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Sixth Contact SAY YES
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(話し中かあー……)
ツー、ツーという音を七回ほど聞いた後、ウォルターは静かに受話器を戻した。
(ま、しょうがないか。土曜日だし)
軽く頭を振って前髪を払うと、一旦自室に戻って外出着に着替えることにした。少し迷った末、グレーのストレートパンツと白い薄手のニットを身に付け、パンツと同系色のフェイクスエードのコートを腕に引っ掛けると、そのままもう一度リビングに戻り電話を掛け直してみた。
トゥルルルルル……三回コールで相手が出る。
「あ、マドカ? 俺、判る?」
「これ美味しいねえっ」
両手でグラスを持ち、翔子はシンガポール・スリングをコキュコキュと飲み干した。
別に浩司が酔い潰そうとして飲ませているわけではない。むしろ制止を聞かずに翔子がカクテル系を次々と頼んでしまうのだ。普段新菜の母親の店ばかり出入りしているので当然カクテルの類などなく、メニューを見て瞳を煌めかせたかと思うとどんどん頼んでしまったのだ。居酒屋と違って薄めていないので、口当たりは良くてもアルコール度数はかなり高いのだが、いつまでもつことやら。
「おかーりィ!」
テーブル席からカウンターに向かってグラスを持った手を上げて叫ぶ。
「だーめだっ、もう終わり! お前皆が来る前に潰れるぞ」
浩司がマスターに向けて「こいつの言うこと無視していいから」と言い、盛大に溜め息をついた。
「えーっ!? どおしてぇ? 美味しいんだもん、いいじゃん」
翔子はぷうっと膨れっ面すると、空のグラスを浩司の目の前で振った。カラカラと音を立てるグラスを奪い取り、テーブルの隅へと浩司が置く。六人が十分座れる一番広いテーブルなので、翔子の手は届かない。
「ほら、これでも食っとけ」
フライドポテトとチョコレートを翔子の目の前に置くと、「あーん」と言って口を開けたので、いかにも面倒臭げにポテトを摘んで咥えさせた。まるで妹の面倒を見る兄のようである。
嬉しそうに咀嚼している間に、自分のボトルで水割りを作る。薄めに薄めまくったブランデーをチョコレートの隣に置いてやる。
〈指定席〉の札を掛けた楕円形のテーブルには今の所二人しかいないが、他の席はもうカウンター以外残っていない。やはりとっておいてもらって正解だったと思う。
入り口を入って右奥がカウンターなのだが、それより手前にこのテーブル席がある。但し、ドアとの間に一mほどの高さの仕切りが有り、着席していれば若干視界が遮られてダイレクトには客同士の顔が見えなくなっていて、ちょっとしたプライベート空間になっている。
ドアから真っ直ぐに通路分空けて有り、そのまま右手に座ればカウンター、左には二人席や四人席などのテーブル席がある。
コンパか何かだろうか、通路を挟んだテーブル席をいくつかくっつけて先程から乾杯が繰り返され、カウンター席の方でも銘々が興奮気味に甲高い声でお喋りしている。そのお陰で翔子が少しくらい大きな声を出したところでそう目立たずに済んでいるのは、浩司にとって幸いだった。
〈デート〉という名目でこの店に入るのも初めてならテーブル席に着くのも初めてで、何となく別の店にいるような錯覚を覚えながら、浩司はゆっくりと店内を見回した。
(たまにはこんな気分も悪くない、かな……)
そう思いながら、自分のグラスを口へと運んだ。
キィ……。【Homeless】と書かれたプレートの掛かったガラス張りのドアを手前に引き、新菜と円華が店内に入るなり、「いらっしゃいませー」と明るい声がカウンターの中から聞こえて来た。つい奥の方へと視線を走らせた二人だったが、すぐ右手から名前を呼ばれて手招きされる。死角になっているテーブル席では、既にかなり酔いの回っている翔子が浩司にしなだれ掛かり、苦笑している浩司と、笑みを浮かべたウォルターと満が二人を見上げていた。
「おっはよ」
軽く手を挙げて答えながら、円華が「はい詰めて詰めて」と翔子を奥へ追いやり、手前のソファーに二人並んで腰掛ける。丁度円華の前にウォルター、新菜の前に満が座っている事になる。
「六人揃うのって久々だねぇ」
嬉しそうに翔子が口を開いた。
「じゃ、今日は私と浩司くんが晴れて恋人同士になったってことで、」
「なってねぇよ」
「えーっ! 付き合ってるってのは恋人同士ってことじゃん」
「恋人になるかもしれない期間限定の付き合いだ」
「うー……まあとにかく、乾杯しよーっ! お二人さん何飲みます?」
テーブルの上には菓子やつまみ等が散乱しており、残り半分ほどのボトル、アイスペール、ミネラルが中央に置かれている。
「始めはやっぱ生でしょお?」
「そぉでしょお」
新菜に向けて言った円華の口調を真似て答えると、
