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異世界転生ー私は騎士になりますー

28 敵か味方か

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 合流した侍女は2人だけ。
 送り出した時には3人だった筈だ。

「タウラはどうしたの?」
「音楽が止んだのでぇ、会場へ向かわせましたぁ。ウィンスター殿下への状況説明の必要があるかとぉ。勝手な判断ではございますがぁ」
「ううん。良い判断だと思う。ありがとう」

 礼を言うと、ミンネが愛らしく笑った。
 だが足元には死屍累々と男共が倒れている。1、2、3……。数えるのやめとこう。彼女達に怪我は無さそうだが、服が切り裂かれている部分がある。怪我はマノンで治療しただけかもしれない。
 でも、再会を喜んでのんびりしている時間は無いのだ。

「シュリア、地下にカーラが眠らされて倒れているの、お願い。ミンネはそちらの状況を説明しつつ同行して。会場へ向かう」

 シュリアが食堂へ入っていくのを見送ってからミンネが来た方の道を戻る。私達が元々通ってきたルートだとウィルと行き違いになりそうだからだ。
 ミンネに軽く事情を説明しつつ、ゼクトルのことはとりあえずゼビル男爵子息で協力者という体で説明した。私自身彼の処遇を決められていないので全部は説明出来ないのだ。
 もの言いたげなゼクトルはそっと無視した。

「敵が貴方たちの足止めに動いていたと聞いたけど……」
「セイムリーア伯爵ですぅ。私達の前に現れたのはその執事を名乗る男だったのですがぁ。強硬手段に出てくれるまでは、貴族としての顔を全面に出して来てて逆らえずぅ……。参じるのが遅くなり申し訳ございません」

 何度も言うが、彼女達は平民だ。伯爵家以上の高位貴族は基本的に部下も貴族なので逆らえない。でも何とか抜け出そうとしていると、部下をけしかけて強硬手段に出てきたので倒しつつ逃げて来たというのだ。
 逃げたというには割と過剰防衛気味だと思うのは私だけかな?

「じゃぁこの先にセイムリーア伯爵の執事が待ち構えていると?」
「いーえ、彼は招待客として夜会に出ていたようなので、今頃会場で足止めを受けているかとぉ」

 実は今日開催される夜会はここだけではない。隣国からのごり押しで急遽開催が決まった別の夜会があり、ウィルとレイチェル以外の王族はそちらに出ている。デビュタントの日は毎年決まっていて動かせず、当主達はデビュタント陣の関係者以外は代理人を立てて出席している者が多い。
 今思えばこれも作為的に感じる。
 セイムリーア伯爵の執事は代理人として出ているようだ。
 会場に居なければ疑われるので、ミンネ達の足止めを部下に任せて会場へ戻ったという。

「セイムリーア伯爵はやっぱりあなた達の計画に加担しているの?」

 ゼビル……いや、ゼクトルか。彼の方に問うと、返答は返ってこなかった。
 けれどそれは私にとって割とどうでも良い話だ。レイチェルを無事に連れ戻す。私の目的はそれだけだ。背後関係なんかは後で追求すれば良い。

 先程私達が居た場所とは違い、私達が走っている通路は貴族の家らしく装飾が華美で照明もしっかりともっていて明るい。
 暫く走っていると、通路が人波で塞がっている箇所へたどり着いた。
 全員が騎士服に身を包んでいて、隊長として立つ人物にお見覚えがある。以前騎士団に顔を出した時に居た者だ。それだけでこちらの警戒心がちょっとだけ緩む。

「ヴィラント侯爵家のクロウツィア様ですね」
「そうですが……」
「ウィンスター殿下のご命令で会場へお連れするようにと」
「かしこまりました。同行します」

 どうやら事情を聞いたウィルが迎えを寄越してくれたようだ。
 拒否する理由など無いのでそのまま誘導に従おうとして、ゼクトルが私を手で制した。視線で問いかけると、警戒心の宿った顔で軽く顔を左右に振った。 
 まさか騎士団員にも敵が?

「どうしました?」
「あの、侍女が遅れて来るのです。合流するまで少々お待ちいただけますか?」

 このまま同行しようとすれば敵かもしれない男達に囲まれて歩くことになる、とりあえず時間を稼ぎつつ相手の反応を観察する手を打つことにした。

「困ります。ウィンスター殿下はすぐに連れて来るようにとの仰せでしたので。それとも何か後ろ暗いことでも?」
「いいえそんな筈がございませんわ。ただ、より多くの事情を知る者を同行させるべきだとは思いませんか?」
「そちらの侍女殿さえ同行して下されば問題ございません」
「あら、何故うちのミンネが事情を知っていると?」

 語るに落ちたな隊長。
 セイムリーア伯爵の執事に遭遇したのはミンネとタウラとシュリアの3人。だがそれを知っているのは私達以外だと敵しかいない筈なのだ。

「とにかく御同行を」
 
 ざっという足音と共に騎士団員に囲まれた。統制の取れた動きで周囲を取り囲まれた。
 強行突破しかないかと身構えた時、割り込む声があった。

「そこまでです!」

 通路の奥から現れたのは、夜会出席者らしく豪奢に着飾られた男性が一人。
 その背後を騎士服に身を包んだ男達が続いて来る。
 セイムリーア伯爵の執事かと身構えたら、その人物に見覚えがあったことに気付いた。
 笑い皺が優しさを体現するようなロマンスグレー。

「こんばんわ。クロウツィア嬢。お怪我はございませんか?」

 先日私の誕生日にお世話になったカルスヴァール子爵だった。

 
 
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