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気づいたら神社ごと異世界に飛ばされていた件
8話目
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メルの村を訪れた俺は、人に囲まれて気絶するという醜態をさらしてしまった。
介抱してくれた部屋から人目を避けて脱出する為、窓から飛び出したのだが、その先は崖で、自由落下する羽目になっていた。
すでにメル達の村は遥か上方に過ぎ去っていて、目の前には固そうな岩盤で構成された岸壁だけが何メートルも続いていて、足掛かりになりそうなものは無い。
このままでは死んでしまう。
せっかく過去の生活を捨てられたのにここで終わるのは絶対に嫌だ。
即座に鞘から御陵丸を引き抜いて両手で逆手に持ち、上段の構えを取る。
生き残る為には崖にこの刀を突き刺して落下を止めるしかないという咄嗟の判断だ。
刀と鞘は紐で繋がっているので、鞘が風にあおられてビンビン引っ張られている。かなり邪魔だが切ったりほどいたりする余裕はないのでそのままだ。助かった時にむき出しの刀を持ち歩くのを避けるためにも。
そして御陵丸を岸壁に向かって振りかぶり、両腕を振り下ろした。
「止まれぇえええええ! ぇええぇええ!? ぐふ!?」
イメージでは目の前の崖の岩肌に刀を突き立てて身体の落下を止めて、ごつごつした岩肌に手をかけ、崖をなんとか降りるはずだった。
しかし現実は、轟音と共に岸壁がせり出してきて、斜めになった岸壁に身体をたたきつけられてその斜面に沿って身体が転がり行き止まりの壁に激突した。目が回って何が何だかわからないまま、俺はまた気絶したのだった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
「う……ここは。いてて……夢ではなかったみたいだな」
あれから何時間経ったのか、傾いた陽が顔に差し込んだまぶしさで目が覚めた。
怪我はしていないようだが服がかなり汚れている。一張羅なので破かずに済んだのは助かった。だがそれよりも俺は気絶する前の出来事を思い出して今更ながらに驚いていた。
あの時、刀を崖に突き刺そうとした瞬間、崖が突然せり出してきて、俺の身体を受け止めてくれたのだ。まるで意志があるかのように。
結構な距離を落ちてきたのにダメージが少ないのは、軽い上昇気流のような風も同時に感じたからだと推測できた。
もちろん、これが偶然だなんて思ってはいないし、このタイミングで超高名な魔法使いが突然現れて助けてくれたなんてご都合主義な考えも持たない。
何故ならここはどう見ても自分ひとり分のスペースしかないので物理的に誰も現れようがないから。
そしてもう一つ、分かったことがある。
右手に持っていた御陵丸を、自分が居るところの奥の岩肌へと振り下ろすと、轟音と共に壁がひっこんだ。代わりに押し出されるように岩肌が周囲へ流れていく。
崖全体の質量はそのままに、岩が移動しているようだ。
そして自重を支えられない程に隆起した岩は、ガラガラと崩れて落下していった。その後は何も聞こえない。落下音が聞こえない程度には高さがあるようだ。
それよりも俺は村長の言っていた原因に気づいた。
カヴァラを両断した時にあって、クラヴィスを使ってみようと思った時に無かったもの、そして今手元にあるもの。そう、御陵丸だ。
「これって俺の力なのかな。それとも、御陵丸の力か? ……まぁいっか。早く戻らないと」
とりあえず難しいことを考えるのを放棄した俺は、クラヴィスが使えるようになったので、まずは村に戻ることにした。おそらくメルは心配しているだろうし、こんなところで夜明かしをするのは嫌だ。それに、高さ的に降りてからまた登って戻るというのは非現実的だったのもある。
先程の要領で先程よりも上方に向けて刀を振るうと、今度は斜め上に向かって穴が広がった。また、押し出された岩が落下したが、やはり外からは何も音がしない上、段々薄暗くなってきた。
先に進む前に、一度岸壁の入り口へ戻って周囲を覗う。命綱の無い状態では身を乗り出すのも限界があるので、上方は数メートルの範囲しか見えず、どれほどの距離があるのかは分からない。下を見ると、遥か下方の崖下には大森林が広がっていて、遥か遠くに広い川や、いくつかの大きな街が見える。やはり人里はここだけではないようだ。残念ながら海は見当たらなかったので探すのであれば反対側ということになる。
とりあえずまた洞穴の奥に戻って御陵丸を振るい、岸壁を登れる程度に斜め上方に掘る。一気に5メートル程が掘れたので、デコボコを利用して登りつつ、最奥で更に掘る。普段と違い足場の悪い中で御陵丸を振るうのは少し大変だが、型を気にする必要はなさそうなので問題ない。
これならすぐ戻れるかも。なんて思っていた時が、俺にもありました。
「これ、もしかしなくてもヤバイ状況じゃね?」
真っ暗になって、周囲が見えづらくなってきたころになって、ようやく俺は立ち止って考えた。我ながら遅い。
そう、ここには何もないのだ。クラヴィスで掘り起こしただけの洞穴なので、苔すらも生えていないし、もちろん水もない。そして俺は朝に食べたきりで、頼れるものは自分の身と御陵丸、そして覚えたてのクラヴィスのみ。救助なんて望めるはずもないので、力尽きたら終わりなのである。
