱が途切れることはなかった。
「物言わぬ石像となるが良い! 石化!」
術が発動し、イスカリオスを襲った。
衝撃が全身を貫き、末端の手足の指から石化が始まる。
「徐々に己の体が石化していく恐怖に怯えるが良い! 未熟な術者よ! くかかかか!」
貴霊・ホルベイルの高笑い。
どうやら一瞬で石化するような術ではないらしい。
だからといって呑気にしていられる訳でもないが。
とにかく完全に石化する前に何とかしないと。
そう思い、石化解除の神聖術を唱えようとするミスティファーにホルベイルが迫る。
「解除などさせはせん」
そう言って、ミスティファーに燐光に包まれた骨の手を伸ばしてくるホルベイル。
退こうとしたとしたミスティファーだが、ホルベイルの方が一瞬早く森人の血を引くたおやかな手を掴んだ。
「くう!」
思わず呻き声が漏れた。
掴まれた所から体の熱が奪われたように感じたのだ。
まるで氷を当てられたかのように冷たく皮膚感覚が麻痺していく。
そして、そこから全身に広がる倦怠感。
「おうおう! いつ吸っても生者の精髄は美味じゃ」
どうやら、生命力そのものを掴んだ所から吸収しているらしい。
掴まれていない方の腕一本で連接棍を振り、ホルベイルを攻撃しようとするミスティファー。
しかし、それはあえなく振り払われた。
「くかかかか! 接近戦は得意ではないが、お主如きの攻撃など容易く振り払えるわ!」
さすがは上級不死者と言うべきか。
「ミスティファーを放せ!」
最後の炸裂矢を放つコーンズ。
顔面に当たるがホルベイルは全く気にしていない。
「くかかかか! 儂に傷を付けたければ、魔力の篭められた武器を持ってこい!」
ホルベイルの哄笑が響き渡る。
骸骨のように見えるが、これは有り余る魔力と霊体が凝縮された物で、半分物理・半分霊体の代物。
故にそれに有効打を与えるには、高レベルの術、もしくは魔力の篭められた武器でなければ駄目なのだ。
そう、つまりこのパーティではロウドの持つオルフェリアだけが奴にダメージを与えられる武器である。
しかし、そのロウドは今、薬をキメて狂騒状態で暴れ回っている。
「ロウドを正気に戻すか」
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