173 / 190
Sixth Contact SAY YES
7
しおりを挟む
「よっ、満。元気?」
廊下で擦れ違い様に頭をはたかれ、クラスメイトと談笑していた満は振り返った。女子二人をお供に連れて、体半分自分の方へ向けて足を止めているウォルターに向かって、Vサインをぐっと突き出す。そして、
「なぁ、あれから会ってる?」
と少し迷いながら尋ねた。
あれからもう次の週末がやって来ている。先刻四限が終わり、あとは清掃してホームルームだけで放課後となる。勿論満はその後部活動があるのだけれど。
「いんや。また気が向いたらな」
ウォルターは短く返すと、「んじゃな」と女子二人と去って行った。
(んな事言ったって……ウォルターの気が向く事なんて滅多にないくせに。ああいう風に言う時って、マジで動かないかんな……)
後ろ姿を見つめながら胸の痛みを覚え、満は嘆息した。
(どーしよ……オレのせいでバラバラになっちまうよ。ウォルターだって本当は円華ちゃんに会いたいんじゃねーのかよ?
普通だったら、女子高生なんかとは、遊びでも付き合わねえくせに……。いつもだったら、ナンパしても一日遊ぶだけで終わらせて、それだってよっぽど好みの女じゃねーと誘わないってのに。
絶対円華ちゃんは別格だと思ってたんだけどなあ……。
あーっ! ウォルターの気持ちってわっかんねえっ! 軸谷とだって、あれっきり校内でも会わねえしっ、どうしたらいいんだよぉ……!?)
一人悶々とする満に気が付き、廊下を歩いて来た女生徒が背中を叩いた。
「えっのもっとくん! 何やってんのぉー?」
バシンっと結構大きな音がし、「いてえなぁー」と唸りながらそちらを向くと、野球部マネージャーの木村里子がにこにこ笑っていた。
「掃除、もう始まっちゃうよ。サボんないでよ?」
腰に手を当てて、強い口調で言う。いかにも世話好きといった感じの少女だ。グラウンドにいる時間が長いせいか、肩口でざっくりと切っている髪は日焼けで茶色くパサつき気味である。
「分かってるって」
「それと、明日の練習試合も忘れないでよっ」
「んなの部活ん時、言やあいいだろ」
「だって榎本くんってば、サボリの常習犯なんだもん。顔合わせた時に言っとかなきゃ、後で『聞いてねえ』って言われても困るもんっ」
冗談半分で睨む里子から視線を逸らし、満は「はいはい」と生返事をした。
「じゃ、放課後にねっ」
里子はきっちりと念を押すと、自分の清掃場所へと向かって行った。「しょーがねえなぁ……」とぼやきつつも、満も気持ちがほぐれた事にホッと胸を撫で下ろし、
(お節介の木村ちゃんも、たまには役に立つじゃん)
と、心の中で憎まれ口を叩いたのだった。
(今日は久々にペスカトーレにするか)
放課後、一旦帰宅して服を着替えてから、ウォルターは買い物に来ていた。電車で一駅隣の大手スーパーまでわざわざ足を運んでいる。食材にも気を遣う方なのだ。
(それと、後は野菜サラダ作ろ)
一つ一つ手に取って、実の詰まっているキャベツを選んでいる時、
「珍しいトコで会うわね」
と、傍らに女性が立った。
「百合サン……今仕事の帰り?」
キャベツを籠に入れて、ウォルターは右隣の女性を見遣った。仕事用に髪を編み、グレーのスーツを清楚に着こなしている。
「そうなの。でも部屋以外でウォルターと会うのって、出会った日以来ね。何か新鮮だな」
百合は嬉しそうに笑った。
ウォルターは特に考え込むでもなく、
「今晩用事ないんだったら、ご飯作るよ」
と口にした。
「来てくれるの? やったぁーっ」
百合は飛び上がらんばかりに喜び、周りの視線に気付いて赤面した。
「実はそろそろ会いたいと思ってたトコだったんだ」
本当は全くそんな事はなかったのだが、ウォルターは柔らかく微笑んだ。
「ほんと? じゃあとっときのドンペリ出すね」
「らっき。期待してる」
「任しといてっ」
つまみをあれこれと品定めする百合に付いて回りながら、可愛らしい人だよな、とウォルターの眼差しが和らぐ。
今この瞬間に百合を大切に思うのも事実なのである。それは、一般に言う〈恋人同士〉のそれとは異なっている事は確かだったけれど。
廊下で擦れ違い様に頭をはたかれ、クラスメイトと談笑していた満は振り返った。女子二人をお供に連れて、体半分自分の方へ向けて足を止めているウォルターに向かって、Vサインをぐっと突き出す。そして、
「なぁ、あれから会ってる?」
と少し迷いながら尋ねた。
あれからもう次の週末がやって来ている。先刻四限が終わり、あとは清掃してホームルームだけで放課後となる。勿論満はその後部活動があるのだけれど。
「いんや。また気が向いたらな」
ウォルターは短く返すと、「んじゃな」と女子二人と去って行った。
(んな事言ったって……ウォルターの気が向く事なんて滅多にないくせに。ああいう風に言う時って、マジで動かないかんな……)
後ろ姿を見つめながら胸の痛みを覚え、満は嘆息した。
(どーしよ……オレのせいでバラバラになっちまうよ。ウォルターだって本当は円華ちゃんに会いたいんじゃねーのかよ?
普通だったら、女子高生なんかとは、遊びでも付き合わねえくせに……。いつもだったら、ナンパしても一日遊ぶだけで終わらせて、それだってよっぽど好みの女じゃねーと誘わないってのに。
絶対円華ちゃんは別格だと思ってたんだけどなあ……。
あーっ! ウォルターの気持ちってわっかんねえっ! 軸谷とだって、あれっきり校内でも会わねえしっ、どうしたらいいんだよぉ……!?)
一人悶々とする満に気が付き、廊下を歩いて来た女生徒が背中を叩いた。
「えっのもっとくん! 何やってんのぉー?」
バシンっと結構大きな音がし、「いてえなぁー」と唸りながらそちらを向くと、野球部マネージャーの木村里子がにこにこ笑っていた。
「掃除、もう始まっちゃうよ。サボんないでよ?」
腰に手を当てて、強い口調で言う。いかにも世話好きといった感じの少女だ。グラウンドにいる時間が長いせいか、肩口でざっくりと切っている髪は日焼けで茶色くパサつき気味である。
「分かってるって」
「それと、明日の練習試合も忘れないでよっ」
「んなの部活ん時、言やあいいだろ」
「だって榎本くんってば、サボリの常習犯なんだもん。顔合わせた時に言っとかなきゃ、後で『聞いてねえ』って言われても困るもんっ」
冗談半分で睨む里子から視線を逸らし、満は「はいはい」と生返事をした。
「じゃ、放課後にねっ」
里子はきっちりと念を押すと、自分の清掃場所へと向かって行った。「しょーがねえなぁ……」とぼやきつつも、満も気持ちがほぐれた事にホッと胸を撫で下ろし、
(お節介の木村ちゃんも、たまには役に立つじゃん)
と、心の中で憎まれ口を叩いたのだった。
(今日は久々にペスカトーレにするか)
放課後、一旦帰宅して服を着替えてから、ウォルターは買い物に来ていた。電車で一駅隣の大手スーパーまでわざわざ足を運んでいる。食材にも気を遣う方なのだ。
(それと、後は野菜サラダ作ろ)
一つ一つ手に取って、実の詰まっているキャベツを選んでいる時、
「珍しいトコで会うわね」
と、傍らに女性が立った。
「百合サン……今仕事の帰り?」
キャベツを籠に入れて、ウォルターは右隣の女性を見遣った。仕事用に髪を編み、グレーのスーツを清楚に着こなしている。
「そうなの。でも部屋以外でウォルターと会うのって、出会った日以来ね。何か新鮮だな」
百合は嬉しそうに笑った。
ウォルターは特に考え込むでもなく、
「今晩用事ないんだったら、ご飯作るよ」
と口にした。
「来てくれるの? やったぁーっ」
百合は飛び上がらんばかりに喜び、周りの視線に気付いて赤面した。
「実はそろそろ会いたいと思ってたトコだったんだ」
本当は全くそんな事はなかったのだが、ウォルターは柔らかく微笑んだ。
「ほんと? じゃあとっときのドンペリ出すね」
「らっき。期待してる」
「任しといてっ」
つまみをあれこれと品定めする百合に付いて回りながら、可愛らしい人だよな、とウォルターの眼差しが和らぐ。
今この瞬間に百合を大切に思うのも事実なのである。それは、一般に言う〈恋人同士〉のそれとは異なっている事は確かだったけれど。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?
おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。
『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』
※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法
栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる