33 / 42
正気を失っていた婚約者
27 食後にはデザートと……
しおりを挟む
「ちなみに、フェレイアのお腹に四人目がいるよ」
「……そうか。おめでとう」
「ありがとう! 兄上もがんばってね」
「何をだ……」
なんかもう疲れてきた。
気づけば全員が食事を終えている。通常ならメイドに食器を下げさせ、食後の紅茶の給仕を受ける頃合いだ。ちょうど良いので空気を入れ替えたい。
メルヴィーも私と同じように思っているのか、外で待機しているメイドを呼ぶ為のハンドベルに視線を送り、ジューダスへと話しかけた。
「殿下、メイドを呼んでもよろしいでしょうか? 特製のデザートをぜひお召し上がりになっていただきたいとご用意させて頂いたのですが」
「本当! もちろん頂くよ!」
「かしこまりました」
メルヴィーがベルを鳴らすと、すぐにメイドが数名現れて食器を下げる。別のメイドによってデザートとお茶が配られると、ジューダスが眼を見張って驚きの声を上げた。
「わぁ、キレイなデザートだね!! これ、食べられるの?」
ジューダスが驚いたのも無理はない。天ぷらや炊き込みご飯等なら、見慣れない見た目ながらも食事だとわかるが、このデザートはまるで芸術作品のように美しいのだ。
ソーサー型のシャンパングラスの中で、白い層の上に空色の層、そして小さなフルーツが浮かぶ透明な層と折り重なっており、さらに上に絞られたクリームとサクランボが彩りを添えている。このようなデザートは王国はおろか外国でも見たことが無いだろう。
「これはカンテンゼリーというデザートです。いずれは領内のお食事処でもだせるようにしたいと思っておりますの」
このカンテンというのは海藻から採れる物質で、液体を固める作用を持っているらしい。海というのは食材の宝庫なのだなと改めて思った。だが、それはメルヴィーの知識があったからこそ発見されたものだ。
メルヴィーがこの街の領主になった事は街の人にとっても、もしかしたらこの国にとっても行幸だったのかもしれない。
私は試作段階で少し口にしたことがあったが、とても美味しい。慣れない食感ながらも、よく冷やされたゼリーのこのツルリとした喉越しが初夏の季節にとても良い。
クリームは普通のクリームではなくヨーグルトを混ぜているらしく、甘みと酸味が絶妙で、フルーツとの相性が良い。ダルトンのような甘い物が好きではない者にも好評だった。
フルーツは全て水に砂糖を混ぜたシロップという液体に漬けこまれていて、酸味よりも甘みが強く出ているが、それでも尚残る酸味のお陰で重くなりすぎないさっぱり感を演出している。
透明な層は、フルーツを漬け込んだシロップを甘みを調整してから固めたもの。フルーツの酸味が溶け込んでいてさっぱりしている。白い層は牛乳と砂糖を混ぜたもの。中でもその間にある空色の層が開発に時間が掛かっていた。特に青という色の食品を作り出すのが難しかったらしい。
彼女の構想を再現させられるデザート担当のシェフが悲鳴を上げていた程だ。
彼等の試行錯誤の末に作られたカンテンゼリーは、ジューダスの好評が得られれば街の食事処へレシピを伝えて売り出そうという話になっていた。
課題は砂糖を物凄く大量に使う事による高いコストだが、今の処フルーツのシロップ漬けだけは領館で纏めて作って領内に卸すという方法が提案されている。
「うん! とても美味しいよ。特にこのクリームが良いね。このサクランボ、凄く甘くて美味しいけどどうなってるの? へぇ、砂糖液漬けなんだ。この青色のは……」
私達二人に注視されているジューダスは、クリームやフルーツ、ゼリーなどを個別に味見しながら感想を述べている。外見こそ随分と大人びたが、嬉しそうにデザートをぱくついている所は幼い頃の面影が強く残っていて和んだ。ジューダスの好評を受けるメルヴィーも表情が柔らかい。
「ごちそうさま。名残惜しいけどそろそろ戻らなきゃね」
実はジューダスはのほほんとしているようで物凄く忙しい。
王家直轄領の管理は第二王子の義務。当然元カーヴァン侯爵領の事件の後始末は全て彼が対応する事になる。勿論補佐をする人間は沢山いるが、重要な交渉の場等には同席する必要がある。
本当はリリエンデール公爵領の中でも極一部であるマグゼラ等に訪れている時間など無い筈なのだ。
ましてや平民を同席させての食事などありえない。今回の事は半ばお忍びなのだ。最初のジューダスの労いに対するメルヴィーの薄い反応もその辺りを察しての事だろう。
おそらく他の同じような状況にあった子爵家や男爵家には書状を持った側近を向かわせて終わりの筈だ。
おそらく、兄弟の中でも特に仲が良かったと自負する私と、義姉となる筈だったメルヴィーと直接合う為の口実としてビータ殿の件を利用したのだろう。勿論メルヴィーの貴族の任命もついで。どちらも本来ならば騎士を差し向けて終わりの案件なのだから。
貴族任命の前段階の手紙ごときで王族が出てきては有り難み云々以前に過労死してしまうだろう。大抵は城の謁見に出向いて初めて王族とまみえるものだ。
「それでは、私は馬車のご用意をさせていただきます。アレイスター、グスタフがまだ戻っていないので、殿下のお支度を手伝って差し上げて下さい」
「……! 承知した」
メルヴィーがあからさまにジューダスと二人きりにさせようとしている事に気づき、慌てて応じると。室内に残っていたメイドたちを全て連れて退出していった。
もしかしたら最初からこの流れで予定されていたのかもしれない。
「さて、兄上。これをどうぞ」
その疑念は、彼が差し出した見覚えのある封筒を見て確信に変わった。
「……そうか。おめでとう」
「ありがとう! 兄上もがんばってね」
「何をだ……」
なんかもう疲れてきた。
気づけば全員が食事を終えている。通常ならメイドに食器を下げさせ、食後の紅茶の給仕を受ける頃合いだ。ちょうど良いので空気を入れ替えたい。
メルヴィーも私と同じように思っているのか、外で待機しているメイドを呼ぶ為のハンドベルに視線を送り、ジューダスへと話しかけた。
「殿下、メイドを呼んでもよろしいでしょうか? 特製のデザートをぜひお召し上がりになっていただきたいとご用意させて頂いたのですが」
「本当! もちろん頂くよ!」
「かしこまりました」
メルヴィーがベルを鳴らすと、すぐにメイドが数名現れて食器を下げる。別のメイドによってデザートとお茶が配られると、ジューダスが眼を見張って驚きの声を上げた。
「わぁ、キレイなデザートだね!! これ、食べられるの?」
ジューダスが驚いたのも無理はない。天ぷらや炊き込みご飯等なら、見慣れない見た目ながらも食事だとわかるが、このデザートはまるで芸術作品のように美しいのだ。
ソーサー型のシャンパングラスの中で、白い層の上に空色の層、そして小さなフルーツが浮かぶ透明な層と折り重なっており、さらに上に絞られたクリームとサクランボが彩りを添えている。このようなデザートは王国はおろか外国でも見たことが無いだろう。
「これはカンテンゼリーというデザートです。いずれは領内のお食事処でもだせるようにしたいと思っておりますの」
このカンテンというのは海藻から採れる物質で、液体を固める作用を持っているらしい。海というのは食材の宝庫なのだなと改めて思った。だが、それはメルヴィーの知識があったからこそ発見されたものだ。
メルヴィーがこの街の領主になった事は街の人にとっても、もしかしたらこの国にとっても行幸だったのかもしれない。
私は試作段階で少し口にしたことがあったが、とても美味しい。慣れない食感ながらも、よく冷やされたゼリーのこのツルリとした喉越しが初夏の季節にとても良い。
クリームは普通のクリームではなくヨーグルトを混ぜているらしく、甘みと酸味が絶妙で、フルーツとの相性が良い。ダルトンのような甘い物が好きではない者にも好評だった。
フルーツは全て水に砂糖を混ぜたシロップという液体に漬けこまれていて、酸味よりも甘みが強く出ているが、それでも尚残る酸味のお陰で重くなりすぎないさっぱり感を演出している。
透明な層は、フルーツを漬け込んだシロップを甘みを調整してから固めたもの。フルーツの酸味が溶け込んでいてさっぱりしている。白い層は牛乳と砂糖を混ぜたもの。中でもその間にある空色の層が開発に時間が掛かっていた。特に青という色の食品を作り出すのが難しかったらしい。
彼女の構想を再現させられるデザート担当のシェフが悲鳴を上げていた程だ。
彼等の試行錯誤の末に作られたカンテンゼリーは、ジューダスの好評が得られれば街の食事処へレシピを伝えて売り出そうという話になっていた。
課題は砂糖を物凄く大量に使う事による高いコストだが、今の処フルーツのシロップ漬けだけは領館で纏めて作って領内に卸すという方法が提案されている。
「うん! とても美味しいよ。特にこのクリームが良いね。このサクランボ、凄く甘くて美味しいけどどうなってるの? へぇ、砂糖液漬けなんだ。この青色のは……」
私達二人に注視されているジューダスは、クリームやフルーツ、ゼリーなどを個別に味見しながら感想を述べている。外見こそ随分と大人びたが、嬉しそうにデザートをぱくついている所は幼い頃の面影が強く残っていて和んだ。ジューダスの好評を受けるメルヴィーも表情が柔らかい。
「ごちそうさま。名残惜しいけどそろそろ戻らなきゃね」
実はジューダスはのほほんとしているようで物凄く忙しい。
王家直轄領の管理は第二王子の義務。当然元カーヴァン侯爵領の事件の後始末は全て彼が対応する事になる。勿論補佐をする人間は沢山いるが、重要な交渉の場等には同席する必要がある。
本当はリリエンデール公爵領の中でも極一部であるマグゼラ等に訪れている時間など無い筈なのだ。
ましてや平民を同席させての食事などありえない。今回の事は半ばお忍びなのだ。最初のジューダスの労いに対するメルヴィーの薄い反応もその辺りを察しての事だろう。
おそらく他の同じような状況にあった子爵家や男爵家には書状を持った側近を向かわせて終わりの筈だ。
おそらく、兄弟の中でも特に仲が良かったと自負する私と、義姉となる筈だったメルヴィーと直接合う為の口実としてビータ殿の件を利用したのだろう。勿論メルヴィーの貴族の任命もついで。どちらも本来ならば騎士を差し向けて終わりの案件なのだから。
貴族任命の前段階の手紙ごときで王族が出てきては有り難み云々以前に過労死してしまうだろう。大抵は城の謁見に出向いて初めて王族とまみえるものだ。
「それでは、私は馬車のご用意をさせていただきます。アレイスター、グスタフがまだ戻っていないので、殿下のお支度を手伝って差し上げて下さい」
「……! 承知した」
メルヴィーがあからさまにジューダスと二人きりにさせようとしている事に気づき、慌てて応じると。室内に残っていたメイドたちを全て連れて退出していった。
もしかしたら最初からこの流れで予定されていたのかもしれない。
「さて、兄上。これをどうぞ」
