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正気を失っていた婚約者
30 カステオ達は?
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「午後の執務は一時間の休憩の後にします。アレイスターも着替えてから戻ってきて下さい」
「メルヴイー、少し待ってくれないか」
いつもは澄ました顔をしている事が多いメルヴイーだが、さすがに色々ありすぎた為か、少々疲れが隠しきれていない様子だ。
更に心労を掛けるのも申し訳ないが、私の叙爵の件は早急に話しておかなければならない。
もしかしたら叙爵については知っていたのかもしれないが、メルヴイーは自分の叙爵も知らなかったのだから、私がその補佐官となる事は知る由もないだろう。
「……補佐官?」
「やはり知らなかったのか」
もう一度舞い戻った応接室で、ドレスのままのメルヴイーが静かに凍りついた。
叙爵については、思ったより早かったですねと平静だったが、その役職については衝撃が強かったようだ。
やはりというか、私達が貴族に戻るに足るかの評価という名の監視をされていることは承知していたのだろう。メルヴィー自身も監督人であると同時に監視人としての役割を担っていたであろうから当然だろうが。
「私が貴族になるというのは知っていたのだな?」
「えぇ、お父様からいずれそうなるであろうと言われてはおりました。でも、城勤めの貴族達に顔を知られているアレイスター様達ですから、どこか辺境の領地を割譲され、地方貴族として暮らすと思っておりました。地方貴族であれば社交シーズンに顔を出さない者も多いですし」
我々が貴族として独り立ちする事を見越して領地運営に携わる領官として働かせていたのだという。ダルトンに関しては執務能力に不安があるので、どちらかの家の家臣にするか、優秀な補佐官を任命する必要があるが。
メルヴィーもダルトンについては放置気味だしな。
「ん? そういえばこの書類にかかれているのは私についてだけだが、カステオやダルトンはどうするのだ?」
「アレイスター様達が復活した時、関係者を集めた話し合いが行われたそうです。その際、アレイスター様の貴族としての復権を強く推した王家に対し、宰相家が強硬に反対したようです。魅了魔術の影響がもしまだ残っていて子息達がまた問題を起こしたら王家の威信そのものが揺らぎかねないと……。騎士団長も同調していたとのことですので、彼等がご子息達の復権を望むとは思えません」
「なるほど……」
結果私だけが評価、監視を受けていたというわけか。私の法衣貴族という地位もかなりの苦肉の策なのかもしれない。
「それにしても、このような魔道具を用意してまで城へ上げる口実を作られるとは……。愛されておられますね」
「……そうだな」
一時の感情に流されて、蔑ろにしてしまった家族の愛情は、心の奥底をシクシクと締め付ける。記憶には無くとも、彼等の当時の悲しみは想像するにあまりある。
未だに私は貴族に相応しいとは思えないが、私の個人的な蟠りなどは彼等の望みの前では風前の灯火。罪悪感など握りつぶして彼等の前に立つのが私の勤めだ。それよりも、気になっていることがある。
「メルヴィーは、私が補佐官に成ることについてどう思う?」
「メルヴイー、少し待ってくれないか」
いつもは澄ました顔をしている事が多いメルヴイーだが、さすがに色々ありすぎた為か、少々疲れが隠しきれていない様子だ。
更に心労を掛けるのも申し訳ないが、私の叙爵の件は早急に話しておかなければならない。
もしかしたら叙爵については知っていたのかもしれないが、メルヴイーは自分の叙爵も知らなかったのだから、私がその補佐官となる事は知る由もないだろう。
「……補佐官?」
「やはり知らなかったのか」
もう一度舞い戻った応接室で、ドレスのままのメルヴイーが静かに凍りついた。
叙爵については、思ったより早かったですねと平静だったが、その役職については衝撃が強かったようだ。
やはりというか、私達が貴族に戻るに足るかの評価という名の監視をされていることは承知していたのだろう。メルヴィー自身も監督人であると同時に監視人としての役割を担っていたであろうから当然だろうが。
「私が貴族になるというのは知っていたのだな?」
「えぇ、お父様からいずれそうなるであろうと言われてはおりました。でも、城勤めの貴族達に顔を知られているアレイスター様達ですから、どこか辺境の領地を割譲され、地方貴族として暮らすと思っておりました。地方貴族であれば社交シーズンに顔を出さない者も多いですし」
我々が貴族として独り立ちする事を見越して領地運営に携わる領官として働かせていたのだという。ダルトンに関しては執務能力に不安があるので、どちらかの家の家臣にするか、優秀な補佐官を任命する必要があるが。
メルヴィーもダルトンについては放置気味だしな。
「ん? そういえばこの書類にかかれているのは私についてだけだが、カステオやダルトンはどうするのだ?」
「アレイスター様達が復活した時、関係者を集めた話し合いが行われたそうです。その際、アレイスター様の貴族としての復権を強く推した王家に対し、宰相家が強硬に反対したようです。魅了魔術の影響がもしまだ残っていて子息達がまた問題を起こしたら王家の威信そのものが揺らぎかねないと……。騎士団長も同調していたとのことですので、彼等がご子息達の復権を望むとは思えません」
「なるほど……」
結果私だけが評価、監視を受けていたというわけか。私の法衣貴族という地位もかなりの苦肉の策なのかもしれない。
「それにしても、このような魔道具を用意してまで城へ上げる口実を作られるとは……。愛されておられますね」
「……そうだな」
一時の感情に流されて、蔑ろにしてしまった家族の愛情は、心の奥底をシクシクと締め付ける。記憶には無くとも、彼等の当時の悲しみは想像するにあまりある。
未だに私は貴族に相応しいとは思えないが、私の個人的な蟠りなどは彼等の望みの前では風前の灯火。罪悪感など握りつぶして彼等の前に立つのが私の勤めだ。それよりも、気になっていることがある。
「メルヴィーは、私が補佐官に成ることについてどう思う?」
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