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Fifth Contact 笑顔の行方
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「ま、後で嫌でも会うだろーし」
保は、殆ど色素のないサラサラの前髪を掻き上げて意味有り気に微笑んだ。
(あーもー、どうでもいいから早くどっか行けよ)
苛々しながら浩司は見据えている。鬱陶しくて仕方ないらしい。先月といい今回といい、どうしてわざわざ目に付くようにやって来るのか、わざとなのかと問い質したくなる。
そうこうしている間に、先刻買い出しに行った進と唯乃が戻って来た。二人とも、菓子やペットボトルの入ったスーパーの袋を両手に提げている。
「あれー? まだんなトコにいたの?」
進がビックリ眼で一堂を見回し、知らぬ顔を見てペコリと会釈する。唯乃も翔子と目が合うと、にこっと微笑んだ。翔子は少し照れながら会釈を返す。二人は足を止めずに校舎に向かって行った。
「じゃ、お先に~」
頃合良しと見たのか、美月は保の腕を掴み、「後でな」とウインクをした保は校門の中へと引っ張られて行った。
それを見届けてから、新菜たちはどっと溜め息をつく。いち早く立ち直った翔子が、はっと思い出し浩司を見上げた。
「で、ラストって一体何の事?」
ブレザーの袖をクイクイ引っ張っている。
「さぁなー。俺、夕方まで残る気ねぇし」
浩司はあくまで知らん振りを決め込むつもりらしく、まだちょっと不機嫌な表情のまま、保たちと逆方向の校舎へと足を向けた。
苦笑しながらウォルターもそれに続き、結局一行は浩司の後にくっ付いて行く格好になったのだが、その途中で満がそっと新菜の腕を引いた。
「ん?」と見上げる新菜に、
「あのさ、さっきの話なんだけど」
と控え目な声で言いながら、二人は校舎の中で足を止めた。満は自販機でカップのジュースを買って新菜に一つ渡すと中庭へと誘い、二人は噴水前のベンチに腰掛けた。
「いいの? 皆、行っちゃったよ」
少し心配そうな新菜だったが、
「後で会えるって」
と言われて、まあ一人じゃないしいいかな、と思い直して巨峰ジュースに口を付ける。
「えっと……うちの学祭って、最終日の今日、ファイナル・ダンパってのがあるんだよ。さっき、あの二人が言ってた〈ラスト〉って多分これの事だと思うんだけど」
満も炭酸飲料をこくこくと半分まで飲んでから、隣の新菜を見つめた。心臓がバクバク早鐘のようだ。
(やっべー……さっき、あの二人が余計な事言ってたから、変に勘繰られて断られたらどうしよ)
「んで、そのファイナルで、オレのパートナーになってくれないかと思って」
(よし! 言ったぞっ)
満は有りっ丈の思いを込めて、新菜を見つめている。大きな瞳に吸い込まれそうになり、新菜は素っ頓狂な声を上げた。
「パートナーぁ? あたしが?」
カップを持っていない方の手で自分を指す。満はこくりと頷いた。
「って言われても、あたし、ワルツすら踊った事ねーんだけど……」
新菜は心許なそうに声を潜める。
「あっ、ダンパっつっても、今までのライブのバンドが演奏すっから、ディスコみたいなノリでいいんだけど」
お願い! という感じで、くるりと大きな瞳が訴えている。
「うーん……そーゆーのでいいんなら、踊れるけど」
両手でカップを持ち、新菜は満の視線から逃れるように俯いた。
(けど、満くんって学年問わず人気あんのよねぇ。同じ学校の人じゃなくていいのかな?)
