オープン・ステージ

平野 絵梨佳

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 子供の頃を過ぎてから、俊太が私に触れてきたのはこれで二度目だ。一度目は、夏休み前にプレハブ小屋で頭を撫でられた。
 いつもクールぶって、すかした顔をして歩いているような奴なのに。
 私は俊太を見返した。
 俊太も私を見たまま動かない。
「……?」
「……」
 ん? 何? なんだろう、これは――
 ――瞬間、ピューッと力強い音が鳴り響き、その音は空へ吸い込まれるように消え、最後にパンッと弾けた。
 聞こえてきた方を振り返ると、佳くんが予備の着火ライターを持って笑っていた。
「笛ロケット花火だって! 凄い音だったね!」
 辺りは既に真っ暗になっている。真っ暗とはいえ、祖母の家の明かりが漏れているので、二人の姿はそれなりに見えた。
「暗くなったし、普通の打ち上げ花火やろうよ。噴水花火もあったはず」
 私は佳くんの方へ歩きながら言った。
「ライターが二本あるなら、二本ずつ上げようか。僕と俊太でね」
「ああ、分かった」
 まずはオーソドックスな打ち上げ花火を二つ。
 間隔を開けて並べて置くと、佳くんと俊太は顔を見合わせてうなずき、導火線に点火した。
 ヒューンヒューンんと、大きな音が空へ駆ける。パンパーンッという軽い音と共に、夜空に小さな花が咲いた。
「うーん……」
 私は眉間に皺を寄せる。
「やっぱ市販のは迫力に欠けるよなぁ……」
「パーンじゃなくて、ドーンが聞きたいよね。花も大きくて華やかなやつ。やっぱ夏祭りには行くべきだよね!」
 私は二人に向かって力強く言った。
「僕は二人と思い出が作れれば、何だって楽しいけれどね」
 佳くんは夜空を見上げたまま続けた。
「ここは本当に綺麗な星空だよね。僕はこの町の夜空が大好きだよ。プラネタリウムみたいな空だ……」
 俊太と私も空を見上げた。
 耳には鈴虫のたちの大合唱が響いている。もう、夏も終わる。
 佳くんはまた東京に帰ってしまう。そう思った瞬間、胸の奥が締め付けられた。
「ねえ、手持ち花火やらない?」
 私は寂しい思いを振り払うように言った。
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