介抱してくれた部屋から人目を避けて脱出する為、窓から飛び出したのだが、その先は崖で、自由落下する羽目になっていた。
すでにメル達の村は遥か上方に過ぎ去っていて、目の前には固そうな岩盤で構成された岸壁だけが何メートルも続いていて、足掛かりになりそうなものは無い。
このままでは死んでしまう。
せっかく過去の生活を捨てられたのにここで終わるのは絶対に嫌だ。
即座に鞘から御陵丸を引き抜いて両手で逆手に持ち、上段の構えを取る。
生き残る為には崖にこの刀を突き刺して落下を止めるしかないという咄嗟の判断だ。
刀と鞘は紐で繋がっているので、鞘が風にあおられてビンビン引っ張られている。かなり邪魔だが切ったりほどいたりする余裕はないのでそのままだ。助かった時にむき出しの刀を持ち歩くのを避けるためにも。
そして御陵丸を岸壁に向かって振りかぶり、両腕を振り下ろした。
「止まれぇえええええ! ぇええぇええ!? ぐふ!?」
イメージでは目の前の崖の岩肌に刀を突き立てて身体の落下を止めて、ごつごつした岩肌に手をかけ、崖をなんとか降りるはずだった。
しかし現実は、轟音と共に岸壁がせり出してきて、斜めになった岸壁に身体をたたきつけられてその斜面に沿って身体が転がり行き止まりの壁に激突した。目が回って何が何だかわからないまま、俺はまた気絶したのだった。
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「う……ここは。いてて……夢ではなかったみたいだな」
あれから何時間経ったのか、傾いた陽が顔に差し込んだまぶしさで目が覚めた。
怪我はしていないようだが服がかなり汚れている。一張羅なので破かずに済んだのは助かった。だがそれよりも俺は気絶する前の出来事を思い出して今更ながらに驚いていた。
あの時、刀を崖に突き刺そうとした瞬間、崖が突然せり出してきて、俺の身体を受け止めてくれたのだ。まるで意志があるかのように。
結構な距離を落ちてきたのにダメージが少ないのは、軽い上昇気流のような風も同時に感じたからだと推測できた。
もちろん、これが偶然だなんて思ってはいないし、このタイミングで超高名な魔法使いが突然現れて助けてくれたなんてご都合主義な考えも持たない。
何故ならここはどう見ても自分ひとり分のスペースしかないので物理的に誰も現れようがないから。
そしてもう一つ、分かったことがある。
右手に持っていた御陵丸を、自分が居るところの奥の岩肌へと振り下ろすと、轟音と共に壁がひっこんだ。代わりに押し出されるように岩肌が周囲へ流れていく。
崖全体の質量はそのままに、岩が移動しているようだ。
そして自重を支えられない程に隆起した岩は、ガラガラと崩れて落下していった。その後は何も聞こえない。落下音が聞こえない程度には高さがあるようだ。
それよりも俺は村長の言っていた原因に気づいた。
カヴァラを両断した時にあって、クラヴィスを使ってみようと思った時に無かったもの、そして今手元にあるもの。そう、御陵丸だ。
「これって俺の力なのかな。それとも、御陵丸の力か? ……まぁいっか。早く戻らないと」
とりあえず難しいことを考えるのを放棄した俺は、クラヴィスが使えるようになったので、まずは村に戻ることにした。おそらくメルは心配しているだろうし、こんなところで夜明かしをするのは嫌だ。それに、高さ的に降りてからまた登って戻るというのは非現実的だったのもある。
先程の要領で先程よりも上方に向けて刀を振るうと、今度は斜め上に向かって穴が広がった。また、押し出された岩が落下したが、やはり外からは何も音がしない上、段々薄暗くなってきた。
先に進む前に、一度岸壁の入り口へ戻って周囲を覗う。命綱の無い状態では身を乗り出すのも限界があるので、上方は数メートルの範囲しか見えず、どれほどの距離があるのかは分からない。下を見ると、遥か下方の崖下には大森林が広がっていて、遥か遠くに広い川や、いくつかの大きな街が見える。やはり人里はここだけではないようだ。残念ながら海は見当たらなかったので探すのであれば反対側ということになる。
とりあえずまた洞穴の奥に戻って御陵丸を振るい、岸壁を登れる程度に斜め上方に掘る。一気に5メートル程が掘れたので、デコボコを利用して登りつつ、最奥で更に掘る。普段と違い足場の悪い中で御陵丸を振るうのは少し大変だが、型を気にする必要はなさそうなので問題ない。
これならすぐ戻れるかも。なんて思っていた時が、俺にもありました。
「これ、もしかしなくてもヤバイ状況じゃね?」
真っ暗になって、周囲が見えづらくなってきたころになって、ようやく俺は立ち止って考えた。我ながら遅い。
そう、ここには何もないのだ。クラヴィスで掘り起こしただけの洞穴なので、苔すらも生えていないし、もちろん水もない。そして俺は朝に食べたきりで、頼れるものは自分の身と御陵丸、そして覚えたてのクラヴィスのみ。救助なんて望めるはずもないので、力尽きたら終わりなのである。
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