オープン・ステージ

平野 絵梨佳

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「……」
 それには特別な意味は無かったのかもしれない。
 それでも私の鼓動は加速しだしてしまう。
 それは、どういう意味――?
「……。まあ、お前よりホシケイの方が、何でも器用にやりそうだよな。でも、俺は自力で食う。お前たちは絶対にマスクを取るなよ」
 そう言うと、俊太はレンゲにのせる量を減らして食べ進めた。鼻が詰まっていて味がしないとか不味まずいとか言いながらも、何とか半分くらいは食べられたようだ。
「こんなもんでいいだろ」
 俊太はお盆を布団の脇へ置くと、薬を取り出して飲み下す。
「はい、体温計」
「ああ、悪いな」
 少しの沈黙の後、体温計がピピッと鳴る。
「八度六分か。まだあるな……」
「えっ、そんなにあるんだ」
 俊太の額に向かって無意識に手が伸びる。それを俊太がけるようにして、少し体を後ろへ引いた。
「移るぞ。あまり俺に触るな」
「あ、ごめん。昔からのくせで」
「……」
「……」
 この場に不自然な沈黙が広がったような気がして、私は二人に声をかける。
「え、ごめん。何で二人とも黙るの?」
 ほんの少しだけ沈黙が続いたけれど、すぐに俊太が口を開いた。
「お前さ、……もう俺の世話とかしに来んの、やめろ」
 俊太はこちらに背中を向けるようにして横になってしまう。
「え? どうして? 昔からずっと、お見舞いには来てたじゃない」
「いつまでも子供の頃と同じような感覚で付き合わない方がいい。別にお前が嫌になったから言ってるんじゃない。お互いのために言ってるんだ」
「何それ。何で急に……?」
 不思議に思い、何となく佳くんの方を見る。
 彼は黙って俊太の言葉に耳を傾けていた。
「全快したら連絡するから、もう寝かせてくれ。今日はわざわざサンキューな。マジで移るから、もう帰れ」
 俊太の声音こわねはいつも通りだ。それでも、彼は背中を向けたまま動かなかった。
「佳くん……」
「……分かったよ、俊太。治ったら連絡してね。じゃあ螢ちゃん、帰ろうか」
 佳くんは穏やかな口調でそう言うと、静かに立ち上がる。
「うん。……俊太、またね」
 小さく言って、佳くんと一緒に俊太の部屋を後にした。
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