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第4章 迷宮探索(ダンジョン・アタック)
第24話 闇の礼拝堂
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少年戦士ローダンの頼み『邪教の生け贄になろうとしている少女を助けて欲しい』を、気安く承諾するヴァル。
豪快と言えば豪快だが、コーンズはともかくミスティファーとイスカリオスは苦い顔をしていた。
『少しは他のメンバーに意見を聞け』
と思っているのが、ありありと分かる。
「ローダン。その礼拝堂には、敵はどれだけいたの?」
まあ色々と言いたいことはあるが、生け贄の儀式が行われようとしているのを黙って見ているわけにも行かないので、とりあえず状況を確認するミスティファー。
「は、はい。祈りを上げていた半透明な奴を筆頭に、骸骨兵士が三十はいました」
ローダンの返答を受けて、敵の戦力分析をするミスティファーとイスカリオス。
「骸骨兵士が三十か。その内、八はいま倒したから、残り二十ちょいね」
「補充されてなければね。問題は親玉だよ。半透明ってことは霊体だろう。亡霊、いや祈りを捧げてたということは自意識があるから死霊かな?」
亡霊とは、死した後も霊が現界にとどまっている状態である。生前の意識は無く、只ひたすら生者を呪い襲う。
死霊も同じようなものだが、生前それなりの力量を持っていたためか自意識を保っているのが特徴だ。
これら二つは自然発生したモノだが、己の意志で高度な術を用いて肉体を捨て霊体のみの存在になった者もいる。
貴霊と呼ばれるこの存在は、完全な自意識を持ち生前そのままの高レベルの術を使いこなす危険な不死者だ。
「あっ、そう言えば。変なのもいました」
視界の隅にいた奇妙な存在を思い出すローダン。
「変なの?」
聞き返したヴァルに、
「はい。骨の馬に乗った騎士です。それが二人いました」
と答えるローダン。
「「「「!」」」」
ローダンの言葉に驚き、顔を見合わせるヴァル、ミスティファー、イスカリオス、コーンズの四人。
「骸骨騎士いんのかよ……しかも二体も」
額に手を当てて呻くコーンズ。
他の三人も渋い顔をしている。
「オルフェリア、骸骨騎士って強いの?」
ヴァルたちの様子を見て不安になり、ロウドは腰の魔剣に聞いてみた。
「骸骨騎士か。名前の通り、騎士が不死者化したモノじゃ。その実力はピンキリじゃが、生前に培った武技を繰り出してくるので、まあ強いと言っていいじゃろう。ま、少なくとも今のお前では相手にならんな」
オルフェリアの解説に、ヴァルたちの渋い顔はこれか、と納得したロウドだが、話には続きがあった。
「問題は、それが付き従っている親玉じゃ。普通の骸骨ならいざ知らず、骸骨騎士を従えているとなると、死霊どころではない。貴霊の可能性が高い」
普段は自信満々で尊大なオルフェリアが深刻な口調になっているのを聞いて、今から挑もうとしている相手が容易ならざる敵である事を感じ取るロウド。
ゴクリと唾を飲み込み、渋い顔のヴァルに、
「ど、どうするんですか?」
と聞く。
突入するのか、撤退するのか、どちらなのか。
「ん~、まあ見捨てるわけにはいかねえだろ」
と頭を搔きながら言うヴァル。
「そう……ね」
「しゃあねえ」
「だね。しかし何でまた、そんな高レベルの敵が五階層に出張ってきてるんだ?」
ミスティファー、コーンズ、イスカリオスが各々返事をする。
イスカリオスの言うとおり、骸骨騎士も、それを従えている貴霊 (推定)も、もっと下の階層で出てくる敵である。
それが何故、こんな中途の階層で出現したのか。
「それは今考えてもしょうがないでしょ。まず、作戦を立てるわよ」
ミスティファーが一同を見回す。
「第一目標は生け贄にされようとしてる女の子、よね?」
「ああ、そうだな」
ミスティファーの確認に頷くヴァル、そして他男三人。
「ならば、まともに相手する必要はないわね。私たちで骸骨騎士と親玉の不死者の相手をして、その隙にロウドくんに女の子を助け出して貰う」
