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聖地探訪で出会った人妻の口唇は 4
しおりを挟む新しめの家が建ち並ぶ住宅街。
そして一本道があったと思わしき所に、家と家の塀の間に人一人がギリギリ入れる狭く細い通路があった。
サヤカとタダシは顔を見合わせて頷くと、ゆっくりと進み入っていく。
家と木々の木陰で薄暗くひんやりした空間。
その先に赤い鳥居が建てられているのが視界に入り、その奥に小さな社があった。
「こ、ここだ! ここだよ、タダシくん!!」
境内に踏み入れると、アニメで見た通りの光景が広がっていた。
サヤカは歓喜を爆発させた勢いのままタダシを抱きしめた。
彼女の柔らかい身体と甘い香りにドキドキしてしまう。
知り合ってまだ日が浅い男と女である
お互いに照れて、そそくさに離れる。
ひとまずサヤカとタダシは社にお参りをすると、サヤカは記念にと写真を撮りまくった。
「しかし、こんな奥まった場所にあるとは。」
「これは地元民でも分からないよね。そうだそうだ、タダシくん。ちょっとあっちに立ってくれない」
「?」と疑問に思いつつ言われた通りにすると、サヤカが「えー、コッホン」と咳払いをし、続けて語りかける。
「“なんだかオバケとか妖怪が出そうな場所で、凄く怖いですね”」
唐突な内容だが、ついさっき聞いた覚えがある台詞。
そう、アニメ『ひかりかがやく』で、この神社を舞台にヒロインが主人公に語りかけた台詞だ。
アニメの聖地に来たのなら、シーンを再現するのも一興(お約束)。
ならばと、
「“お前のような人間が、何を怖がることがある?”」
覚えている限り答えるタダシ。
「“私はただの人間ですから、恐怖することがありますよ。例えば、人間のフリをしている得体の知れない生物とかに”」
「“だったら、さっさと去れ。ここはタダの人間が来るべきところではない”」
サヤカはタダシの方へと近寄っていき、そっとタダシを抱きしめた。
「“私を助けてくれたのはアナタですよね。私はアナタが嫌いです。けど、恩人に何もしないのは、私のプライドが許しません。ですから‥‥”」
お互い無言で見つめつつ、二人は唇を重ねて、甘いキスを交わした。
アニメでもキスをするシーンになるのだが、高揚とキャラになりきった自分に酔ってしまいキスシーンまでも再現してしまった。
しかも相手は人妻であるにも関わらず。
我に返り、動揺を隠せないタダシ。
「ちょっ、サヤカさん‥‥」
「ふふ、しちゃったね‥‥。ねえ、せっかくここまで来たのなら、行くところまで行ってみない?」
再びタダシとサヤカは見つめ合い、唇を重ねたのであった。
***
神聖な場所で禁忌な行為をしてから暫く経っていた。
タダシは自室で『ひかりかがやく』のアニメを視聴していた。
昔の作品だから古さはあったが、自分が住んでいる町を舞台にしているのもあり、新鮮な気持ちで楽しく観ていた。
「結構、面白いな‥‥うん?」
その時、スマートフォンからインスタントメッセージの受信音が響く。
サヤカさんからだ。
『こんにちは!元気にしている? 今度この作品の聖地探訪しない?』
というメッセージともに、アニメのURLが貼られていた。
どう返事をすればいいか悩みつつ、ひとまずは紹介されたアニメを見ることにしたのであった。
終わり
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