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出会いってこんなもん??

かけがえのないもの

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 「待たせてごめんね!今から傷みるよ。」
 俺は魔法使いと少しの間見つめあっていたが、イデアに声をかけられてやっと視線を外せた。気がついたらイデアは俺のすぐ傍まで来ていて上目遣いで俺を見上げていた。
「いや、大丈夫だ。そんなに待っていない。」
「……」
「おい……どうした??」
 俺は黙ったイデアをじっと見つめてみたが、イデアの方はスッと目を反らした。その後すぐにイデアの顔がみるみる赤くなっていった。
「あ、いや、その………あなたがものすごく綺麗だったから、スラム街で会う人たちと雰囲気も違ってて少し驚いただけ……。」
 そう言ってイデアは俺の袖を引っ張ってさっき怪我人がいたスペースにつれていった。俺は少なからず照れていた。
 王宮にいたときは、なんとなく言われ続けた言葉だったが……。イデアから言われると、とても愛おしく思ってしまった。
 それからの治療は今まで受けたもののなかで、一番心地よかった。暖かくて、優しくて。イデアが真剣に治そうとしてくれているのも伝わった。
 その瞬間、俺は初めて人を好きになるということを学んだ。




 「おかえりなさいませ。ヴァラム様。」
 馬を走らせているときに、俺はイデアと初めてあったのは日のことを思い出していた。召し使いから発せられた帰りの挨拶に、憂鬱になってしまった。
 もし親父が許してくれるのならば、俺は直ぐにでもイデアを嫁として迎え入れたい。それぐらいに本気になって好きでいる。
 俺は基本的に王宮では誰とも話さない。話すことがあっても、事務的に話すだけだ。稽古のときも、勉強の時でさえ。俺は王宮で必要最低限のことしかしない。それは王になるためとかそういうのは関係ない。どの召し使いも、どの先生も、俺の親父に良くして貰うために息子である俺に媚びているだけだ。まぁ、俺がどんなに良くしてもらったところで、親父に「この先生は俺に良くしてくれているから、待遇も良くして欲しい。」なんてこと言うはずないのにな。
 本当にバカらしい。




 俺が自室に戻ろうとした時だった。
「………ようやく戻ったのかヴァラム。」
 後ろを振り返ると、そこには俺の兄であるジェノが嘲笑うように俺を見ていた。俺に向けて発した声はとても冷めていた。
「お前は王子としての自覚が足りないのか?スラム街の友達に毎日のように会いに行って王になれるほど、現実は甘くないぞ。」
「ふっ………そんなの言われなくたって分かってるさ、が、あんたはその先のことを分かっていない。俺が会いに行くのはただの友達ではない。更に言うなら、俺自身の目でスラム街の状況を知ることで、スラム街を安定した街にしようとすることの大切さも分かるとは思わないか?」
 そう言ってやったらジェノは口を閉ざした。そして、瞳から光が消えた。
「身分の違いは確かにあるかもしれないが、それ以前に彼らも人間だ。」
「………だからなんだ。」
「………俺はあんたが見下しているスラム街にいる友人を嫁に迎える。」
 そう言ってやるとジェノはゆっくりとした足取りで俺とは反対方向に歩いていった。





 「……スラム街の子供など、たかが知れているだろうが。」
 私の弟の考えていることが本当に理解が出来ない。いや、私には到底出来ないのであろう。あいつの良くない噂は王宮ではよく耳にする。そして、ほとんどの召し使いがあいつよりも私の方に付きたがる。しかし、父上の考える王位継承者はどちらかと言うとあいつよりのようだ。
 昔はどうしてあいつなのか悔しくて父上に抗議したこともあった。が、今の私にはそれがよく分かる。
 あいつと私の差はほとんどない。むしろ、2年先に生まれた私と同じ内容の授業や稽古を受けているにも関わらず、だ。
 しかし、それだけではない。あいつには愛している人がいる。私には無いものだ。
 昔から他人には興味がなかった。いや、興味はあったはずだった。しかし、私が6歳の時に父上の最愛の、私とあいつの産みの親が突如行方不明になった。その後、父上は酷く悲しく寂しい思いをしていた。だから、人を愛することはその人を失うことの恐怖の印象が強くなってしまった。
 俺は都合上決まった者と結婚すると決めた。結婚するだけで、仲睦まじく愛し合ったりは絶対にしないだろう。それは私が勝手に自分で決めたルールだ。

 「ジェノ様、馬の用意が出来ました。」

 私は従者の者に用意された馬の手綱を渡させて、これで本当に良いのだろうか。と、ふと考えてしまった。
 人を愛することが分からない。それは、王になるにあたってそれで良いのだろうか?いや、良くない。人を愛することができなければ、国民を本当に思いやることなど出来る筈がない。弟に負けたくはない。だが、これは勝敗以前の問題なのだろう。
 今日討伐で使うために腰に下げた剣の柄を少し撫でてみた。が、その柄は冷たく感じるばかりだった。
 なるほど、今まで握っていた剣でさえも、私には心強さや情緒を安定されるような暖かいものは無いのだな。
「ベン、お前は本当に滑稽なやつだな。」
 私は手綱を渡してくれた従者にさえも悪態をついてしまう。しかし……
「ジェノ様に仕えられれば私めはそれで良いのです。滑稽でもそうでなくても。」
 私は周囲の人間には恵まれたのだろうが、今となってはその有り難さが仇となって私を押し潰していく。そこには、助けも何も存在していない。単なる孤独のみだ。
「ジェノ様、騎士達が待っているかと思われます。お急ぎした方がよらしいでしょう。」
「……そうだな。」
 私に必要であるだろうものは、手を伸ばしても届かないのだろうか?もし、届くのであれば私はどう受け止めれば良いのだろうか……。




 「うへぇ……こんなにどしゃ降りなの初めてだよ。こんな日に討伐したら絶対に風邪引くだろうし、流石に討伐も中止でしょ……。じゃなかったらブラック企業並みにブラック。」
 俺は全身をそれはもうビシャビシャに濡らしながらいつもの寝床に帰ってきた。そして、俺の親友が出迎えてくれた。
「お帰りーーー!!」
「グローただいまぁ!めっちゃ濡れた!」
 俺の姿を見たグローは「ありゃ……」とうろたえていた。けど、直ぐに自分の翼を使って必死に乾かそうとしていれていた。けど、中々うまくいかなかったようで途中で止めてしまった。
「ごめんよー。まだ、翼をうまく使えないみたいなんだ……。」
「ううん。大丈夫だよ!これくらいなら魔力操作でも乾かせるだろうし。」
 グローにそう伝えると申し訳なさそうに喉を震わせていた。
 グローはまだ成体に成っていないドラゴンだ。薄い水色っぽい色で太陽の光とかが鱗に反射するとキラキラして星空みたいに綺麗なんだ。そして、一緒に暮らしてる。
 ただ、出会って間もない頃グローはハンターって呼ばれる魔獣を狩る人たちに狙われたことがあった。どうやらグローは希少なドラゴンらしい。だから、俺がスラム街に出るときはここで待っていてもらっている。
 グローは俺にとってかけがえのない親友だから、俺がちゃんと守ってやろうと思ってるんだ。でも、そのせいでグローの行動範囲が狭められるのは嫌だったから、スラム街でも2人で歩けそうな所を探したんだけど無理だった。かといって、スラム街よりも治安の良い街に行こうと思っても身分の違いとかで弾かれるし、グローには申し訳ないけど森から外へは連れていけない。
 ヴァラムと会うときと、俺の治癒の力を欲している人が居るとき以外は基本森にこもってグローと一緒に居る。でも、それでも充分に楽しい。

 ある程度俺の体が乾いてきてグローと今日あったことを話していたときだった。
 その人が現れたのは───。

 「お前、何をしている……」

 その声はとても冷たい声だった。
「何故こんなところにお前のような子供が居るんだ。ここは魔物の住む森だ。即座に立ち去れ……!」
 静かに俺たちを……いや、威嚇しているのが分かった。その人の瞳は発された声のように冷たくて、鋭く光っていた。
 俺は怯んでしまってそこから動けなかった。けど、グローが直ぐにそれに気がついてくれたらしく服の裾を口で引っ張ってくれた。
「イデア!早くいこう!」
「う、うん……。」
 緊張で足が上手く動かなかった俺はグローに引き摺られるようにその場を立ち去ろうとした。
 けど、それがいけなかった。
「っ………!木の影で見えなかったがドラゴンが居たのか……!!おい!お前!今ドラゴンと離れられそうなら逃げろ!」
 そして、その人はグローに向けて剣を抜いた。それを見た俺はグローを突き飛ばして逃げるように促した。けど、その人の足の方が速かった。抜かれた剣の矛先はグローに向かっていた。
「ぎゃあぁぁああ!!」
 その剣は、グローの前足に深々と切りつけていた。
 その瞬間俺の中で何かがドロリと崩れた気がした。それでもまだ、グローの血を浴びて月明かりで赤い光を反射している剣は標的を変えてはいなかった。
「死ね……!」
 剣は無慈悲にグローに振り下ろされた。


 
 
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