「ほんっと、あたしなんかでいいの?」
顔を上げ、真剣に満を見据えて問うた。
「新菜ちゃんだから誘ってんの! じゃなきゃオレだって軸谷やウォルターみたくずらかるし」
満はベンチに片手をついた。
「あのさ……新菜ちゃん、オレはぁ、好きな子じゃなきゃ誘わねぇの」
言った後恥ずかしくなったのか、かあっと赤面して視線を噴水へと泳がせた。直径五メートルほどの小さな池に一メートルほどの水の柱が上がる質素なものだが、綺麗に手入れされていて水の中では錦鯉が悠然と泳いでおり観賞する価値はある。
つられて新菜も頬を染めた。
「あ、ありがと……」
噴水の音にかき消されない程度に小声で言って、会釈すると、
「じゃあ……あたしで良かったら」
満の横顔に向けて言い、新菜はまた俯いてしまった。
「ありがと。えっと、ジュース飲み終わったら皆を探そっか」
捻っていた体を戻すと、まだ恥ずかしそうにしながらも、満はカップに口を付けた。
保は、殆ど色素のないサラサラの前髪を掻き上げて意味有り気に微笑んだ。
(あーもー、どうでもいいから早くどっか行けよ)
苛々しながら浩司は見据えている。鬱陶しくて仕方ないらしい。先月といい今回といい、どうしてわざわざ目に付くようにやって来るのか、わざとなのかと問い質したくなる。
そうこうしている間に、先刻買い出しに行った進と唯乃が戻って来た。二人とも、菓子やペットボトルの入ったスーパーの袋を両手に提げている。
「あれー? まだんなトコにいたの?」
進がビックリ眼で一堂を見回し、知らぬ顔を見てペコリと会釈する。唯乃も翔子と目が合うと、にこっと微笑んだ。翔子は少し照れながら会釈を返す。二人は足を止めずに校舎に向かって行った。
「じゃ、お先に~」
頃合良しと見たのか、美月は保の腕を掴み、「後でな」とウインクをした保は校門の中へと引っ張られて行った。
それを見届けてから、新菜たちはどっと溜め息をつく。いち早く立ち直った翔子が、はっと思い出し浩司を見上げた。
「で、ラストって一体何の事?」
ブレザーの袖をクイクイ引っ張っている。
「さぁなー。俺、夕方まで残る気ねぇし」
浩司はあくまで知らん振りを決め込むつもりらしく、まだちょっと不機嫌な表情のまま、保たちと逆方向の校舎へと足を向けた。
苦笑しながらウォルターもそれに続き、結局一行は浩司の後にくっ付いて行く格好になったのだが、その途中で満がそっと新菜の腕を引いた。
「ん?」と見上げる新菜に、
「あのさ、さっきの話なんだけど」
と控え目な声で言いながら、二人は校舎の中で足を止めた。満は自販機でカップのジュースを買って新菜に一つ渡すと中庭へと誘い、二人は噴水前のベンチに腰掛けた。
「いいの? 皆、行っちゃったよ」
少し心配そうな新菜だったが、
「後で会えるって」
と言われて、まあ一人じゃないしいいかな、と思い直して巨峰ジュースに口を付ける。
「えっと……うちの学祭って、最終日の今日、ファイナル・ダンパってのがあるんだよ。さっき、あの二人が言ってた〈ラスト〉って多分これの事だと思うんだけど」
満も炭酸飲料をこくこくと半分まで飲んでから、隣の新菜を見つめた。心臓がバクバク早鐘のようだ。
(やっべー……さっき、あの二人が余計な事言ってたから、変に勘繰られて断られたらどうしよ)
「んで、そのファイナルで、オレのパートナーになってくれないかと思って」
(よし! 言ったぞっ)
満は有りっ丈の思いを込めて、新菜を見つめている。大きな瞳に吸い込まれそうになり、新菜は素っ頓狂な声を上げた。
「パートナーぁ? あたしが?」
カップを持っていない方の手で自分を指す。満はこくりと頷いた。
「って言われても、あたし、ワルツすら踊った事ねーんだけど……」
新菜は心許なそうに声を潜める。
「あっ、ダンパっつっても、今までのライブのバンドが演奏すっから、ディスコみたいなノリでいいんだけど」
お願い! という感じで、くるりと大きな瞳が訴えている。
「うーん……そーゆーのでいいんなら、踊れるけど」
両手でカップを持ち、新菜は満の視線から逃れるように俯いた。
(けど、満くんって学年問わず人気あんのよねぇ。同じ学校の人じゃなくていいのかな?)
「ほんっと、あたしなんかでいいの?」
顔を上げ、真剣に満を見据えて問うた。
「新菜ちゃんだから誘ってんの! じゃなきゃオレだって軸谷やウォルターみたくずらかるし」
満はベンチに片手をついた。
「あのさ……新菜ちゃん、オレはぁ、好きな子じゃなきゃ誘わねぇの」
言った後恥ずかしくなったのか、かあっと赤面して視線を噴水へと泳がせた。直径五メートルほどの小さな池に一メートルほどの水の柱が上がる質素なものだが、綺麗に手入れされていて水の中では錦鯉が悠然と泳いでおり観賞する価値はある。
つられて新菜も頬を染めた。
「あ、ありがと……」
噴水の音にかき消されない程度に小声で言って、会釈すると、
「じゃあ……あたしで良かったら」
満の横顔に向けて言い、新菜はまた俯いてしまった。
「ありがと。えっと、ジュース飲み終わったら皆を探そっか」
捻っていた体を戻すと、まだ恥ずかしそうにしながらも、満はカップに口を付けた。
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