「マスター、生二つぅーっ」
と翔子がカウンターに声を掛け、マスターは了解の印に手を軽く挙げた。
ツー、ツーという音を七回ほど聞いた後、ウォルターは静かに受話器を戻した。
(ま、しょうがないか。土曜日だし)
軽く頭を振って前髪を払うと、一旦自室に戻って外出着に着替えることにした。少し迷った末、グレーのストレートパンツと白い薄手のニットを身に付け、パンツと同系色のフェイクスエードのコートを腕に引っ掛けると、そのままもう一度リビングに戻り電話を掛け直してみた。
トゥルルルルル……三回コールで相手が出る。
「あ、マドカ? 俺、判る?」
「これ美味しいねえっ」
両手でグラスを持ち、翔子はシンガポール・スリングをコキュコキュと飲み干した。
別に浩司が酔い潰そうとして飲ませているわけではない。むしろ制止を聞かずに翔子がカクテル系を次々と頼んでしまうのだ。普段新菜の母親の店ばかり出入りしているので当然カクテルの類などなく、メニューを見て瞳を煌めかせたかと思うとどんどん頼んでしまったのだ。居酒屋と違って薄めていないので、口当たりは良くてもアルコール度数はかなり高いのだが、いつまでもつことやら。
「おかーりィ!」
テーブル席からカウンターに向かってグラスを持った手を上げて叫ぶ。
「だーめだっ、もう終わり! お前皆が来る前に潰れるぞ」
浩司がマスターに向けて「こいつの言うこと無視していいから」と言い、盛大に溜め息をついた。
「えーっ!? どおしてぇ? 美味しいんだもん、いいじゃん」
翔子はぷうっと膨れっ面すると、空のグラスを浩司の目の前で振った。カラカラと音を立てるグラスを奪い取り、テーブルの隅へと浩司が置く。六人が十分座れる一番広いテーブルなので、翔子の手は届かない。
「ほら、これでも食っとけ」
フライドポテトとチョコレートを翔子の目の前に置くと、「あーん」と言って口を開けたので、いかにも面倒臭げにポテトを摘んで咥えさせた。まるで妹の面倒を見る兄のようである。
嬉しそうに咀嚼している間に、自分のボトルで水割りを作る。薄めに薄めまくったブランデーをチョコレートの隣に置いてやる。
〈指定席〉の札を掛けた楕円形のテーブルには今の所二人しかいないが、他の席はもうカウンター以外残っていない。やはりとっておいてもらって正解だったと思う。
入り口を入って右奥がカウンターなのだが、それより手前にこのテーブル席がある。但し、ドアとの間に一mほどの高さの仕切りが有り、着席していれば若干視界が遮られてダイレクトには客同士の顔が見えなくなっていて、ちょっとしたプライベート空間になっている。
ドアから真っ直ぐに通路分空けて有り、そのまま右手に座ればカウンター、左には二人席や四人席などのテーブル席がある。
コンパか何かだろうか、通路を挟んだテーブル席をいくつかくっつけて先程から乾杯が繰り返され、カウンター席の方でも銘々が興奮気味に甲高い声でお喋りしている。そのお陰で翔子が少しくらい大きな声を出したところでそう目立たずに済んでいるのは、浩司にとって幸いだった。
〈デート〉という名目でこの店に入るのも初めてならテーブル席に着くのも初めてで、何となく別の店にいるような錯覚を覚えながら、浩司はゆっくりと店内を見回した。
(たまにはこんな気分も悪くない、かな……)
そう思いながら、自分のグラスを口へと運んだ。
キィ……。【Homeless】と書かれたプレートの掛かったガラス張りのドアを手前に引き、新菜と円華が店内に入るなり、「いらっしゃいませー」と明るい声がカウンターの中から聞こえて来た。つい奥の方へと視線を走らせた二人だったが、すぐ右手から名前を呼ばれて手招きされる。死角になっているテーブル席では、既にかなり酔いの回っている翔子が浩司にしなだれ掛かり、苦笑している浩司と、笑みを浮かべたウォルターと満が二人を見上げていた。
「おっはよ」
軽く手を挙げて答えながら、円華が「はい詰めて詰めて」と翔子を奥へ追いやり、手前のソファーに二人並んで腰掛ける。丁度円華の前にウォルター、新菜の前に満が座っている事になる。
「六人揃うのって久々だねぇ」
嬉しそうに翔子が口を開いた。
「じゃ、今日は私と浩司くんが晴れて恋人同士になったってことで、」
「なってねぇよ」
「えーっ! 付き合ってるってのは恋人同士ってことじゃん」
「恋人になるかもしれない期間限定の付き合いだ」
「うー……まあとにかく、乾杯しよーっ! お二人さん何飲みます?」
テーブルの上には菓子やつまみ等が散乱しており、残り半分ほどのボトル、アイスペール、ミネラルが中央に置かれている。
「始めはやっぱ生でしょお?」
「そぉでしょお」
新菜に向けて言った円華の口調を真似て答えると、
「マスター、生二つぅーっ」
と翔子がカウンターに声を掛け、マスターは了解の印に手を軽く挙げた。
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