その疑念は、彼が差し出した見覚えのある封筒を見て確信に変わった。
0
お気に入りに追加
2,972
あなたにおすすめの小説
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
→誰かに話したくなる面白い雑学
ノアキ光
エッセイ・ノンフィクション
(▶アプリ無しでも読めます。 目次の下から読めます)
見ていただきありがとうございます。
こちらは、雑学の本の内容を、自身で読みやすくまとめ、そこにネットで調べた情報を盛り込んだ内容となります。
驚きの雑学と、話のタネになる雑学の2種類です。
よろしくおねがいします。
優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~
日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。
もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。
そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。
誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか?
そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。
異世界屋台経営-料理一本で異世界へ
芽狐
ファンタジー
松原 真人(35歳)は、ある夜に自分の料理屋で亡くなってしまう。
そして、次に目覚めた場所は、見たことない木で出来た一軒家のような場所であった。そこで、出会ったトンボという男と異世界を津々浦々屋台を引きながら回り、色んな異世界人に料理を提供していくお話です。
更新日時:不定期更新18時投稿
よかったらお気に入り登録・感想などよろしくお願いします。
条件付きチート『吸収』でのんびり冒険者ライフ!
ヒビキ タクト
ファンタジー
旧題:異世界転生 ~条件付きスキル・スキル吸収を駆使し、冒険者から成り上がれ~
平凡な人生にガンと宣告された男が異世界に転生する。異世界神により特典(条件付きスキルと便利なスキル)をもらい異世界アダムスに転生し、子爵家の三男が冒険者となり成り上がるお話。 スキルや魔法を駆使し、奴隷や従魔と一緒に楽しく過ごしていく。そこには困難も…。 従魔ハクのモフモフは見所。週に4~5話は更新していきたいと思いますので、是非楽しく読んでいただければ幸いです♪ 異世界小説を沢山読んできた中で自分だったらこうしたいと言う作品にしております。
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
『親友』との時間を優先する婚約者に別れを告げたら
黒木メイ
恋愛
筆頭聖女の私にはルカという婚約者がいる。教会に入る際、ルカとは聖女の契りを交わした。会えない間、互いの不貞を疑う必要がないようにと。
最初は順調だった。燃えるような恋ではなかったけれど、少しずつ心の距離を縮めていけたように思う。
けれど、ルカは高等部に上がり、変わってしまった。その背景には二人の男女がいた。マルコとジュリア。ルカにとって初めてできた『親友』だ。身分も性別も超えた仲。『親友』が教えてくれる全てのものがルカには新鮮に映った。広がる世界。まるで生まれ変わった気分だった。けれど、同時に終わりがあることも理解していた。だからこそ、ルカは学生の間だけでも『親友』との時間を優先したいとステファニアに願い出た。馬鹿正直に。
そんなルカの願いに対して私はダメだとは言えなかった。ルカの気持ちもわかるような気がしたし、自分が心の狭い人間だとは思いたくなかったから。一ヶ月に一度あった逢瀬は数ヶ月に一度に減り、半年に一度になり、とうとう一年に一度まで減った。ようやく会えたとしてもルカの話題は『親友』のことばかり。さすがに堪えた。ルカにとって自分がどういう存在なのか痛いくらいにわかったから。
極めつけはルカと親友カップルの歪な三角関係についての噂。信じたくはないが、間違っているとも思えなかった。もう、半ば受け入れていた。ルカの心はもう自分にはないと。
それでも婚約解消に至らなかったのは、聖女の契りが継続していたから。
辛うじて繋がっていた絆。その絆は聖女の任期終了まで後数ヶ月というところで切れた。婚約はルカの有責で破棄。もう関わることはないだろう。そう思っていたのに、何故かルカは今更になって執着してくる。いったいどういうつもりなの?
戸惑いつつも情を捨てきれないステファニア。プライドは捨てて追い縋ろうとするルカ。さて、二人の未来はどうなる?
※曖昧設定。
※別サイトにも掲載。
婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています
葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。
そこはど田舎だった。
住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。
レコンティーニ王国は猫に優しい国です。
小説家になろう様にも掲載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる