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異世界転生ー私は騎士になりますー

35 近衛候補生になります

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「私が近衛に?」

 結局起き上がれたのは2日後の昼過ぎだった。
 まだベッドから起き上がる許可が出ない私に、私の起床を待っていたレイチェルが打診してきたのがこれだった。
 正直まだ気分が悪くて何言われたのか理解しきれていない感じがする。

「正確には近衛候補として学園在学中の護衛を務めて欲しいの。正直候補として連れてこられていた人が男性ばっかりで困ってたんだけど、お姉さまなら実力は十分だしお願いしたいの」
「やります」

 食い気味で答えると、まだ残っていた貧血で自爆するように頽れてしまった。レイチェルはあらあらとおかしそうにクスクスと笑った。

「お嬢様、こちらを飲んで下さい」
「これは……」

 室内にはカーラとシュリアが控えていて、声をかけてきたシュリアが差し出してきたのはドロッドロの緑色の液体だった。匂いも酷くてどう見ても不味そうである。躊躇う私をレイチェルが目を輝かせて見ている。
 ドSか!? ドSなのかレイチェル。

「頑張ってお元気になって下さいな。お兄様達が隣室でソワソワしていて落ち着かないわ。お父様にも早めに謁見して欲しいって言われてるし」
「え”」

 お父様って王様!?
 何故、というのが顔に出ていたのか、レイチェルがクスクス笑っている。笑い上戸なのか?
 美少女が楽しそうに笑っているのは眼福ですが、この青汁も真っ青のヘドロのような液体とプレッシャーで冷や汗が止まりません。

「何で謁見?」
「何でって、私の命の恩人なんだから当然でしょう? 褒賞についても話がしたいってガイルおじ様がおっしゃっていたわ」
「ガイル……」
「宰相であるガーランド公爵ですね」

 ガイルって誰だと思っていたらカーラがすかさず助言を入れてくれた。さすが出来る侍女。ガーランド公爵って聞いたことがある気がするけど誰だっけ。あー、頭が働かない。

「とにかくこれを飲んで元気になってからね。とりあえず飲んで」
「う」

 上質な食器に満たされた物体Xがさらにずいっと口元に押し付けられる。鼻を突くのはまるで腐った卵のような匂い。これが温泉水だったらまだマシだったのに。どう考えても味も酷そうだ。

「お姉さま、早く元気になって下さらないと、私、心配で辛いわ」

 眼を潤ませて両手を組んだレイチェルに迫られた私は息を止めて一気に喉に流し込んだ。
 単純と言うなかれ、美少女の涙は最強なのだ。私に逆らえる筈がない。
 明らかにウソ泣きだろうと関係ない、彼女が私を心配してくれているのは間違いないのだし。

「ぐぅぅううう……」

 腹の虫ではない、私の唸り声だ。予想通り物凄く不味い。こんなの前世から今まで通しても味わったことない。余りの不味さに涙がボロボロ出た。苦くてすっぱくて臭い。最悪の味だ。
 レイチェルの方を見ると余りに悶絶する私に顔を引きつらせている。

「男性の前で飲まない方が良いわね、今のお姉さまを見たらイチコロよ」

 意味が全く分かりませんが、同情している訳ではなさそうだ。
 カーラがお水を出してくれたので一気に飲んで、顔をハンカチで押さえるように拭ってくれるのをされるがままにする。

「これに懲りたらもう無茶はしないことね。明日は忙しくなるから、今日はゆっくりなさってね」

 そう言い置いて、未だダメージから抜け出せない私を置いてレイチェルは出ていった。
 薬を飲んだだけなのに私はまた気絶するように眠りこけて、次に起きるとスッキリと体調が戻っていた。シュリアの薬凄い。でも味はもう少し改善して欲しいとは伝えておいた。

 明日の昼食会と謁見式への出席が決まった。





 

 
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