ミスティファーはロウドの顔を真正面から見詰め、
「いい、ロウドくん。厄介なのは私たちが食い止めるから、君は骸骨の群れを突っ切って、台の上の女の子を助ける。そして一目散に礼拝堂から逃げる。分かった?」
と有無を言わさぬ口調で言った。
そう、それしかない。今の自分では、高レベルの不死者の相手などできはしないのだから。
そうと分かっていても、悔しかった。真っ当な戦力として数えられていない、それが悔しくてたまらない。
「分かり、ました」
顔を下に向けて、何とか返事をする。
「おい、ロウド。お前が一番重要な役だからな。分かってるか?」
項垂れるロウドにコーンズが声を掛ける。
顔を上げた少年騎士に、少し年上の斥候は続けて言った。
「今回の最重要のポイントは、その生け贄の女の子だ。例え、親玉やお付きの骸骨騎士を倒しても、女の子が死んだら意味ねえんだよ。それをお前に任せるんだ、ヘマこくんじゃねえぞ。気張れよ!」
言い方は荒っぽいが、彼なりの励ましなのだろう。
言うだけ言って踵を返すコーンズ。
それを見ながら、口の辺りをひくつかせるヴァル、ミスティファー、イスカリオス。
「ぷぷ……コーンズの奴」
「笑っちゃ悪いわよ」
「不器用だねえ」
腰のオルフェリアが囁く。
「ロウドよ、コーンズの言うとおりじゃ。今回は敵を倒すことではなく、生け贄の娘を助け出すことが目的なのだから。お前はそれを頼まれたのだから、きっちりとやり遂げればいい」
コーンズの励まし、オルフェリアの言葉。
それを受け入れ飲み込んで、ロウドは頷いた。
「そうだね。今の僕にできることをやればいい」
ロウドも納得したことで作戦が決まり、礼拝堂へと向かうことにする一行。
〈黄金郷〉のローダンには地上に戻って、冒険者組合に今回のことを報告して貰うことにした。
五階層に高レベルの不死者が出張ってきていることを。
「ぶ、無事に帰って来んの待ってるからな」
そう言ってローダンは、竪穴の方へと向かっていった。
それを見送っていたヴァルが口を開く。
「さあ、これで俺たちが戻らなかった時は親父やお袋が何とかするだろ。ほんじゃ行くぞ!」
目指すは高レベルの不死者が闇の大聖母に生け贄を捧ぐ儀式を行っている礼拝堂。
激戦の予感を漂わせながら、廊下を進む〈自由なる翼〉。
「ここだな」
先程の玄室よりも大きな観音扉の前に立ち、ヴァルは呟く。
なるほど、扉を通して嫌な気、妖気が漂ってきているのが分かる。
腕の産毛が妖気に反応して逆立っていた。
「おうおう、ピリピリくるわ」
軽口を叩くが、その顔は真顔である。
コーンズが扉をチェックする。
「罠は無いぜ」
OKを出す。
「イスカリオス。今のうちに詠唱始めろ。扉開けたと同時にぶちかませ。ミスティファー、水の妖精に頼んで、霧でロウドの体を隠せ。コーンズ、炸裂矢で親玉狙え。ロウド、お前は生け贄の女の子を目指すんだ、いいな。俺は骸骨騎士に突っ込んで引きつける」
ヴァルの指示が飛んだ。
それに従って、イスカリオスは魔術の詠唱を始め、ミスティファーは水筒の栓を抜き、コーンズは背の矢筒の中から奇妙な形状の鏃の矢を取り出す。
深く深呼吸して、扉の取っ手に手を掛けるヴァル。
「せ~の、そりゃ!」
掛け声と共に扉を開ける。
「氷雪嵐!」
イスカリオスの魔術が発動。
部屋の中の骸骨の群れに、氷の礫の混じった極寒の冷気の渦が襲いかかる。
イスカリオスの使える最強の術、氷雪嵐は、骸骨どもを凍り付かせ、刃のような氷の礫でズタズタにしていく。
「水の妖精。私の友達を霧で隠してちょうだいな」
ミスティファーの言葉と共に、水筒の口から霧が立ちのぼり、ロウドの体に纏わり付き、その姿をぼやかせた。
「しゅっ!」
呼気と共に放たれる炸裂矢。
それは先端に火燃薬を仕込んだ矢で、当たると小規模な爆発を起こすのだ。
矢は頭巾付きの外套を着た半透明の霊体に向かい直撃。
小さな爆発音と共に弾け、着ていた外套を破損させる。
はだけた外套の下は、燐光に包まれた骸骨とでも言うべきモノだった。
「やはり貴霊」
ミスティファーはそれを見て、恐怖を滲ませた声で呟いた。
その横から、霧を纏わせたロウドが走り出す。
「うおおお!」
真銀の盾を体の前面に押し出して突進する。
黒と銀の弾丸と化して、氷雪嵐を食らってガタガタな骸骨を弾き飛ばしながら突っ切るロウド。
攻撃してくる骸骨もいるが、纏わせた霧のせいで狙いが甘くなり、有効打にはならない。
「見えた!」
骸骨の群れの向こうに、長い台に横たえられた少女の姿が見えた。
そこまで行って女の子を担ぎ上げ、入口まで何とかして戻る。
それが与えられた役目だ。
「どけえ!」
ロウドの雄叫びが響く。
「へ、骸骨騎士二体が相手か。やりがいあるねえ」
獰猛な笑みを浮かべて、骨の馬に乗り騎士鎧に身を包んだ二体の不死者の前に立つヴァル。
「さあ、存分にやろうぜ!」
そう言って大鬼殺しを勢い良く横に払う。
そんな大雑把な攻撃はさすがに骸骨騎士には通じず、骨馬を引かせて躱されてしまった。
「ま、こんな雑なのは通じんか」
呟くヴァル。
骸骨騎士は様子を窺っていたが、一体が馬を走らせてヴァルに近づき、馬上から長剣を切り下ろしてきた。
その剣速は早く、ヴァルは辛うじて大鬼殺しで受けた。
「ふう、危ねえ……さすがは元騎士様ってとこか?」
冷や汗をかくヴァルの耳に蹄の音が聞こえてきた。
もう一体が突進してきたのだ。
「な?!」
攻撃を仕掛けてきたのは、ヴァルの動きを止めるためか。
素早く剣を引き、馬を下がらせる一体目。
そこに馬を走らせて突っ込んできた二体目が、ヴァルを轢く。
骨の馬の体当たりを受けて弾き飛ばされるヴァル。
咄嗟に武器を前に出して受けて、体への直撃は避けたものの衝撃が全身を突き抜けて意識が一瞬飛んだ。
ゴロゴロと床を転げ回る。
「ぐはっ」
息を吐き頭を振って立ち上がるヴァル。
「効いた~」
全身に痛みが走り、足から力が抜けそうになるが踏ん張って立つ。
「楽しいねえ」
かなりの攻撃を食らったにも関わらず、その目の闘志は消えてはいない。
死ぬまで戦うのをやめない狂戦士を思わせる獰猛な笑みも健在だ。
大鬼殺しを肩に乗せ、左手で手招きをする。
「ほら、来いよ。もっとやろうぜ!」
ヴァルが吠える。
闇の礼拝堂 終了
豪快と言えば豪快だが、コーンズはともかくミスティファーとイスカリオスは苦い顔をしていた。
『少しは他のメンバーに意見を聞け』
と思っているのが、ありありと分かる。
「ローダン。その礼拝堂には、敵はどれだけいたの?」
まあ色々と言いたいことはあるが、生け贄の儀式が行われようとしているのを黙って見ているわけにも行かないので、とりあえず状況を確認するミスティファー。
「は、はい。祈りを上げていた半透明な奴を筆頭に、骸骨兵士が三十はいました」
ローダンの返答を受けて、敵の戦力分析をするミスティファーとイスカリオス。
「骸骨兵士が三十か。その内、八はいま倒したから、残り二十ちょいね」
「補充されてなければね。問題は親玉だよ。半透明ってことは霊体だろう。亡霊、いや祈りを捧げてたということは自意識があるから死霊かな?」
亡霊とは、死した後も霊が現界にとどまっている状態である。生前の意識は無く、只ひたすら生者を呪い襲う。
死霊も同じようなものだが、生前それなりの力量を持っていたためか自意識を保っているのが特徴だ。
これら二つは自然発生したモノだが、己の意志で高度な術を用いて肉体を捨て霊体のみの存在になった者もいる。
貴霊と呼ばれるこの存在は、完全な自意識を持ち生前そのままの高レベルの術を使いこなす危険な不死者だ。
「あっ、そう言えば。変なのもいました」
視界の隅にいた奇妙な存在を思い出すローダン。
「変なの?」
聞き返したヴァルに、
「はい。骨の馬に乗った騎士です。それが二人いました」
と答えるローダン。
「「「「!」」」」
ローダンの言葉に驚き、顔を見合わせるヴァル、ミスティファー、イスカリオス、コーンズの四人。
「骸骨騎士いんのかよ……しかも二体も」
額に手を当てて呻くコーンズ。
他の三人も渋い顔をしている。
「オルフェリア、骸骨騎士って強いの?」
ヴァルたちの様子を見て不安になり、ロウドは腰の魔剣に聞いてみた。
「骸骨騎士か。名前の通り、騎士が不死者化したモノじゃ。その実力はピンキリじゃが、生前に培った武技を繰り出してくるので、まあ強いと言っていいじゃろう。ま、少なくとも今のお前では相手にならんな」
オルフェリアの解説に、ヴァルたちの渋い顔はこれか、と納得したロウドだが、話には続きがあった。
「問題は、それが付き従っている親玉じゃ。普通の骸骨ならいざ知らず、骸骨騎士を従えているとなると、死霊どころではない。貴霊の可能性が高い」
普段は自信満々で尊大なオルフェリアが深刻な口調になっているのを聞いて、今から挑もうとしている相手が容易ならざる敵である事を感じ取るロウド。
ゴクリと唾を飲み込み、渋い顔のヴァルに、
「ど、どうするんですか?」
と聞く。
突入するのか、撤退するのか、どちらなのか。
「ん~、まあ見捨てるわけにはいかねえだろ」
と頭を搔きながら言うヴァル。
「そう……ね」
「しゃあねえ」
「だね。しかし何でまた、そんな高レベルの敵が五階層に出張ってきてるんだ?」
ミスティファー、コーンズ、イスカリオスが各々返事をする。
イスカリオスの言うとおり、骸骨騎士も、それを従えている貴霊 (推定)も、もっと下の階層で出てくる敵である。
それが何故、こんな中途の階層で出現したのか。
「それは今考えてもしょうがないでしょ。まず、作戦を立てるわよ」
ミスティファーが一同を見回す。
「第一目標は生け贄にされようとしてる女の子、よね?」
「ああ、そうだな」
ミスティファーの確認に頷くヴァル、そして他男三人。
「ならば、まともに相手する必要はないわね。私たちで骸骨騎士と親玉の不死者の相手をして、その隙にロウドくんに女の子を助け出して貰う」
ミスティファーはロウドの顔を真正面から見詰め、
「いい、ロウドくん。厄介なのは私たちが食い止めるから、君は骸骨の群れを突っ切って、台の上の女の子を助ける。そして一目散に礼拝堂から逃げる。分かった?」
と有無を言わさぬ口調で言った。
そう、それしかない。今の自分では、高レベルの不死者の相手などできはしないのだから。
そうと分かっていても、悔しかった。真っ当な戦力として数えられていない、それが悔しくてたまらない。
「分かり、ました」
顔を下に向けて、何とか返事をする。
「おい、ロウド。お前が一番重要な役だからな。分かってるか?」
項垂れるロウドにコーンズが声を掛ける。
顔を上げた少年騎士に、少し年上の斥候は続けて言った。
「今回の最重要のポイントは、その生け贄の女の子だ。例え、親玉やお付きの骸骨騎士を倒しても、女の子が死んだら意味ねえんだよ。それをお前に任せるんだ、ヘマこくんじゃねえぞ。気張れよ!」
言い方は荒っぽいが、彼なりの励ましなのだろう。
言うだけ言って踵を返すコーンズ。
それを見ながら、口の辺りをひくつかせるヴァル、ミスティファー、イスカリオス。
「ぷぷ……コーンズの奴」
「笑っちゃ悪いわよ」
「不器用だねえ」
腰のオルフェリアが囁く。
「ロウドよ、コーンズの言うとおりじゃ。今回は敵を倒すことではなく、生け贄の娘を助け出すことが目的なのだから。お前はそれを頼まれたのだから、きっちりとやり遂げればいい」
コーンズの励まし、オルフェリアの言葉。
それを受け入れ飲み込んで、ロウドは頷いた。
「そうだね。今の僕にできることをやればいい」
ロウドも納得したことで作戦が決まり、礼拝堂へと向かうことにする一行。
〈黄金郷〉のローダンには地上に戻って、冒険者組合に今回のことを報告して貰うことにした。
五階層に高レベルの不死者が出張ってきていることを。
「ぶ、無事に帰って来んの待ってるからな」
そう言ってローダンは、竪穴の方へと向かっていった。
それを見送っていたヴァルが口を開く。
「さあ、これで俺たちが戻らなかった時は親父やお袋が何とかするだろ。ほんじゃ行くぞ!」
目指すは高レベルの不死者が闇の大聖母に生け贄を捧ぐ儀式を行っている礼拝堂。
激戦の予感を漂わせながら、廊下を進む〈自由なる翼〉。
「ここだな」
先程の玄室よりも大きな観音扉の前に立ち、ヴァルは呟く。
なるほど、扉を通して嫌な気、妖気が漂ってきているのが分かる。
腕の産毛が妖気に反応して逆立っていた。
「おうおう、ピリピリくるわ」
軽口を叩くが、その顔は真顔である。
コーンズが扉をチェックする。
「罠は無いぜ」
OKを出す。
「イスカリオス。今のうちに詠唱始めろ。扉開けたと同時にぶちかませ。ミスティファー、水の妖精に頼んで、霧でロウドの体を隠せ。コーンズ、炸裂矢で親玉狙え。ロウド、お前は生け贄の女の子を目指すんだ、いいな。俺は骸骨騎士に突っ込んで引きつける」
ヴァルの指示が飛んだ。
それに従って、イスカリオスは魔術の詠唱を始め、ミスティファーは水筒の栓を抜き、コーンズは背の矢筒の中から奇妙な形状の鏃の矢を取り出す。
深く深呼吸して、扉の取っ手に手を掛けるヴァル。
「せ~の、そりゃ!」
掛け声と共に扉を開ける。
「氷雪嵐!」
イスカリオスの魔術が発動。
部屋の中の骸骨の群れに、氷の礫の混じった極寒の冷気の渦が襲いかかる。
イスカリオスの使える最強の術、氷雪嵐は、骸骨どもを凍り付かせ、刃のような氷の礫でズタズタにしていく。
「水の妖精。私の友達を霧で隠してちょうだいな」
ミスティファーの言葉と共に、水筒の口から霧が立ちのぼり、ロウドの体に纏わり付き、その姿をぼやかせた。
「しゅっ!」
呼気と共に放たれる炸裂矢。
それは先端に火燃薬を仕込んだ矢で、当たると小規模な爆発を起こすのだ。
矢は頭巾付きの外套を着た半透明の霊体に向かい直撃。
小さな爆発音と共に弾け、着ていた外套を破損させる。
はだけた外套の下は、燐光に包まれた骸骨とでも言うべきモノだった。
「やはり貴霊」
ミスティファーはそれを見て、恐怖を滲ませた声で呟いた。
その横から、霧を纏わせたロウドが走り出す。
「うおおお!」
真銀の盾を体の前面に押し出して突進する。
黒と銀の弾丸と化して、氷雪嵐を食らってガタガタな骸骨を弾き飛ばしながら突っ切るロウド。
攻撃してくる骸骨もいるが、纏わせた霧のせいで狙いが甘くなり、有効打にはならない。
「見えた!」
骸骨の群れの向こうに、長い台に横たえられた少女の姿が見えた。
そこまで行って女の子を担ぎ上げ、入口まで何とかして戻る。
それが与えられた役目だ。
「どけえ!」
ロウドの雄叫びが響く。
「へ、骸骨騎士二体が相手か。やりがいあるねえ」
獰猛な笑みを浮かべて、骨の馬に乗り騎士鎧に身を包んだ二体の不死者の前に立つヴァル。
「さあ、存分にやろうぜ!」
そう言って大鬼殺しを勢い良く横に払う。
そんな大雑把な攻撃はさすがに骸骨騎士には通じず、骨馬を引かせて躱されてしまった。
「ま、こんな雑なのは通じんか」
呟くヴァル。
骸骨騎士は様子を窺っていたが、一体が馬を走らせてヴァルに近づき、馬上から長剣を切り下ろしてきた。
その剣速は早く、ヴァルは辛うじて大鬼殺しで受けた。
「ふう、危ねえ……さすがは元騎士様ってとこか?」
冷や汗をかくヴァルの耳に蹄の音が聞こえてきた。
もう一体が突進してきたのだ。
「な?!」
攻撃を仕掛けてきたのは、ヴァルの動きを止めるためか。
素早く剣を引き、馬を下がらせる一体目。
そこに馬を走らせて突っ込んできた二体目が、ヴァルを轢く。
骨の馬の体当たりを受けて弾き飛ばされるヴァル。
咄嗟に武器を前に出して受けて、体への直撃は避けたものの衝撃が全身を突き抜けて意識が一瞬飛んだ。
ゴロゴロと床を転げ回る。
「ぐはっ」
息を吐き頭を振って立ち上がるヴァル。
「効いた~」
全身に痛みが走り、足から力が抜けそうになるが踏ん張って立つ。
「楽しいねえ」
かなりの攻撃を食らったにも関わらず、その目の闘志は消えてはいない。
死ぬまで戦うのをやめない狂戦士を思わせる獰猛な笑みも健在だ。
大鬼殺しを肩に乗せ、左手で手招きをする。
「ほら、来いよ。もっとやろうぜ!」
ヴァルが吠える。
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