オープン・ステージ

平野 絵梨佳

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 佳くんが指差す方へ視線を移すと、可愛らしい絵柄のマグカップコーナーがあった。二人でそちらへ歩きだす。
「ほら、これ」
 佳くんが手に取ったマグカップには、可愛らしい雷様が、雲の上から稲妻いなづまを発しているような絵柄が入っていた。思わず二人で吹き出してしまう。
「俊太に怒られるよ」
 私は少し下を向いて、笑いをこらえながら返した。
「だろうね。でもさ、これ三人で持ったら良くない?」
「サンダーだから?」
 あの日に決められたLINEのグループ名は、そのまま触れられることはなく、『サンダー(仮)』のままになっていた。
「安いし、どう? 三人であの場所で使おうよ。面白いし、俊太ともっと仲良くなれそうな気がする」
 そんなことを口にした佳くんは、とても楽しそうに笑っていた。
「まあ、プレゼントは質より気持ちだもんね。それにしようか」
 私たちは雷様のマグカップを色違いで三つ選び、落とさないように気を付けながらレジへと持っていった。一つはもちろん、プレゼント用にして。
 私たちはプレゼントを開けたときの俊太の反応を想像して、また少し笑ってしまった。
 駐車場で駐車料金を払い車に乗り込む。クーラーの風は熱風地獄だったけれど、無風の方が遥かに厳しいので、窓を開けて風量を最強にした。もちろん運転は私だ。
 市街地の大通りに出て車を走らせる。歩道の脇に植えられた緑の木々からは、強い生命力を感じた。
 夏休みということもあり、田舎とはいえ、平日でも町の中は混雑している。
「あ、そうだ。僕、あめを持ってきたんだよ。める? のど飴と、はちみつレモン味と、夏季限定のピーチ味。あ、ミントガムもあった! どれがいい?」
 私は少し考えて、夏季限定のピーチ味をもらうことにした。運転中の視線はそのままに、左手をハンドルから離して、助手席に座る佳くんへその手を差し出した。
「危ないから、はい」
 ふわりと桃の香りがしたと思った瞬間、佳くんの指先が、私の唇に触れた。
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